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4章43話 二人っきりで…です

「ふぅ……」


 小さなため息と共に新しく現れた魔物を光に変えて素材を拾う。七階層の時のように降りてすぐにたくさんの魔物に襲われるということは八、九階層ではなかった。レベルの上がり方に方式みたいなのはないけどレベル自体は固定みたいだ。


「……また下がるのかい?」

「いや、今日は帰るよ」


 エミさんの忠告があったけど僕達は早いペースで九階層目まで降りていた。予想通りと言えばその通りだったんだけど魔物が強くなれど皆を苦戦させるほどの敵は出ていない。弱いとは言わないけど連携も知らない魔物に苦戦はさすがにね。


「……エミさんもごめんね」

「さすがにな。今回は何も無かったからいいけど少しゆっくりでもいいと思うぞ」

「うん」


 それでも八階層を殲滅しておいて残る理由なんて一切ないんだよね。帰るにしても時間的に早すぎるし、それなら区切りを考えて階層ボスのいる十階層前で帰りたかったんだよ。理由があれどもエミさんにはひどく反対されたけどね。


「明日からはゆっくり進もう」

「と、言うことは明日もここに来るということかな?」


 なるほど、そんな解釈のされ方をするのか。

 日本語の難しさというか、ニュアンスの違いというか、そこら辺が浮き彫りにされているなぁ。まぁ、話している言語は多分だけど日本語とは似ても似つかない言葉だと思うけどね。


「数日は休むかな。数日……少なくとも一日は休むつもりだよ」

「そうか……」


 休みと聞いてあまり嬉しくなさそうな表情……ああ、そうか。エミさんのことだから戦えなかったり僕といれないのが嫌だとかかな。と、少しだけ自分に自信のある考え方をしてみた。まぁ、合っているとは思えないけどね。


「一応だけどパトロの冒険者ギルドに寄ってみたり、売却用のポーションを作ったり、商人ギルドに挨拶しに行ったり……やることは多そうなんだよなぁ……」

「その時って誰を護衛にするのかな?」


 誰を護衛にするのか……リリが聞いてきたことの意図がよく分からないけど……。商人ギルドに行く程度なら護衛無しでも……いや、箔をつける、もといナメられないように誰かを連れていくのも確かに手かな……。


 それに僕一人なら些細なことで喧嘩とかを起こしそうだし、仲間を連れていくのは必要そうだよなぁ。というか、一人で行かせてもらえるわけもないか。そこまで考えているとは……。


「経験的には鉄の処女、普段通りならミッチェルとシロやイフかな。ただ」


 まぁ、行くとしてもローフやシードから招待状を貰ってからでもいいんだよね。ぶっちゃけて言えば冒険者ギルドと商人ギルドは関係が良好な場所が多いし、パトロの街が違うみたいな話も聞いていない。ローフの話では領主の根が芽生え始めているから気を付けろと言われたけどね。


 そこもあって大したアイテム……とはいえ、普通の人達にとってはいいものを売るつもりだけど。ポーションにも格があるし。僕達が使うようなアイテムはさすがに売ると専用で作る薬師ギルドとかの反感を買うし。常識や節度を持って行かなくちゃ。


「今のところは行く予定もないから急ぐ必要は無いと思うよ。やるとしてもダンジョンをある程度、攻略してから冒険者ギルドと戦う。その後くらいに行こうとは思っているけど」

「……そうか。私も少し行ってみたいと思っていただけなんだ。まぁ、もし良かったら私も連れて行ってくれると嬉しいよ」

「うん、考えておく」


 リリが頼み込むなんて珍しいし……別に連れていくことには反対しないからいいかな。ただでさえダンジョンに連れて行けとうるさいシロの対応も考えないといけないのに。


 それにしても商人ギルドに興味があるね。歌とかにも秀でているから家系的に色々とあったのかもしれない。それにグリフの街が異常なだけであって普通の人が商人ギルドに行くのは格式張っているというかなんというか……。まぁ、排他的なんだよね。一人で行けないのも何となく分かる。


 冒険者=悪ではないように商人=善でもない。というか、普通は善でなければいけない兵士とかでも悪の人は多くいるんだよなぁ。あの人達に税金を渡していると思うと日本にいた時の税金が仕事しない政治家に行くイメージを思い出してしまう。今はお金があるから別にいいんだけどさ。


 お金はいらないって人の気持ちは分からないな。さすがにお金が無くても幸せはあるんだろうけど幸せや余裕を作ってくれるのはお金だし。その点で言えばグリフの街はそういう人が兵士としてあまりいないから恵まれていたのか。最初に行った街がグリフでよかったよ。


 その日はそこで帰宅した。特に何かイベントもなく近場の飯屋で夜ご飯を終えて眠りについた。






 ◇◇◇






「……」


 日が暮れてすぐに寝たからか、夜中に目が覚めてしまった。隣で眠るミッチェルはさすがに起きてはいない。僕が寝た後も再度、体を起こして違うことをしていたんだと思う。ミッチェルは頑張り屋だから。というか……寝落ちとか初めての経験だな。部屋に戻る前にミッチェルの膝枕を受けて話していた時に眠っていたのか……。


