4章17話 たまには認めることも重要なのです
「これが原因だったんですね……」
ダンジョンコアの前に来てようやく僕達がカブトと戦うことになった理由がわかった。扉のさらに奥、そこから広がる空間は僕が一度、見た場所とは明らかに違っている。
「これは魔力溜りかな?」
「そうですね……普通はこんなことありえないんですが……」
洞窟が魔力溜りになったことはあったけどダンジョンがそれと同化したことは見たことがなかった。となると、これは普通ではありえないことなんだろう。
「っと、それよりも全員に保護をかけておかないと」
「大丈夫です、今、かけておきました」
本当に仕事が早い。後、やらなければいけないことと言えば……まぁ、魔力溜りの解消は少なからず必要かな。そうすればダンジョンコアも手に入るだろうし。最大の目的がダンジョンコアだからね。
「とりあえず先に魔力溜りをなくしておくよ。詳しくは出てからにしよう。転移の準備をしておいて」
「分かりました。私も含めてここで待たせていただきますね」
そこについては誰も何も言わない。
アミもアイリも強いとはいえ、そこら辺の部分には耐性がない。一緒に来ることは不可能だ。イルルとウルルなら余計にだろう。それに見たところで楽しいことも特にない。
僕だけで暗い空間へと入った。
中では花が咲いているとかの現象はない。目の前にあるのは黒く淀んだ壁に埋まる石だけだ。……紫の煙が出ていて不快感を煽るけど何故か僕の目には関係なく映っている。先の景色も見えないはずの四方の壁も鮮明に。
石に触ってみる。普通のダンジョンコアと変わりない。例え触れていようと漏れ出す煙はどうしようもない。魔物が現れそうだから早く対処しないと。僕の中に吸収されているような気がしないでもない。どっちだよ。
触れてから分かった。余計に手の中へと入り込んでくる煙の量は増えている。触れてから少しずつ出ていく煙も薄くなっているしね。現に淀んでいたダンジョンコアの色は透明を取り戻してきている。
「MPは……増えている……」
僕の中で魔力溜りを解消する理由はこれくらいしかないかな。魔力溜り後に残る、今も手に残っている種も何かに使えそうだけど、武器とかの素材にするほどの記述が足りないんだよね。中に残る魔力は未だに莫大なんだけど普通に抜き出すことは難しいし、割と放っておいても貯蔵料は増えているんだよ。
一度だけ腕輪の素材にしようかなってやってみたけど、イフでさえ行うには魔力が足りないって言われたし。まぁ、あっても困らないから集めているのも理由だし。ドーピング無しでMPの最大量が二万五千だから魔力溜り様々だ。
このダンジョンコアは僕の新しい武器の素材にでもしようか。カブトとワイバーンとダンジョンコアってかなりの高価な素材で作る武器って一体……それに加えて元の武器は吸血鬼専用の強武器だし。
「さて、飛びましょうか」
「うん、よろしく」
イフの手によって足元に魔法陣が現れ、パラパラと崩れていくダンジョンの中で白い光に包まれる。思えば少しだけ長い攻略だったかもしれない。二日三日のことなんだけどね。自分でやるのとは違った感覚だ。バスから降りた時のような感じかな。
でもさ……いや、あの感じは得意じゃないから良くもないんだけど……そうじゃなくてだよ……。
「……またなのかしら?」
「す、すいませんーー」
「すいませんではないのよ!」
何で僕だけ着替えているセイラの部屋に飛ばされなければならないのでしょうか。頬への痛みとともに飛ばされている時に見える虚無感が僕の心を締め付けてくる。やっぱりイフを信用するべきじゃない。だってさ、こんな時にチャットで「プレゼント喜んでくれましたか」だよ? 眼福でした! 美しいです!
