4章45話 この僕だ、です
良い話のような下ネタのような話です。
「それじゃあ着替えてきて貰えるかな?」
ユウ以外の衣装がある二つの服をシロとミッチェルに頼んで着てもらう。ぶっちゃけ、結構楽しみで朝食の味はあまり覚えていない。異世界の食事が少しだけ味が薄目なのも理由なのかもしれないけどね。調味料がかなり高めだし。
ミッチェル達の部屋はトイレとかで着替える場所はあるしね。ちなみに高い宿だからトイレと水浴び出来る場所は別。少しでもグレードが下がると同じだし汚いしで割と辛い。今はイフは二人の着替えの手伝いでいないし自由な気分に浸れている。イフがいたら……ユウに手を出すなとか茶化されそうで面倒だし。
「……なんでユウも?」
「あー、ミッチェルがユウの分も衣装を作ってくれたみたいなんだよね。一応だけど見てから着たいか着たくないか、決めてもらおうかなって」
「ふーん……そうなんですか……」
ベッドに座る僕の隣、そこで不服そうにユウが足をばたつかせてブツブツ言っている。あまり興味がなさそうだ。小さな女の子って服とかが好きなイメージだったけど……「ぷいきゅあー! がんばえー!」なんて言うわけはないか。まだユウはそこまで社会に飲まれた存在ではないはずだし……何より「ぶいきゅあ」はこの世界には存在しない。
「ドレスとか着たくはないの?」
「……興味はあるけど……着る必要性がないと思うので……」
呼んだ理由としては着てくれるのなら面白そうだしね。それに可愛い子は見ていても飽きないものだ。それに折角のミッチェルが作ってくれた衣装なんだ。可愛くないわけがない。
「なんで?」
「……ユウに似合う服はありませんから」
なるほど、自分に自信が無いと。
ユウ自体は普通に可愛いんだよね。顔付きはトップクラスに綺麗……だと詳しくは分からないだろうけど、本当に詳しく説明するだけの語彙力が僕にはないんだよね。もし簡単に言うのならユウは白人系の顔立ちで目鼻立ちがしっかりしているって感じかな。これでブサイクなら元の顔の僕って一体……。
「ユウは白い服が似合いそうだね。もっと言うのならレースとかを着て少し肌を出しても悪くはなさそうかな」
「えっと……?」
「天使の羽みたいな付属品が服に付いていても良さそうだ。身長が低いことや幼く見えることが何も悪いわけじゃない。それをあざとさに変えて可愛くさせるのも手としてはある」
「ユウは子供じゃ」
「子供だとは思っていないよ。でも、そのマイナス面も良くする手もあるってだけ。ユウからしたら嫌なんでしょ? だったらそれを悪用してやろうよ」
ユウが「うぅ……」と恥ずかしそうに俯いてくる。悪くないと思うんだけどな。別に子供扱いする訳じゃなくて純粋にユウが幼く見えることが可愛さに繋がると思うんだよ。悪用は言い過ぎだと思うけどユウからすれば子供扱いは絶対に悪って考えがあるしね。
「ユウは可愛いと思うよ。自信を持っていい」
「……それはユウのことを詳しく知らないから言えることです。きっと本性を知ったら……誰もユウのことを好みません……」
ユウがあまり話したがらない親とか素性について悩みでもあるのか。よく分からないな。それだけ強くて可愛くて才能があって、少しだけ子供扱いの嫌いな地雷臭がある女の子だ。まぁ、子供って大概そうだから仕方ないよ。まさか、この年で厨二病を患っているわけないし……。
「知らないよ。聞くつもりもないし」
「……」
「でもさ、今の話とかで本当に性格が悪い人なら僕を遠ざけようとはしないよ。本性がどうであれ今のユウのことは好きだからね」
「……そんなものですか?」
「そんなものだよ」
それを言うなら僕の親なんて屑だし毒親だし、将来のことを考えればどうしようか悩んでばっかりだったからね。結婚をしようにもあの親がいては相手側の親が許してくれなさそうだし。ましてや好きな子にあんな奴らの介護を任せたくはない。僕は自由になったんだ。
膝の上で座るユウの頭を撫でると「子供扱いは」って、いつものセリフが出てくる。それでも嫌な顔はしないから本当に僕の撫スキルが上限突破を終えた証だね。どこぞの妹に無理やり撫でさせられていたから勝手に上手くなっていたし。今はミッチェルとかシロとかを撫でたから上達したんだろうけど。
「子供だろうと無かろうと嫌な面を無理やり利用することは出来るんだ。なんで可愛くないとか好かれないとか言うのは知らない。だけど、外面を作っていたとしてもユウはユウでしょ? 演技でもその人の一部であることには代わりないよ」
