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閑話 ナートと一緒

「眠っちゃった、ごめんね」

「……別にいい」


 明け方頃、最初に起きたのは紀伊だった。

 二番目に瞳を開けた健は普段通りムスッとしている彼の顔を見て、嬉しいような怒らせてしまったか複雑な気持ちになってしまった。昨日、健が寝ている間にも彼は頑張ってくれていたことは知っているからだ。


 中途半端を許さない。それが紀伊の根本にあるのだから健は謝ることしか出来ない。だが紀伊からすれば慣れたことだ。本音では言わないにしても心の底では二人に世話を焼くことを嫌ってはいない。


「もう、いい時間だ。桃李を起こしておいてくれ」

「オッケーだよ」


 健は桃李を起こして三人で食堂へと向かう。出てくるものは昨日の朝とは違ったものだが朝食と言うこともあり軽いもの。桃李はもう少し重いものが欲しかったのだが紀伊に窘められていた。


 そのまま三人はナートに連れられたまま馬車に乗り込んだ。宿舎からダンジョンまで距離はあまりないがナートは人目を考えて馬車で向かうことにしていた。


 乗り込んで早々にナートは三人の前の席を陣取った。その顔は好々爺と呼ぶに相応しい笑顔に充ちたもの。紀伊達も少しだけ訝しんでしまう。


「ダンジョンはどうだったかね」


 三人の表情を知ってか知らずか、ナートは笑顔を絶やさぬままに語りかけた。誰か一人に向けてではなく三人全員に向けてだ。普通はこのようなことなどない。兵士長とはそれだけの重職と言える。


 王族を守ること、重要拠点に対する指示、部下達への教育……これだけで済まず兵士の中には訓練の厳しさから鬼と呼ばれることも少なくはない。その者が三人に対して誰よりも優しく接している。


「……まあまあですね」

「紀伊がそういうならそうだな」

「はっはっは、面白い奴らだな」


 紀伊の最もな感想に桃李は賛同する。

 それがナートには面白かった。兵士の中には志を高く持って入る者もいる。だが、そんな存在は競争心ばかりを遵守し、仲間達であろうと蹴落として上に行こうとするものも多く居る。実際、志を高く持つ者よりも平均以上の給与が欲しいがために受けるものも大半を占めているのだが……。


 そのために強くなりたいと思う気持ちがありながら、それでいて誰よりも仲間を大切にする二人が面白かった。話には参戦していない健も紀伊の傍に擦り寄り仲の良さが目立っている。


「すまないな、あの時は助けることをしなくて」

「いえ、あの程度ならば誰でも出来ます」


 素っ気ない反応、だが、それがよかった。

 感情的にならず冷静な判断が出来る。素直にナートはそう評価した。本人からすれば本当にその程度のことでしかなかったのだが。勇者に対して良い印象は三人とも持っていない。


 ただ自分達の居場所を作るお人好し程度だ。もしかしたらそんな言葉よりももっと非情な言葉で表せられるかもしれない。それほどに三人からすれば勇者など大したことがないと思っている。


「……自尊心の塊ですからね」

「勇者のことかな? さすがにそう言われてしまえば私も何も言い返せないな」


 紀伊の考えていたことがついポロッと口からこぼれてしまった。少しだけ紀伊は後悔するが当然と言ったようにナートも頬をかく。ナートも何も言い返せなかった。ダンジョンでの勝手な行動がそれほどに頭に残っているから。


 しかし、そんな存在でも王国に光をもたらす勇者であることには変わりない。老後のことを考えてこれが最後のチャンスであり、最後の大仕事だとナートは割り切った。


 ナートは三人に優しい言葉をかけ続けた。

 例え勇者の悪口に似た言葉が出ても優しく微笑みかけ、勇者と同じようにならないで欲しいと心から思い手助けをしようと決めている。この三人はナートが長い人生の中で手に入れた技術を本気で教え込めるだけの存在だと認めていた。


