4章28話 好待遇です
27話の書き足しを終えました。
興味があれば再度、読んでもらえると嬉しいです。
「エルド」
「はい、何か御用ですか?」
食後、部屋に戻る道中でエルドに話しかけた。
ロイスはエミさんに模擬戦を頼まれて途中で抜けている。僕が話しかけるとまだ人前という感じで接しているのか、どこか遠慮じみた執事としての話し方をしている。別に強制してないんだけどなぁ。
「エルドって暇ある?」
「私ですか……?」
「うーん、というよりもエルドとキャロかな。後はシロくらいか」
うん、よく考えてみれば不思議な組み合わせだけど……まぁ、だからこそ、エルドも悩んでいるみたいだし。そこまで深い話はない。単純に集中出来る環境を作ろうとしているだけだからね。
「えっとね、イフやミッチェルからは許可を得たんだけど。今からちょっと家に帰って武器を作ろうと思ってさ」
「武器……なるほど、ドレインが折れてしまったからですね。それとこれと私やキャロが関係する理由が見つかりませんが……」
「いや、この前に帰ったら結構、埃が溜まっていたんだ。だから掃除も兼ねて二人に来てもらいたいなって。後は武器を作った後に模擬戦とかをしたいしね」
シロはついてきてもらって逃げないって証明になってもらうつもりだ。今回ばかりは外へ出るのではなく武器を作るからこそ、ミッチェルからは簡単に許可も得られた。それを気概も見せるためにね。何ならロイスに話はしておいたから早めに帰らないと一人で寝かしてしまうことになってしまう……。ロイスが孤独を感じないようにしなければ……!
「それで私達ということですか……」
「そうだね、一人だとまた何か言われそうだし。それに今度はイフがスキルで助けてくれるから一人にしてくれる人が一緒だと集中しやすかったんだ」
シロは掃除を頼むつもりだ。模擬戦であっても一対一なら僕が勝つだろうし、ある程度の力を出せる相手が欲しい。だからと言って強い敵と戦うために外へ出るつもりもない。先も言ったように時間が無いからね。それに一番に集中したい時に何も言わずにじっとしてくれる人の方がありがたい。
別に他の人がそうじゃないとかではないんだけどさ、アイリとかは色んなことに興味を持って聞いてきたりするしね。今回、扱う素材は集中しないと扱えそうにない。本当に保険でしかないかな。シロなら普通の作業の時でも猫のように丸々だけだから。……とでも言えばエルドも納得するか。分からないけど自分だけがって考えを持たせるのはいけない。今回はエルドの真意を聞くためにも必要な機会だしね。
後はあるとするのならエルドとキャロの武器も作りたいかな。それは素材的に足りないから今回は無理だけど、今度、どうせ街にいる時間は長そうだし依頼をこなしながら素材を集めればいいしね。後はユウと話す時間も欲しいかな。セイラの部屋にいるはずだし話す機会はいくらでもある。それにこの話を後ですればエルドとの接する機会も増えるしキャロとも……。
ちなみにイフだけで外へ出ない証拠にならないのは単純に作業をするとなればスキルに戻る。スキル状態ならば僕が外へ出ることの妨害がしづらいかららしい。まぁ、体は僕の倉庫の中にしまうしね。部屋に入って息をしていないイフの体で変なことをするヤバい奴がいないとも限らない。そんな奴がいたら……ご愁傷さま以上の言葉はあげられそうにないかな。
「……怖い顔をしてどうかしましたか?」
「……いや、なんでもないよ」
変なことを考えすぎた。こんなことを思いつく僕も大した変態だと思うなぁ。割と性癖としてはマニアックだと思うし。やはり日本でのインターネットの発達度合いをここで理解せざるを得な……いえ、なんでもないです。なぜか冷や汗をかいたので変なことを考えるのはやめておこう。
「それで出来そうかな? エルドは強いって思っているからこそ、エルドにも来て欲しいって思っているんだ。わざわざ終えてからだと二度手間だし、こんな場所では本気も出せないだろ?」
「別に構いませんよ」
特に疑った様子もなく返事をしてきた。
逆にここまでお膳立てしておいたのに拒否されたらゼロからやり直しだしなぁ。まぁ、今日やろうとしていた武器作成くらいはやっていただろうけど。その程度なら今日中である必要性は……いや、全然あったわ。やっぱりこの話は無しで。
何とかエルドの許可は得られた。勘が鋭い分だけ一番に難易度の高そうなエルドを落とせれば後は大丈夫か。ちょうどイフからもキャロの許可は得られたって連絡が来たし後は僕次第ってところかな。
「イフがキャロの許可を得たって。とりあえず部屋で待っていようか」
「そうですね……」
部屋も目前、それに少しでも休んでおきたいしね。何も街に来たら全てのやることが済んでいるわけじゃないし明日から休めなくなる可能性もある。と、言いながら座りたかっただけなんだけど。
