4章3話 カマイタチです
少し短めです。
「さて、やろっか」
カマイタチの喉元をかいてみたが大欠伸を一つするだけだ。風魔法を自由に扱うだけあって僕の速さ程度じゃカマイタチの表情は変えられないみたいだね。逆に心地が良いみたいだし。
これってどうすればカマイタチも戦う準備をするの?
【任せてください。調教、ほど酷くはありませんが教えこみましたので一緒に戦ってくれるはずです。一応、異世界人には分からないように『ゴー』という言葉を合図にしました。耳元で囁いてみてください】
ゴー、ね。了解。
「ジルは僕の背中に捕まっていてね」
「さっきみたいな速さはこりごりなんですけど……?」
「さっきよりは遅くするよ。安心して」
「それでも!」
「もう! 焦れったいな!」
面倒になってきたのでジルを背負って走る準備をする。片手にはドレイン、もう片腕には巻きついたカマイタチがいる。目の前の草むらを少し出ればそいつらがいる場所だ。
こんなことで時間を使っていてはどっか行きそうだし。織田信長の桶狭間の戦いのように奇襲が出来る今がベストなんだよね。さて、行きますか。
「カマイタチ、ゴー!」
「キュイ!」
腕から離れ飛び出すカマイタチの背後をついていきながらドレインを振るう。先程よりは遅いけど十分に早い速度だ。一刀のもとにオークナイトを伏せる。さすがにこのレベルなら楽勝だね。
「コロス!」
「キュル!」
声が聞こえたので振り向いてみるとカマイタチと向かい合っているオークキングがいた。ステータス的に言えばオークキングの方が格上だけど……カマイタチも負ける気なんてなさそうだなぁ。
声がするってことはオークキングが人を殺したことがあるってことだ。大したことのない知能でも馬鹿の一つ覚えのように、挑発のために覚えているんだよなぁ。マジで胸くそだと思う。
まぁ、任せよう。今のところは新規パーティとして僕、カマイタチ、ジルで組んでいるからね。
「……しっかり捕まっていてね。お姫様」
「はっ、はいィィィ!」
やべっ、ジルの返事の最中に走ったせいでジルの声が伸びている。いやー、申し訳ない。後で謝ろう。
「カマイタチがオークキングをやるのなら僕は雑魚狩りだ。アイシクルウォール!」
カマイタチと僕とを分断させて自由に戦ってもらうことにする。僕は目の前にいるオークジェネラルが七体、オークナイトが二十の群れを滅ぼす。ただそれだけだ。それにステータス的に言えばカマイタチが負けていても、それなら僕があそこまで悩む必要はなかったからね。しっかりとそれを覆す何かをカマイタチは持っている……はず。
危なければ助けに行く。それだけだ。
忘れがちだけど魔眼の鑑定で例え壁で隔てられていても中の状況は分かるしね。
「ブアァァァ!」
「怒らないでよ。こっちも仕事なんだ」
嘘だけどね!
「アイシクルランス!」
オークジェネラルを倒しきれるだけの魔力は入れていない。どちらかというと本当の雑魚であるナイトを全滅させるために放ったんだけど……なぜかオークジェネラルが跳ね返していた。
オーク内での仲間意識は限りなく低い。だから普通ではありえない事のはずなんだけど。それが目の前に起きていれば戦い方も変える必要があるかな。まぁ、アイシクルランスを跳ね返したとは言ってもオークジェネラルが無傷でいられるわけではない。それだけ質よりも量を重視したしね。
その間にオークジェネラル達はジリジリと前進してくる。中には膝をつきそうなほどに息を荒らげている個体もいるな。普通にオークジェネラルの中でレベルも低い個体だから仕方が無いか。
「第一陣でへばってどうする?」
指をパチンと鳴らしてイフが展開していたアイシクルランスを撃ち込む。一の矢が終わったら二の矢を放つ。その次は三の矢と撃ち込み続けるだけだ。
「ジルに言っておくけどこの後は魔法だけでコイツらを倒す。だから、よく見ておいて」
圧倒、それをジルには見せたかった。
それに剣とかの武器がなければ僕は魔法に頼るしかない。その時に扱いが微妙なら負けは確定だ。……相手が格上だったらね。とか言いつつも長引かせる気もないからやる意味は全然なさそうだなぁ。
「しっかりと見ておきます! 配慮ありがとうございます!」
……うん、そういう良い意味で捉えてくれるのならそのままにしておこう。確かに魔法だけならあまり動かないしね。そうそう、最初からジルに配慮するために魔法で戦うって決めていたんだぁ……。
【大嘘つきですね。これはやはりミッチェル達によるお仕置きを】
すいません……。
心の中で謝りながらイフの構成した魔法を展開させて撃ち込む。
「アイシクルバレット!」
さっきよりも威力を高くしている。
ここにいるオークジェネラル達の武器は割と良質なものだしね。狩りに来て逆に狩られた冒険者か、はたまた進化で手に入れた武器なのか。どっちでもいいけどあまり傷つけずに奪うつもりだ。お金お金ー! 我は守銭奴なり!
