4章14話 フラグが立つです
二週間、休んでいた分の連日投稿です。
次の日、朝にイフが膝枕をしていて動画を撮っていたという事件以外なにもなく、普通にダンジョンへと向かった。三階層の最後まで進んでいたので今日は四階層から進めばいい。そう高を括っていたのだけど……。
「明らかにおかしいよね?」
「ええ、魔物の数が少なすぎます。それとこの魔物達の残骸……」
足を踏み入れた僕達の目の前にあったのは昨日まで倒しまくっていた虫系の魔物の死骸の数々だった。ダンジョンでは魔物が魔物を倒すと遺体が残る。つまりこれだけの魔物を倒した魔物がいるってことだ。それもダンジョンから作られた魔物がでなければ遺体は残らない。
モスキートーンの四肢がバラけ羽は無残に引きちぎられていたり、グリーンマンティスが数体とも踏み潰された後のように腹から液体を流して死んでいる。食べられた形跡は一切ない。ダンジョンでも食物連鎖はあっても食べるために殺したわけではないみたいだ。まるで楽しんで殺し回っているように見える。
「……一つだけ予想があるんですがマスターの嫌いなネタバレになってしまいます。それでも聞きますか?」
「危険を回避することの方が重要。話を聞かせて」
「分かりました。多分ですがダンジョンが作り出した掃除屋の仕業だと思われます。どこのダンジョンも人の遺体を栄養としますが、その人が自分を殺しかねない相手ならば自分の体内のことを考えずに人を殺せるだけの魔物を作り出します。それを通称して掃除屋と言います」
掃除屋……つまり人で言うところの体内に入り込んだ菌を殺すために薬を飲む感じかな。ダンジョンを人と考えてみれば割とわかりやすいだろう。そして殺せるだけという言葉通り……かなり強い。少なくともイルルやウルルでは太刀打ちが出来ないくらいに。
「となると強いよね。血とかの中に掃除屋って思える魔物の血はないし」
「魔眼からなら分かりますもんね。想定しか出来ませんが目の前の魔物が束になっても傷をつけられないくらいの強さ……マスターレベルだと考えてよさそうです」
僕レベルか。うん、ヤバそう。
「……帰るか」
「……それが出来れば楽なんですけど」
「何か不都合でもあるの?」
「掃除屋の影響で魔力の流れが不安定になっています。外から中へ入るならば影響は薄いですが、逆だと失敗したりバラバラになったり……最悪は次元の狭間で一生さ迷うことになります」
要は転移が使えないと。
それならば他に戻る手段を考えるだけだけど……何かあるかな。転移が使えないのなら歩いて帰るとか。話の感じでは外へ出さえすれば転移も可能になる。ここで諦めてセイラの元へ帰るのもいいかもしれない。
「帰れません。ここはダンジョンの中です。階段を止められるのが目に見えています」
「……それならどうする?」
「分かっているはずです」
「そうなんだけどさぁ……」
ぶっちゃけ僕もおかしいと思う。
ここぞとばかりにテンプレの中の主人公が強くなるor主人公の仲間が強くなるフラグでも立っているような気がするし。つまり戦うべきだとは思うけどさ。……もしこれが誰かが死ぬフラグだったら戦いたくはないんだけどね。
頭を軽く搔く。
いつもより回転の遅い脳を働かせる。
「戦わなければ強くなりませんよ」
「なんかこうなることが分かっていて連れて来られたように聞こえるんだけど?」
「それはないですね」
イフは変わらずにフフと笑った。
まぁ、どちらにしても変わらない。倒さなければ出られないなら倒すだけだ。フラグの中で良い方のフラグだと思いたい。割と軽い気持ちでここを攻略するって選んだ自分を殴りたいな。
「はぁ……何で来たばっかりでこうなるんだか。皆は準備出来ている?」
四人の方を見る。アミとアイリは普通に首を縦に振り、イルルとウルルは仕方なしといった感じで首肯した。やる気みなぎる目をしていて僕の弱気を攻撃してくる。
「それじゃあ……やるしかないかなぁ」
「大丈夫ですよ。来てから分かったために回避出来ませんでしたが、私がいます。どんどん頼ってください。最悪は燃やしてしまいましょう」
「火力ならイルルやウルルも手を貸せると思うよ。アミとアイリは僕と一緒に前衛に立つ。本気でやろう」
昨日とは違い緊張しているようだ。
まぁ、僕でも倒せるか分からない敵がいるって分かっているしね。加えて言えばイフもいるって気がつけなかったし。三階層から四階層へ行ってようやく目の前の脅威に気がつけたわけだ。
「早めに付けておきます。身体強化」
「うん、ありがとう」
「任せてください。イルルとウルルは防御の保護から結界を張ってください。分かっていますよね? マスター?」
「ああ、森の中だと視界が悪すぎる。そういう意味でしょ?」
僕の言葉にイフが「そうです」と微笑む。
普通にイフがいて助かった。掃除屋のことを聞かなければなめてかかっていた可能性もある。ダンジョンが僕達を本気で殺しにかかって作り出した相手だ。本気でやらなくてどうするのだろうか。