「よろしく頼むよ。私はね、君達三人にやってもらいたいことがあるんだ」


 ナートは順に三人と握手をした。

 ナートの心には一つだけ、目の前まで迫ったダンジョンの特性を使ったやり方をしようとしているだけだ。自分の感じたことを教えるためにはそれなりの覚悟を、修羅場をくぐってもらう。それが白鬼のナート、いや、魔族に恐れられた兵士長としての最後の役職、自分の戦いの幕引きとなる指導にするつもりだった。


 志、それが薄く微小ながらに闘気となって体から漏れ出す。紀伊は何かを決心しているナートの闘気を察して握手をする時の力を強めた。何にせよ、紀伊は自分達の夢のために強くなる。その土台にする気だった。


「そんな道具があったんですね」

「ああ、これのことか」


 ダンジョンの前に立ち、ナートが取り出したのは携帯電話くらいのボードだった。特に何かが書かれている訳では無いがナートはそれに触れ三人を引き連れながらダンジョンの空洞のような小部屋へと入り込んだ。


「それってなんですか?」

「まぁ、見れば分かる」

「……分かりました」

「私につかまっていてくれ」


 指示通り三人がナートの背中に触れるとボードが淡く輝いた。ナートは静かにボードに触れて、そのまま辺りが光に包まれ始める。すぐにそれは掻き消え何も変わらない景色が映り始めた。


 だが、外へ出た三人は驚いてしまう。目の前にあった空間は紛れもなく見知らぬ場所だった。紀伊は確信した。健も確信した。桃李だけ分からなさそうに小首を傾げる。


「転移みたいなものですね」

「……こんなものがあるのか」

「あー、なるほど! 転移か!」


 三種三様な反応にナートはクックックと口元を隠して笑った。ここまで笑うのはいつぶりだろうか。ナートは思い返してみたが家族以外の人前で笑うのはアツシが死ぬ前以来のように感じられた。まだナートが三十になったかなっていないかの年齢の時以来だ。


 ナートは何も言わない。

 三人も何かを聞くつもりはなかった。……ただ紀伊には周囲の雰囲気から違うことを感じていた。空兵を構え出す。健と桃李も紀伊の様子から構えを取った。

 ナートは驚いた素振りを見せず心の中で三人への評価をさらに高める。試していただけだった。アツシ本人が見つけ出したダンジョンの小部屋へ全員を連れ込んだらどうなるか、と。もちろん、勇者の時にはやっていない。


 あの時のナートならばここで戦うことは難しかっただろう。下っ端でアツシに指南をされていたくらいに、軽く弾き返されていたくらいの時代だ。でも、今なら大丈夫だと確信している。危なければ守ればいい。そんな軽い気持ちで三人を連れていた。


 ダンジョンコアの見つからない稀有なダンジョン、そしてダンジョンの最下層にいる魔物よりも強い魔物が出てくる小部屋。そこへ三人の足を踏み入れさせた。


 ここをアツシ達が見つけたのは偶然だった。そもそもダンジョンはギルドカードに搭載されている能力で、転移部屋と呼ばれている場所から好きな階に飛ぶことが出来る。それを生業にするポーターと呼ばれる人達もおり条件として一度行ったことがある必要があった。


 三人はダンジョンに入ったことはあってもギルドカードを持っていない時に入っていた。つまり二階層に行っていても転移することは出来ない。


 アツシは転移する時に同時に魔力を解放させていた。ダンジョンのボスと戦う前だったために戦闘準備を取っていたのだ。それが影響してか、アツシ達のパーティ、加えてナートはどこにあるのか分からない、小部屋だけがある階に落とされてしまった。


 その時はナート達、新米兵士は戦うことも出来ずにやられ、アツシがほとんどを倒し切っていたが、今のナートならあの時のアツシよりも強い。その自信があったために三人を連れてきた。