先程のアイシクルランスが続いてくると思い構えていたオークジェネラルの足を貫いていく。わざわざ二回も同じ魔法を使って同じ魔法だけで戦うとは限らないだろ。やっぱり馬鹿だ。
アイシクルランスとアイシクルバレットの違いは速度と威力にある。ランスの方が大きい分だけ威力はあるけど目で追えないほどの速度ではない。弾いたり躱すくらいはオークジェネラルでも出来るだろう。だけど、アイシクルバレットはランスより少し威力が劣る代わりにスナイパーレベルの速度で撃ち込める。ランスで目が慣れていれば即座に変えられないよな。
まぁ、このまま生かすつもりもないけど。
「アイシクルバレット」
次は脳天を撃ち抜いて前衛に立っていたオークジェネラルを地に這わせる。それだけじゃなくて後衛にいたオークナイトにも被害を出させて頭だけを吹き飛ばした。オークの素材で使えないのは頭だけだからね。
【珍味としてオークの脳みそとかが売られていますよ?】
それは知りたくなかった。それに僕にはいらないからやっぱりこの戦い方で正解だったかな。ジルのステータスも上手い具合に上昇しているし。まぁ、ジルからすれば圧倒的な格上だから当然かな。千ちょっとだから今なら進化したてのオークジェネラルと対等に戦えそうだなぁ。武器が弱いから戦わせられないけどさ。手馴れた手つきで回収を終える。
アイシクルウォールをとく。その瞬間に突風が吹き荒れて目が乾き始めた。当然だけど突風を起こしているのはカマイタチだ。その風の強さはかなりのものでオークキングも近付けていない。
「全体攻撃か……」
かなりの風の強さの中にカマイタチの名前の通り辻斬りを行う風がいる。それもかなりの威力のようでオークキングの硬い体を傷付けていた。って言っても浅い傷だけどね。それでもオークキングを怒らせるには十分か。
ぶっちゃけ、僕からすれば風の威力は大したことがない。だって僕を傷つけられるだけの威力はなさそうだし、あまり丁寧に作っていないアイシクルウォールを破れないほどだから。だけど、そこじゃない。
僕達の方に風は来ても傷つける風は一切来ていない。つまりそこもコントロールした上でカマイタチはオークキングを傷つけているってこと。両方の風を一人、いや、一体で操っているってことだね。イフがいれば別だけど僕なら出来るかなって思う。
それに傷つけている場所も同じ箇所だ。水滴石を穿つって言うように小さな傷が徐々に開いていって大きな傷へと変えていた。多分だけど一番MP消費の薄い攻撃方法にしているんだろうね。ステータスを見た限りだと消費はごく少ないし。
「コロ……」
それから数秒して胸から真っ二つになった。
最後の断末魔がコロって結構、滑稽だなって思ったけど、この言葉を叫んでいた人がいたって考えると笑えないな。それにコロスしか覚えていないってことはそれだけその言葉を言い続けていたってことだ。死んで当然だよね。……やばい、僕の考えが人から離れている気がしてきた。
「キュルル!」
「あー、よく頑張ったね。後で血を落とさないと」
「キュウ……」
カマイタチ自体は水があまり好きじゃないみたい。旅をしてから体を洗おうとする度に逃げようとするしね。猫みたいだけど関係がないみたいだし。まぁ、このままでいられても困るし洗うけど。洗浄? 何それ? モフモフを楽しむために洗うんだよ?
少し血で固まってゴワゴワになったカマイタチの毛を楽しんだ。案外、これも悪くはない。まぁ、モフモフの方が柔らかくて好きだけど。それに今日はそれなりに良いアイテムも手に入った。結構、来て正解だったね。
「さて、帰ろっか。ジルのレベルも上がったからやりたいことも終えたし」
「……格の違いを思い知っただけですね。まだまだ頑張らないといけません」
ふんすと両手で握り拳を作って意気込む。
後で模擬戦でもさせてみるか。戦闘だからこそ得られることも多いだろうし。ジルの場合レベルアップの速さが強くなる秘訣だしね。あまり多くはないけど模擬戦で得られる経験値もあるし。
その夜はそのまま帰ってカマイタチを洗った後でミッチェルとシロ、カマイタチと共に眠りについた。少しだけ帰りが遅いって怒られたけどね。
後は道中でのイベントを書き終えてからエルドのイベントになると思います。エルドの過去を書く予定ですがあまり良い過去ではない気がします。今のうちに予防線を張っておきますね。
※これは未確定なのですが少し仕事が忙しくなってきたため投稿頻度が落ちるかもしれません。一応、そのようなことが起きないように善処するつもりですが仕事のことを決める権利は私には無いので、どこか頭の隅に置いて頂けるとありがたいです。