2章1話 始まり
すいません
休みなくて延ばし延ばしでようやく書けました
少しだけ朝早くに起きてしまった。
それだけ今日からの生活が楽しみなんだろうな。そうそうに着替えを済ませてから寝息を立てるミッチェルを起こす。残念なことにテンプレの発動はなかった。
黒パンとシチューが朝食として出されたが質のせいか、セイラ達と食べた時より美味しくはなかった。塩や胡椒は魔法国にとっては高いので仕方ないといえば仕方ないかもしれない。
魔法国は湖に瀕してはいれど、海には瀕していない。塩を手に入れるには輸入するか、塩を落とす魔物を倒すしか手がない。
魔物には二種類のわけ方があって倒れてそのまま解体しなくては行けないものと、倒すと光になって遺体は残れど他の素材なども落とすものがいる。
ドロップアイテムと言うらしいけどその落とす確率もとても低い。だから当たればラッキー程度でしかない。逆にそれで稼ぐ運だよりの人達もいるらしいけど。
ヒヨさんに食事を終えたことを伝え武器屋に向かう。さすがに何もなかったら怪しまれるだろうからね。こんなことならセイラから貰っておけばよかった。……女性に貢がれている気分で断った僕を恨んでしまう。
まさかアイシクルソードとか、アーティファクトとか言われる銃をそう簡単に見せるのはやめた方がいい。下手をすればステータス差を跳ね返す力だからね。
陽の光がさんさんと照りつける中、ミッチェルと手を繋ぐ。朝とはいえ八時過ぎ。元の世界と同じく働きに出る人がたくさんいるのだ。一つの大きな街とだけあって人混みの人数はとても多く、はぐれてしまうと面倒くさそうだ。
まあ、それも言い訳でただ手を繋ぎたいだけだったんだけど。喜んで手を繋いでくれたので間違っていない行動だったはずだ。
「この後どこへ行くのですか?」
「言ってなかったっけ? ごめんごめん。今から武器屋に行ってみようかなって思ってたんだ。あの武器じゃ悪目立ちするからね」
「……私の分よりも自分の武器を作れば良かったじゃないですか……」
「あー、あれは贈り物に近いからね。それにこうしたのは理由もあるんだ。僕の知っている武器のランクの知識は古いかもしれないから、この目で確かめて作って売るのも手かなって」
「……そうですか」
言葉では素っ気なかったがとても嬉しそうだ。そんな笑顔がとても可愛らしい。
イフ、武器のランクを教えてくれないかな。さすがにミッチェルに渡したのじゃオーバー気味でしょ?
【そうですね。……行ってみれば分かりますが、そのランクの武器ならば高ランク冒険者が大枚をはたいて買うぐらいの価値があります】
僕ってすごい器用貧乏だね。
【普通は錬金術などのスキルなしで高ランクの武器を作るのは不可能ですから。それだけ才能があったのでしょう】
錬金術の才能かぁ。
この世界では金を作り出すことは出来るのかな? 一応、中世ヨーロッパとかでは作ることが出来なかったっていうのは知っているけど。
【可能といえば可能です。ただスキルレベルが最高でMPから作り出す、つまりは無から何かを作り出すことになるので今作れる人はいません。その知識すらも隠蔽されて国家財政を支える大臣などのみが知る情報です】
作り出せるだけで一財産。死んでからの遺産に関する税金とかは?
【ありません】
それは楽でいいね。
親が稼いでいればニートでも生きていくのは楽そうだ。その分、兵役とかがきついのかな。過去、年貢を運ぶ人に選ばれれば死ぬのと同義にされていたようだし。
返答がないって言うことはその通りってことかな。お金に関する税金は安いけど死にやすい世界。なんとも分かりやすいことだね。
そうしてミッチェルと会話を楽しみながら、イフからこの世界の常識を習っていった。街の構造をセイラから教えて貰っていたので時間もかからずに武器屋に着く。
「うわぁ……」
武器屋の前に着いてから一番に出た言葉だった。一応、セイラからオススメされた場所だったから安心していたのだけれど、なんだこの外観は……。
ガラス張りの扉に数本の剣が刺さっている。模造刀だとしても悪趣味だし何故か先に骸骨があるのだが。そして店の外は漆黒ともいえる黒い壁に白くガジェットと書かれている。
今更だけどこの世界って英語を使うのか使わないのか知りたいよ。オーケーとかをミッチェルに使ったら変な顔をされたし。
このままいてもなにも変わらなさそうだ。
扉の前に進む。
ん? そうか、この扉は自動ドアだったのか。
「……これは」
「多分、異世界の技術だと思う。ここの店主が異世界人と面識がある可能性はあるだろうね」
「へー、分かってるな」
驚いて目を見開く。
でも視線の先には誰もいない。そこで一つの考えが浮かんで徐々に視線を下に落とした。
僕の近くに身長百三十ほどの髭面の青年が立っていて自身のボサボサの髪を弄って笑っている。手には腕の長さはあるだろう金槌を持ち、そこに肩肘をかけていた。
「おお、その反応は久しぶりだな。お前、お師匠と同じ異世界人か?」
「いえ、僕は小さな村で過ごしていた田舎者です。一時期、ダンジョンに篭もって力をつけここに来た次第です」
言外にドワーフのことは知識でしか知らないと言っておく。そうすればこの人も理解するはずだ。
