4章1話 珍しい組み合わせです
傾向、久しぶりのギド視点は長めになりがち。ということで長めです。
「暇だってー!」
僕は暇になっていた。いや、暇になるよね。だって、ここ数日間、馬車の中で休んでいてくださいって言われるんだよ!? ワイバーンを倒したから疲れているだろうからって。ここまで休んだら外に出させてくれてもいいじゃん!
「わっ、私の膝枕じゃ不十分でしたか?」
「そうじゃないけど!」
ミッチェルの膝枕は本当に至高だ。だけど僕は動きたいんだよ。休み続けるっていうのはものすごく辛い。動くこと自体が好きなわけではないけど外で歩いたりとかはさすがにしたいよ。
「ねぇ……外出たらダメ?」
「そ、それは……」
「ミッチェルはお兄ちゃんに甘すぎる。だからシロが膝枕をする」
「それは却下です」
いつも通りシロの願いはミッチェルに却下されていた。うーん、シロもちっちゃいから膝枕してもらうと頭を置く場所が定まらないんだよな。後、細いから折れそうで怖いし。女性としては普通だけどミッチェルの太ももが膝枕には丁度よすぎるからなぁ。
「シロは抱き枕にするから」
「抱き枕、飽きた!」
何を言っても曲げる気がないだろうな。
って、そうじゃなくて。
「そうじゃなくて外に出るの!」
「駄目ですよ」
「それは駄目」
「なんで!?」
『怪我をするから(です)!』
「僕は子供か!」
僕だって自由がある。そう、この太ももは僕を駄目にするクッションみたいだ。モチモチした柔らかい感触で頭を置くと眠気を誘ってくるし。ってか、見上げたらミッチェルの優しく見守ってくれる表情が可愛すぎて辛い。
「一緒に戦おうよ!」
「戦うのはいいですが今は他の皆さんに任せましょう」
「信用も大事」
「信用してるけど動かないと体が鈍ってしまうんだよ!」
ギュッて抱きしめた時のシロのモフモフもミッチェルの太ももも良いけど駄目だ。本当に暇すぎるんだよ。ゲームとかがあるならまだ別だけど無いし。……散歩をするの。
「ぶぅ……」
「不貞腐れてもダメですよ」
「可愛いけどダメ」
「……行かせて?」
僕がやるのは明らかにおかしいと思うけど上目遣いでミッチェルのことを見てみた。悪いけど他には作戦が思いつかないんだ。同士諸君、すまないな。僕はこれで外へ出る権利を獲得するのだ。
「……仕方ありませんね」
「ミッチェルは甘過ぎる」
「一緒に外に出れるんだよ?」
「それはいい。けど……」
「まぁ、外に出たいだけだしね」
やることがないから外出たいだけだしね。
とりあえず昼ご飯になるまで現在護衛を担当している鉄の処女に任せることになった。時間にして、一時間ほどだけ至福の時間を過ごして日に三回しかなかった馬車から出ることをした。
「食事の時間ですね!」
外へ出たらジュルリと僕を見て口を袖で拭くジルがいた。護衛依頼が始まってから僕達の食べている食事をねだってくることが多くなったんだよね。普段食べているご飯より美味しいらしい。
「今日は何を食べるの?」
「キャロさんが言うには簡単な肉野菜炒めらしいです! 熟成させたオークナイト肉で作るらしいですよ!」
両手をブンブンと上下に振るって喜びを表現しているジル。……うん、普通にこうしていれば可愛いんだけどね。時々、ご飯が関係してくると野生児みたいになるんだよね。それも可愛さなのかな。
そのままジルに連れられて外で食事をした。本当は馬車の中でも良かったんだけど全員で食べられるほどの広さを持つ部屋はないらしいんだよね。だから外にしてもらっている。外に出る口実にもなるし。
食事も終えたところでミッチェルとシロと一緒に外に出た。まだまだ街道が続いているから本当に旅って感じがする。歩くのは楽しいから割と好きなんだよな。
「おっ、敵だ」
「お見事です」
一応、敵は出てくるけどゴブリンとかだからワルサーの標的になるだけだった。ゴブリンのレベルも魔法国にいた時の方が高かったから一撃だし。……あれ? 王国の魔物って案外弱いのかな?
そんなことを考えたけど前にイフが首都近くは強い魔物ほど早く狩られるって言っていたからそのせいなんだろうね。となれば冒険者達も切磋琢磨って言葉も生易しいと思うくらいに争っているだろうし。
「つまんなーい!」
「強い魔物が多い方がおかしいですよ。我慢しましょう」
本当にその通りで。平和が一番だからね。そのために戦うことも必要だし誇示する強さも必要だ。その人達に魔物討伐を任せるのも一つ。平和ラブ……だけどさ、強い敵と戦いたいよね。せっかくの異世界なんだし!
