4章23話 小さなことです
少し短いですが先週の投稿が少ない分です。
「なるほど、いいですよ?」
「ミッチェルならそう言うと思っていたよ」
食器を渡すために戻るとミッチェルがいたので少し話をしていた。話の中身は今夜に関してだ。いつも一緒に寝ているしね。ロイスやエルド、キャロと話をするつもりだって言ったら察してくれた。
ミッチェルがいいということはシロとかの心配もしなくてよさそうだ。シロの性格上、乱入してくる可能性もあるしね。この場合は無きにしも非ずっていうくらいに可能性は低いけど。
「それでは食器はお預かりします。キャロを呼んでおいた方がいいですか?」
「出来るならお願い」
「分かりました」
ニコリと笑ってミッチェルがミド達の元へと進んでいく。ミド以外が全員女子だから傍から見てハーレムと思えなくもない。いや、ないか。少なくともミッチェルは僕のだし。それは絶対に譲れないね。って、それは別に関係がないか。ミドの好みは筋肉質な女性って言っていたし。どちらかというとエミさんの方が好みらしい。まぁ、見向きもされていないわけだけど。
「お待たせしましたの!」
「ううん、一切待っていないよ。逆に早かったと思うし」
ミッチェルが戻って一分も経たずにキャロが僕のところまで来たしね。ミド達のいる場所は少し距離があるし遠目で見ていたから十分に早いと思う。それだけ急いでいたんだろうね。やっぱり可愛いや。
「それで……御用を教えて欲しいの」
「うん? ロイスとエルドがいるけどキャロと話をしたいなって。ロイスのパーティの人達と話をする必要もあるだろ?」
「それならイルルとウルルも」
「二人は家に戻った時に充分、話をしたからね。個人的にはキャロとも話をしたいなって思ったからさ。思い立ったが吉日って言うでしょ?」
「そんなの知らないの……」
うん、この諺がこの世界にはないのを忘れていた。まぁ、この勢いを消す必要もないし遠慮しているキャロを押し倒す勢いで行った方が説得しやすいしね。
「僕と一緒に話をするのは嫌?」
「そんなわけないの!」
「ならいいよね?」
「……はい……なの」
弱々しくキャロが言う。
その割には耳が赤く立っているのはなぜなんだろうなぁ。丸い尻尾もちょこちょこと動いているしね。うんうん、遠慮しがちなキャロにはこのくらいでいい。
キャロの手を握って二人の元へと戻る。
部屋はロイスとエルドの部屋にした。年頃のお部屋に行くのはどうかと思ったけど、エルドがそう言い出したしね。別に見られても困るものはないって。……僕とは大違いだ。妹に部屋に入られたらどうなることやら……。
「綺麗だね」
「当然です、私達にあてがわれた部屋だとはいえセイラ様の馬車なのですから」
服などは畳まれスーツ系は干されている。
必要な生活必需品は種類ごとに小さなケースの中に入っていて、中にはポマードというかワックスというか、それに近い髪を固める道具もあるみたいだ。今は使っていないようだけど使う時でもあるのかな。髪を固める液体の素材は……まぁ、察せるようなものだけど。
「自由にお座り下さい」
「それじゃあ、お言葉に甘えるかな」
言われた通り座って膝にキャロを乗せる。
未だに「私なんかが」とか言っているけど気にしたら負けだ。嫌がっているんじゃないようだし。普通に軽く抱きしめたら耳が顔にペチペチ当たってくる。そして首に巻き付いて固まるんだよね。締めるわけでもなく単純に離さないみたいな感じ。アイリとは違う意味で素直じゃない。
「キャロも嬉しそうですね」
「キャロ姉のこんな顔、初めて見たよ!」
「……い、虐めないで欲しいの……」
イジメだなんて人聞きの悪い。
普通に男子二人からすれば素直な気持ちを伝えているだけだと言うのに……。
「そんなに言うのなら抵抗すればいいのに」
「抵抗したら……主様に傷をつけてしまうかもしれないの……」
「キャロの力で怪我を負うと思う?」
下手な言い訳だよね。軽く抵抗すれば嫌なんだって分かるって話なのに。考えが全然、違う。キャロは本気で暴れることを前提の言い訳をしているし。嫌だった気持ちを伝えてくれば離すだけなんだけどなぁ。
「それに嫌なら嫌だって言って欲しいだけだよ」
「……嫌なわけないの」
「それなら遠慮しなくていいよ。僕が楽しむためにこうやっているだけだし」
キャロは恥ずかしそうに返事をする。
「イチャつく姿を見ると私も恋人が欲しくなりますね。ロイスはそう思いませんか?」
「うーん……僕はいいかな。今の生活で事足りているし」
「でもさ、ロイスのことを知って冒険者やギルド職員になった女性とかいるって聞いたよ?」
「ギド兄は意地悪だなぁ。ギド兄だってギド兄の噂を聞いて入った女性冒険者とか聞いたでしょ?」
そう言われると僕も何も返せない。
確かに僕の活躍を聞いて冒険者になった女性はいるんだよ。ただ、その後がなぁ……。ミッチェルみたいに僕のことを一番にするわけじゃないから他の冒険者と付き合う人も多いし。それに若くて活躍しているから金目当ての人もいる。
