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4章29話 埃臭さと懐かしさです

総合PVが400,000を超えました!

読んでくださる方、応援してくださる方々のおかげです! 本当にありがとうございます!


※少しだけ下ネタがあります。苦手な方は次の話に飛んでも大丈夫です。

「確かに……埃が溜まっていますね」

「腕がなるの!」


 さすがは執事やメイドとしての知識を注ぎ込まれた二人だ。家の中に飛んですぐに目がキラリと輝いたんだけど……。そんな場所とか誰も見ないって……。誰が最初にチラッと見ただけで保冷庫の隅の埃を見るの……。


 僕が最初に見つけたのは自室の埃からだったしね。それを見せてから頼もうかなって思っていたんだけど。僕の作業室は僕がいない時に掃除をしてもらうようにエルドに言ってあったし普段なら綺麗なんだよね。たださすがに埃がたまる部分が多いから目に見えて掃除を頼みやすかったんだけど……。


 あー、でも、僕の作業室の掃除を頼んだら僕が作業を出来なくなるか。本末転倒だし今度にしておこう。自分で軽く掃除をするくらいなら楽勝だしね。自分でたいていのことを覚えたと自負しているし、まぁ、そのことで他人から一人暮らしの時に楽だよねって言われていたのは伊達じゃない。


「シロは……」

「掃除を手伝えばいい?」

「出来るのなら。まぁ、最初だけなら見ていてもいいけどね」


 僕の一言は言い方を悪く言えばいても「いなくてもどちらでもいいよ。ただし最後だけは席を外してね」っていう自分勝手なものだ。そりゃあ、悩むだろうね。人によってはこれだけで気分が悪くなるかもしれないし。


「……それならやめておく」

「いいの……?」

「良い武器を作るため。……今だけは我慢する」

「そう……ごめんね」


 シロにしては珍しい。そう思ったけどさすがに言えるわけもない。そこまで女心が分からないような鈍感系主人公じゃないし。ってか、僕が主人公だとも思っていない。誰でも自分という人生の主人公だ、みたいなカッコつけたことを言う人がいるけど実際は誰かを立てるための人生と、主人公をまっとうする人生の二極化にしかならない。僕は後者になれる気もしないし。


 まぁ、勝ち組か負け組かと言われれば今の僕は完全なる勝ち組だとは思うけど。誰かを立てるという人生も悪くは無いかもしれないかな。それは立てたいと思える人が上に立っているのならね。少なくとも僕はセトさん相手ならば良いと思えているし。そのセトさんも主人公と呼べる人では無いかもしれないけど。それは自分よりも上の立場にいる人がいれば仕方の無いことだ。


 ただし僕は認めた人以外を立てたいと思ってはいない。そのために強くならないといけないしね。武器を作ることだって、ギルドマスター達を戦う約束をしたのだって自分の力を試したり、もしくは自分を庇ってくれる相手を、信用出来る人を増やすためだ。何も動かずに主人公になれないことを悲観するのは馬鹿げている。


「悪いけどエルドとキャロにシロを任せるよ。動きが早い分だけ足でまといにはならないと思う」

「シロ様が足でまといだと言うのならほとんどの人が何も出来ないですよ」

「エルドはいいことを言ってくれる! 本当に嬉しい!」


 頬をかくばかりだ。普通はこうはならないらしいしね。少なくとも主の妹分に当たる人だから執事からすれば目の上のたんこぶになる時もあるらしい。例えば誘拐や丸め込んでとかね。そういうことをしないだけでも、というか、仕事の手間になるかもしれないのに否定をせずに受け入れること自体がエルドの優しさ、もとい仲間間の友情を伺える。


「キャロも大丈夫かな?」

「大丈夫なの! シロ様は面白いから一緒にいて楽しいの!」

「それは言えているかもね」


 一緒にいて飽きないっていうのは確かだ。

 キャロも本心からなんだと思う。だってさ、掃除のことを言ったのに他の話題で納得させようとしてくるんだよ。何か自分なりの得になることを提示したわけだし嘘はついていないと思う。嘘をつくのなら適当なことを言えばいいしね。


 それだから二人を助けてよかったと思えるし。家の乗っ取りとか考えられないんだろうな。逆にそういう系統を潰しにかかる存在だ。……忘れがちだけど二人は信者であることには変わりないしね。時々、発言や行動で小さな信者らしさを発見してしまうし……。


 そのまま二人に任せてイフを連れて部屋へと戻った。小さく襲うんですかとか聞いてきたけど無視しよう。そういうつもりならもっと他にもやり方があるだろうに。それに童貞の僕がどうやって襲えばいいかも分かるわけがない。襲って何の意味があるのだか……。


「やはりここも少し汚いですね」

「仕方ないよ。瓶とかがいくつもあるから埃は溜まりやすいし」

「はぁ……エアー」

「うん、助かる」


 部屋に入ってすぐに埃臭さを感じたのか、イフが風魔法で埃を一部分に集めてくれた。そのまま消したので倉庫の中とかにしまったのかもしれない。……案の定、埃という欄があったのでそこにしまったんだと思う。


「初めてを汚い場所でするなんてマスターは……」

「ごめんね、後、そういうつもりじゃないって知っていてからかっているよね?」

「知っていますよ。肉体を持ってから初めての二人での共同作業という意味です」

「あー、ごめん。普通に勘違いしていた」

「勘違いさせるつもりでいいましたから」


 ドヤ顔……いや、いいんだけどさ……。

 その顔でそれをされるとやっぱり不思議な気分になるな。見慣れていないっていうのが一番なのかもしれないけど、どこかぎこちなさを感じてしまう。まだ表情筋が上手く扱えていないからとかかな。……もしくは上手く扱える時と扱えていない時があるみたいな感じか。