「い、いきなり笑い始めてどうしたのかしら? ついに頭まで……」
「……いや、会った時のことを思い出しただけだよ」
「確かにそうかもしれないかしら。でも、久しぶりに会ったかと思えばこれは最低の極みなのよ」
「……それはイフに言って貰えると助かるかな」
「……イフ……?」
あっ、そうか。メール越しでイフがミッチェル達に近況報告はしていたらしいけど、セイラとは繋がっていないんだった。まぁ、イフがメールとかで繋がれるのは僕の仲間だけだしね。セイラは仲間だけど仲がものすごく深いわけでもないし。……忘れがちだけど僕の仲間は信者並みの信頼度を誇るんだよ……。
「あー、僕の昔からの仲間だよ。その子に悪戯されてセイラの部屋に飛ばされたの」
「……それは怒るべきですわ」
「いやいや、イフは万能だけどセイラが着替えているなんて分かるわけないだろうし」
いや、嘘だけど! 絶対に嘘だって分かっているけどそういうしかないじゃん……。イフの評価を下げてセイラと不仲にさせるわけにはいかないしさ。無理やり本音を唾と一緒に飲み込む。
「それに久しぶりにセイラの顔を見れて嬉しかったからそれでいいんだよ」
これは本音。まぁ、セイラの元気な姿が見れたことだけが嬉しいんじゃないんだけどね。あっ、そっちの意味ではないです。ミッチェルとかの顔も久しぶりに見れるって意味ね。とりあえずそんなことを言ったらセイラも喜んでいるように見えるし、まぁ、言葉選びにミスはなかったんだろうね。
「……それはいいかしら。まぁ、早く部屋を出る事ね。いつまで私の裸体を見ていようとしているのかしら?」
「あっ、ごめん!」
普通に色んなことを考えていたせいでセイラがパンツ一丁なのを忘れていた。このまま見つめていてセイラの顔が赤く染っていくのを見ていても楽しいけどね。それに何よりも眼福ですから!
部屋を出てセイラを待つ。この後にセイラにも話さなければいけないこともあるからね。その後、全員がいる場所に向かう。
まぁ、マップから他の人がいる場所も分かるしね。今はミドとジル、そして鉄の処女が警備をしているようで馬車は止まらずに進んでいるみたいだ。五人には後で個別に話しておこう。それにしても……場所が移動しているのに転移出来るのはすごいな。かなりの高難易度だぞ、これ……。
例えるならヘリコプターで飛びながら着地する時に、その着地点がふよふよと動いているって感じかな。操作するだけでもかなりの技術がいるのに着地の場所も普通じゃないみたいな。単体で僕だけ別の場所に飛ばしているのも普通にすごいと思う。
「久しぶり」
「うん、元気にしていた?」
部屋に入るとシロに抱きつかれた。
力が込められているせいで倒れかけたけど何となく予想出来たので踏ん張って耐え切った。これだけで大抵の魔物は吹き飛ばせるからなぁ。それにシロだけは僕から恩恵として少しだけ経験値が行くからレベルも上がっている。
「クルゥ……」
「おー、よしよし。いい子にしていたか?」
部屋に籠らせていたカマイタチも無理やりこじ開けたようで僕の首に巻きついてくる。ちょこちょこ首を噛んでいるから少しだけ怒っているなぁ……。メスだから少しだけ嫉妬しているとか?
