4章10話 群生と群棲は間違いやすいです
何とか書けました。
「うーん……見たことがない魔物だね」
「あれはジガバチですね。地球にもいた種ですがこの世界でも同じような生態を持ちます。特に女性の肉の方が幼虫には良いようで狙われやすいようです」
三階に上がってから最初に見た魔物はジガバチだった。魔物っていうか地球でもいたただの蜂だよね。って、そんなツッコミは野暮か。特に詳しい説明もされていないけど名前は聞いたことがある。けど、実物は初めて見た。
地球にもいたジガバチだとしてもサイズや見た目はかなり怖い。顔は蜂特有の厳ついものでお腹の部分だけが黒く変色している。ウエストなのかお腹はくびれていて体には合わないほどの大きな羽が二つある。ぶっちゃけ気持ち悪い。今は静かに原っぱで足をついて大きな花に足を止めているけど……いつ動き出すかっていう恐怖もあるかな。
「確か巣まで生きたまま運んで幼虫の餌にするやつだよね」
「そうですね、ですが」
イフが指を伸ばしたので先にいるジガバチの方をむく。ステータスもあるらしく少し高めのものだ。神経毒が使える以外は毒系統においてビックモスの下位互換かな。ただしステータスはビックモス以上だ。
そんなジガバチが一瞬で頭を切り取られた。まぁ、マップで見えていたから分かっていたんだけどね。大きなカマキリだ。多分、あの大きな鎌から斬撃でも飛ばしたんだと思う。結構、冷静でいられていると思う。
「地球にいた種もいますがこの世界ではかなり弱い方です。大きくなって強くはなっていますがビックモスのように、異世界の固有種の方が強みとなる部分も多いですから。それに魔物としての性質も高く生きるために殺すという考えを持っています」
「へぇ」
「ちきゅう……?」
「うん、僕のいた世界だね」
「勇者と同じことを言うのだな。我らの知っている勇者も同じところから来たと言っていたのだよ」
「……へぇ」
個人的にはそっちの方が気になる。
だけど、今は聞いていられる時間はないかなぁ。目の前にいるカマキリはジガバチ程に気を抜いてはいないようだし。それにステータスも三千ほどでいきなり強くなっている。ジガバチで千二百くらいだからね。
「今は後だ。アミ、行くよ」
「行くのだー!」
僕とアミなら苦戦はしないだろう。良くも悪くも一体しかいないからね。グリーンマンティスってそのままの名前だけど。特徴的には群れを作らない性質みたい。これならあまり後続を気にしなくていいかな。二階層にいた魔物も一階層と変わりないものだった。ステータスも少し強化された程度だったし。まぁ、階層が上がって……下がってって言った方が正しいのかもしれないけど強くなったんだと思う。
「アイシクルランス!」
イフがいないからイメージしながら撃つっていう久しぶりのやり方で魔法を放つ。狙いはグリーンマンティスの足元で機動力を削ぐことを目的として撃った。まぁ、上手い具合に外しましたけど。さすがに三階層ともなると舐めてかかってはいけないね。
「ここだー!」
「イギャ!」
虫系は高い鳴き声を有しているみたいで一々、耳が痛くなる。グリーンマンティスの鳴き声も不快感が半端ないからそこも消し去ってやりたい。それも戦い方の一つなのかもしれないけどさ。飛ばされてきた鎌による斬撃をドレインでズラして木にぶつける。これが最大の強みなら僕には効かない……油断をしなければね?
「ビギュ!」
「それはさせません」
僕は少し驚いた。いや、それをされた本人が一番驚いているかもしれない。アミが攻撃を流した瞬間に迫ったもう一方の鎌、ぶつかる時にアミの姿は消え代わりに受け止めているイフがいたんだ。受け止めているのは真っ赤に燃え上がる二つの片手剣……多分、魔法で作った剣だと思う。心器なら見ただけで異質さを感じるはずだから。
グリーンマンティスは虫特有の火が怖い特性があるのか、ぶつかった瞬間に鎌を引っ込め再度構えていた。少し燃えているようで煙が立っているし焦げ臭さもある。
「なるほど、火魔法は使えないけど受け止める分には問題がないのか」
「そうですね、それにこれが勝手ながら創造で作れたスキルです」
「ああ、怒っていないから安心して」
グリーンマンティスが構え直したのを見て僕の隣に来たイフがそう呟く。おおよその想像でしかないけど人の人との場所を入れ替える能力かな。最近使っていなかったから忘れていたけど、そう言えばそんなチート能力があったわ。
「そしてこれが心器です」
「杖……?」
「はい、一応、都合上名前をつけさせて頂きましたがアクセラレータという名前にしています。名前の通り加速という意味を持ちますね。こんな感じです」
二つの氷の槍が作られる。
その瞬間に飛んでいきグリーンマンティスを貫いていた。緑色の血が飛び散っていてさっきの魔法が当たったんだって理解出来る。少しだけ怖く感じた。
だってさ、僕でさえ目に追えなかったんだよ。ある程度ステータスが高くなった分だけ自信はあった。テンさんレベルじゃなければ動きくらいは追える自信が今ので消されたようなものだし。
「威力増加と発射速度が高まっている感じかな」
「その通りです。早く撃つ時に余計な思考をする必要もなく、それどころか思考に対しても加速をさせてくれます。普通の人ならば処理しきれない量でしょうが私はマスターの大切なスキルでしかありませんし」
