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4章32話 戦う意思です

少し長めです。

 大まかな森の中身は僕が考えた範囲だけど細かな部分はイフが作成している。だからこの場を理解している僕とイフ達は対等だって言えると思う。どちらにせよ、僕の方が詳細を知らない分だけ不利かもしれないけど些細なことだ。マップも使えない場所っていうのもあるけど大まかな場所さえ分かれば動ける。


 イフのサポートは無いから強化魔法の持続時間は頭に入れておかなければ。加えて手加減はしない。僕にあるのはステータスとスキルの多さのアドバンテージくらいしかない。普通ならば大きなものだけど相手には僕の戦い方をよく知るシロとイフ、そして動き方がよく分かっていないエルドとキャロだ。全員が戦いのセンスもあるし本気でやる。多少の怪我ならイフが治してくれるしね。


 とはいえ、動かなければ始まらない。

 だから先に動こうと思う。


「燃やせ、黒百合」


 大きな火を一箇所に撃つイメージではなく横一文字に、広範囲に火を放つイメージで黒百合を横に大きく振った。想像通り一本の線のように火が木に当たり燃やしていく。火力で言えば微妙だけどこれは相手に場所を教えるための攻撃。


 本気でやると決めた以上、四人の、詳しく言えば三人の連携を目で見たいからね。僕から行くのは少しだけ違う。初撃で一人落とせたとして繋がらない。勝ちが目的の試合ではないし。


 それに木を燃やしたのは環境破壊とかが目的ではなくシロへの牽制だ。隠れる場所が多ければシロが動きやすいし逃げ込みやすい。逃げるためのスキルはエルドが所持しているしね。一撃の重みであればキャロが一番に怖いか。……やっぱり気は抜けない。


「フッ!」

「効かない!」


 剣の槌でシロの一撃を流し弾く。

 シロの攻撃は速度を考えての武器ではなくドレイン。即座に前に飛んだ。僕のいた場所にエルドが飛んだのは見えたけど続けての一撃は出来なかった。牽制するかのようにエルドが飛んでキャロが前に来たし。


 三人とも本気で勝ちに来ている。

 もしも速度で押す作戦ならばワルサーで近距離射撃を続ければいい。それをしなかったのはエルドに一撃を譲ったからだろう。本気で焦った。ここまで速度を早められるイフのサポートも、それに合わせられる三人の連携も見事なものだ。


「やるね」

「まだ!」


 今度はシロの武器がワルサーに変わった。氷の刃を付けたのは僕の戦い方を参考にしているからかもね。とはいえ、受け続けることも出来ないか。黒百合の横振りでシロが躱すように誘導させる。


「ハウンドハウル!」

「ッツ!」


 一瞬の硬直、僕の技でシロの頭を掴んで遠方へと投げつけた。もちろん、手は抜いていない。少しだけ痛いだろうけどこれで落ちるほどシロも弱くないだろう。ここまでしないとさすがの僕でも。


「キャロの攻撃は受け止められない!」

「スタンプ!」


 黒百合を上に構えて槌の部分で振り下ろされたキャロの一撃を止める。腕と足をメインに強い強化をかけて、しっかりと腕を反対側の槌に当てて受け止めた。さすがに少しだけ地面がめり込んだけど。でも、それでいい。


「アイシクルランス!」

「カースボール!」


 苦し紛れと言いたかったけど即興で撃ったにしては良い魔法だった。僕の氷の槍はキャロの作り出した呪いの玉を貫いたものの貫くまでに多少のインターバルを与えたしね。その場にいては追撃が怖くて僕も後ろへ飛んだ。


 かなりの大ダメージを躱そうとすればキャロからの一撃を、チクチクと小さな一撃を躱そうとすればシロの一撃を、追撃を考慮するのならばエルドの一撃を思考の端に置く必要がある。気を抜けば即座に一撃をもらうことになるだろう。