「僕が好きなのはミッチェル姉みたいに誰かを一途に愛せる人なの」
「まぁ、そのうち家を出る時もあるだろうから、その時にでも見つかるんじゃないか?」
「そうだと思いたいよ……」
弟のロイスといえども僕の家を出る時はあるだろう。一人立ちって言えばいいのかな。まぁ、そこまでいかなくても依頼でとか、旅に出るとかもあると思うし。僕もパーティメンバーで旅に出ようって考えもあるしね。
「エルドの好みってどんな人なの?」
「私は」
「あっ、ごめん。もう敬語はなくていいよ」
「……俺は優しい人ですね。素直なら尚更いいです。素直な人は飲み込みがいいですから」
敬語はなくていいって言ったのに敬語……。
これがエルドの精一杯の砕けた言い方なんだろうね。それにしても優しくて素直な人か。案外と普通の好みだ。割とたくさんのことを望んだりはしないのか。
「キャロは?」
「主様なの」
「詳しく教えて?」
「……優しくてカッコよくて可愛くて強くて平等に扱う……差別のしない慈愛に溢れた主様が一番好みなの」
うん、詳しく聞いたら余計に恥ずかしいからやめておこう。ちょっとだけ目の彩色が変わったしね。久しぶりに見た信者の目だったし。普通に考えて可愛い子にここまで褒められたら嬉しくないわけがない。
「ありがと」
「……そういう主様の好みはどんな人なの?」
えっと……僕の好みかぁ……。
そう聞かれると全然、思いつかないなぁ。ぶっちゃけて言えば一番の好みはミッチェルだ。顔だけで言えばイフとミッチェルが同着かもしれない。ただそれって昔からミッチェルみたいな顔が好みってわけではないしね。
「なんだろう……話が合えば一緒にいたいと思えるし……一緒にいればその人のことを少しずつ好きになっていく自分がいるし」
これって割とそうだと思う。
人の心理なのかもしれないけどさ、例えば後輩のことを好きだと思っていなくても一緒に帰るうちに好きになっていた、みたいな。幼馴染とかでもよくありそうだけど。
「悪い言い方をすると八方美人かな。可愛いと思えて話が合えばそれでいいかも」
「……キャロはどうなの……?」
「嫌なら抱きしめたりしないけど?」
そう言い返すとキャロは顔を隠した。
分かっていることを聞くもんだ。まぁ、分かっているから聞くんだろうね。好きな人が僕って公言しているんだし。好きな人が自分を好きだという優越感に浸る感じ。男の僕でも全然、分かる。
「……キャロを幸せにしてくださいね」
「うん、付き合う話ではないかな」
「キャロは一緒にいられるだけで幸せなの」
エルドの意味深な言葉に言い返したら、余計にドツボにハマったような言葉がキャロの口から吐かれた。まぁ、捨てるみたいなことをする気もないしなぁ……。
「それは僕次第だね。僕がどんなにワガママでもロイスもエルドもキャロも、僕を見捨てないでくれよ?」
僕次第というところで皆が悲しげな顔をした。普通に考えれば続く言葉はプラスだとは思えないしね。実際は僕のことを嫌わないでっていう身勝手な言葉だけど。ただ効果は抜群みたいだ。悲しげな顔が一気に喜びに変わっているし。
「当然だよ!」
「当然なの!」
「一度、捨てた命ですからギド様に使っていただきたいと思っています」
エルドだけすごく重いような言葉だな……。
でも、僕は知っている。全員が全員、何かしらの深い闇を抱えている人だってことが。詳しくは知らないし今、聞こうとは思ってもいない。それでも、だからこそ、三人の言葉に長さの違いはあれど重みは、死ぬなって知ったように言う人達なんかとは比べ物にならないくらいに重い。
「話が重くなってしまったね」
「そうですね、それなら気分転換たキャロの天然さが色濃く出ている話などはどうでしょうか?」
「おー! いいね!」
「やめてほしいの!」
キャロの口を手で覆ってモゴモゴさせた。
その流れでエルドに話をさせて、そしてそこから違う話をしてってしていた。当然のように夜は遅くなって四人で部屋で寝たけど。初めてかもしれない。こんなに人のことを好きだって思えたのは。自分の闇が薄くなっていくような気を味わえたのは。
次の日の朝、恥ずかしそうに笑うキャロを見て恋人にしたいと思ったのは内緒にしておこう。少なくとも今ではない。ロイスやエルドが起きて笑う姿も何もかもが僕の頑張る理由なんだと気付けた。当たり前のことほど認識しづらいということを再確認する機会になったのでやってよかったと思う。その日の昼、僕達は新しい街へと到着した。
新しい街、そこでどんな話が続くのか。楽しみにしてもらえると幸いです。個人的には書いていて街名があった方がいい気がしてきたので付けようか悩んでいます。フウ達のいた街は書かなくてもいいとしてもセイラのいる街はかなり重要ですしね。
次回は火曜か水曜日に投稿する予定です。