 軽く髪を撫でると寝ているからか、少しだけくすぐったそうにして微笑んできた。いつもなら触れる前から笑顔だからちょっとレアだ。やっぱりミッチェルは可愛いと思う。


「目が覚めたんですか」

「……耳打ちは気持ち悪いからやめてね」

「わざとですから」


 息が耳にかかって気持ち悪い。特にそういうのが気持ちいい体質じゃないから普通にやめて欲しかったんだけど。まぁ、すぐにやめて小さい声で話しかけてくれたし良しとしよう。意地悪さえしてこなければ根はいい子なんだから。


「イフのこと起こしちゃったかな」

「いえ、精神的に繋がっているのでマスターが目覚めるから、自分から起きたいと思えば起きてしまうんです。今回は前者ですね」


 それって遠回しに僕のせいで起きたって言っているんですけど……屈託のない笑顔で言うあたり怒っているとかではないか。前にも実際は睡眠が必要無いみたいな、睡眠をとるのは回復のためだけって言っていたしね。シロと同様に自分で魔力を作り始めてきている証拠だ。シロは寝ている時に抱き着いて吸い取っているみたいだけど。


「ちょっとだけ外に出ない?」

「ポーションでも作りますか?」

「したいのね。いいよ、行こう」


 どこぞの人なら「質問を質問で返すなぁーっ!」って怒りそうだけど。いや、僕の言いたいこと、やりたいことをよく分かっているって言った方が聞こえが良さそうだね。実際はイフも二人でいたいって言うのが本音なんだろうけど。


「当然です。一番に付き合いが長いのに二人っきりになることが少なかったんですから」

「はいはい」


 お腹に引っ付いてくるシロをゆっくりと離してミッチェルに抱き着かせる。こうしてみると姉妹に見えて……こないね。さすがに人族と獣族で見た目が違いすぎるから。だけど人種を越えた友情をみたいなのが二人にはあるし……僕じゃなくてシロが抱き着いていてもミッチェルは嫌な顔一つしないんだろうな。


「悲しくなっています?」

「ちょっとだけね。やっぱり僕って独占欲が強いんだなって」


 多くを愛せば一人一人への好意が小さくなるって思っていた。だけど実際は全然、違う。ミッチェルに想う気持ちも、イフに想う気持ちも……全員が無くてはならないってなってしまっている自分がいる。それは女性だけじゃなくて男性にもね。好きって感情は強くもさせるけど弱くもさせるんだなって実感してしまうよ。


「そんなところも好きですよ」

「あい、僕も好きですよっと」


 少し恥ずかしかったけど適当に返してはぐらかす。まぁ、イフが「素直じゃないですね」って言っていたからバレバレなんだろうけど。本当にそういう所がなければ依存してしまいそうなくらいに良いんだけどな。……いや、それだと自立出来ないからこれで良かったのか。


 体を起こしてイフの手を取る。


「……そういうところ好きですよ」

「何が?」

「ふふ、手です」


 再度、恥ずかしくなってきたけど転移をしてまた誤魔化した。固く恋人繋ぎされた手がより強く握り返されて少しばかり心を躍らせてくる。これが胸キュンってやつなのかな。男が感じるものじゃない気がするけど。


「ここなら壁ドンし放題ですよ!」


 マジでしてやろうか?

 そんな返事をしようと思ったけどやめた。やったらやったでイフが調子に乗りそうだしね。別に減るものじゃないから構わないけど。ただ地下に飛んで一番の言葉がそれって意地悪しているようにしか感じないし。


「恥ずかしそうなマスターも好きですから」

「二度と壁ドンはしないから」

「一度もしてくれていないのにやったような口振りなんて……酷いですぅ」


 ごめん、それは元ネタが分からない。

 メンヘラ……とは少し違うよね……?


「ぅちはぁ」

「聞き取りづらいのでやめてもらいたいです」

「はい、仕方ありませんね」


 この調子……小さな言葉の殴り合いが出来るっていうことがとても楽しい。きっと今だって笑顔がこぼれているんだなって。最初に僕が作り出した存在は一番に僕が欲しいって思えた存在だったはずだしね。今ではその時に感じていなかった性格の合う相手が一杯、仲間にいるんだ。やっぱり誰一人として欠けてはいけないんだなってそう思えるよ。


「……感慨にふけていないでやることをやりましょう。五時にもなればミッチェルが起きてしまいますから」

「それなら……後二時間は二人っきりだね」


 チラリと見た僕作成の時計が深夜三時前を指しているのを確認してからイフの顔を見て微笑む。イフがやられたとばかりに胸を押さえて「ええ」と言ったのを見てしてやった感に襲われた。時にはやり返してもいいはずだし。


 イフの頭を撫でてゆっくりと準備を始めた。途中で「初めてを」とか言っているイフの平常運転が馬鹿っぽくて、それでいて……ずっと一緒にいたいって素直に思えてしまう。若干、イチャついていたせいか準備に十分くらいかかったけどね。たまにはいいか……。

耳に息がかかるのって気持ち悪くないですか? 私は風〇君のような気持ちにはなれないですね。後、やはり気分転換に読むジョ〇ョは最高だと思いました(感想文風)。


次回はちょっとしたイベントを書こうと思います。日常回に近いと思いますが楽しんでもらえると嬉しいです。(次の次の話かもしれませんが……)


水曜、木曜日当たりに次回を投稿する予定です。

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