 視線を軽く横に流す。

 少しだけ草が揺れた。


「痺れろ!」

「二度目はない!」


 さすがにシロへの魔眼攻撃は無効化された。

 単純にシロに効かないではなく、上手い具合に目を逸らされたから先の一撃で攻撃を躱そうと動いているみたいだ。ただダメージは少なくない。ワルサーの一突きの速度は先程よりも明らかに遅い。速度が遅い=油断が出来ないとも判断が出来るけどね。


「行きます!」

「分かっていたよ!」


 首を取りに来るかのように、縮地を使った以外に考えられない速度でエルドが背後を取ってきた。さすがに予測はしていたので屈んで横振りの一撃を躱して無詠唱で氷の槍を飛ばす。これでダメージを与えられるとは考えていない。ただ縮地を使ったということが重要なことだ。


「フレイム」


 火の粉を撃ち込み新しく作った氷の槍を水蒸気へと変えた。煙幕に近い形でエルドの視界を奪ったところで黒百合の能力を使う。出来るかどうかが不明だった能力だったけど何とか付けられた力。


「結界」

「ッツ!」


 水蒸気が晴れた後に見えたのは透明な壁を叩いているエルドだった。これの良さは固有スキルであろうと無視出来る点だ。ただの結界ならば僕でも付けられた。でも、ここまでの力を付けることが出来たのは僕だけの力ではないだろう。


「エルド、前に出過ぎだよ。こうやって簡単に無力化されてしまう。何より縮地に頼り過ぎだ」


 縮地を使ってすぐに縮地は使えない。

 最初の頃はインターバルが長くて十数秒はかかっていたが、今ではもっと短くなっているんだろうけど……。それでもコンマゼロ秒で使うことはエルドであっても出来ていない。それを知っていたわけではないけど過去のエルドの縮地から考えて閉じ込める作戦に出た。現にエルドは閉じ込められているし顔を歪ませていることから縮地を使ってみたんだろうね。


「シロもだよ。今、機会を伺っているんだろうけど少し遅すぎる。キャロの一撃を頼りにしすぎだ」


 多少の怪我って言えば言い方が悪いけどシロならば攻撃を繋げられたはず。エルドの時に黒百合を触れた、その瞬間は魔力の流れを察知出来たはずなのに攻撃しなかった。多分だけどここまで酷い結果になるとは思わなかったんだと思うけど。


「まだ!」

「回復重視で僕を越えられないだろ」


 向かってくるのはいい、だけどさ。


「ただ一人で向かってくるのは無謀でしかないよ」


 シロの心器であるワルサーの先を掴んで引く。力だけで言えば僕の方が高い。速度は僕と同等まではいけても元々のステータスでのアドバンテージは消えているわけではないからね。そのまま僕の隣に引っ張ったシロを、エルドと同様に結界の中へと閉じ込めた。これで二人だ。


 そこでエルドの結界を外しておく。

 さすがに一対一でキャロと戦うのは可哀想だしね。それにエルドの動きも詳しく見れてはいないし。キャロとエルドの二人の連携も見たいっていう理由もある。


「イフ! 出てきていいよ! 二人に強化魔法とアクセラレータをかけ直して!」

「……了解しましたー」


 左側に視線を向けながら待っていると、少し不満げに木々の中からイフがアクセラレータを片手に出てくる。バレたのがそんなにもプライドを傷つけられたのかな。それとも何か策を三人に仕込んでいたとか……まぁ、別に構わないけど。


「キャロは単調な点がある。多分だけど呪魔法を多用していたせいかな。僕には効かないから初撃で普段通りの動き方が出来ていないように見えた」

「うう……当たりなの……」

「エルドは強くなったと思うけど槍使いとしての立ち位置が違う。中衛は前衛の危機を助けるものだけど近づいてしまったら相手の思うつぼだし。その点から初見ならば良いけど縮地の使い方を履き違えている。十全に扱えていないように見えるかな」

