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4章31話 模擬戦の前に、です

前話内で柄や持ち手の部分についての説明が抜けていました。本当に申し訳ございませんでした。

「作業は終えたのですか?」

「はは、なんとかね」


 部屋の外へ出て玄関近くを掃除していたエルドに話しかけられた。その表情はいつもと変わらず柔らかくパトロにいた時の顔を連想させない。少し疲れていたけど心が軽くなった気がする。


「……やっぱり埃は多かったの?」

「当然ですね。さすがに空けた期間が長すぎましたから。ですが、シロ様もいるのでかなり早く進んでいますよ」

「別に終わらないなら終わらないでいいよ。遊びに来る客もいないしね。仕事を終えてからでもいいし、何なら」

「いえ、お気遣いは嬉しいのですが私も子供じゃありません。ギド様が気を使ってくれているのも分かります。ですが……私も頑張らなければ前に進めないんです」

「……そっか」


 僕の考えは勘づいていたってことね。

 見た感じでは嫌がっているわけではなさそうだけど……果たして、どこまでがエルドの本音なのか分からないし。下手なことをしてエルドを手放したくもないしなぁ。だからと言ってエルドが傷付くのを見過ごすようなものだし……。


 いや、過保護過ぎるか。街でのエルドを見てからでも遅くはない。もしかしたらエルドの傷もそこまで深くはない可能性もある。それこそパトロで絶対に嫌なことが起こるかと言われれば首を傾げるだろうし。テンプレが働くのだって僕に対してが多いしね。


「ごめん、嫌なら嫌って言ってね」

「安心してください。嫌なら嫌と言っています」


 青年の顔をクシャリとさせて笑顔を見せる。

 つまりは不満などないとそう言いたいのだろう。本当に綺麗な顔だな。この顔を酷く歪めさせることがもしあるとすれば原因は僕でありたくない。瞳の奥に僕を崇拝する心があっても、それを少しずつ消していけばいいだけなのだから、いつかはエルドと友人に近い関係になりたいものだ。執事と主は表向きでいいから……。


 それがエルドを救った時に僕が望んだことだ。今更、変えようなんて思わない。銀髪を軽く撫でながら頭を撫でると嬉しげに目を細める。女性と言われても疑わないかもしれない。僕にそういう趣味はないから関係がないんだけどね。


 僕の言いたいことが分かったのか、イフは空間の中に戻ったみたいだけど。まぁ、いいか。


「掃除、手伝うよ」

「いえ、それは」

「嫌なら嫌って言う。それは僕にも適用されるよね?」


 悪戯じみた笑顔を浮かべたつもりだ。

 近くに鏡とかはないから僕の顔は分からないけど変な顔はしていないはず。いや、作り笑いでもないしね。エルドが悩んだ表情を浮かべるのはそういう顔ではなかったって言っているようなものだし。


「主である前にエルドの仲間だろ。仲間に気を遣う必要は無いよ。実際、掃除は昔していたしね。足でまといにならないと思う」

「……武器作成でお疲れかと思ったのですが……」

「疲れていると言えばそうだけど、どちらかというと早く戦いたいんだよね。理由を述べるのなら早く帰ってロイスを心配させないってこともあるし」

「それは重要ですね。それならば早く終わらせて模擬戦をしましょう」


 うん、知っていた。ロイスの名前を出せばエルドの表情が僕の自慢をする時のミッチェル並におかしくなるのを。エルドは僕の信者でもあるしロイスを溺愛している。ブラコンって言えばいいのかな。それこそ滅茶苦茶に表情がスっとなくなる。


 まぁ、僕がやる気を見せなければ例えロイスの名前を出したとしても、それこそ一人ででもやっていただろうね。仕事を忠実にこなしながら弟のようなロイスを溺愛するエルド。良い関係だと思う。


 それなら僕はエルドの兄かな?

