4章8話 生産です
「……見ていて飽きない?」
「いえ! 楽しいです! こんな感じでポーションを作っていたんですね……」
ジャンケンを四人でしていたが勝利したのはまさかのアイリだった。幸運値で言えばアミの方が高いのに驚きだったね。地下室のベッドに座って隣にアイリがいる。そんなことを言うように僕の手にある瓶を熱心に見ていた。
一応、高魔力回復ポーションだからアイリはよくお世話になっているものだね。それを数分間で十本弱作り切った。こっちは良質過ぎて売るのが勿体無い。だから僕にとっての量産型のポーションを作っておく。
「鍋ですか?」
「そうそう、僕がやると良いものが出来すぎるんだ。何度もやる内にこれで作った方がよかったんだよ」
「なんかすごいですね」
小並感とか付きそうな顔で言いながら微笑んでくる。僕がアイリの顔を見たから微笑んだんだろうね。まずは薬草に魔力を通して液体にする。これは最近の流行りだ。別に違うやり方でもいいけど個人的にはこれが一番好き。
鍋に液体を入れた後で銀のお玉でかき混ぜながら温める。これの一番のポイントは銀の通して魔力を流し続けること。次点で沸騰させないこと。売ると言っても高品質のものを売りたいからね。この二つが欠ければ質が落ちてしまう。
温め方はガスのように強い熱量じゃないから沸騰はしづらい。時間もそこまで長くやらないから安心していい。アルコールランプみたいな道具から火が出る、そんな魔道具を作ったし。ちなみに火の大きさは調節出来る。中火までなら再現出来るしね。
ちなみにだけどお玉に持ち手とかがないから液体の熱が直に手に来る。だからアイリもベッドの上に座ったままだ。仕方ないのでアイリの方に氷と風の魔法の複合でクーラーに近いものを使っておいた。僕は要らないかな。ワイバーンの時にもっと辛かったから全然キツく感じないし。
そのままクーラーって名前にしているけどこれは元々、僕がこれをやるために作った魔法だしね。アイリも心地よさそうな顔をしている。うん、これで魔法具を作るのもアリかな。
「暑くないんですか?」
「まぁまぁかな。僕の場合はこれ以上に辛いことがあったから特に感じない」
「色々な体験をされているんですね」
「って、言っても少し前に戦ったワイバーンとの戦いのおかげでだよ」
「なるほど」
これが片手間で出来るって言った理由だ。だって、高魔力回復ポーションや高体力回復ポーションは気を逸らされれば失敗しやすい。これは片手でかき混ぜながらもう片手で作業も出来るし。片手で魔力回復ポーションを、もう片手で体力回復ポーションを作るとかね。時々やっているよ。
今はアイリと話しながらだしやることはしないかな。
「主様はなんで色んなことに秀でているのですか? 物を作ったり、近接に強かったり、魔法が得意だったり。誇らしいですが気になるんです」
「うーん……暇だから、って言うのが一番正しいかもしれない。後は僕に対して一番を取れるだけの才能があるとは思っていないことかな。だから色んなことをやって見て出来る限り上手くなる」
まさか僕がいた地球では頑張れば頑張るほどに強くなったり、上手くなったりしない世界だったなんて言えないよね。チャンスが無ければ成功せず、才能があっても上手くいかない。もっと言えば下手の横好きがまかり通る世界なんかじゃなかった。
この世界はそんなことが一切ない。
スキルのおかげで才能を見いだせるしレベルを上げて、お金を積めば何度も何度も強くなれる。頑張れば頑張るほどに強くなれる世界だ。チャンスも何でも掴むことが出来る。やる気次第ではどこまでもいけるんだ。
「才能が無いなんて」
「そうだね、ミッチェルもそう言っていた。僕は才能があるって。でもね、そうじゃないんだよ。僕の力は僕が努力して得たものじゃない」
「それでもスキルがあるから成功するわけじゃないですよね。本当に頑固ですね」
「アイリに言われたくないなぁ」
「お互い様ということで」
作業しながらも楽しむ。
それくらい出来ないと仕事の効率も落ちそうだね。まぁ、楽しすぎてもダメだけど。絶対に仕事そっちのけで遊びそうな気がするし。テスト期間中に限ってゲームをしてしまう学生みたいにね。
熱を一気に冷ましてはいけない。沸騰直前の八十度近くの液体を冷蔵庫とかに入れたら周りも熱くなるみたいな感じかな。何でかはよく分かっていないんだけど……何か劣化するらしい。こんなことなら理科とかしっかり勉強しておけばよかった。僕が熱心に勉強していたのは文系だしなぁ。微分積分ナニソレオイシイノ?
