4章15話 最期です
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書く時間があるって素晴らしい!
今度は輪を全て破壊してドラグノフを連射出来るようにしておく。威力よりも蓄積とヘイト稼ぎを重視した形だ。カブトは依然、呼吸をするだけで声という声を上げない。加えて知能が高いのならイフから狙うはずだ。
もし僕の予想が正しいのなら。
「アミは遠距離で刃を生成! アイリは少しずつ攻撃をするだけでいい! イルルとウルルは結界を張ることに専念!」
返事は聞く必要がない。イフに出す命令もないだろう。僕がイフに対してできることは信頼することだけ。ミッチェルがいるのならもう少し楽だったかもしれないな。分かっているのは呪が薄いながらに効いていること。
「カースレイン!」
イフの呪いの雨が僕とカブトに降り注ぐ。
僕に対して呪魔法は効かない。逆にカブトに対しては十分に効くんだ。外皮が柔らかくなるわけじゃないから理由があるはず。だいたい魔物に効いていた場合は表面すら柔らかくなる。それが防御低下なわけだから、どうにかして確認しないと……一度だけ魔法を放ってみるか。
「ファイアバレッド!」
煙幕代わりも兼ねて僕とカブトの間で爆発させる。火魔法も僕にはあまり効かない。ゼロとは言わないけどね。結果は……無傷か。そうなると外皮に大してはほとんどの耐性があるって考えていい。
上手く距離を開けることも出来た。
カブトの距離詰めはクラウチングスタートから一瞬で距離が詰められる感じだから準備が出来る。あまり難しくはない。それに二メートルも離れれば同じ行動をするから近過ぎず遠過ぎずを心がければいい。ドラグノフと相性がいいな。
どこだ……どこがコイツの弱点だ……?
まず硬い外皮、もとい甲冑の部分は攻撃してはいけない。というか無意味すぎる。他に考えられる場所は……頭とかか。角に攻撃するのも悪くはないか。まずは角に攻撃してみよう。
「今!」
アミの刃で気を取られた瞬間に角に向けて銃弾を二発連射する。……意味が無いか。さすがに外皮と変わりない硬さだ。それなら目を狙う。目まで硬いやつは少ないだろう。
「アイシクルウォール」
「さんきゅ」
イフの氷の壁で相手の攻撃を少し遅くしてもらう。その間に横に飛んで構え直した。これだけ離れればまたクラウチングスタートの体制を取るはずだ。……やった、ここしかない!
「傷付け!」
願望の詰まった言葉通り一つの輪を展開した。これが限界だった。さすがに暇が無さすぎる。それでも威力は多少なりとも上昇するはずだ。
片目に激突……貫きはしなくてもカブトは目を押さえて僕を睨んでくる。
「いいのか?」
威力は落ちれど輪が崩れたドラグノフを撃ち込んでもう片目を破壊した。同時に魔眼も発動させた。石化はしなかったけど少しだけ攻撃をためらった。これも成果だ。これならカブトの攻撃の手は少なくなるはず……!
「グッ……」
また吹き飛ばされた。今度はダメージを抑えることも出来ずにかなりの距離を。それも追撃のように飛んできている。……いけるか。いや、無理だ。例え撃ったとしても気休めにしかならない!
それなら……賭けるか!
「喰らってくれ!」
僕の頭を掴んだ瞬間にドレインへと武器を変えて甲冑と甲冑の間の部分、カブトがそのままカブトムシだとするならば羽と頭の間のところに差し込んだ。
刺さった! 確実に刺さっている!
カブトは明らかに表情を変えて苦しそうに手を離した。その際に俺も投げ捨てられてしまったけど……これなら体制は立て直せる! それに刺さったままのドレインに気を取られすぎなんだよ!
「短い腕を恨め!」
背中に手が届かずに浅く刺さったドレインを引き抜けないカブトを後目にワルサーを出す。浅いからこそ抜けないっていう防御の高さがデメリットになっている。今は射撃の的中率を重視したい。威力よりも適格性がものを言う!
氷の鏡を展開して三発、銃弾を撃ち込む。
一発目がぶつかり合いドレインの持ち手に当たる。少し曲がったけど刺さり具合が深くなっていた。そこからもう一発だけドレインに当たって刺さった。そして……少し怖いけど最後の賭けだ!
「転移!」
ドラグノフに持ち替えて短い距離でありながら歪んだ空間を進む。どこか神秘的で触れたら壊れそうな空間。奥に見えるのはイフだろう……か……。誰かも分からずに一人という孤独感だけが襲ってくる。
でも、このままここにいるわけにはいかない。片手に空間魔法を宿らせて手を空振らせた。……成功した。何とかカブトの背後を取って先までの空間へと戻ってこられた。きっとさっきの世界は……って、そんなことを考えている暇はない!
