閑話 初依頼
書けたので投稿します。
「良い依頼がないな」
「遅かったのかな……?」
紀伊達、三人は依頼板の前で唸っていた。
手には二つの依頼の紙を取っていたが満足したものでは無いようで、何度も何度も見返した依頼板を眺めては唸り、唸っては眺めている。
割と朝早いということもあり依頼は完備されていて、またフレクの助けもあって難易度がCまでなら依頼を受けることが出来た。ただいかんせん、その依頼が大したことがない。
もし受けられる最高難易度のCの依頼だとすればオークナイトやゴブリンジェネラルの討伐くらいだ。それも常日頃から置かれている依頼なのでわざわざ受けてクリアする依頼だとも思えない。
このような依頼は倒してきてから素材を提出すれば完了となってしまう。なのでわざわざ受ける必要性もなかった。
これは少し仕方が無いと言える。王国はかなり大きな国家でありSランク以上の冒険者達も多くいる。強い魔物が現れれば冒険者達の的になるし、ましてや王国の都市の一つであるダージを捨てられるわけもない。兵士を出すくらいにダージは重要な都市として認知されている。
何よりもSSSランクのフレクがいるのも一つだが。強すぎると認知されればフレクが出ざるを得ない。さすがにSSSランクともなれば王様との関係も深い。なので勅令を受けることも少なくないのだ。
「仕方ないか……」
そう言って本当に仕方なさそうに紀伊は依頼の一つを手に取って二人に見せた。ランクはDでオークを討伐してくるものだった。これも素材提出のみでクリアとなる依頼だったが二人がそこを突っつく理由もない。だが、自分の目的は森にあると考えて無理やり本心を説得した。何も無いままで三人はその依頼を受けて森へと出た。
森は軽く舗装されており獣道よりは歩きやすい道が続いていた。ただし馬車などが通れるほどの幅ではなく、あくまでも冒険者達のような存在が進むためにあるような道だ。
そこを進むに連れて紀伊や桃李が威圧を出しているにも関わらず力の差を量れない魔物達もいる。そのような雑魚は紀伊の空兵の餌食となっていた。だが、雑魚は雑魚なので大した経験値は貰えずにウザったいだけである。
「……めんどくさ」
「ここまで多いとな」
紀伊の独り言に桃李は頭を搔く。
雑魚はどこにでもいるが倒すだけの価値もなく報酬も少ない。一応、紀伊が売れる素材だけを回収しているが大した金額にもならないことは理解している。王国の相場で言えば五体で銅貨一枚程度だ。……農村の村人よりは良い報酬とは言えるが。
ただ三人からすれば大した金額ではない。未だに売っていないオークジェネラルでも売れば金貨数枚にも及ぶ。ましてや討伐報酬もかなりのものだ。ゴブリンの死体の山がいくらあればそこまでの金額になるか。塵も積もれば山となるとは言うが月とスッポンもの価値の差があれば同じ口は叩けない。
すぐに紀伊は無視するようになった。無視する方が楽なことに気がついたからだ。そもそもの話、桃李が放つ威圧感によって雑魚は目の前で気絶する。そこを攻撃しなければいいだけの話だ。空兵の銃弾を作る時にもMPは消費してしまうのだから本当に無駄でしかないと紀伊は考えた。
ある程度、奥まで進むと道はなくなった。舗装も何もされていない普通の森の中。そこをさらに歩き紀伊はどこかへと向かう。特に詳しい話も聞いていないが二人はついて行くだけだ。
「ブウァァァ!」
「もうちょっとで目的地に着くから」
そう言いながら威圧感を消した紀伊の元に来たオークの命を刈りとる。空兵ではなく手に入れたての幻影の大剣で、だ。ちなみに命名は健がしており改造を施した後に紀伊に対して「これは光と闇を司る剣だよ」と片目を手で隠しながら渡していた。行動だけを言えば素直に厨二病である。
健が施した改造は一つだけだ。能力の改変は時間が足りず出来てはいないが重量に関しては変わっている。というよりも振る側と受ける側では重量が違うように変えていた。
一振した時に紀伊は軽く、受ける側は元々の重量から来る一撃を止めなければいけない。健なりに武器のメリットとデメリットを考慮した結果、作り上げた性能だった。
そのせいか桃李と健の武器に関しては名付けも改造も施されていない。だが、紀伊の武器の改造だけで十分だった。
倒した後に借りていたマジックバッグに健がオークを回収していたのだが、もちろん、オークがあのような大声で雄叫びをあげれば仲間達が向かってくる。それでもオークが桃李や健に攻撃をすることが出来なかった。
近付けばどこからか来た紀伊によって阻まれるからだ。大剣を持っている紀伊を見ればオークも少し距離を開ける。そこを待ち構えていたかのように紀伊の大剣の餌食となっている。
「騙されて死ね!」
紀伊が出していたのは紀伊の幻影だった。ただしMPの消費を抑えるために走るだけの自分自身を進ませている。ただ出す時には自分の視界内ならばどこからでも出すことが出来るので簡単にオークの前に出すことも出来た。
「……まだいけるな」
思いの外、幻影による消費は薄かった。
そのためか紀伊は一人で戦闘をしている。桃李は紀伊の姿を見て健を手元に手繰り寄せて威圧感を出して自分の方へ来ないようにしていた。
「ちょうどいいな……」
紀伊は幻影を出してオークに向かわせた。
その背後を他のオークが向かい二体による同時攻撃、錆びた斧を振り下ろす一撃が紀伊のいた場所に起きるが消えたのは紀伊の幻影だった。
