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4章30話 武器作成です

 まずもってドレイン自体がいくつもの鉱石から作られた一つの素材だ。一言で表すのならば今までの鉱石を混ぜ合わせるだけの、本当のプロからすれば片手間で出来る鍛治だと思うし。まぁ、それでも普通の鍛冶師よりは秀でている自信はあるよ。何かを作ることにおいてプライドが無い道具を仲間に渡せないしね。売るにしても買い手がまた欲しいと思える質にしなければ信用なんて得られない。


 と、それは置いておいてもドレイン自体が僕が本気で作ろうとしてギリギリの名剣だった。一番の特徴は吸血鬼専用とは言え血液に関する効力を剣自体が保有していたことだ。それを作るために必要な鉱石は王国や魔法国ではもちろんのこと手に入るわけのない一級品の素材……少しだけ鉱石のままで手に入れたい気持ちもあるかな。


 それだけの素材を使って作られた武器であってもSランクの魔物がギリギリだったのか。いや、僕のスキル効果も相まってより良い武器になるとは思うけど。僕にはチートである加護もあることだしね。自分を一番に信用しなければ。


 普通の武器なら二本の糸が絡まりあっている感じだけど、ドレインだけで七本くらいは絡み合っていて、そこに他の鉱石も混ぜるんだから難易度的にはこれが出来れば立派な店を出せそうな気がするよ。割るのは魔力のゴリ押しで簡単でも混ぜるのはレベルが違いすぎる。


 先にやらなければいけないこと。それは中心に入れる芯だ。これは魔力循環が良いようにミスリルと銀を混ぜ合わせる。これは鍛治のスキルさえあれば僕でも作れる。鍛治で分解を一度行ってから二種を合成させる。単一の素材を合わせるだけだから難しさはない。それを……棒状にさせておけば……。


 汗を拭う。思ったよりも消費量は少なかった。


「……手を借りるよ」


 返事はない。イフも集中しているってことだ。

 僕もそれに応じた行動をしなければ……。


 カブトの外皮を取り出して魔力を注ぎ込む。ヒビが入る気配すらない。ドレインの欠片であっても粉々に出来るほどの魔力量だぞ……。これだけで僕達が戦った魔物の強大さを理解出来る。よくドレインであそこまでの攻撃を出来たと思うよ。


 まだ内部に注ぐ。手で攻撃したとしても傷がつく程度で終わってしまうだろう。外からの攻撃を弾き返すほどの能力がカブトだけである。これをもし素材として活用出来ればドレインレベルではない武器に……いや、それだけで終わらせるつもりもない。


「……後、どれくらい……?」

【後……二千ほどです……】

「おっけー……」


 冷や汗が流れ続ける。もしかしたらシロを出しておいたのは成功だったかもしれない。もしシロを一緒にしていたのならば心配をしてしまうだろう。消費量が尋常じゃ無さすぎる。


 イフの言った規定量、注ぎ込むことによってカブトの外皮にヒビが入った。ここまでくれば十分だね。ヒビさえ入れば後は砕くだけ……小さな箱庭の中に手を突っ込んでカブトに魔力を注ぎ続ける。これで変形させられるのは短い時間だけだ。良い素材ほど素材が注がれた魔力を食らっていく。良ければ良いほど速度もかなり早い。


 小指の爪サイズの欠片が出来上がった瞬間に取り出してドレインの中へと入れた。カブトの外皮を熱で溶かすのは無理だ。魔眼の鑑定で分かる事だけど素材として大体の攻撃の抵抗があるから溶かせない。つまり混ぜ込む時には特別なやり方でこれらを混ぜなければいけないってことだ。これは想定していた。


「カース……鍛治……」


 両者を柔らかくする……僕だからこそ出来るやり方。あれだけの大きさならば呪魔法を染み込ませるのは不可能に近い。でも、このサイズの物ならば話は別だ。耐性であって無効化出来るわけではないからね。それでも……汗が止まらない。魔力回復ポーションを飲み込む。時間が経つごとに一定値の回復をするものだ。今のうちに飲んでおいた方が効果を無駄にしない。