と、まぁ、そんな願いも届くわけがなく自分達の番が終わって夜が訪れた。いつも通り食事も終えた後でフゥとため息をつく。ミッチェルとシロに頼んで少しだけ一人にさせてもらった。
薄暗い森の中で椅子を一つ置き腰掛ける。
綺麗だった。僕の頭に残っていた感情はそれだけだ。薄暗い森を照らしている光は頭上に輝いている月達。赤い光がより幻想的で恐怖心を煽るような気持ちにさせてくる。
「いい眺めだなぁ……」
感慨に浸りたいわけではない。それでも僕の口からこぼれた言葉は見えている景色に対する直球的な感情。割と嫌いじゃないかな。一人で見るには勿体ない景色だったのかもしれない。
「何を黄昏ているのですか?」
「ああ……ジル……」
「すいません、嫌な気にでもさせてしまいましたか?」
そんなことがないって分かっているからだろうね。ジルも笑いながら口元を隠して聞いてきているし。……話しかけられるなんて珍しいな。
「別にそんなことはないよ。どうかしたの?」
「明日のご飯の話をしに来ました」
「気が早いね!」
「冗談ですよ」
少しだけ焦った。いや、今食べたばかりなのにご飯ご飯って……ボケた老夫婦みたいな会話だよね。おじいさんや、朝食はまだか的な感じで。
【おばあさん、ご飯はさっき食べたでしょう】
それじゃあ、昼食はまだか?
【おばあさん、ご飯はさっき食べたでしょう】
それじゃあ……っていつまで続ければいい?
【飽きてきたのでもういいでしょう】
そっか、こんな話をしているせいか少しお腹が減ったんだけど。……いや、話したら絶対に何か作ってくれるだろうけどさ。作業中でも放って食事を作ってくれそうだから申し訳ないんだよね。って、そうじゃない。
「本当は?」
「少し時間が空いたので来ただけですよ。あんまり話をした記憶もないですし。暇そうな人がお一人いらっしゃったので」
「こう見えて暇じゃないんだよなぁ」
「それでは時間を借りさせていただきますね」
冗談が全くもって通用しない。
堅苦しい人は冗談を真実だと思ってしまうけど、ジルの場合は正反対の意味で効かない。なんだろう。堅苦しそうな人だなっていう最初のイメージが全然、今では見当たらないな。
「ほら」
「ありがとうございます」
立っていられても疲れそうだから椅子をもう一つ出してジルに座らせた。ジルもミドも鎧を外しているのは見ていたから座ることに問題はないと思う。少しドレスに近い、フリルって言えばいいのか分からないけど、スカートみたいなのを履いていたから座るのに苦労していたけど。
少し距離は離れているけど特に座ってから眠そうにするだけなので埒が明かない。眠かっただけなのかな。それなら馬車の中で寝ればいいのに。……全部ミドに任せて。
「それで話って何?」
「えっ? ありませんよ。特に話さなければいけないことなんて」
「……意味が分からないなぁ」
苦笑するしかない。今まででこのタイプの人とは話したことがないかも。……緩いわけではないんだけど雰囲気がフワフワしているかな。どんな発言で失敗するか分からないのが難しいね……。
「まぁまぁ、雑談ですよ。それとも嫌でしたか?」
「別にいいけどさ、どんな話をすればいいかなって」
「話さずとも心で語ればいいのではないでしょうか。そう、こんな感じで」
そう言いながら少し離した椅子を隣まで運んで座り直す。わざわざ近づいてくる意味があったのかな。……って、近すぎる!
「……ジルってあんまり人と関わってこなかったでしょ」
「そうですね。なんで分かったんですか?」
「距離が近いから」
「普通ではないですか? 他の女性達との距離はもっと近かったですし私だけ仲間外れは酷いですよ。仲間外れはミドだけで充分ですから」
ミドは仲間外れ確定かよ……。いや、そんなキャラだから否定はしないけどさ。ミドもミドで受け入れてそうだし。いじられキャラもここまで来ると可哀想だな。
「仲間外れにはしないよ。だけどジルとミッチェル達では立場が違うでしょ」
「一緒に暮らしていないからでしょうか。そのようなことで近すぎると言われても……」
「というかね、あんまり女性に対する免疫がないんだ。だから、やめて欲しいだけだよ」
ぶっちゃけて言えばミッチェル達は慣れてきただけなんだよね。不意にドキッとすることはあっても数ヶ月、朝から夜まで顔を見ていればさすがに慣れる。夜、一緒に寝ることも多いからね。……贅沢な悩みだなって突っ込まれそうだけど。
綺麗所は多いと思うよ。特に冒険者の仲間とか配下とかって扱いだと思うんだけどさ、男性陣のロイスとエルドは可愛さと凛々しさでファンクラブもあるし。女性陣もその人その人の魅力があるから個々で人気が高いんだよなぁ。何度か刺されかけた経験もあるし。
まぁ! ミッチェルのおかげで未遂でしたが!