「そうだね、大切なスキルだね」
「はい」
つまりはパソコンみたいなものだ。物によっては情報処理能力が桁違いに変わってくるし、イフはどちらかというとスーパーコンピュータみたいにそこら辺とは一線を画すだけの力があるって感じかな。情報処理能力が高い存在をパソコンとしたなら僕達はスーパーファミコンってところかな。バグで飛行船を飛ばせるようにしないと……。
特に表情を変えるわけでもなく光に変わったグリーンマンティスの素材をイフがしまって僕の隣に戻ってきた。戦闘が終わったのを確認してか、後衛で黙っていた四人も近づいてくる。
「申し訳なかったのだ……」
「いや、あれは仕方ないよ。少しだけ油断しちゃったね」
「それにアミでしたら攻撃を流していたでしょう。ここぞという出番が欲しかったのでこのようなことをした私に非があります」
「おいー!」
褒め言葉とかも表情を買えなかったから本当にイフか、と怪しむ気持ちがあったけど今ので無くなったわ。やっぱりイフだ。こういう小さなところでボケを入れてくるところとかがね。
「当たり前です。表情を変えるというのに慣れていないだけですから。網膜に映す時は想像だけで何とかなりましたし筋肉を動かすことには慣れてはいないんですよ」
「ってことは筋肉を自由に動かせられるようになればもっと可愛いイフが見れると」
「そっ、それは……そうですよ!」
無表情だけど照れている、と思う……。
普通にしていても可愛いからなぁ。なるほど今だけの無表情という特典があるのか。割と話さなければクールキャラもいけそうだしキャラを捨てたジルの後釜を貰えるんじゃないか。笑う時も可愛いし無表情も可愛いし。
「褒めすぎですよ。本当に狙ってしまいそうです」
「別にいいと思うけど……って、あれ? 僕の思考って読まれている?」
「ええ、スキルですから考えていることが分かりますよ。ジルには申し訳ないと思っていますが」
ふーん……イフを離すことでエッチなことを想像し放題かと思いきやそうもいかないか。いや、今のところは困っていないんでいいんですけど……本当だし。別に童貞だからって夜な夜な一人でトイレに篭ったりしないし!
虚しくなるだけだしやめておこう。そう思って次の敵がいる場所に向かう。次はジガバチと戦ってみたい。だけどなぁ、マップにいる他の地球にもいた虫と戦ってみたいしなぁ。ジガバチのドロップもグリーンマンティスのドロップも比較的いいものだからね。ジガバチのドロップは蜂関係からか蜜と肉、そして毒針で、グリーンマンティスは肉とカマキリの鎌だった。魔眼で見ても高品質だって言うのは分かる。
「次はどっちと戦うべき?」
「そうですね、右へ進めばグリーンマンティスが三体ほど、左へ進めばモスキートーンと呼ばれる魔物がいます。単体で強い魔物か軍隊性で強い魔物……個人的にはイルルとウルルの戦闘訓練も兼ねてモスキートーンですかね……」
「そっか、モスキートーンの能力って何かあるの?」
僕がそう聞くとイフに驚いた顔をされた。
少し悩んだような素振りを見せた後で微笑みながら聞いてくる。
「まさかマスターの方から敵の能力を聞かれるとは思っていませんでした。なにか心の変化でもありましたか?」
「別に、自分一人なら聞かなくても対応出来るだろうけどそれで仲間に危険な目に遭わせたくないだけ」
「……優しさですね。まぁ、マスターが恥ずかしそうにするだけなので話を戻します。モスキートーンの能力は超音波ですね。血の匂いに敏感で超音波に当たり続けると出血を引き起こされます。ここまで聞くと強そうに思えますがここの力は大したことがなく、群棲して一斉に敵一人を超音波で攻撃するので遠距離攻撃に弱いです。また視力も弱いので出血さえなければ的外れな場所に攻撃することも多々あります」
細かいな、やっぱり知っていた方がいい情報が多かった。これからは僕も聞いてから戦うようにしようかな。そっちの方が勝率は確実に高そうだし。
「それなら六人で囲むのは難しいよね。遊撃として陰ながらに倒す人が僕とアミ、隙をついて中衛からアイリが、魔法でイルルとウルル、イフがってところかな」
「それでいいと思いますがモスキートーンの血にはお気をつけて。マスターには効きませんがかなりの毒性があります」
「アミが気をつければいいってことだなー。分かったぞー!」
「いえ、アミならば痺れを感じるほどでしょう。ですが傷ついてしまってはマスターが悲しみますからね」
「当然ですね」
うわ、何かアイリの笑みに久しぶりに背筋がゾクッとした。何というか僕が関わると性格が変化するような……そんな雰囲気がアイリを包んでいるような気がする……。
「あながち間違ってはいません。アイリの頭の中にはマスターの障壁を壊して欲望を満たすことしかありませんから。いえ、自身とマスターとのお世継ぎも」
「イフ様! そんな話はどうでもいいです!」
お世継ぎね……貴族じゃあるまいし。
何かさ、女性の中で私は行き遅れだとか言っている人がいるけどさ。僕は違うと思うんだよね。だって、もし付き合っている人が結婚してくれないって言っていても結婚が全てではないと思うし。一人の方が楽なことも多いと思うよ。
個人的には僕が好きだと思う人が何歳であろうと好きなものは好きだし。好きなら歳とかは関係がないと思う。性別は全然、関係がおると思うけど!
