4章11話 強さとは、です
モスキートーンを片付けるのは難しいと思っていた。うん、思っていたんだ。だけど、それはすぐに撤回される。だってイフが力を隠す気もないのか、氷の壁でモスキートーンを閉じ込めてから火魔法の煙でモスキートーン達を無力化していたし。
僕の出番が少なくて悲しくはない。断じて。
モスキートーンを片付けた後に残った素材は割と有用だった。まず一番に落ちやすいのは麻酔針だ。単体で使ってもいいし毒を抜いて使うのもいい。口についているままのものだけど投げて相手を眠らせたりも出来る。
二番目に、まぁ、これはかなり低確率だけど毒の瓶が落ちる。普通の麻痺毒だね。効果はビックモスとどっこいどっこいかな。
そして一番落ちない、僕でも三十体倒して七個しか落ちなかったスキル玉だ。全部が吸血であまり必要性はないね。ただ僕の吸血鬼特有の力より少し弱いくらいだ。相手の血を吸うことでステータス上昇、怪我の回復、HPとMPの回復をおこなえるみたいだ。まぁ、僕の場合は全然、いらないんだけど。売る目的で取っておくけど。
普通に考えたら初期にこのスキルがあったら喜ぶべきなんだけど。麻酔針で寝かせてから血を吸ってステータスを奪う。状態異常さえ効けばかなりのチートスキルだ。売るってなっても悪用しない人に売りたいけどね。それだけこのスキルは邪悪だと思う。使う人次第って言うのはかなり怖い言葉だ。まぁ、ルークさんなら変な人には売らないと思う。そこは僕との信用問題だ。大人にしか分からないことだから僕は曖昧な感じでしか捉えていないけどね。
「……案外、楽勝でしたね」
「それだけイフの力がすごいってだけじゃないかな」
「同感なのだよ……あんなの我の力では出せないのだよ……」
アイリの一言に僕がそう返す。ウルルも実感があるようで僕の言葉を肯定してイルルも首肯している。アイリも特に反論はないようだ。まぁ、一番にイフのアクセラレータの補正を受けたのはイルルとウルルだ。
落ち込むウルルの頭を軽く撫でる。
「まぁ、僕もそんな感じだったから気にするだけ無駄だね。最初っから強い人なんていないよ」
「我は人じゃないのだよ」
「魔族も似たようなものだろ」
「……何も言い返せないのだよ」
自慢げに、ではなくて自嘲気味にイルルは笑っていた。魔族っていうだけで誇りを持つものもいるらしいんだよね。それ自体をイルルとウルルから聞いたけど。まぁ、僕の仲間は僕が吸血鬼だって知っているし。
イルルとウルルは同族の臭いがしたらしいしロイスはミッチェルから聞いたみたい。一番に怖いのはエルドとキャロで主のことはなんでも分かるって言われたしね。いや、いいんだけどさ……言い方ってないかな?
知らないのは鉄の処女とセイラくらいかな。セトさんは案外、察しているかもしれない。確証はないけどそれを前提で最近は接している。別にセトさんからすれば魔族がどうこうで嫌ったりはしないからね。それに……今の僕でもセトさんを倒せるかは分からない。強くなればなるほどにセトさんの強さを理解していく。テンさん以下だけど今までの中で二番目に強い人だ。
「まぁ、僕も超えなければいけない人がいるからね。一緒に強くなればいいよ。分からないことはイフに聞けば済むだろうし」
「……そうじゃないのだよ……」
イルルに呆れられたように言われた。
でも、すぐに「ありがとう」とだけ言われる。それだけで自分でも馬鹿だとは思うけど二人を買って正解だったと思ってしまう。夜な夜な襲う計画を立ててミッチェルに捕まっているのはどうかと思うけど。律儀に三十分の正座を誰も見ていないのに守っているところが二人の性格がいいことを表しているし。
少し恥ずかしくなったのでイフの隣に戻ってグリーンマンティスの方向へ進んだ。後ろから「可愛いですね」とか言っていたのは気のせいだ。別に関係がないけど後でアイリにはやめてくださいと言われるまで人前で愛でてやろう。うん、それがいい。
少し歩いてグリーンマンティスの元まで向かった。グリーンマンティスがいたのは大きな花がいくつも咲いている場所で葉っぱの上で隠れて鎌を構えている。別に言いたくて言ったダジャレじゃない。怒るのなら僕じゃなくて言葉を作った人に言って欲しいね。
イフ達のせいで恥ずかしいじゃないか!