「……使える感覚が短くなってか慢心していました」


 やっぱりインターバルは短くなったのね。

 それだけでも僕としては嬉しい限りだけど。ただもっと強くなって欲しいし僕も強くなりたい。黒百合の能力に関しては初見プレイだったかもしれないし最初だけは見逃そう。


 あっ、シロは許さないよ。三人が再強化されれば倒せるか微妙だし、ましてや感情に任せて動いたシロに説教もしなきゃいけないからね。それくらい冷静さを欠くのは戦いの中で背中を見せることと同じくらいに危険なことだ。


「……来なよ」

「うりゃあああ!」


 少しの時間で目の前へと迫るキャロ。

 突き出した大槌から見て振るだけでは隙を作るだけと理解したのだろう。良い判断だ。だけどこれならば連撃は……。


「貫け!」

「あっぶな!」


 緊急で作ったために効果の大きい結界は作れなかったけど、エルドの一突きを斜めに流せるだけの結界は作れた。キャロの気迫のせいでエルドへの意識が外れていた。それにさっきとは違って至近距離ならキャロの手助けも効く。結界に怯えないか。


 ふふ、面白いなぁ。それにエルドの魔力にも動きがあった。槍に魔力が通っているから付与とかも出来るかもしれないな。それに……いや、それは後にしよう。後で魔力を扱い方を教えても良さそうだ。キャロの目付きもさっきより断然いい。


「ここなの!」

「ダメだ!」


 黒百合を地面に突き刺しキャロの横振りを弾き返す。キャロの一撃が重いのは黒百合を刺した地面ごと少し後ろにズラされたのを見れば分かりやすい。僕でも同じように動けるかどうかってところか。


『カースランス!』


 キャロの声と僕の声が重なる。

 ぶつかり合って霧散……ここで気を抜くほど馬鹿ではない。背後に結界を張ってエルドの攻撃に備える。でも、それは無意味だった。


「隙あり!」

「なっ!」


 キャロのいた場所にエルドがいた。

 右肩目掛けて突き出された槍を躱しきれない。感じられる気持ちの悪い生暖かい感覚が肩を伝っていて若干、吐き気を覚えてしまう。……このままなら触れたくはないし回復もかけられなさそうだね。少ない言葉でここまで一気に動きを変えられる二人はやはり戦闘の才能がある。日本ならどうかってところだけど、この世界では生きていくために重要だ。


 まぁ、さすがに即興だったからか、まだまだと言えばまだまだだけど。甘い部分が多すぎる。特に差し込んで視界を他の方へ移してしまうこと。僕が魔法とかで気を逸らすとでも思っているのかな。


 突き刺された槍を掴んで肩の痛みを無視しながら体を捻ってエルドを空中へと飛ばした。槍を引き抜いてエルドの少し横を通過するように投げつけた。それで怖がられるのならそれまでだし……ってか、余計に信者への道を進みそうだけど。


 弧を描きながら槍が地面へと突き刺さる。

 意図していなかったけど近くにキャロがいたようで地面に膝をつけていた。これに関しては本当に奇跡でしかない。単純に投げたら何か威圧感のある行動になってしまったみたいな。


「僕には効かない」


 強そうな一言だけ呟いた。

 効かないとまではいかないけど十分にダメージとしては大きい。だから嘘だ。だけど致死的なところまではいかないから嘯く分には大きくない。それはステータスのせいでしかないからね。


「……さすがに無理ですね」


 エルドが手を挙げたので負けを認めたってとっていいと思う。まぁ、キャロも追撃したそうだけどさっきの槍や結界を考慮したら出来ないよね。よく考えて動いていると思うよ。シロの失敗を活かしている。


「僕の勝ちでいいのかな?」


 エルドは槍を引き抜いて首を縦に振った。

 模擬戦にしては本気を出して、言葉通り出し惜しみなく戦っている。普通の模擬戦なら傷を負うような攻撃は躱していたし逆も同様だ。まぁ、相手が僕の化け物じみた戦い方を見ても評価が下がらない人達だからこそ出来たわけだけど。キャロへの攻撃はまぐれだったけどね。そもそも本物の武器で模擬戦をすること自体が普通じゃないし。