「……ん? なんでそんなに嬉しそうなの?」
「い、いえ……私なんかでドキドキでもされているのですか?」
「いや、するよ? 普通に考えてジルは綺麗な方だし。たくさんの女性を仲間にしているって言われているけどさ、そんな節操なしにドキドキする心臓ではないよ」
そうだよね、そうじゃないと死にたくなるんだけど……。僕の心臓は簡単にドキドキしてしまうような八方美人の節操無しです。文面だけでもこんな肩書き絶対にいらないって思えるね。誰かに譲ろう。ミドとか。
僕がそう言うとジルも満更じゃないようで頬に両手を当てていやんいやん……まではいかないけど俯いて色々と独り言を呟いていた。うん、案外エミといい勝負なんじゃないかな。乙女的な意味で。
「って、そうじゃなくて。普通の話をしようよ。こういうことを話すのもいいけどさ。どうせなら僕はジルのことを聞きたいかな」
僕に関する話は僕自身が不利だ。知られたくないこととかポーカーフェイスが通用しなくなってくるしね。そうなるくらいならジルの話に切りかえた方がいい。
「私のことを知りたい……」
少しだけ漏れる言葉が怪しい感じがしているんだけど……まさかね……。いや、信じよう。僕がジルを信じなければそういう系統になってしまうはずだ。僕とジルの間にはおかしなところなんてない。そう、Be coolだ。少しでも心の中におかし考えを残してはいけない。
「まぁ、そういうことだね」
「なんなりとお聞きください。私の話せることならば話してみせましょう」
「うん、目がおかしいけどそうさせてもらうよ」
なんだ……ジルの目がギラギラしている気がするぞ。まぁ、気にしない気にしない。気にするよりも質問を考えないと。ええと、例えば何があるかな。……地球じゃない分だけ思いつかないなぁ……。ゲームデッキとかアニメデッキとか音楽デッキとか……自然な質問が全部パァだし。
「ミドとジルっていつからの知り合いなの?」
「魔法国の騎士となってからですね。そもそもの話、私達が貴方に会った時は騎士になってすぐでしたからね」
「えっ? そうだったの?」
ジルは首肯した。
それならあの時にウルフとかに苦戦していた理由は分かるんだけど……それならもっと良い兵士をセイラに付けろよってセトさんに嫌味を言いたい。大切な娘のはずなのに。
「分かりますよ。なんで私達だけを付けたのかって話ですよね」
「悪いけど、そう思ったね」
「あの時は王国からの兵士を出してくれていたんですよ。ただし帰る時には掌返し、行きは良い良い帰りは怖いです。貴族としての立場上、相手の顔を潰さない為にも断れませんでしたから」
なるほど……仕方なかったのか。
それを聞いて少しだけ安心した。セトさんの口振りからして娘ラブの人だからなぁ。そんなことをしないって分かるから疑問になるんだよ。……君と早く出会いたかったって言っていたけど……何かあるんだろうな。
って、暗い考えはなしだね。ジルのことを考えて質問をしないと。そうじゃなければ失礼だ。
「そっか、まぁ、あの時に比べればジルも強くなったしね」
「ええ、兵士としてもある程度の地位につけるくらいの力ですから。……なんなら試してみますか?」
「……手加減は出来ないかもよ?」
「それならばやめます。負けるのは目に見えていますし」
手をあげておどけて話す。
とはいえ、僕も強くなったジルは見たいんだよなぁ。……今って何時くらい?
【私はスマホじゃありませんよ。ちなみに八時ごろです。寝るにしては少しだけ早いですね】
なんだかんだ言って教えてくれるイフのこと大好きだよ。後、ありがとう。……まだまだ時間はあるかぁ。明日はセイラに言って休みをあげればいいだろうし。
「それなら森に行かない? 一緒に行動したことは無いし他の皆とは違っていつでもあえるわけじゃないしね」
「……ですが、護衛任務がありますよ?」
「セイラなら融通が利くだろうし便宜も図ってあげるから心配しなくてもいい。どうかな? 話すだけだと詰まるでしょ?」
「……やはり皆さんが貴方を慕う理由がわかりますね。休めるのなら行きますよ。そして明日はミドに……ふっふっふ……」
嫌な笑みが零れているけど……ドンマイ、ミドよ。強く生きろ。僕とジルは夜の森に遊びに行くから。
【最低です! 夜の森でイチャつくんですね! 私を置いて!】
なんとでも言うがいい! ってか! イフはいるだろ! ……早く胴体を作ってイフを置いて二人っきりで遊びに行けるようにしなければいけない……。
【その時は私はスキルとして体の中に戻ってみせますよ! 私は不滅だ、です!】
イフの言葉に軽く絶望……は嘘だけど浮気は出来ないなと心に誓った。いや、する気もないけど。皆を悲しませるだけだし。僕はジルの手を取って夜の森へと足を踏み出した。
ご飯食べた後にお腹が減るって時々ありませんか? 僕は夏バテに近いのか最近は冷たい麺類しか喉を通らずに頭を悩ませていますが……。次回は多分、ジルとギドの二人で狩り(遊ぶ?)になると思います。お楽しみに!