これは学校での、家庭での僕にも言える。
演じていて辛くなさそうに振舞っても僕は僕だったんだ。それにその経験が今の僕を作っているし悪用してポーカーフェイスとかが出来るようになっているしね。それって悪用じゃねえじゃねえかってツッコミが入りそうだけど。
「と、準備出来たみたいだね」
都合良くというか、丁度良くというか……。
イフから連絡が来たので「いいよ」と返しておいた。ユウは少し言い足りなさそうだったけど撫でるのを続けていたら黙った。こんなに嬉しそうにするのに小さな子扱いはやめては難しいな。もっと撫でてあげよう。
「ユウも見てから決めてね。着たいなら着たいで遠慮しなくていいから」
小さく頷いたところで部屋が空いてシロだけ出てきた。……モフモフしている。モフモフしている。モフモフしている……。やばい、それしか思うことが見つからないくらいにモフモフしている。モフモフが僕の頭を埋め尽くしていく。
「ふふん!」
お尻を軽く振って獣人族特有の尻尾を左右に触れさせる。色気を振り撒いている……つもりなのかな。背伸びしていて可愛いとは思うけど。そう考えるとユウは確かに大人っぽい気がするな。
白い羽衣を纏っていてフードが付いている。シロがフードを被っているから分かることなんだけど被ることで頭からぴょこっと二つの触角が飛び出ている。さすがにリアルな感じではないけどそこだけ黒く彩色されていて根元も目のように黒くなっている。ちょっと和服っぽく見えるけどよく見れば中華服に近いかな。帯とかで留めるタイプの服ではない。上から着るタイプだけど細長い服の下ら辺、裾って言えばいいのかな、そこがちょっと切れていて白い生地の下の黒い生地もちょっとだけ見える。大人が着るとエッチぃ感じになりそうだからミッチェルやアキに着せるのは絶対にダメだ。
「……可愛い……ですね」
「まぁ、たいていの服ならシロが着れば着こなしそうだけど。ユウも後で着せてもらえば?」
「……別に着たくはないです」
嘘だね、眉毛が少し思案げに動いているし。かなり揺らいでいるけど素直に着たいって言えないんだと思う。多分、シロが着ているからシロのものって感じ方なんだろうし。それならそれで別にいいんだけどさ。
「……襲いたくなった?」
「ならないね。そういう目で見ていないから」
「仕方ないな……」
しょんぼりしながら僕の横に座る。
さすがにユウに膝を空けてなんて言えなかったんだろうけど、察したユウが片膝を空けてシロが会釈しながら座る。……ぶっちゃけ、立っている触角が鼻を掠めてクシャミが出そう……。
「フードを脱がなきゃダメですよ」
「ミッチェル……って……」
やっべ……すぐに目を逸らしてしまった。
いや、ズルいよ。確かにアキとかに比べれば小さい方だけど栄養を取って成長期なのか、胸がおかしいほどに大きくなってきているんだから。それを表に出すのは童貞の僕には大ダメージなんですけど……。
「やはり大ダメージでしたか! デザインを務めた甲斐がありました!」
「イフ……これは怒りたいところだけど、よくやった!」
これは童貞を殺すセーターだ。
前から見ても背中が少し見えていて、前から見ても胸上のところが少し切れているから女性特有のアレが見える。鼻血が出そうだからとりあえず鼻の上を押さえておく。クルリと回るだけでいい匂いと真っ白い背中が見えてドキドキしてしまう。黒い服と白い肌が真逆で肌の方が強調されてしまう。
「これは……格差です……」
「か、勝てない……」
「ここまで高評価なら次は私が着てみましょうか?」
ミッチェルは静かにしているけどユウとシロは胸を押さえて虚ろな目をしている。イフは胸を張りながら軽口を叩いているし。確かに胸だけで言えばアキの次くらいに大きいからね。そういう考えが浮かぶのも間違いじゃないかな。だがしかし、ミッチェルだからこその良さがある。イフならばこれよりももっと似合う服装があると思うから肯定はできないかな。
「……どうでしょうか?」
「いいね、最高だよ」
思わず上げたグッドポーズにミッチェルが苦笑していた。そのまま後ろまで来て腰を下ろして強調された胸をくっ付けてくる。そう、その柔らかい感触が服と服を通して伝わってしまう。色々とやばい気がする。今まで溜まっていたあれやこれが表に出てしまいそうだ……。