何にとは言わない。心当たりが多すぎるし。
「……お帰りが遅かったですね」
「ごめんね、寂しい思いをさせて」
「いえ、そこまで感じていませんでした。イフ様からたくさんの動画を送っていただきましたし」
「うん、何か色々と聞きたいことがあるけどそれは後にしよう」
今はそれよりも大事な話があるし。
「……そこまで大事な話なのでしょうか?」
「そうだね、アキとも話はしたいけどそれよりも重要だ」
「そうですね、まずは座りましょうか」
話を始めようとした時にイフがそう促した。
イフの言葉で異様さを感じたのか、全員が静かに席に座る。話しかけようとしていたロイスやエルドでさえ、いや、エルドやキャロは普通に自分のターンの時にしか話さないから驚くことではないけど。
「今回は私達だけでダンジョンを攻略したのですが、そこでも魔力溜りが起きていたんです」
席に着くとすぐにイフが話を始めた。
この感じは久しぶりだ。だって座った瞬間に膝の上がシロに取られて、両隣がセイラとミッチェルに取られるという感覚。この胸の感覚……慣れない……。
イフも二度手間になることよりも早めに情報を伝えることを選んだみたいだ。ましてや馬車が進むのを止める必要も無いしね。少しの労力のために必要なことを止めてはいけないし。この後なにがあって遅くなるかも分からないから。それだけ長い期間の護衛依頼だってこともあるしね。
「ダンジョンに魔力溜り……」
「そうです」
「ちなみに貴方は誰なのかしら?」
「……ああ、私はイフといいます。自己紹介が遅れて申し訳ありません。ギド様の配下だと……夜の下僕だとお思い下さい」
「うん、それはないかな。簡単に言えば同郷の仲間だよ。……幼馴染って言葉が正しいかな」
幼馴染……うん、それが一番いいかもしれない。どうせ僕の過去とかはイフが知っているし話す分には楽でしょ。作られた師匠とかの話も頭のいいイフなら簡単に作れるだろうし。関係が一番に長いのがイフだからね。
「……幼馴染で夜の下僕なのかしら。よおくギドのことが分かったのよ」
「うん、勘違いしてそうだから言うけど僕は童貞だから! 勝手にそう言っているだけだよ! からかいにはのらないでね!」
「童貞……」
あっ……僕が築き上げてきたカッコイイ、ギド像が崩れていく。……いや、遊び人の視線をセイラに向けられているのが耐えられないから言ったけど……辛いね。童貞はやっぱり悲しいよ……。
「セイラ様がそのような慈悲深い目をする必要はありません。私が奪うだけなのですから。もしくはミッチェルが」
「えっ……私ですか……?」
「それは許せないのかしら。一応はギドは私の騎士なのよ。このような信用出来なさそうな女性に渡したいとは思えないかしら」
「喧嘩はしないでね。今のところは誰にも渡す気なんてサラサラないから」
えっ……なんでそんな悲しそうな目を全員からされるの……。ロイスやエルドは……いや、この二人だけは僕の味方みたいだ。この気持ちって女子には分かってくれないのかな。
「稼いでも子供を育てるには十分な環境が必要なんだよ。そのためには僕自身が自慢出来る存在にならないといけない」
「十分に皮肉だと思うかしら」
「そうかもね、でも、僕が許せる時にならないと無理かな。……だからってセイラも含めてクソみたいな奴に渡す気もないけど。それだったら僕が貰う」
「……そういう所が酷いかしら」
「ええ、同感ですね。好きならば好きと言えばいいだけなのに遠回しに言うなんて……」
「あら、奇遇ね。仲良くなれそうかしら」
「イフ様はギドさんが関係しなければ接しやすい良い人ですよ。セイラ様に負けず劣らずギドさんが好きなだけです」
えっと……なんか僕が敵扱いされてセイラとイフが握手しているんだけど……。そんなに失敗したかな。普通のことを言っただけなのに。
「……僕は仲間だから安心して」
「ロイスぅぅぅ!」
僕は本気でロイスを嫁にしたいって思えた。
皆、魅力的だけど優しくしてくれるロイスが一番に男心が分かって、女っぽくて……って、殺気を感じたので考えをやめた。その代わりにシロに片膝を譲らせてロイスをそこに座らせたけどね。
とりあえず話がそんな感じで進んでいき、後半は駄弁るだけになった。特に詳しい説明はなかったからイフにも想定外の案件だったみたいだ。まぁ、その知識量からセイラがイフに対して感嘆していた。当然だよね、僕のイフなんだから。……イフから優しい目で見られたけど。
その夜はロイスの大好物であるチャーハンを作ってあげた。コンソメ風の野菜スープとかも作ってあげたら、とても喜んでいたよ。本当に可愛いやつめ。
※この話はBLではありません! 健全なハーレム系のなろう小説です!(多分)
次回から4章の中身、そして小説の本題に入っていきます。一応、新キャラも出るのと、誰かの過去について触れます。少しだけ暗く胸糞な部分があると思いますが楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
最後に個人的にはエルド推しなので活躍の場面をもっと増やしてやりたいとか考えています。どうせ4章では活躍するのが決まっていますが……(汗)。