 大丈夫……柔らかくなった。これでスキルの鍛治を使って混ぜる。まだ固まってはダメだ。最後の素材である銀の粉を混ぜて……これが最後だ。正念場を見せろ……僕だけでやるのではなくイフもいるのだから……。


「分……か、い……!」


 合成前に一つの素材としてドレインとカブトの混合物を、物から魔力の集合体に近いものへと変えた。素材を合成させるのならば一番に楽なやり方としてイフから教えられたけど……分解をさせた右手が動かない……。冷や汗どころじゃないな。嫌な汗という一言で表したくないほどに体がダル過ぎる……。


「これでも……食べてろ」


 舌を噛んで血を銀の元へと垂らす。

 綺麗な鉄の輝きを自分の血が汚していく様は何とも言えない背徳感を感じられた。銀に混ぜたのはそんな背徳感を感じるためでは無いんだけどな。単純にドレインの好物である血を入れれば合成が楽かと思ったんだけど……。


 最後だ……。


「合成……!」

【……気絶する準備をしておいて下さい!】


 最後の最後までネタかよ、と思いながら合成された真っ黒に染まった素材を芯に付けた。まだ呪が残っている今だけだ。スキルの効果を受けやすいのは。鍛治の力も耐性として弾かれてしまう可能性もあるし。


「……何とか……意識は保てている……よ」

「お疲れ様です。ご褒美でも欲しいですか?」

「……いや、本当に最後の仕上げだけ」


 これで本当のラストだ。

 一本の規定値の魔力回復ポーションを飲み込んで空間魔法からワイバーンの革を取りだした。鞣したりしなければいけないんだけど……それはイフがやってくれていました。夜とかは暇らしくてやってくれていたらしい。ついさっき教えられたことだ。


 頭の中に日本の牙が大剣の横の部分、つまり縦に長い部分の端に来るようなイメージで。そして上の方と決めた場所に目の形を作った。イメージは三白眼のように鋭い感じだ。それを柄としてつけた。芯の部分を長めに作ったので持ち手には銀を付ける。それを錬金術で全てをくっ付けた。これのせいで僕の魔力は本当に底を尽きた。案外、楽かと思うかもしれないけど僕の魔力が底をつくほど、くっ付ける作業がヤバいって言うだけだ。ある程度、心得があるのなら僕の魔力ぐらいあるのなら出来ると思う。要は作業は簡単でも必要な前提が厳しすぎるだけの話だ。


 何とかまだ効果の続く一定値で回復する魔力回復ポーションのおかげで気は飛んでいない。持ち手にワイバーンの革を巻いてため息をつく。少し振ってみたけど折れる気配はなさそうだ。


 作り終えた。刃も整えたから切れ味も悪くは無いはずだ。ただここまでいけばカブトの外皮で研ぐとかで切れ味を上げる方法はいくらでもあるからね。ゆっくりと背中をベッドにくっ付けた。


 これ見よがしに無理やり体を出して微笑んでいるイフ……見方によっては天使に見えなくもないかな。考えていなければ痛みでおかしくなってしまいそうだ。針でつくとか比喩で使われるけどそれで済むのなら……主に負荷をかけすぎたであろう右手の内側が何度も爆発している感じ……。寄りかからなければ体を支えるのも無理だし。


「……さすがに辛そうですね」

「……まぁ、無理をしたからね」

「その分だけ良いものが出来たじゃありませんか。マスターが望んでいた通りの武器が出来上がりましたよ」


 話しながらゆっくりと僕の右手をイフが触れる。

 軽く触れただけ、軽く持っているだけ。それだけで右手を切り離したくなるほどの痛みが駆け抜ける。右手から脳へと向かい再度、右手に戻る。痛みを脳が理解しているんじゃない。僕の右手自体が理解しているみたいだ。言っていることが分からないだろうけどネタではなく本気で言葉通りに感じてしまうんだ。