「俺って近接が苦手だったんだ」
そんなことを言いながら二体のうちの一体の背後からオークを真っ二つにした。それを目前で見ていたオークは畏怖する。近接が苦手という言語を理解出来ないオークでも紀伊の表情を見れば異変を感じられる。明らかに紀伊は笑っていた。
下半身から勢いよく噴出する血がオークの目には映り、逃亡の意思へと繋がるまで時間はかからなかった。だが、背後を見せた瞬間にその意識が途切れる。最後に視線に映ったのは自分の下半身だった。
それでも大振りの大剣だ。他のオークがチャンスと捉えて向かっていくがニヤリと笑う紀伊に叩き切られる。
紀伊が言うように勇者陣営で模擬戦をした時に紀伊は良い成果を得られなかった。それにもいくつかの理由があって、変わってしまった自分の体についていけなかったのが一番の理由だろう。
普段から運動をしているのならば別だが生憎と紀伊はインドア派。それも休みの日ならば外へ出ることをしないほどだ。いきなり運動部のように早く長く動けても心が追いついていかなかった。ただここまで戦闘を重ねれば心配もない。
「……お前で最後だ」
「ギャアァァァ!」
最後のオークは顔を強ばらせたまま倒れた。オークは三十体いたのだが数分で全滅している。だが、その後に異質な存在感が現れ紀伊も察知しており構えた。
「おおー、すごいな!」
「へっ……?」
奥から来たのは黒い大剣を肩に担いだ大柄の男だった。肌は小麦色で外で活動する運動部のように日焼けしている。声もかなり低く三人の中で一番に声が低い桃李でさえ、男よりも高く感じられる。
素っ頓狂な声を上げたものの紀伊は構えを解くことをやめなかった。男も承知の上か大剣を背中に差して両手を上げた。
「何もしないよ。こう見えてもSランクっていう立場があってな。それに君達と戦って無傷とはいかなさそうだ」
「……信用は出来ませんよ」
「もちろんさ。だから、これをやる。というか君達の目標を俺が倒してしまったみたいだしな。有効の証だ」
そう言って投げたのはオークキングの死体だった。そのように名乗るだけあってマジックバッグから出しており、時間による劣化も特にない。
紀伊はそれを手に取るわけでもなく男を見つめた。未だに計り知れない男の素性を知ろうとしているのだが紀伊には少しも理解出来なかった。
「……いただきません」
「なっ! なんで!?」
コントのような驚き方をする男に余計、三人は構える。それが不服なのか男もあからさまに嫌な顔をした。
「おっかしいなぁ……たいていの人はこれで仲良くなれるんだけど……」
「酒の席とかならまだ分かりますけどシラフではそう思いませんね」
「なるほど、納得!」
手をポンと叩いて紀伊の手を取り握手をする。
「ありがとう! これで対人関係がより上手く行きそうだ! そうと決まればあの子を落としに行こう! 待ってろー!」
「いや……あの……?」
「ああ! 俺はブック! 名前を覚えておけばそのうちいいことがあるぞ! なんせ! 将来のSSSランク様だ! 君達は?」
「……俺は紀伊って言います」
「キイな! 分かったぜ! それは礼だ! 待っていろ! シフォーンッッッ!」
ブックは紀伊の名前を聞くだけで走って消えていった。台風のような人だなと紀伊は思い二人の方を振り向いた。
「……変な人でしたね……」
「……任せて悪い」
「いや、別に悪い人ではないってことはわかった。くれるって言うんだったらもらっておこう。……言い方からして俺が目的としていたオークキングみたいだし」
紀伊の目的はオークを率いていたオークキングだった。健のレベル上げの際に上空から確認しており経験値と報酬のために向かったのだが、案外、無駄骨となっている。実際、ブックから綺麗な素材を貰ったとしても同じように倒すことは可能だし、何よりも莫大な経験値が手に入らない。少しだけマイナス面が大きいと言える。
「……愚痴っても仕方ないか。今日は帰って次の標的でも探す」
「悪いな、俺達じゃ探索は向いていないし」
「いや、いい。それも含めて桃李と健と組むって決めたんだ」
「デレ、ですね」
「……うっせえ。それに……」
「それに?」
「……何でもない。別に話す必要もなさそうだしな」
続けようとした言葉を紀伊は飲み込む。
もしかすればブックという男との出会いは数少ない功績と言えるかもしれない。そんな不確かなことを二人に言うことは紀伊の考えには反していた。
「今度は俺達も含めて戦闘をしてみようぜ」
「……別にいい。その時は空兵で戦わせてもらう」
「普段通りですね!」
紀伊は少しだけ、本当に少しだけ焦っていた。
中衛は紀伊自身かなりカッコイイと思っていた節がある。それでもやって分かったことがいくつもあった。前衛ほど近接を得意とはせず、後衛ほど背後からのサポートは出来ない。そんな曖昧な存在が担う場所なのだと。
だから一人で近接を仕掛けていたのかもしれない。もしかすればこれがネックになるかもしれないと紀伊は焦燥感を心に秘めて二人をカバーしながら戦闘を行った。
今回、投稿したので水曜日に投稿は出来ないかもしれません。一応、一週間以内には投稿出来るようにします。来週、暇であることを祈るばかりです。
早く閑話を終了させたい、そんな気持ち溢れる半月間でした。紀伊も書いていて楽しいんですけど中身を進ませたいですからね(笑)。