と、冗談はそこまでにしておいて魔眼を発動する。予想通り花も魔物みたいだ。よく見ると木の中にはトレントもいるので倒しておきたい気持ちもある。武器とかの素材の原料になるしね。イフの頭からは抜けていたみたいで個人チャットで謝られたけど。
まぁ、『イフ:ごめんね、てへぺろ』って来たからビックリしたけど。でもさ、ニヤニヤしながら『ギド:激おこだよ』って送った文章を既読スルーするのはダメだと思うんだ。後でイフにも仕返しを……って絶対に負けるからやめておこう。
花はあまりランクとしては高くはないけど根っこが一本さえあれば生きていけるらしい。つまり根っこを武器として戦ってくるみたいだけど栄養は土からだけじゃないみたい。無視を捕食する時もあるるしいけど何より速度は遅いようで、グリーンマンティスがいるのも残した虫の死骸を栄養に変えるかららしいね。魔眼だけでここまで分かるのは結構ありがたい。まぁ、根っこで戦うってことだけは要らなかったけど。僕からしたらネタパレだし。
『ギド:最初に狙うのは花の方。名前はマジックフラワー、根っこで攻撃するみたいだけど氷が弱いからイルルとウルルに任せるよ。アミは僕とグリーンマンティスを抑える。イフはイルル達を、アイリは僕達を見ながら遊撃して』
声を出せばグリーンマンティスに気付かれるかもしれないので一応、チャットで打ったけど一気に下へと理解した旨の返事が並んでいく。有名人とかの気分を味わえるね。
その分だけ情報伝達で花のことを言っていなかったイフが申し訳なさげに返していたけど。まぁ、僕が気にするなって送ったら既読スルーなので元気が無いわけではないのだろう。そっちの方がありがたいし。
とりあえず僕がアミの背中を軽く撫でて走り出したのを合図にグリーンマンティスも僕達を見る。地面から十数の根っこが飛んでくるけど切ることもせずに蹴って足場にした。これだけで距離が詰められる。この根っこもかなりの価値があるからなぁ……って、ダンジョンだから気にする必要性ないじゃん!
「アイシクル・フィールド!」
「助かる!」
僕の抜けた部分はイフの氷魔法がカバーしてくれる。魔法名通り地面が凍り始めて根っこごと花を固めていた。それでも生きているあたりランクが高いだけのことはある。動けない分だけランクはDと低めだけど、ステータス的に言えばグリーンマンティスより少し強いって感じだ。グリーンマンティスでCだからいい所って感じがする。
「貫きます!」
僕達の後ろをついてきていたアイリが僕に踏み台にされたマジックフラワーを貫く。一撃で倒れないのはさすがだけど一回で済ませるほどにアイリ達は生易しくない。
「付与、風!」
レーガの周囲を風が渦巻き横薙ぎに振るった瞬間に綺麗にマジックフラワーが真っ二つになる。レーガ自体に高い切れ味はなく個人的にはレイピアに近い戦い方をメインにするために作ったけど……こんなやり方もあるんだね。
まぁ、僕が昔やっていた薄い魔法の膜を体に張ることに近いけど。ただ用途がかなり違う。僕の場合は薄い膜で耐性を強くしていくだけでステータス増加などは一切ない。
これならマジックフラワーが倒れるのは時間の問題かな。数体はイフの氷から逃げられたようだけど今のせいで迂闊に攻撃してこないし。それなら目の前にいるグリーンマンティスを先に倒そう。
「アイシクルバレット!」
「やー!」