座ると同時にシロにも連絡でついてきてもらうように言っておいた。特別視されているみたいで喜んでいる旨の返事がイフから来たけど。嬉しさから返事が出来ないなんて可愛いが過ぎると思います。
「どう? 依頼や環境面での不満とかある?」
「環境面での不満ですか……不満はもちろんありませんけど……」
「そりゃそうだ。あっても僕には話せないよね」
エルドは「そうですね」と笑う。
僕の中ではそこまで酷いことをしているイメージはないから多分、本心だと思うけど。もし本心じゃなくて演じてここまでの笑顔を見せられるのなら大したものだね。それなら騙されても全然、いいや。
「特に不満は本当にありませんね。人よりも良い待遇であると自覚していますし。それに休んでいい時に休んで主からの自分より美味しいご飯を頂けることも、強くなるための最大の援助も普通は受けられません」
「気のせい気のせい。もっとやって欲しいことがあるのならやるよー」
「あ、一つだけありますね。男として魅力的な女性が多いのは辛いです」
「お、誰か狙っている人でもいるの?」
エルドの意外な悩みに普通に興味をそそられた。エルド対僕ならミッチェルはどっちを選ぶんだろうね。きっと僕に対してだと思うけど。……いや、まさかね……。
「そういう意味じゃないですよ」
笑いながらそう返してきた。
「魅力的な女性が多いので他の冒険者仲間に仲介を頼まれたりするんです。私を何だと思っているんでしょうね。ただの同職関係でしかないというのに」
本気で怒っているようで表情も苦い。
まぁ、それは自負している。僕が抱えるにはレベルの高すぎる人揃いだ。僕の仲間だけでガールズコレクションとか出来そうな気がする。ガールズコレクションって何ですかってくらいの知識しかないけど。
あっ、でも、ミッチェルの作った服で評論会とかも良いかも。シロの蚕蛾衣装とかも出来たらしいしそこでお披露目かな。帰ってからが楽しみになってきた。
「そういうのは上手い具合にいなしておくんだよ。酷い人は誰かの彼女であっても奪おうとしてくるんだから」
体験談ではないけど友人から話を聞いたことがある程度だね。僕の場合、彼女が出来ても何故か長続きしないし、そうしようとしても幼馴染の抑制があるからなぁ。色んな意味で目立っていた人だったから学生生活が終わると言っても過言ではない。敵に回すなって言われるくらいだからなぁ。
「ええ、ミッチェル様を狙うのはさすがに度が過ぎますから。それにキャロだって誰だって一番に好んでいる異性はギド様ですからね」
「そこでドヤ顔をするのはよく分からないけどね」
なぜにここまで美しいドヤ顔をそこでするのか。エルドも不思議なことをするもんだ。イフみたく僕のことが自慢出来て嬉しいとかかな。執事の中での意地とか自慢みたいなのがあるのかもしれない。
「私の中で主が誰にでも自慢出来る、それだけで働く理由になるだけです。それにイフ様から主が自分で考えることを培わせようと教えて頂きましたし。やはり自分の価値を高められながら楽しく生きていられる今の環境はとてもいいものです」
「要はそれで他の人に比べて自分は良いから勝手にこんな表情も出てしまうと」
「その通りです」
少し口調を荒らげてエルドは語っていたのでいつものような分かりやすい説明が出来ていないなぁ。別にいいんだけどね。エルドの言いたいことは何となく分かる。あの好きな子に対して自分が言いたいことがグチャグチャになるようなものだし。だからニュアンスで分かるかな。
「とりあえず喜んでもらえているのなら何よりだよ」
「これで良いと言わない人はいないと思いますよ。好きなことが出来てそこら辺の騎士よりも良い給料、経験が詰めますから。休みも週に好きな時に休んでいいと言われれば誰が嫌と言えますか」
「その代わりに家の掃除っていう週に二回の重労働があるけどね。今日だって」
「慣れれば鍛錬になりますから」
どこの映画だって言いかけたけどネタがわからないだろうから噤んだ。集中力を高めるための精神的な鍛錬だ、みたいなことを自分から考えているんだろうし。
ぶっちゃけ僕の狙いではないけどね。
ただの掃除でしかないし。
「さてと雑談は終わりだ。三人も来たみたいだしね」
「ええ、良い時間でした」
「また暇なら話をしよう。今日は先にやらなきゃいけないこともあるしね」
エルドは笑顔のまま首を縦に振った。
そのまま飛びついてきたシロを担いでキャロの耳を撫でて、そしてイフを近くまで寄せる。エルドも含めて四人を近くに寄せてから部屋で転移を使った。見慣れない景色が一瞬で見慣れた景色に変わるのは何度やっても慣れないな。
ということで次回から武器作成回になる予定です。後はシロやエルド、キャロとの模擬戦とかも書きたいですが……文字数だったり話の概要によっては変えるかもしれません。武器作成は絶対ですが。
次回は火曜、水曜あたりに投稿しようと考えています。