4章33話 絡みです
パトロの街の朝は早かった。
午前七時頃だと言うのに外の賑わいはグリフのそれを遥かに超えている。商人ギルドの総本山があるだけあって朝からやっている出店も少なくない。このような小さなことから儲けを見出しているんだろう。
「この組み合わせは初めてですね」
「……あー、そう言われればそうかも」
初めて……の感覚はないけど確かにメンバーが通常ではない。鉄の処女とザイライ二人のメンバーだし。ちなみにイフとシロはセイラの護衛を任せている。
「イアとアキなら一緒の時はあったよね」
「良い思い出」
「私達が参加出来なかったアレですね」
リリが少し悔しそうに話すけど表情は朗らかだ。多分、言うほど気にしてはいないんだろうね。純粋に親交を深めるために依頼を一緒に受けただけなんだけど……。まぁ、今回は前回とは少しだけ意図が違う。
「パトロの街のダンジョンは有名だからな。行きたい気持ちは分かるぞ」
「それもあるけど戦う時に連携が出来なければ勝てないからね」
セイラから許可を貰うためにしっかりとした理由を作っておいた。元より模擬戦に近い形でパトロの冒険者ギルドの人達と戦う話は出ていたし、それに理由をつけて鉄の処女と連携を築くためにダンジョンに行くって話だ。まぁ、最初から鉄の処女と一緒に模擬戦で戦うって言っていたしね。許可は簡単に出た。
一応、ミッチェルも連れてきたけど。
「そもそもオレ達を選んだ理由が分からないけどな。純粋に勝つためならザイライかフェンリルの人達を連れていけば済むだろ。明らかにオレ達よりも強いからな」
「それはどうかな」
鉄の処女が他の人達よりもステータスでは劣っているのは確かだけど、それを補えるだけの戦闘技術や連携は出来るだろう。というか僕達の場合はイフを経由して攻めるか守るかの連携をしているわけだし。ゲームで言うところのボイスチャット有りの完全フルパーティってところかな。
それに対して鉄の処女は友人同士だとしても野良でやっていたら同じパーティになってしまった、連携は同じパーティの時にやっていたから相手ならどう動くか分かるみたいな差がある。それに……。
「フェンリルの三人は心器を出せてはいないよ。それに後方支援が出来る人達は三人の中にはいない」
「……要は近衛、中衛、後衛の三つが揃っているからオレ達を選んだってことか」
「もう一つ、魔法国のグリフの街の格って言うのを見せつけるためかな」
僕は異世界に来てグリフの街しか知らない。僕の仲間も似たようなものだ。でも、それ以上に鉄の処女はグリフの街の地域密着型で戦っている人達だ。まぁ、一緒に戦ったことが少ない人達と戦いたいって言うのもあるけどね。
「まぁ、あの三人にイフを当てるのは相手が可哀想だしね。僕でさえ勝てるか不明なのに三人に勝てるとは思えない」
ぶっちゃけ一番に敵に回したくないし。
スキルだったからか、動作などなしで魔法とかを撃ってくるし読みあいで勝てるわけがない。純粋な強さや魔法の練度も僕とは比べ物にならないほどに高いしね。仲間ならどれだけ心強い存在かってところかな。
あーでも、少し言い方を間違えたかもしれないな。僕なら勝てるっていう感じだけど死ぬ気でやればって感じだし、そもそもイフは殺したところで僕の体に戻るだけ。つまり殺しても生き返ることが出来るから完全に殺し切るには僕を殺す必要もある。だから勝てるかが不明ってことね。純粋な殺し合いはイフとする気がないし。それに本気でやる手前、イフはスキルとして僕の体に戻ってもらうつもりでもあるし。
「ミッチェルとシロだけでも勝てるかもしれないけど、僕の狙いは勝ちではないから」
「……よく分からないけどギドらしいね」
「それはお褒めの言葉って解釈するよ」
どちらにせよ、僕が選ぶのは鉄の処女の三人だ。そこを変えるつもりもないし何度も思ったことだが三人を弱いと侮らない。動きが早かろうと無駄が多ければ勝てるものも勝てない。三人から得られるものも少なくない。
少し前にダンジョンへ入るための許可証をローフから得られている。後はダンジョンに入るだけだし難易度も高くはない。ランクとしてB以上であればいいらしいしね。それに地図が売られるくらいに人の出入りが多いらしいから。代わりに大きさは僕の知っているダンジョンのレベルではないらしいけど。
「……後、そろそろ手を離してくれないかな」
「嫌」
「嫌です」
両手を塞がれているのはさすがにキツい。
パトロの冒険者ギルドでも二人は手を離してくれなかったしね。テンプレを働かさせたくないのに要素が多すぎる。冒険者からの視線もかなり痛いし。絶対に殺意が芽生えている人は多いと思う。ただでさえ、最初に威圧をかけたわけだし。
「嫌って……まぁ、戦う時には離してね」
「それは……時と場合によります」
「イアも同感」
頭を抱えそうになったけど何とか踏ん張る。