「じゃあな!」
大きな反動をモロに受けて僕は吹き飛ばされた。その際にカブトが光に変わったのが見えていた。……代償として大きなものをなくしてしまったけどね。見えていた、同時にバラバラに、ガラスが割れるように散って行くドレインの姿が。何回転か後転してようやく何かにぶつかる。
「グルゥー」
「……受け止め係ありがとう」
不思議と痛みは薄い。それはアミが受け止める時に狼の姿に戻ってくれたからだろう。なんでアミか分かるかって言うのは主として当然としか言えないかな。
「遅くなってすいません! ヒール!」
「大丈夫、大丈夫。倒せただけで十分でしょうに」
顔を強ばらせて走ってきたアイリの回復を受ける。別に大きな怪我はないけど回復魔法はあまり受けたくないんだけどなぁ。……って言ってもいつも通りに好意でアイリはやっているわけだしなぁ……。
「アイリ、違いますよ。マスターに回復魔法をするのは効果が薄いです」
おっ、イフが優しくしてくれている!
珍しいな! 今回だけは感謝しよう!
「抱きしめながらキスするといいんです」
「なるほど! 分かりました!」
「って! 違う!」
アブナイな、危うくアイリとキスをするところだった。何とか肩を掴んで数センチってところで止められたけどさ。……いや、止めない方が良かったか……?
って! そうじゃない!
「?」
「あっ、ごめんね。回復魔法は回復するんだけど効果が薄いんだ。その……アイリの血を少しだけもらっていいかな?」
首を左右に振っていたせいでアイリが不思議そうな顔をしていた。僕がそう聞くと「いいですよ」って返してくれたしありがたく飲ませてもらおう。首元を軽く舐めてから牙を立てる。
「んっ……」
「痛い?」
「いえ……変な感覚です……。これがミッチェルが感じていた感覚……」
アイリの血の味はどことなく甘い。
美味しくない人とかだと苦味とかエグ味が強いんだよね。試しにエイとかエスとかのを飲んだことがあったけど死ぬほど不味かった。下手な人が作ったポーションみたいに美味しくなかったんだよね。
「美味しいですか?」
「不味かったら吐いているよ」
おどけた素振りを見せながらアイリの血を二百ミリは飲んだかな。少しフラっとしていたけど嬉しいから良いって笑うだけだ。これなら我慢してでも美味しくない人の血を飲むべきだった。
「それよりも……いいんですか……?」
そう言ってアイリが指さしたのは回収していたイフの手にある砕けたドレインの残骸だった。思えばどれだけ長い期間使っていた武器だったんだろうか。……って感慨深いことを言ってみたけどそこまで辛くはないかな。
「いいんだよ。素材さえあれば作り直せばいいし。命があっただけ貰いもんだ」
命を落とすフラグの代わりに愛娘ならぬ愛武器が壊れってだけ。命が亡くなったらそれで終了だけど武器はその類ではない。僕が何度も命を吹き込めば僕の期待に応えるものになってくれるんだ。
「それにカブトの素材を溶かせば色んなことに使えそうだ。幸いなことに中の肉だけがなくなった、ほとんど殻の全てが落ちてくれたみたいだしね」
大きさにして三メートルはあったし横幅も大きかった。つまり多く素材手に入れたと思えばいい。角から武器も作れるだろうしね。それに粉々になったとしてもドレインの刃はほとんど拾ってくれている。溶かせばいいだけのことさ。
とりあえず全てを空間の中に詰めて立った。
イルルとウルルが何も出来なかったと謝ってきたけどそんなことはない。結界が割とダメージ軽減に繋がってヘイト稼ぎには十分すぎる仕事だ。頭を撫でながらそう言うと二人とも喜んでいたから良かった。最後に泣きそうになっていたのは何とも言えない気分になった。喜びから来た涙なら……二人は失敗をすれば怒られていたんだろう。
二人にはこれからダダ甘やかしでもしてあげようか。そんなことを考えながら四階層を後にした。不思議と調子がよかったんだ。そのまま下の階層へ降りると見慣れた空間が僕達の目に映る。
「ここが最下層だね」
「ええ、ダンジョンボスの扉です」
「カブト位の強さではないことを祈るよ」
「さっき説明した通り、そのようなことが起きるとは思えませんよ。警戒しながら攻略しておきましょう」
イフ曰くダンジョンの大きさからしてカブトレベルの魔物を作ることは難しいらしい。絶対に出来ないとは言わないけど魔力の消費量が多すぎて作ったとしても操ることが出来ないらしいし。
多分、そこから考えて他のカブトレベルの魔物を作ることは出来ないらしい。まぁ、出来たとしてもレベルもかなり上がったので苦戦はしないと思うけど。あったとしてもレベルがかなり落ちるらしいし。その点も踏まえて魔力が回復する前に攻略した方がいいって言われたしね。
豪勢な扉を押し開けて中へと入る。
魔物はいない。でも警戒を怠る気は無い。すぐに白い霧が中に充満してダンジョンの本当のボスが姿を現した。
ギドの新しい武器フラグですね。カブトの素材も使うということなのでどのような武器になるのやら。未だ未定です。
後、カブトの話なのですが簡単な特徴として一定の距離が離れていればクラウチングスタートからの攻撃、ステータスの高さの代わりに物理攻撃以外をしないという感じですね。魔力面も高いですが魔法は一切、使えないです。ランクとしてはSS位を想定して書いていました。このことを踏まえればSSSランクの魔物や人物はどれだけ強いのか……考えるだけで恐ろしい限りですね。
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