「いつかはしてくれることを信じていますよ」

「そのうちね。さすがに今はまだ無理かな」


 頭を搔く、何というか面倒っていうわけじゃないけどイマイチ必要性を感じないというか。元の世界でここまで草食だったかって言うくらいにそういう気分にならない。いや、なる時はなるんだけどその度に自分で済ませられるのなら済ませば良くないってなってしまうんだよね……。


 この年で枯れているなんて嫌なんだけど……。


「そういう割には丸まった紙が……」

「いや、分かっているよね? あれは普通に鼻をかんだ後の紙だ」


 引っ掛けようとしたってそうはいかない。

 そういう紙はいつもトイレに流しているから証拠隠滅もしっかりしているのだよ。この部屋とか皆が行き来している部屋にそういうのを残すほどの愚かな真似はしていないさ。……多分だけどね。若干、そういうのを知らないうちに盗んでいそうな人がいるから安心は出来ないけど。


 イフに対してそう返すと口を尖らせて「ぶー」と嫌そうな顔をした。こういう時は嘘でもそうだねって肯定した方が良かったかも……って、そうなったら皆に変な事を言われただろうからこれで間違いはないか。


「あの……見つめられたら……」

「あっ……ごめん」

「……もう、マスターは謝ってばかりですね」


 イフの表情が綺麗な笑顔へと変わる。

 うん、僕の好みとかから作られたってだけあってめちゃくちゃに可愛いと思う。先のこととかを考えないのなら襲うって人も本当に少なくなさそうだ。だからこそ、いつの日か僕を見限るんじゃないかって恐怖も薄らと心のどこかで蠢いているんだけど。


「……作業を始めますか」

「そうだね……遅くなったらロイスに寂しい思いをさせてしまう……」

「本当に身内に甘いですね」


 身内に甘い……裏を返せば身内以外には甘くはないってことだ。いつから身内だけを気にするようになったんだろう。身内といっても血縁関係があれば身内なのか。イフの言葉は明らかにそういう意味ではないんだろうし。


「……僕を認めてくれる人達だしね。それに僕が頑張れる理由を皆が持っているから」

「そんな本心を聞きたかったわけではないですよ。マスターは気にしすぎです」

「うん、そうだと思う」


 言う必要性もなかったんだろうけど少なくとも僕がこの世界に来て路頭に迷わなかったのは、すぐに家であった洞窟から出なかったのはイフがいたからだ。一人だったなら、話し相手がいなかったのなら僕の精神は壊れていたかもしれない。それだけ僕の精神って脆いからね。自覚している。


「って、また脱線しかけた」

「ふふ、ほら、早くやりますよ」


 イフの目から彩色が消えていく。

 ベットの上に寝転ぶ姿はまるで毒林檎を食べた白雪姫のようだ。そっと目元を手でなぞって閉じさせる。いきなり声が聞こえなくなり小さく聞こえるだけの三人の掃除をする音、そして自分だけの呼吸音。これから僕だけの呼吸音になっていたのなら……。


 そう考えるとやはり最初にイフやゾンビウルフだった三人、そしてミッチェル……皆を仲間にしたのはミスではない。誰であれ心に闇を抱えていても、だからこそ、他の人達の傷を真の意味で理解してくれている。呼吸音一つがそれを教えてくれている気がするのは……さすがに僕の考えすぎだったか……。


 砕けたドレインをテーブルの上に出し大きく深呼吸をした。感慨深さに浸るのは、自分のしてきたことを肯定するのは後だ。仲間の大切さを感じたのなら守るための武器が必要、そして仲間の心を開くための覚悟も僕には必要だ。


「……やるよ、イフ」

【ええ、サポートはお任せ下さい】


 左目の視界の端、遠慮げに笑顔が見えた。

 それだけで僕の頬が緩む。懐かしさが僕の背中を押してくれる。僕だからこその武器を……守るための武器を作るんだ。ようやく決めた。一番に作りたかった武器じゃなく本心に合った武器を作ることにしよう。


 まずは砕けたドレインをさらに粉になるまで砕いた。これは割とすんなり言った。こういう時の砕き方は内部に魔力を注ぐ感じでいい。ドレインでも何でも外側が固くても内部からの攻撃には割と弱い傾向がある。例えば風船に許容量以上の空気を入れれば割れるように……ドレインも割れて粉々に砕けてしまう。こっちの方が消費量は少ないし空気中に漂う魔力を戻せるから回復も早い。


 そのための密室だしね。


「これってある?」

【量からして少なめですが他の素材で代用すれば出来なくはないです】

「代用……」

【例えばこれをこちらになどですね。今、使おうとしている素材だと魔力が持つか】

「いや、手抜きはしない。頑張れば出来るのならイエスで、無理そうならノーで答えて」

【イエスですよ。私がついていますから】


 胸が小さく跳ねた。

 これ以上の頼もしい言葉はない。


「……助かるよ」

【お互い様です】


 僕は使用する素材を並べた。

 もう一度、大きな深呼吸をして大切な仲間達の顔を思い浮かべて、吸い込んだ息を吐き切る。魔力回復ポーションも出した。さて、ここからが本番だ。イフにだけ分かるように心からの笑顔を浮かべて道具に手をかけた。

すいません、書いているうちに長くなってしまったので微妙なところで区切らせて頂きました。次回が本当に武器を製作する会にします。また模擬戦も書くつもりです。どんな武器になるのか、そして模擬戦はどのようになるのか。楽しみにしてもらえると嬉しいです!


次回は金曜、土曜日辺りに投稿しようと思います。興味があればお読みください。

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