表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/273

閑話 不和

短いですが……。

後、視点がコロコロ変わります。少しだけ書き足しするかもしれません。

「あ……あ……」


 ポータルでダンジョンの一回に戻ると桜が泣いていた。そして大輝の胸ぐらを掴む幸太。誰もそれを止めようとはしない。いや、今来たばかりのナートと紀伊も止めようとはしなかった。


「なぜ、勝手に開けた?」

「宝箱があったら開けたくなるだろ?」


 幸太の問いかけに大輝は興味が無さそうに聞き返した。瞬間に幸太の右手が大輝の左頬を打った。幸太の本気に近い一撃を受けても大輝はニヤニヤしながら幸太を見る。


「面倒くさいな」

「……ユウキが死んだんだぞ……」

「違うな、穴に落ちただけだ。死んだ確認は出来ていないだろ」

「お前が言うな!」


 大輝の胸ぐらを掴んだまま幸太は大輝の背後にあった大木まで押し付けた。ドンッと鈍い音がしても押し付ける力を弱めることなく睨みつけ続けた。


 もし少しでも悲しげな顔を見せたのなら幸太がここまで激情はしなかっただろう。だが、大輝はニヤニヤしたままでそう言い切り煽るかのように幸太を見つめるばかり。強い強くない以前に多少、生死を共にした優希に仲間意識を抱いていた幸太には辛い言葉だった。


 再度、殴ろうと振り上げた手を止められる。


「それ以上はやめろ」

「……リュウヤ……」

「はっ! 殴ることも」


 大輝の言葉はそれ以上続かなかった。

 幸太の殴打を止めた竜也が大輝を殴る。それも本気で殴ったせいで幸太の比ではないほどに吹っ飛び何回か回転してから他の大木にぶつかり止まった。それでもニヤけることは止めずに見下すように竜也を見た。


「仲間一人消えたくらいで悲しんでいるようじゃたかが知れているなァ!」

「それで結構だ。俺は俺なりの勇者になる。お前の言うようにユウキはきっと生きているはずだ。それに賭けるだけ」

「甘ったれが!」

「……どっちが甘えているんだろうな」


 変わらずに冷ややかな視線を送り続ける竜也に興が冷めたのか、大輝は「ちっ」と舌打ちをしてから立ち上がった。軽く体に付いた土をほろいながら大声で叫んだ。


「やっぱり俺にはお前の仲間は向かねえわ。じゃあな。また会ってしまったら会おうぜ。そんなことねえことを祈るけどな。クソ勇者!」


 指を鳴らした後に大輝のパーティメンバーも本人も消えてしまう。驚く人も多い中で竜也は一言だけ呟いた。


「……勝手にしろ」


 ナートはその姿を見て軽く頭を抱える。


「……さて、王に何と言い訳をしようか」






 ◇◇◇






 ダンジョン攻略を終えた三パーティが王国に戻ると王様に呼ばれることになった。特に詳しい話は聞かされず拒否することも出来ないので全員が王の間へと通された。


「ダンジョン攻略、ご苦労であった」


 普段なら全員が膝を付くところだったが誰も膝を付くことをしなかった。紀伊達が膝を付かないのはいつも通りのことだったが、ムッノーもナートも竜也達が膝をつかない事には内心、驚いていた。だが、勇者が相手ということもあり強くは言わずにムッノーは続ける。


「それでは疲れているところ悪いがダンジョンでの報告を頼みたい」

「……ヤナギユウキが新階層にて大穴に落ちて消息不明。タイキ率いるパーティが全員離反しました。以上です」

「……なるほどな」


 淡々とした物言いにムッノーは竜也が今回のダンジョン攻略にて変化があったことを悟る。少しだけ顎に手を当てて思案した素振りを見せた後に微笑した。


「それならばナートを含めた兵士に調査をさせよう。その階は誰も見たことがないだろうからな。もしかすると新発見がーー」

「やめてください!」


 ムッノーが続けようとした言葉を途中で遮り竜也が目の前にいる貴族達を睨んだ。自身の目の前で起きた惨劇が竜也の死という不変の恐怖を煽っていたのだ。少なくとも竜也という存在は人を大切にしようと考えていたわけではない。そういう意味では勇者に足る存在なわけがなかった。だが、今の竜也を偽勇者と馬鹿にすることも出来ない。


 何も無かった。戦う理由もなかった。本気で全員を守ろうとは思ってもいなかった。それを竜也は理解してしまったのだ。ただそれだけの事が竜也の胸を強く苦しめた。


「……アイツには触れてはいけない。ナートさんを、兵士を連れていっても無駄死にするだけです」

「……ふむ、ご忠告ありがとう。だがな、勇者の話と言えども兵士は国に使われるためにあるのだよ。死を受け入れていないのならば兵士になってはいけない」


 竜也の言葉に身勝手な持論を持ち出した貴族がいた。確かに兵士が教育を受ける時に王国の兵士は王国のために死ねと教えこまれている。それは確かなのだが……明らかな非人道的な発言に竜也は激怒した。


「ふざけるな」

「貴様……」


 貴族との距離を詰め首元にデュランダルを当てた竜也は下から睨み続ける。一触即発の状態の中でムッノーは何もせずにその二人を見つめていた。ナートも止めようとしたが命令も受けていないために動けない。


 兵士もだがムッノーからすれば貴族も代わりがいくらでもいる存在でしかないのだ。労力を考えれば勇者よりも貴族を殺す命令を出すだろう。だが、ムッノーは何も言わないのだ。竜也を止めろとも、貴族を止めろとも。だから兵士長であってもナートは何も出来なかった。


 そんな中でパンと音がした。


「まあまあ、その程度で。それならばダンジョンは一度、閉鎖を致しましょう。勇者様が珍しく意見を出していただいたのですから。それに本当であればナートという優秀な存在も捨てることと同義です」

「……リュード……」

「剣聖……」


 竜也は仕方なく、貴族はギリギリと歯で音を立てながら忌々しげに呟いた。そっと下ろされたデュランダルに貴族は表情を強ばらせながら竜也を睨みつける。


「……剣聖がそう言うのだ。そうしようではないか」

「……ありがたき」


 嫌々ながらも竜也はムッノーの言葉に感謝を述べた。紀伊は俯きながら「この国に未来はないな」とそう考えてから頭を上げ少しだけ豪華に装飾されただけの天井を見た。






 ◇◇◇






「……魔女の躍動……嫌な気配ですね」


 暗闇の中、青白く光る大きなカプセルに入れられた女性を見つめながら、剣聖は小さく声を漏らした。そこには明らかな恐怖があり中の女性は笑顔のままだった。


「……絶対に逃がしませんよ」


 真紅のドレスを身にまとったリュードは薄く微笑み、カプセルにワインをぶっかけた。

次回からギド目線の話に戻ります。予定ですがエルドとキャロ、イルルとウルルにフォーカスを当てようと考えていますが中心はセイラです。多分ですがセイラがメインになるのは確実だと思います。


どのような話になるかは楽しみにしていて貰えると嬉しいです。……優希君などは後から書く予定なので少々お待ちください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