「ミッチェル、そういうことする人って得意じゃないんだ。扱いに困るし何より恥ずかしいからやめて欲しい」
割と身勝手なのは承知の上だ。
ミッチェルからすれば手を出されることが目的なんだろうし、イフからの助言もあってこの服装をしたってことだけど。それを僕が嫌いだったり嫌だからやめてって言うのは流石に女心を無視し過ぎている気がする。こういうことを続けるのは決して良くないんだろうけど……なぜだか手を出そうという気にはなれないのも事実なんだよね。
「……これで我慢してくれないかな。そういうことをしたいのは分かるんだけど……」
「……いえ、そのような言葉が出ただけでもやって良かったと思います。やりたいという気持ちはあるんですね」
からかうように言われて少ししょんぼりしてしまう。あー、僕って枯れているとか、言葉だけでミッチェルにそういう気持ちを抱いていないって捉えられていたんだね。実際は夜な夜な寝る前のルーティーンを終えるからそういう気持ちを抱かないだけなのに……。
ムカついてきたので振り向いて軽くキスをしてから前を向き直した。ミッチェルからの言葉はなくなったけど「あう」とか「むう」とか声にならない声が出ていることから……やり返したってことでいいよね? これ?
「恐ろしく早いキス……! 私じゃなければ見逃していましたね!」
「お前は誰を殺しに行くつもりなんだ……」
ここまで来てもネタでちょっかいをかけてくるイフのマイペースさがありがたい。まぁ、膝元で「キスしろー」とうるさいシロは放っておいてもう少しだけミッチェルの温かさに触れていよう。そう思っていた時だった。
「……ユウも服着たい……です」
「へ?」
「……駄目ですか……?」
いきなり過ぎて変な声が出た。
いや、普通だよね。どこに服を着たいという考えが浮かぶんだ。他人のイチャつきほどイラつくものはないだろうし……まさか……僕とイチャつきたいが為に……。
【おまわりさーん! この人でーす!】
すいませんでしたー! そういう意味じゃなかったんですー! って、そうじゃなくて! 本当に意味が分からない……けど……否定する理由もないか。ただ一応だけど理由は聞いておかないと。
「どうかしたの?」
「……少しだけ着てもいいかなって思ってしまいました」
「なんで?」
「……三人とも自分らしさを表に出せていましたから。着てみればユウも……吹っ切れるかなって」
あ……これ重いヤツだ……。
アキが腐女子気味で、アイリがツンデレで、ミッチェルが心配性で、イフが変態で、アミとシロがロリで……みたいな感じでユウって不遇とか重い系のヒロインっぽい気がする。ヒロイン? いや、誰だって自分という名の主人公さ! まさか、あんなに嫌っていた漫画の一部分を引用する日が来るなんて……。
「そっか、イフ?」
「はい! 着せてきますね!」
【ユウの裸の写真は】
もちろん、要らない! 何を笑顔のままで言っているんだ、こやつは……変態にも程があるって……僕の心の声の変態って言葉を否定するために聞いてきているのか……?
そのままイフはユウを連れて着替える場所に戻っていった。それはいいんだけどさ……なぜに脳内にミッチェルとシロの着替えシーンを貼り付けていくんだ。……あの見えているんですけど……。
【二人から許可は得てますよ?】
でしょうね!
少しだけ見たくなくても見えてしまう映像にドギマギしながら着替えが終わるのを待った。……近くで見えてしまう二人の肌が映像と重なるせいで本当に辛い……。童貞にやっていいことでは無いと思うんだが……?
少しずつユウの素性を書いていこうと思います。ユウが着る服は一体何なのか、そしてミッチェルの胸はどこまで成長するのか、さらにはシロの胸が大きくなることはあるのか(多分無いです)……楽しみにしてもらえると嬉しいです。
また個人的なことですがブックマークが六百と、総合PVが五十万を超えました! これからも緩くですが時々シリアスな感じで話を書いていくつもりなので応援よろしくお願いします。
※4章43話でミッチェル達と同じ部屋で寝ていた理由を軽く書きました。特に先の展開に影響も無いので飛ばしていただいても構いません。また来週、とても忙しいことが目に見えていて投稿が出来るか分かりません。遅くても再来週の水曜日までには投稿するので待ってもらえると助かります。身勝手ながらご理解のほど宜しくお願いします。