「唸れ! 火竜!」

「撃ち抜け!」

「守れ!」


 開始は三人の言葉が重なり合いながら、三人の先制で始まった。ナートはダンジョンの壁に背を付けて三人の戦いを覗いている。腕を組みながら光を見逃すことなく探すために。


 健は火竜と呼ぶには小さな炎を纏う一メートル前後の竜を出し、小部屋の中を照らし出しながらオークが一番固まっている場所へと向かっていく。


 その姿は小さいながらも親のように狩りをしようとする小鷲のようで、その風圧と威圧からは健の道具の強さが分かる。普通ならば勇者のパーティといえど、この短期間でこんな魔法を撃てるようにはならない。


 燃える、たくさんのオーク達が燃える中で周囲からいくつもの銃撃が起こる。全てがオークの下級種に当たり頭を貫いて次の標的を射ていた。どこから襲来してきたかも分からない、見たことも無い物体の攻撃にオーク達は反撃すら出来なかった。


 ただ一体だけを除いて……。

 ソイツはその巨体には見合わぬ速度で接近を図り始めた。とは言ってもオークに比べれば早いだけで紀伊達が追えない速さではなかったため、準備を整えていた桃李が走り出す。


「オークジェネラルだ。桃李、気を抜くと一発だぞ」

「オゥケィ!」


 緊張からか変な訛りで返事をした桃李をクスリと紀伊が笑う。紀伊には分かっていた。昨日のオークジェネラルと見た目は同じでも強さが違う、と。それなりに幸せと不幸せの間で生きてきた紀伊の勘は鋭い。


「健は雑魚処理をメインに、俺は桃李の援護をメインにする」

「分かりました!」


 静かに炎の玉をいくつも作りだし撃ち込み続ける。紀伊の言う雑魚とはオークだったのだが巻き添えでオークナイトもいくつか死んでいた。普通の兵士ならばこの程度まで出来ればエリートクラスだ。


 桃李は手を合わせ大きな声を出す。


「触れさせねぇ! 滅多打ち!」


 空中から小さな手が絡まり合い大きな腕へと変形していく。それはグンタイアリが群れをなして大きな物体へと変わるようで、大きな腕が十にも二十にも増えていくのだからオークジェネラルも驚愕の表情を隠せない。


 振り下ろされていく、いくつもの腕が何度も何度も。それだけならまだいい。四本は距離を詰めさせないために桃李の周囲から離れはしなかった。


 それでもオークジェネラルの名に相応しく、驚きはすれど畏怖はしない。桃李も次第に追い込まれるようになっていった。特に桃李の攻撃は近距離でガードをメインにしていたのが、幸か不幸かダメージはないにしても大したダメージは与えられない。いや、今ではガードをすることが精一杯だった。


 だが、二人を守るには十分だった。攻撃は考えになくして守ればいい。守りきれれば紀伊が何とかしてくれるのを知っているから。だから桃李は再度、合わせた手を離して繋げる。


「難しい言葉はわからねぇ! だから、今考えた技で戦わせてもらう! 鉄壁!」


 全ての手が桃李の周囲に集結した。

 そのままオークジェネラルを突き放し大きな壁を作り出す。オークジェネラルが攻撃を与えることは出来ずに桃李と距離を離され続けた。そんな時に紀伊の大声が響く。


「貫け! 空兵!」


 力強い声、オークジェネラルの体を撃ち抜き血の水たまりを作り出していった。だが、紀伊は少しだけ慢心していた。


「助けて!」


 健の高い悲鳴が響いた。

すいません、誤字訂正をさせてください。

ナートの異名が白髪のナートとなっており、実際は白鬼のナートです。ただの見た目の印象が異名になるという意味不明なことが書かれており焦りました……。(汗)

本当に申し訳ありませんでした。


もう少しだけグダグダな感じが続きます。終われば三人の仲をメインにして書くと思います。後、総合評価が八百を超えていました。ありがとうございます! 次は九百ですね! 頑張ります!

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