4章40話 趣味が頭を離れない、です
「はい、というわけで新規従魔チキチキ名前決めドラフト会議をしようと思います」
「……チキチキの使い方を間違えていない?」
僕の意見にイフが「気のせいです」と笑い返してきた。きっと全知のイフならチキチキの意味も分かるはず。うん、ノリとかで適当なことを言っているわけじゃないよね!
宿に帰ってきて早々のことで皆も困惑していることだろう。帰ってすぐに名前決めをしようなんて言ってしまったわけだしね。広い部屋を借りて全員がいるわけだし。
「今回の主役はカマイタチ! 風魔法が得意で速度を重視した戦い方をします! さて、皆さんは仲間にどのような名前をつけますか! それではオーナーから一言!」
オーナー……って、僕に丸投げかよ。しかもオーナーじゃないし。どこまでドラフト会議って言葉に引っ張られているんだか。
えっと……何を言うべきかな。懸念とか心配事は無いからなぁ。ネーミングセンスが無かったのなら選ばれないみたいな感じだし。というか、えらくイフが上機嫌だな……。
「名付けの優劣で名前を決めるのではなく短い名前、もしくは短縮しやすいか。女の子だから可愛らしいかなども加点材料になるかな。一番はこの子自体が気に入るかどうか。そこに注視して考えて欲しい」
「一言ではありませんがありがとうございました。それでは各自……と言いたいところですが時間短縮や三人寄れば文殊の知恵と言うことですし、三人の団体で考えてもらいます」
余計なお世話だね。
そんな調子で鉄の処女、セイラ達、フェンリル、ロイスとエルドとキャロ……と言った感じに分かれて行って僕はミッチェルとシロ、そしてまだ馴染めていないユウはイルルやウルルと組んでいるみたいだ。見た感じ仲が悪い感じはなくて短い時間だけど話は出来ているように思える。話初めの話題が好みの男子って言うのは聞かない方が良かったのかな。
「ユウの方を見てどうしたの?」
「あー、ちょっとね。馴染めているようでよかったなって」
「ユウは優しいよ……? 民族での偏見とかもないし話易い」
未だにユウの身の回りの話は聞いていないからよく分からないけど、差別が無いのなら僕としては嬉しい限りだ。僕の周りは人族だけって言うようなことはないしね。逆に他種族が多いし。キャロとかフェンリルの三人とか……シロも普通にそうだった。
ただイルルやウルルは警戒している……とは意味合いが違うだろうけど人としての姿にしている。尻尾や角が生えた姿はユウに見せていない。獣人はまだ良いけど魔族は偏見どころか親を殺された人も少なくないしね。知っていて仲間として認めてくれる人は少ないと思う。
「今は別にいいか。……それで二人は何か良い案とかあるかな?」
僕が考えるのも有りだとは思ったけどカマイタチの名前を考えようにも……一人だと某プロ野球選手の名前しか浮かばないような人だし。女の子にそんな名前……って言うのは男らしいって意味でね。性別的に付けられるわけがない。
「……シロはシロの時のようにお兄ちゃんが付けるべきだと思う」
「私もギド様が考えるべきかと……」
「うーん、そう思うんだけどね。僕的には要素をくれればよりいいものが出ると思うし、それに」
「それに?」
一応、口を噤んだ。
まぁ、他人任せよりは良い案だと思うんだよ。そのためにこの茶番に近いことをしているわけだし。というか、僕一人でを繰り返していたら僕のワンマンになってしまう。それだけは嫌だし信者とかは盲目にならない程度であればそれでいいと思う。……いや、それって信者なのか?
「まぁ、一種の懇談会みたいなものだよ。僕一人で考えてもつまらないし」
「確かにそうだとは思いますけど……」
「皆と遊ぶ時間が多くてもいいと思うんだ。下手なクランよりも僕達の仲間は多いんだから」
クランって聞くと百人とか大勢を想像しやすいんだけど、実際はそうでも無い。少数精鋭を重視するクランって少なくないんだよね。分かりやすくいえば長期戦になればなるほど部下が離れやすくなったり、命令に背く、または命令が行き届かないって言うことも多くある。
僕達はポリシーとかを重視しているから違反されるような人は悪いけど要らない。命令は絶対とは言わないけど信用出来ない人を囲う理由なんてこれっぽっちもないからね。それに仲間内での恋愛は自由であれ無理やり手に入れようとする人なんてざらにいる。
そういうのを無くすために最小でBランクのクランで七人編成とかもいるからね。珍しくイフからは注意しといた方がいい相手って情報も与えられたし。……ネタバレとかで済む相手ではないってことだ。
「とりあえず、皆が考えているんだし二人も考えてみてよ。二人に子供が出来た時だって名付けを僕に任せるわけにはいかないでしょ?」
『確かに!』
そこでは声が重なるのね……。
って、あれか。僕からすれば僕以外の人との子供も想定して……いや、許せないからいいや。シロは妹だから兎に角としてミッチェルは渡せない。それだけはミッチェルが元主を殺したあの時に決めたことだ。
「感性を知っておかないと楽しいことも喧嘩の種になっちゃうよ」
「えっと……それならこれとかどうですか?」
そう言ってミッチェルは指に魔力を溜めて黒い板に文字を書いていく。僕が作った試作品だけど割と使いやすそうだ。ホワイトボードをイメージして書くだけで文字の勉強と魔力操作の練習にもなる優れものって触れ込みを考えていたんだけど。これは一グループに一枚、渡してあるから最終的にはこれに書いて渡すことになる。あっ、文字は端のピンの部分に触れて横に移動させるだけで消すことが出来ます! 子供の時によく遊んだ物をイメージして作りました!