 イフ経由でやることリストを見ながら、薄めたアルコールに付けた雑巾を取り出す。そのまま手摺りを雑巾で拭きながらエルドに話しかけた。


「お兄ちゃんって呼んでもいいよ」

「神様のようなギド様の発言だとしても私の口からすれば恐れ多すぎて出来ません。確かにギド様は兄のように優しく私自身も慕っておりますが、それ以前に命を救っていただいた神様です。兄のように思っていても口にすることは出来ません。呼んで欲しいとしても私は」

「いや、ごめん。そこまで悩ませるつもりはなかったんだ」

「いえ……気を遣わせて申し訳ないです」

「つかってないよ」


 アニメとかでよく見る親分を怒らせた子分の指を詰めると言いそうな顔。初めて見たけど勢いや表情から嫌な気がしたので即座に怒っていないことを教えた。エルドに指を詰められたとしても何も嬉しくないよ。というか、何故に指を詰めるということが誠意を示すのかもよく分からないし。


「まぁ、そこまで慕ってくれているのは嬉しいよ。ただ程々にね」

「ええ、さすがに体を売れ以下のことしか私には出来ませんから」

「いや、それをされても僕が嬉しくないからしないかな」


 体を売れって……どこの腐った人だ。

 それに僕自体が日本にいた時に言われたことがあるし言うわけがない。体を売るくらいなら無理をしない程度で稼いでいこうって考えになるし。それにエルドは執事として貸し出しとかをしたとしても望む人が多いでしょ。みすみす手放す気は無いね。


「エルドを手放しはしない。エルドが嫌というまでは僕の面倒を見てもらうつもりだからね」

「……出来ることならギド様のお子様をこの手に抱きたいですね。子供をあやすということをしたことがないですが」

「悲しいことを言わないでね。別にさせないなんて言うわけないでしょ」

「素人なので泣かれてしまいそうですが」


 それは僕も同じのような気がするけど。

 そういう経験自体は体験しなかったしなぁ。大体、親戚絡みでもそういうことはハブられていたし。それにわざわざ僕から絡みに行くことも無いしね。親戚の子供になめられた時はさすがに言い返したけど。僕にだって人権の二文字はあるし。


「まぁ、まだまだ先の話だよ」

「それまでは見限られないように頑張らせて頂きます」

「じゃあ、僕も同じことを言っておく。エルドやキャロ、もちろん、仲間達に見捨てられないような存在で、自慢出来るような存在でいるように努力するよ」


 頭を軽く掻きながらエルドの言葉を返した。何も見捨てられるのは部下だけじゃない。傲慢になっている上司なら誰もいらないだろう。仕事を押し付けるだけだったり自分の役割を担わない、人徳のない人は見限られるだけ。僕はそれを近くで見ていた。


 果たして強いだけの人を尊敬出来るだろうか。仕事が出来るだけで尊敬出来るだろうか。僕は出来ないね。だから僕が尊敬出来るような人でありたいと思っている。それでもダメなら多分、何をやっても僕には無理だ。


「それは」

「ないんでしょ? それなら僕もないよ」

「ですが、先のことなど」

「分からないなら話すだけ無駄だよね。それなら僕の言葉を否定しないで欲しい。エルドは僕にとって大切な仲間、それだけで今はいいでしょ?」


 恥ずかしげに俯く。

 そのせいで僕も自分が恥ずかしいことを言ったって自覚してしまうんだよね。酷くないかな。僕だって考えて言ったのに無垢な少女のような反応を見せるんだから。これはモテるわ……。エルド……恐ろしい子……!


 その後はあまり長引かずに掃除を終えた。僕が来た時には半分くらいは終わっていたようで他の作業に回ったので、お茶だけ入れて飲みやすいように冷やしておく。味だけで言えば麦茶に近いからね。熱いよりは冷たい方が良い。


「終わったー!」

「はいはいっと」


 新しい剣を弄っている時にシロが来た。

 予想通り僕に向かって飛んできたので空間魔法で剣をしまってから踏ん張って抱きとめる。これに関してはかなり慣れた。誰かさんと誰かさんがよくやるからね。人前でやらないだけで飛んできたりとか、気分で飛んできたりとか、話の流れで飛んで、甘えてくる人もいるし。