それにこの世界って老化が遅いらしいからね。時々、食材を買いに行く時に綺麗だなって思っていたら五十歳過ぎているとかザラにあるから。灰人狼のアイリやアミとかなら特にでしょ。魔力の扱いにも長けているミッチェルやセイラも同じかな。魔力が高い人は老いにくいらしい。
「まぁ、そんなことは今はどうでもいいかもね。必要性が無い話だし。その話をするなら今じゃなくて後だね」
「後で……お世継ぎを……」
「うん、何度も言うけどそのつもりは無いからね。一人で想像の世界に飛ばないでくれ。アイリは常識人の一人なんだから……」
軽く頭を抱えてしまう。
こんなはずじゃ……って思うのも仕方ないと思うんだ。だってさ、初期の頃の僕が怒るんじゃないかってビクビクしていたアイリはもういないし。……いいんだけど……こっちの方が好きだけど……汚い何かに触れてしまったような感じがする。
まぁ、十分に純粋なんだけど。
汚い何かって僕かもしれないね。うん、申し訳なさが半端じゃないなぁ……。僕の場合は周りの人がそういう人が多かったし。勝手に覚えていくんだよね。性根がとかじゃなくてアキみたいな意味で腐っている人も多かったし。
ギャングの人で『俺がギャングをやっているのは教育とかじゃない。環境がそうさせるんだ』みたいな話を聞いたことがあるんだ。まぁ、テレビでって話だけど。そういうのと一緒なんじゃないかな。考えも環境によっては変わるだろうし。両親があんなんなのにおかしくならなかった、いや、おかしくならないようにしてくれた幼馴染に感謝だ。また会える気がするし……フラグを立てているなぁ。
「それじゃあ、やってみるか。カバーはよろしくね」
「任せてください。加速」
「うおっ!」
走り出した瞬間に景色が変わる。
高速道路に車が乗った時のような感じだ。スっと景色が移り変わっていくのを横目に僕はドレインを構える。これがイフのサポートだし上手く使っていくつもりだ。こういうことにも慣れは必要だと思うしね。
少し早め、それを心に潜めながら振り上げる。そうすると上手い具合に羽がスピーカーのような模様の蚊を切れた。ちなみに大きくて気持ち悪い。幼稚園児くらいの大きさはあるね。手でパンって叩いて殺すことは出来なさそうだなぁ。吸血っていう嫌なスキルも見えるし。……血は僕のだぞ!
うん、ツッコミのイフがいないから虚しいな。
「キー!」
「うるさい!」
速度自体は早い。だけど対処出来ないレベルではないな。いや、攻撃方法が口の針を刺そうとしてくる感じだし、イフのおかげで見てからでも切って倒すことが出来る。アミも同様に強化がされているようでバッタバッタと薙ぎ倒していた。
それも見事に出血を躱しながらだからすごいと思う。僕はガッツリモスキートーンの血を浴びているからね。まぁ、何も影響がないけど。痛くも痒くもないや。
「アイシクルランス!」
「アクセラレータ」
「……早いなぁ……」
イルルとウルルが作り出した無数の氷の槍が弾丸のように撃ち込まれていく。初見ということもあってか、モスキートーンを倒している。僕やアミ、イルルとウルルの討伐数を含めても三十は初撃で倒したけど、まだまだ多いなぁ。群棲っていうのは嘘じゃないみたいだ。
見える限りだと四十はいそうだなぁ。
イルルとウルルに向かったモスキートーンはアイリのレーガに貫かれているし。まぁ、心配する必要性もないだろうけど。……ただなぁ。骨が折れそうな気がするよ。
アクセラレータ……うっ……ロリコ……いえ、あのイケメンが思い浮かびますね。ちなみに詳しい説明などはイフの口から後に書く予定です。割と能力はしっかり考えていたので弱くはないと思いたいです。
そしてジガバチの噛ませ犬感……きっと後に活躍するはずです。きっと……多分……もしかしたら……。
来週……土曜日は何とか出来そうですが水曜日は本当に分からないです。頑張らねば……!