「……苦痛に顔を歪めているマスターも好きですが……やはり笑顔の方が好きですね」

「……一つ質問……これって時間経過で治るの?」


 僕の質問に速攻で首肯で返される。


「マスターの痛みは血液を流れる魔力が規定値を超えたためです。血管を通る血液の量が増えすぎれば血管にダメージがいくように、血液と血管の両方が魔力の流れ過ぎで壊れかけているんです。ただマスターの場合は吸血鬼ですからね」

「……普通じゃないから治る、と」


 再度、首肯。

 よかった……のかな? 僕としては人であることが僕としてのアイデンティティ、いや、僕の脳が自分を人と変わりない存在だと思いたがっているしね。嬉しいような悲しいような……ううん、今回は喜ぶべきことか……。


「右手が壊死していれば子供を抱くことも出来ませんもんね」

「……恥ずかしいことを考えている時だけ心を読むのはやめてくれ……」


 普通に恥ずかしいな。でも、こういう考え方が出来るようになったのは仲間が僕を吸血鬼だとしても信じてくれるからだ。もしも真の仲間が手に入っていなければ僕はこんな力なんて要らなかったね。その分だけ普通であることを望んでいたと思うし。


「って! ちょ!?」

「少しだけ静かにしてください」


 そうは言われても……女性にお姫様抱っこされるのは心に来るものがある。キツい……普通は逆の立場のはずなのに……。いや、ベッドの上に下ろしてくれているところから優しさからなんだろうけど。僕って軽いのかな……?


「……どうですか?」

「……少しだけ楽かも」


 僕の右手を触ってイフが聞く。

 楽……なのかな。少し微妙なところだけど触れられたのに痛みは感じない。だから楽にしてくれていると言えば間違いはないのかもしれない。


「なにかしたの?」

「愛を注ぎました」

「マジか……」


 愛って偉大なんだな……って、ネタだろうから本気にはしないけどね。まぁ……嫌な気はしない。愛というか回復魔法のオリジナルみたいなものかな。僕に対して回復魔法はあまり効果が薄いし。


「……触れてみて分かったのですが後もう少しで治ると思います。時間にして数分ですかね。吸血鬼だとしても回復の早さは以上です」

「……加護のおかげなのかな」

「そうだと思います。後はマスターの特異性からでしょうか」

「それはどうでもいいよ」


 幸せになれればそれでいいからね。

 チラリと時計を見る。作成時間は一時間半ほどかな。イフの話からして成功しているらしいし時間的に早く出来上がった……よね。魔力操作をイフに任せただけはあるなぁ。僕なんかとは比べ物にならないほどのやりやすさだったし、時間の長さを感じなかったのは少なくとも辛いだけの感情が僕を襲っていたわけではなかったってことだしね。


「……あっ、ポーション作らないと」

「ですが、今の体では作れませんよ。それに後で模擬戦をするはずです」


 何も言い返せなかった。イフは僕の考えを理解しているからこそ、こんなことを言っているんだろうしね。僕が品物を卸すとすれば僕が作ったものにしたい。それは僕の作った質を望んでいる人がいるからね。例えイフであろうとそれを自分のものとして卸す気はないかな。


「……ごめん、さすがにワガママが過ぎた」

「いえ、私だけではなく皆がマスターを心配しているんですよ。それを思い出してくれればそれだけでいいです」


 うん、頭が上がらない。

 ……物理的にも精神的にも。言ってももう治りかけている。後、少しだけ……我慢することにしよう。模擬戦の準備もしないと。イフの言う通り僕の望む性能かどうか確認したいしね。ポーションは……今度でいいや。

すいません、模擬戦も挟みたかったのですが文字数が多かったのでここで区切りました。次回は火曜、水曜日ら辺に投稿出来ればと考えています。

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