「ごめんなさい……時間がかかったの」

「なんも、全然、早かったと思うよ」

「だそうだ。それならキャロは気にしなくていいってことだよ」


 どの口がそれを言うか。

 うーんと口をひしゃげさせたけど誰も気づいてくれない。それを言う美青年は掃除の最中に自分が捨てられないか、すごくネガティブだったというのに。まぁ、僕は気にしないけど。


「ほら! こっち来て!」

「ひゃうっ!」


 シロは椅子に座る僕の膝の上、その横は当然のごとく空いている。座るセイラやミッチェルはいなしね。今のメンバーでいるとすればそう……。


「私くらいですね」

「そうだね」


 気を抜いた間に僕の隣を取ったのはイフだった。それは想定の範囲内だ。逆に今しか体を具現化させるために動かないだろうと考えていたし。それに今ので僕の中にいても空間魔法とかは使えるのが分かったしね。強化魔法とかの応用かもしれない。それでも僕に気が付かせないで魔力を動かすのはさすがすぎる。


「空いているしお茶でも飲みなよ」

「飲むー!」

「ありがたき幸せ」

「飲むのー! 喉が渇いたのー!」


 僕の前の席にエルドが座る。

 隣で冷たくて美味しいと言う二人はもちろんのこと可愛いし、すごく幸せそうなのを隠そうとするエルドもまた可愛い。執事としてポーカーフェイスを装いたいだろうに未習得な感じが何とも言えない。


「あら? 私の分が……」

「ほれ」

「……温かいのですが……あ、なるほど」


 イフの分は普通に作っていなかったので目の前で入れてあげた。熱めだったけど目の前で冷やしてあげたらイフも納得したみたいだった。そのまま数分間、雑談をしながらお茶を飲んでから庭へと出る。


 先に僕とイフだけ出た。

 まだ飲んでいるようだし急かすつもりもないしね。人それぞれで個性があるように休む時間も人それぞれだ。というのは建前で僕が休むように言っただけなんだけどね。単純に仕事があるからだし。箱庭を作るって言うね。僕のオリジナル魔法だ。


 出来て数分後、三人は来た。

 エルドはどこかバツが悪そうだったけど僕の指示でも後に来たのは許せなかったみたい。後で気にしないでいいってフォローしておこう。それで治るのなら苦労はしなさそうだけど。


「さて……戦うか」

「……初めてかもしれませんね。ある程度、力を出したギド様と戦うのは……」

「まぁ、あの時は僕に勝てるわけもない強さだったしね。裏を返せばものすごく成長したってことだよ。ミッチェルやロイスではなくエルドとキャロを選んだんだから」


 もちろん、強さだけで二人を選んだわけじゃないけど割と自由に遊撃するシロと連携をしながら戦える存在。それと戦いの中で一緒に戦わない人と合わせられるほどの適応力。僕がやっていいのか分からないけど……測らせてもらおう。好みじゃないけどね。


「イフは三人と一緒に戦って。くれぐれもイフは攻めてこないように」

「はい、さすがに四人相手では勝てないということですね」


 それは本当のことだから否定しない。

 イフとシロだけでギリギリだと思うのにエルドとキャロもいたら手が足りないしね。この三人であっても同様だ。エルドとキャロならサポートさえあればイフと同等の力を出せるだろう。


「僕の黒百合に勝てるかな」


 勝手に口から笑みがこぼれる。

 ワイバーンの革がしっくりと手に馴染む。そしてこの見た目。百合の要素なんて無さそうなほどに漆黒に近い。厨二病が好みそうなほどの大きな大剣だ。そう僕のような厨二病がね! だけど! その名前に見合うだけの力がこの武器にはある!


「箱庭に飛ばします!」

「さぁ! やろうか!」


 僕とイフの想像した森の中。

 そこに、箱庭の中に僕達は飛ばされた。

これはギリギリ……模擬戦の話に入れたと言っていいのでしょうか……? いえ、言えませんね。本当に長引かせて申し訳ありませんでした。また前書きにも書いたのですが前話内で柄や持ち手の部分についての説明がなかったので付け足しました。少しなのであまり見なくても大丈夫だと思います。


次回は金曜日か土曜日に出そうと考えています。

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