「何か掴めそうな気がしました」


 ボソッと呟いたエルドの言葉に頭の中で肯定しておく。確かにエルドは戦いの中で何かを得ていた。二度目の攻撃は失敗を活かした戦い方をしていたし、何より攻撃のやり方に違いがある。僕の肩を貫けるだけの威力があれば十分だ。


「もしその何かを掴めたら新しい武器を作ってあげるよ。しっかりとした今よりも高水準の武器をね」

「……頑張ります!」


 エルドにそう言うと子供のように手をグッと握り笑顔を浮かべた。エルドだって強くなりたいと思う人なんだ。そのために努力をしている。さっきのエルドとの会話だってそうだろう。肉体的に強くなることだけがエルドの目的ではない。


 今までは作る作る詐欺で作っていなかったし、そろそろいい頃合だと思う。ランクも高くなっている今なら武器屋で買える武器では物足りなさも感じられるだろうしね。


「キャロも頑張るの!」

「キャロは呪魔法を抜きにした戦い方を上手く扱えればより強くなれるよ。エルドもキャロも伸び盛り、程々に、それでいて気を抜かないように頑張りな」


 そうすればきっと……僕は外で働く必要なんてなくなりそうだな。家に入ればいいだけの生活なんて良くはないけど、ただ皆といられる生活ならそれはそれでいい気がする。僕が二人と会ったのは偶然だったんだから、その偶然が二人にとって後悔に変わるものにならないようにしないと。


 それまでは僕も働き続けないとなー。

 二人だけじゃなくて皆といるために強くならないといけない。そのために仲間の誰かに負けるような僕じゃダメだ。昔の僕のようにすぐに折れてしまう存在ではダメだ。簡単に折れる自分なら仲間を奪おうとする人に対処が出来ない。


 シロの結界を解除して抱きとめた。

 シロならこうするだろうという読みが普通に当たって笑ってしまう。怒られるかもしれないのに真っ直ぐに僕に飛び掛かる、もとい抱きしめに来るのはさすがにシロだけだろう。


 若干、肩の傷が痛んだけど治りかけだ。開くわけでもなく抱きつかれて数秒後に治る。それが何となく悲しくて虚しい。日本にいた頃の自分らしさが無くなっていくような気がして、それでいて成長という二文字が自分にも迫っていることがわかってしまう分だけ、嬉しさ半分悲しさ半分の気持ちが覆ってくる。


「……シロも強くなりなよ?」

「シロはシロ……自分なりに頑張るつもりだけど二人に負ける気は無い」


 シロの鼻からフンスと大きな音が出る。それに負けないくらいの決意表明。シロは強いな。それを言えば僕の仲間達がか。僕のように曖昧な気持ちで強くなるなんて言っていないんだから。


 自分の気持ちに嫌気がさしながらシロを再度、抱きしめて黒百合をしまう。「大丈夫ですか」、帰り際のイフのそんな小さな一言がとてもありがたい。単純に自分が必要だと思われていることが嬉しい。メンヘラになったのかもしれないな。


 ホテルで出迎えてきた仲間達の顔を見て思考をやめた。必要な思考と不必要な思考がある。きっと今は後者だ。そのうち改善されていくものだと思っている。だってさ、ラノベの主人公達はこんな事で悩んでいたのかもしれないし。それならテンプレが動かないわけが無いもんね?


 ……それは少しだけ楽観しすぎかな。テンプレがいいことだけを運んできたわけではないのだから。

少し模擬戦の意図としての書き方が「ちょっと違うな」と自分の中で思いましたが、これでイベントの二つを消費しました。全てのイベントを書き切るのにいつまでかかるのか……ちょっとだけ戦慄しています。黒百合の詳しい説明は他の話の時に書く予定です。その時は詳細不明ということで……。


次回は来週の水曜日辺りを予定しています。

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