「……イフウか……」
「安直ですが風を意味するフウとカマイタチのイという言葉を取りました。少しだけ名前を呼ぶ時に困惑する可能性はありますがイフ様並みに強くなれると信じて」
何それ……カッコよすぎないか……?
僕としてはめちゃくちゃに好みなんだけど……まぁ、僕の一存では決められないかな。イフウ、威風と変えてもいいしね。そうなればかなりネーミングセンスとしてもいいと思う。
「……師匠が言っていたんだけど威風って言葉が日本ではあるらしいんだ。あっ、こういう字ね」
「難しい……」
「うん、結構、歳を重ねてから覚える字らしいんだけど、意味としては威厳のある様子になるらしいんだ」
曖昧だけどそんな感じだったはず……。
どちらにせよ、これを出された後に僕から意見は出せないな。だって……明らかに趣味に偏った名付けをしてしまいそうだし……。フェンリルの三人の名前も元友達の名前から取ったしね。バレたら怒られてしまいそうだ。
「この名前は候補にしておこっか。ちなみにシロは何かある?」
「ギド!」
「うん! それは却下だね!」
僕が僕の名前を呼ぶとか余計に紛らわしすぎる。
僕が戦う時に「ギド、そこだ!」とか言っていたら意味がわからなさ過ぎるし。逆に仲間が僕に突っ込んで貰いたい時とかも一々、面倒過ぎる。様とか兄とか聞いていられるほどの余裕がいつもあるとは言えないし。
【突っ込むなんて変態!】
いや、そっちじゃねーよ!
しかも司会だからか暇そうに僕の方を見ているし。イフは司会だから誰かと名前を考えるということよりも進行の方に専念してもらっているしね。だからと言って変に僕の方へ絡んでくるのはどうかと思うけど。……言葉をミスった僕が言うのも……いや! 悪くないよね!
小さく「ギド……いいのに……」って呟くシロがとても可愛い。可愛くてギドでもいいかって思えてしまうくらいに……ダメだ……絶対にメッセージ系のアプリなら括弧付きで錯乱中とか書いてしまう位に頭が回っていない。
「ふにゃ……」
「僕の名前は僕の物だよ。僕を呼んだのにカマイタチが来てしまったら少し違うでしょ?」
「……うん!」
少し悩んでいるみたいだけど撫でながら聞いたからか、上機嫌になって返事をしてきた。僕も何か案を出すか……と思ったけど何を出してもミッチェルのイフウに勝てる気がしないな。
「……僕はイフウを推すよ」
「ギドさんは案を出してくれないんですか?」
「正直、僕の頭にあるのは師匠が好きだった有名人の名前くらいしか出てこないから」
いや、その選手以外にも好きな選手はいるし、誰々がいるからその球団を押すとかもないしね。それに日本人の名前をこの世界に当てはめてはいけない気もするし。なんと言うか、洋風なのに和風の名前は確実に合わないと思う。
「……自分では思い付かないってことですか?」
「それもあるけどミッチェルのイフウがかなり好みだったからかな」
僕が考える名前よりは良いだろうしシロのギドも確実にない。まぁ、他の面々が考え出した名前の案も聞いてから深く考えるだろうけど、今の段階ではミッチェルのが断トツだね。シロも思考停止して頭を撫でられ続けているし。
「これなら名前を付ける時にも安心だね」
「そっ、そうですね!」
今は無理だろうけど、そのうち……。
そのためにも頑張っているし基盤も整えているからね。今は僕から出来ることは無いや。そっとシロの頭を撫で下ろしてミッチェルを近付ける。肩に首を預けてきたのでミッチェルの頭の上に頭を乗っけた。……はぁ、童貞には辛いよ……。
野球を見るのは好きなんですがオタクって程でもないのであまり知識はないです。後、球団に関しては某スポーツ選手が所属している場所ではなく故郷の球団を推しています。見ていて喜怒哀楽の全てを感じられて楽しいですよね。違うイベントを想像した方は申し訳ありません。覚えている範囲のイベント事は4章内で書く予定なので楽しみにしてもらえればありがたいです。
次回は土、日曜日当たりに出したいのですが土曜日が休みでは無いので少し遅れるかもしれません。楽しんで読んでもらえると幸いです。