とりあえず普段通りにクーラーを鍋に当てて少しずつ冷ましていく。味付けとかはないけど鑑定をしたらかなりの良質なものだし売るには申し分ない。明日でもダンジョンへ向かうついでに売ってきてもいいかもしれない。半月は売りに行っていないからね。時間の流れが緩やかに感じていたけど護衛依頼を受けてから結構経っているんだよなぁ。
「そんな感じで作っていたんですね」
「ぶっちゃけ皆に支給しているポーションよりも高品質なものをあげる気は無い。それだったら自分達で使うしね」
「……優しいですね」
「それだけが取り柄ですから」
そう言って苦笑いするしかない。
僕の取り柄ってなんなんだろうね。皆が皆、才能があったり得意不得意がある。それは分かるんだけど誰かに上手いねとか才能があるねと言われても信用は出来ない。取り柄って言う言葉はかなり蠱惑的な気がする。上手く相手の掌で踊らされてしまいそうな言葉だ。
冷ましている間に次の工程にとりかかる。まず鍋は布の上に氷を置いてその上に乗せておいた。これで片付けて鉄鉱石を出した。素材はこれでいいと思う。これと今日、多く狩ったビックモスの鱗粉を取り出す。素材として落としたからか瓶に詰まっていたので理科でよく使っていた蒸発皿に移す。
三脚とアルコールランプのようなもの、金網を出してゆっくりと温めていく。あ、二酸化炭素中毒とかは心配しなくていい。空気の循環は空気清浄機の上位互換の魔道具を作っているし。消臭性能、二酸化炭素量調節とかをしてくれる。これ一つで室内を森林浴している気分にするくらいの逸品だ。家の至る所に置いてある。もちろん、セトさんにも渡してあるよ。
アルコールランプのようなものは本当にようなものってだけで中のルビーを使って火を作り出している。小さいから弱いけどね。ただこれは本当に温める専用の道具だし。今回みたいにずっと見ていなくても焦げることはないくらい。
その間にウルフの毛皮で持ち手を、鉄を溶かして液体にしておく。これはスキルの能力で液体にするだけで暑さは感じない。熱で、というよりも魔力で溶かしているし。あんまり気にしたことは無いんだけどね。
ところで鱗粉ってどこまでいけば効果を最大限に発揮出来るの?
【熱し過ぎると媚薬効果、つまり幻惑効果を強くします。もし麻痺などを望むのならばパチパチと音をたてた辺りがベストです】
ってことは今ぐらいってことだね。
イフの言われた通りに蒸発皿を掴む道具みたいなので取り出し、そのまま液体の鉄の中に入れ込んでかき回した。ドロドロでラメが入っているように少し輝いている。
「……綺麗ですね」
「そうだね、僕も鱗粉ってこんなに綺麗だって思わなかったよ」
「……期待した私が愚かでした……」
なんか気に食わなかったみたい。
アイリってロマンチックな考えを持っているのは知っていたけどさ、悪いけど何を言えばいいのか分からなかった。本当に。逆にどんなことを言えばいいのか教えてもらいたいね。後、そういう雰囲気でもなかったし。
特に返す言葉も無いので作業に戻る。
そのまま液体の鉄を魔力で固めていき鉄の棒に変える。その周りに銅を付けて刃を整えていく。これは手で魔力を流しながらすると綺麗になるから心配はない。それを二本分作れば終わりだ。
「出来た!」
「お疲れ様です」
剣をウルフの皮で巻き付けて切れないようにする。そのまま机の上に置いて大きく背伸びをした。バキバキと音がする。肩を回せばそれ以上の音が鳴る。うん、肩こりが酷すぎる。某湿布が欲しいね。もしくは首に付けるタイプのネックレスみたいなアレとか。
異様に疲れた。だけどイフの体を作らないといけないしなぁ。鉄鉱石とかを取ってきたから生成するのに素材は足りているらしいんだよね。人の体を作ると言うよりは人の体に近いマネキンみたいなのを作ってイフを入れるみたい。大元は僕の魔力らしいけど……詳しくは教えられないってさ。
【寝てもいいですよ?】
えっ? 本当に?
【ええ、制作方法は禁忌のやり方として知れ渡っています。多分ですがマスターが知るべきではありません。別に知っていても駄目では無いですけど尋問などで話してしまっては即アウトですから】
ふーん……それなら寝るけどさ。
イフはいいのかな。僕が寝るとなると少なくともアイリはいるよ。アイリの目を掻い潜って作ることが出来るかな。それにイフが休めなくなるし……。
【それを言うのなら休めないのはマスターですよ。知っていて言うなんて本当に優しいですよね。……大丈夫です、体が出来れば本当に休むということが出来ますから。マスターの隣でね!】
うおっ! 久しぶりに網膜の中にイフを投影してきたな! なんかすごく可愛らしく感じる。そっか……体が出来れば休むことも出来るんだね……。顔は変えるの?
【ええ、マスターの好みから私なりに好きな感じにします。……起きてからのお楽しみですね】
手を後ろに回してクスクスと笑ってくる。
僕が小さく笑っていると不思議そうにアイリが僕のことを見てきた。特に何かを聞いてくるわけじゃなさそうだ。
「アイリ、今から僕の体を使ってイフが作業するみたい。だけど気にしないで」
「……えっと……よく分かりませんが分かりました」
「うん、いい子だ」
一人用のベッドにアイリを寝かして僕も隣に行く。問題は僕が寝られるかって言うだけで他に問題はない。僕の体を動かすのはイフだからね。下手に使いはしないさ。
「ひゃっ!」
「本当に可愛いな」
「う、うるさいですね! 早く寝てください!」
「……そうだね」
小さく欠伸をしてからアイリの横顔を見つめて眠りにつく。少しだけドキドキして眠れない、そう、明日が修学旅行の高校生みたいな気持ちだ。だけど、アイリの匂いのせいか勝手に僕は眠っていた。ただ一つ覚えているのはアイリが小さく寝息をたてていたことくらいだろう。
ようやく! ようやくイフの具現化フラグを回収出来ます! 案外、呆気ないかもしれませんけど。これが終わればダンジョン攻略。からの本当の4章の始まりです!
※来週、再来週は少し忙しくなるため投稿頻度が落ちるかもしれません。来週の水曜日の分は書けましたがその後が続くか分からないです。遅くても再来週の土曜日には出せるようにするので温かく見守っていただけると幸いです。もしかしたら時間が取れて休みなく出せるかもしれませんが……出来ればいいな(願望)