「アミとアイリは結界の中へ。やるよ、イフ」
「いけます。合わせるので一緒にやりましょうか。初めての共同作業です」
「結構前から共同作業はしていた気がするけど……そういうことにしておくよ。火竜の咆哮!」
「加速しなさい、アクセラレータ!」
魔力の三分の一を注ぎ込んで火で作られた竜の頭を作り出し、大きな方向とともに広範囲へのブレスを行う。そしてその威力はアクセラレータにより増加しブレスの範囲もかなり上昇している。
「来る!」
「本気でやりましょう。アクセラレータ」
燃える木をかき分けて現れたのは黒い不気味な体を持つ虫だ。二足歩行で額から大きな角を生やしている。さながら黒い甲冑を着込む騎士のようだ。ただ薄く見える顔からは人と思える箇所は一切ない。
「アミとアイリも頼む!」
地面を蹴りドレインでの本気の一撃を食らわせた。手がジーンと痛む。僕の本気でさえもダメージは与えられないみたいだ。……いや、軽傷って言った方が正しいのかもしれない。
ステータスは全ステータスが三万ちょっと。僕の本気が一万五千ちょっとだから全然勝てていない。小さなダンジョンだと言うのにこんなに強い魔物を作り出せるなんて。
仕方なくドレインをしまいドラグノフを取り出す。今の最高火力はこっちの方だろう。本気で斬撃を加えたとしても聞くかどうか曖昧すぎる。少なくとも僕の一撃で目の前の敵が止まることは無かった。
「いってぇ!」
額から生える角の振り上げで吹き飛ばされた。何とか氷の壁で受けられたけど少しでも気を抜いたら即死は免れないな。……木を全焼させたのはミスだったか……?
だが、この一撃の時に呪魔法を撃ち込むことは出来た。少なくともステータス低下は免れない。……ワイバーンよりも強いし図体も大きくないとか最悪だな。広範囲で呪魔法を展開するわけにもいかない。
「名前はカブト……か……」
見るからに虫系の魔物なのは間違いがない。
グリーンマンティスも含めて虫系の魔物は元の虫の性質を残していた。きっとカブトもその仲間だろう。……見た感じは火星に行ったGに角が生えているような不気味さだけど。
「ふっ!」
距離を詰めてアミが斬撃を与える。それでもダメージは微妙なようでアミは首を傾げながら直線距離を走っていった。連撃よりもダメージの蓄積を狙うみたいだ。
クラウチングスタートの構えを始めるカブトに対して、そこをアイリのレーガが襲う。ダメージははっきり言って無い。それでもカブトのヘイトがアミからアイリに変わっている。なぜにカブトがクラウチングスタートをしようとしているのか分からないけどチャンスだ。
「火炎弾装填……構えろ。外してはいけない」
魔力で作られた輪を銃口の先に展開してしゃがみ狙う。このやり方は連射が出来なくなる代わりに一撃がかなり重くなるやり方だ。この輪が速度をより上げてくれる。加えてイフのアクセラレータもあるからノーダメージとはいかないだろう。
「喰らえよ。アイリの首は渡さない」
そうしてドラグノフを撃ち込んだ。
同時にかかる風圧で自分自身が飛ばされてしまう。失敗した。背後に木や壁でも作っておけばよかった。銃弾は……当たっているのか。それでもHPの一割を削った程度。連続してこんなこと出来ないぞ。見せていない手だから出来たやり方だと言うのに……。
瞬間、腹に衝撃が加わった。
傷は……透明な何かが体に刺さっていることから結界を張ってくれたんだろう。少しだけ威力を消してくれたみたいだ。多分、イルルとウルルだろうね。感謝しないと。
とはいえ……殴り飛ばされたのか。熱い何かが口元から垂れているのがわかるし。ササッとポーションを出して飲み込む。イフはアミとアイリのサポートに必死だ。回復を頼めるわけがない。アミとアイリでさえ僕の回復の時間を作ってくれたわけだし。
ようやくワイバーンから受けた傷も癒えきったって言うのにさ。本当に酷い限りだ。またまた馬車で休むだけの連日が続きそうだよ。……まだまだ死ねないよなぁ。ミッチェルのためにも。何でか負ける気がしないんだよ。……嫌なフラグだと分かっていてもそんな気が拭えないんだ。
まぁ、やるしかないよね。
僕が、僕達が強くなるために神様が無理やり作ってくれた糞イベントなんだから。せめて僕達の糧になってもらうよ。フラグを折って僕の作りたいフラグだけを立てさせてもらおう。
神様(作者)が作った糞イベント。
一応、急とは言えイベントを挟ませていただきました。この掃除屋イベントの次は普通にダンジョン攻略の最後になると思います。このカブトも話に繋げたいと思って書いているんですが……やはり、要らなかったですかね(笑)
ちなみにこの話の中では「テンプレ」と「フラグ」が重要な言葉になっています。あまり深くは考えていませんが、そこを忘れないように書いていこうと考えています。後、投稿出来そうなら水曜日まで連日投稿出来るように頑張りたいです。ちなみに明日の分はもう書けています。