僕の魔法とアミの気が抜けそうな掛け声と共に二体のグリーンマンティスを屠る。別に素材を気にしなくてもいいから僕の氷の弾丸を受けたグリーンマンティスは穴だらけだ。痛そうだなー。回転斬りでアミが横に一回転しながらもう一体のグリーンマンティスの方を向く。
未だに仲間が死んだことを最後の一体は理解していないようで鎌を上げ威嚇行動をしてくる。さすがに哀れに思ってきてドレインを構えた。
「ふっ!」
瞬間、足元が揺らいだので飛んで動き始めたマジックフラワーの攻撃を躱す。実際は最後の一撃だったようで追撃は来なかった。ただイフの魔法とはいえ効果が薄い箇所もあるようだ。イフとて万能じゃないのだろう。
だが、マジックフラワーからの追撃は無くともグリーンマンティスからの追撃は来た。命の危険が迫っていることは理解しているようで手を抜いている感じはしない。まぁ、その程度のことだけどさ。
「アイシクルウォール!」
氷を一点に集中、そしてグリーンマンティスの鎌を薄く小さな半径五センチ程の氷の塊を空中に浮かせる。普段のアイシクルウォールの応用技だ。それにこれを大きくしなかったのには理由がある。というか、今の僕でもそれは出来ないことが分かっていた。イフもいない分だけ、ね?
「ビギィ!」
「すごいのだー!」
「……上手くはいったかな」
氷の塊がグリーンマンティスの鎌に引っ付き少しずつ凍らせていく。魔力の消費量もイフが使ったアイシクルフィールドよりも極端に少ない。アイシクルランス五発分くらいだ。ちなみにイフのやつはアイシクルウォールを五十発は撃てる量だね。それを一瞬で構築するのも頭がおかしい話なんだけど。
地面に繋げて作らなかったのはくっ付く機能を付けて外すことが出来ないようにするため。効果は引っ付いている相手を凍らせていくという簡単なもので、大きく出来なかったのは一瞬で構築すること、加えて大きくすると極端に魔力消費量が跳ね上がるから。普段通りのアイシクルウォールの大きさにするには魔力が足りなさ過ぎる。
一応、疑問を持つ人もいるかもしれないけどイフのアイシクルフィールドと僕のアイシクルウォール……名前は後で考えるようにしておく。まぁ、この二つの消費量の違いは横に広がるか縦に広がるかで変わるんだ。僕のように空中、地面から反り立たせるだと消費量が高くなる。だから大きくしてしまえばイフのアイシクルフィールドよりも消費量は高くなってしまうって感じかな。
もっと言うのならイフのアイシクルフィールドは地面の上から五ミリ、それくらいの高さで氷を作っている。僕の氷の塊よりも薄いんだよね。これが僕とイフのレベルの差だよ。つくづく僕の仲間で良かったって思えるね。
「じゃあね」
凍りきったグリーンマンティスの首を跳ねて光に変えておく。この調子で今日は三回層まで魔物を狩り切っておいた。しっかりとイルルとウルルにも戦わせているから順調にレベル上げに繋がっている。この調子ならダンジョンも攻略出来そうなので、もう少しだけ五人と攻略をしておこうと思った。
遅くなって申し訳ありません! 未だに忙しいですが今週の最後には終えられそうなのでそこからいつも通りに戻れると思います。本当に申し訳ありませんでした!
今回のダンジョン攻略はイフの強さを書いていくと言った形にしたかったので、もうそろそろで終わると思います。そうなった時に少しずつ仲間達の過去や新キャラも書いていく予定です。楽しみにしていて貰えるとありがたいです!
※休みが欲しいです(切実)