「ってことは、俺がドワーフだということは知っているんだな」
「本で見ただけですが」
「お嬢ちゃんは、ああ、お嬢ちゃんは同じ故郷じゃないんだな」
「ええ、私はギドさんに救われましたので」
ドワーフは「そうか」と言って武器を手に取った。
「俺も救われたんだよな。今は唯一無二の錬金術師、シシジマと聞けば分かるか。そいつに奴隷として買われたんだ。異世界人は不思議だな。知識がないからか俺を優しく迎えて独り立ちさせるために奔走してくれた」
「……そんなものですよ」
「確かにな。勇者と共にきた奴らにはろくな奴がいなかったが、シシジマを見て分かった。俺の考えが誤っていたと」
ドワーフは一呼吸した。
「俺はシマっていう。元の名前は捨てた。お前らは武器が欲しいのか?」
「はい。ああ、僕はギド、こっちはミッチェルといいます」
「分かった。それで、なにが欲しいんだ?」
周囲を見渡してみるが明らかにランクは高い。僕の剣ほどではないけど、イフが言うには中級冒険者なら手に入れたいと思うほどらしい。
「片手剣と盾ですね。ラウンドシールドら辺があると楽です」
「それは構わないが、お嬢ちゃんは武器を必要としないのか?」
「ええ、ギドさんがこちらの剣を作ってくださったので」
あっ、やば。口止めを忘れた。
「これは……すごいな。素材にせよ、完成品にせよ玄人でも作れるかどうかの逸品だぞ……」
「ええ、ギドさんはすごいですから」
「それは削っていたら出来ただけです。まあ、初めてにしては上手くいったと思いますけど」
「そうだな。……すこしだけ削りに荒い部分がある。スキルは無さそうだな。俺もよくそれで怒られたものだ」
シマは笑った。
髭面には似合わないほどの若くて綺麗な顔立ちに少しだけ驚いたが、すぐに剣に向き直す。
「ミッチェルは素手で戦えるようですが前線で戦うには盾役が必須です。だから僕が代わりにならないといけないのですが、あいにく持っている素材は剣や盾に向かないものばかりで」
「それでか。冷やかしかと一瞬思ったがそれなら納得だ。ちょっと待ってろ、いいもんを持ってきてやる」
周りにあるものでも十分なのに何を持ってくるのだか。にしてもいい人っぽいな。
【周囲からは偏屈と呼ばれているようですね。気に入らないと話もしないようです】
あらら、それは良かった。
初対面の人と話して仲良くなれるのはとても嬉しいことだし。それに錬金術師というか武器屋としての知識が得られるかもしれないしね。シマさんは多分、鍛冶師だ。
そういえば鍛冶師も武器を作れるし、錬金術師も武器を作れるよね。何が違うの?
【鍛冶師は武器を作る専門の職業です。これは薬師と一緒で、それに関するものを作る時はとても良い補正を得られますが他では手に入りません。例えば武器品質補正や作成時技術力向上、武器作成時消費削減です。これが両方を兼ね備える錬金術師にはありません】
要は本当に器用貧乏ってことだよね。
まあ、ランクは低いとはいえ僕の剣のように高価値のものもあると。一概には言えないけどそこで差をつけているってことかな。
【正解です。説明を取られたような気がして嬉しいような悲しいような気分ですが】
あはは、ごめんごめん。
でもこれなら武器を作るにしてもシマさんに習えばいいね。そのうち仲間が出来た時に全員分の武器を作れるようになりたいし。それが僕の仲間の特権だ。
【ちなみに錬金の補正はMP依存です。消費すればするほどランクが上がりやすいです】
氷呪剣はMPの消費によって作られたものかな?
【いえ、違います。スキルを持っていないので補正がかかっていない、そんな状態で想像力を使うことで作られた一品というのが正しいです】
そういえばスキルを持ってはいなかったんだよね。これはますます錬金を手に入れるために動くべきかな。
【武器作成によって錬金術師が解放されたのでセカンドにつけるのも手です】
もしくはこの後のことを考えて召喚士や勇者とかをつけるのもてか。……錬金術は錬金術師の固有スキルなのかな?
【一応は錬金術師にならないと手に入れることが出来ません。ただ例外として創造で作ることは可能です。適性が高いのであと三日も待てば作れると思います】
それならならなくていい、と。
召喚とかは?
【それも先と同じ理由でなる必要性は薄いと思います。戦闘でなれる職業も増えたので勇者以外だとしても良いものが多数です】
無理して就く必要性はない、と。
ただ錬金術師になるのも手ってことかな。
まあ、あれだね。盾持ちでいくつもりだから魔力特化の騎士とかになりたいよ。自分で回復して後衛を守るあれに。
【ドMプレイですね】
それで結構です。
仲間を守れるならそれで。
【想像の仲間を守るのは少しだけ可哀想に見えてきますよ……】
イフに呆れられながらもシマさんを待ち続けた。そしてそこから約数分後、一つの大きめの剣と盾を持って姿を現したのだった。
次回はギドの獲物とギルドですね。
もうそろそろで妹の話も出てきます。後は少し時間が飛びます。
2週間以内に次も投稿します。出来れば10月いっぱいにはもう一話……だから、休みをください。