いや、戦いの時くらい離してくれないと戦闘が出来ないんですけど……って、聞いてくれそうもないか。なんだかんだ言って解放してくれるだろうから、そんな希望を持って歩いてくる。……本当は今も睨まれている視線を無くしたいんだけど……。
「っと、着きましたよ」
「……ここか」
リリは昔、ここに来たことがあるらしくて先導してもらっていた。もちろん、詳しくは聞いていない。話したくないことを無理やり聞くのは違うっていうポリシーがあるしね。まぁ、聞いても教えてくれるだろうけど。
見た感じ洞窟のような場所で近くに四つ個室があるってところか。個室は話に聞くポータルっていう好きな階層に飛ぶ魔道具だろう。この洞窟の下にダンジョンが続いているらしいしかなり楽しみだ。
「リリは何階層まで降りたことがあるの?」
「えーと、三階層かな。何分、幼い時に行ったからね。記憶も曖昧だよ。ただ今ならあの時よりも下に……ダンジョン攻略も可能だとは思うよ」
「それは楽しみだね」
どこか悲しげなのは過去に何かがあったからかもしれない。聞きたいって気持ちはあるけど我慢だ。話している時に知らず知らずのうちに相手の傷口を抉ってしまう時もある。リリのことは大切だから聞けない。
頭を掻こうとして手が塞がっていることを思い出す。昔からの癖だ。平常心を得るときにやっていることが出来ないと少しだけ心地が悪いな。
「おはようございます。入ってもいいですか?」
ダンジョン前の兵士に聞いてみる。
いい目はしていない。もし僕が兵士の採用試験をする人ならばこんな奴はいらない。ステータスを見た時に吐き気がするほどの悪行の数々を見てしまったし。
「ええ、いいですよ」
「……ありがとうございます」
顔は笑っている。でも、目は……。
ステータス自体はそこまで驚異ではない分だけよく分からないな。少なくともロックや偽造に近いものは感じない。分からないっていう恐怖が大きすぎる。しっかりとランクは隠して許可証の部分だけをギルドカードから映し出して見せた。これは紋章のようにギルドカードが持つ機能らしい。初めて見たけど。
一階層目に足を踏み入れる。
先の兵士にはマップで点を打っておいた。警戒していて悪いことは無い。どこまで王国の兵士や市民を信じられるかも分からないしね。……とりあえず、兵士のことは一旦忘れよう。マップさえ見れば相手の行動が分かるしね。それにしても……。
「やっぱり明るいな」
「そりゃあ、人が出入りしているダンジョンだからな。王国の平均冒険者ランクが高いのはダンジョンの数も多いことやダンジョンの平均ランクも高い。気を抜かない方がいいぞ」
「と、エミは言っているけど最初はそこまで気負う必要は無いと思うよ。さすがに魔物の格が低いからね。私が三階まで行けたのもそこまでは弱いって言う理由もある。ダンジョンに入るために必要なのは強さとコネって言われるくらいだ。最初らへんは慣れるためにあるようなものだし」
それはダンジョン自体が人をたくさん入れるために自然と学んだんだろう。ダンジョン自体には意識というか、無意識のうちに自分を成長させるために活動を続けるらしいし。それに階層の途中で敵のレベルが変われば意識の低い奴らはそこで死ぬだろう。ダンジョンにはいいことしかない。
「リリ、それでもだ。相手が弱かろうと気を抜くのは良くない」
「……悪かった。少し気が立っていたみたいだよ」
「別に怒っていない」
エミさんはリリに注意してから僕にチラッと視線を向けてきた。特に思うところもないので首を縦に振るとエミも同じように首を振り返してきた。そのままイアの方に視線を向けて渋々ながらイアも手を離した。同じようにミッチェルも手を離してくれたし……ちょっとエミさんが満足気なのはもしかしたら同じように手を繋ぎたかったのかもしれない。
まぁ、エミさんの言葉にも一理あるし半々だったのかもね。手を解放してくれたってことで解釈しておこう。今日中にどこまで行けるのかっていうのも気になるしね。
「さてと、やりますかー」
ようやく空いた手を使って大きく背伸びをして黒百合を構えた。今回はサポートに回るべきか、それとも……。好きなようにやるつもりだけどなるべくダンジョンを楽しまないとね。場所によってはダンジョンが観光スポットって扱いにもなるらしいし。
一種のデートだと思って楽しもっと。
少しダンジョンに関する話が多いですが、今回は純粋に整備されているダンジョンとギドが攻略していったダンジョンとの違い、それと鉄の処女との絡みをメインに書いていこうと思っています。場合によっては他のイベントも入れていくのでダンジョン攻略だけを書くつもりではないので、そちらも楽しんで呼んでもらえると嬉しいです。
後、前話の最後が少し気に食わなかったので書き直ししました。興味があれば再度、お読みください。
次回は水曜日辺りに出す予定です。




