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閑話 女性パーティ

「美味しかったー」

「そうだな……」

「食ってから何も言えなくなっているじゃねぇか」

「うるせぇな……」


 桃李に反論しながらハンカチを取り出して健の口元を拭いていく。その後に紀伊はパンとハンカチを広げてから畳みポケットへと戻した。


 立ち上がり三人は店主のオジサンに挨拶をしてその場を後にする。向かう先は健が一番に行きたかった場所で、そこへ行くのも街に行く道中で決めたことだ。


「……やばい雰囲気なんだが?」

「仕方ねえよ。薬屋だと思えばいい」


 ボロボロの店に朧気な字で、いや、掠れていると言うべきか、読みづらくなっているがポーション屋と書かれていた。端に薬師ギルド監修と書かれており紀伊はため息を吐いた。


 紀伊には分かっていた。この薬師ギルド監修という言葉だけでプラスになることが多いのだ、と。日本でも監修や飲食店での食品衛生法の合格の書類など、それらが有るだけでその店の評価は上がる。薬師ギルドはそれに近いことをやっているのだろう、と。あまりそのような言葉を気にしない、と言うよりも生産地の方を重視している紀伊からすれば興味はさほどない。だが、薬師ギルドのことをよく知らないために良い印象は持てなかった。


 ギイとボロボロの扉を開け中に入ると広くない店の中にいくつかの箱、加えて袋を壁に貼り付けていた。奥に受付がありシワシワの老婆が座っており、紙を数枚見ては唸っている。


 声をあげようとした桃李に紀伊は人差し指を立てて口に当てた。桃李もそれで理解して声を出すのをやめる。理由はわからないにしても紀伊がそうする理由があると判断したからだ。


 紀伊を先頭にして健と桃李も背後をついていく。いくつかの種類があるポーションの中で紀伊が向かったのは魔力回復を目的とするポーションのある場所。


「それで作れるか?」

「……帰ったら作れそうです。時間はかかりそうですね」

「なら、買うか」


 高密度魔力回復ポーションと書かれている瓶が一つあり、健がそれを選んで買うことにした。というのも紀伊と健には分かっていた。安く売られているポーションがいくつかあるが、それらはポーションとは呼べないクズ商品である、と。


 健の固有スキルは触れたものの能力を知ることが出来るが、調べる道具の能力が多いほど触れる時間を長くしなければいけない。それに道具にしか効果を発揮しないため鑑定眼特有の良さは少ない。


 その分だけ自分で材料無しで生産、改造を出来るのだが……。


 健は紀伊の後ろをついていく時に在庫処分と書かれていた箱の中の、ポーション瓶をいくつも触って能力を確認していた。もしかしたら骨董品屋のように良いものが置かれているかもしれない。そう思っていたがほとんどが色の付いた水だ。買う必要性もない。


 紀伊は長い経験から健の表情が晴れていないことから察知した。元から安物や薬師ギルドだから安心して買える理由もなく、看板メニューとは違う一本金貨一枚かかる魔力回復ポーションを購入することに決めていた。もし使えるものがあっても大した回復量はない。そこまで見越しての考えだった。


「お金のことを考えたら一本しか買えない。それでもいいか?」

「頑張るので大丈夫ですよ」

「……頼りにしている」

「おっ、紀伊がデレたか」


 桃李の一言が紀伊の耳に触れ鳩尾を小突かれる。さすがに前衛を任せられるほどのステータスはある紀伊なので、桃李もノーダメージというわけにもいかない。普通に腹を抱えてしゃがみこんでしまった。


「……あれ? 紀伊君?」

「……ああ」


 そんな中で店に入ってきたのは紀伊達もよく知っている桃子達だった。特に紀伊は桃子達をよく知っている。桃李も健も知らない相手ではない。


 嬉しそうに近付いてくる桃子に対して、紀伊は面倒そうな表情を全面に出しながら逃げるためにポーションを一つ取って受付に行こうとした。


「もう……つれないなぁ……」

「……健がいるからな。それに話をする気にもならない」


 言葉通り健は桃李の近くに寄り添い裾を掴んで見ないようにしている。桃李も理解しているので頭を撫でて慰めていた。


 桃子はそれを見て紀伊の近くに行くことをやめた。桃子のパーティにいる他の女子三人はそんな紀伊を馬鹿にする言葉を並べるが効いた様子もない。逆に桃子の表情が少しだけ曇っていた。


 そんな中で一人の女子が在庫処分の中のポーションを手に取り、受付まで持っていこうとしていた。さすがに紀伊が指摘する理由などなかったが多少の気まぐれか立ち止まり、追っていた桃子の耳元で小さく「買うのなら金貨一枚のやつにしておけ」とだけ告げた。


 桃子にはすぐに理解出来なかったし、ましてや驚きから反応するのに時間がかかってしまっていた。そのために気がついた時には紀伊は離れていて「あ」や「う」と言った声を上げることしか出来ない。


 ただ桃子が在庫処分のものを買おうとしていた女子を呼び止めるだけの時間を与えた。その女子も絶対に安いものを買いたいという理由もなかったので、素直に桃子の元へと向かい紀伊達のいた魔力回復ポーションを置いている箱の前で討議する。


 桃子の言葉もあってか、桃子達のパーティで粗悪品を購入したものはいない。金貨一枚のポーションを二つ買い、汚い笑みを浮かべる老婆に挨拶をしたところで三人の男性が入って来た。


 粗悪品を買わされたことによる抗議だったのだが、そこで桃子は買うことを止めた紀伊の意味を理解した。きっとアソコにあるものは無価値なものなのだ、と。


 感謝をしようにも紀伊はいない。

 小さく心の中で感謝した。


 一方、紀伊達はとっくに帰路についていた。

 他に買いたいものもなく武器も今の支給品で事足りている。もっと言えば健の腕輪のおかげで武器を強化するのは後でもいいのだ。お金の無駄遣いやこれからの冒険者としての生活を考えれば今は必要が無い。


 少し戦闘したいという気持ちが紀伊にはあったが宿舎は街の中にある。外へ出るにも門番から許可を得なければいけないために紀伊は諦めた。そのせいで悪知恵を働かせ始めたのだが……。


 夜、食事も風呂も終えて三人はいつも通り部屋へと戻っていた。紀伊が戦闘したかったのは健のステータスを上げるためでもある。今からやることは健にとっては辛いことと言っても過言ではない。


「それじゃあ作るよ……」


 腕輪の時とは違い今回は魔力ポーションを作り直さなくてはいけない。過去にあった錬金術のように何も無い空間から素材を作り道具を作る。金を作り出すことよりも難しいことを今から健はやらなくてはいけない。


 別にやらなくてもいい。

 それを許さないのは紀伊でも桃李でもない。健自身が許せないのだ。最初の戦闘もそうだった。何も出来なかった自分を指南して道具のアドバイスをした紀伊。戦闘訓練の時に相手をしてくれた桃李。どちらもかけがえのない友人だ。


 そして今から作るものは自分が二人のサポートをする時に活躍する道具。今夜は別に何かをしなければいけない訳でもない。健はただ倒れてもいいから作れるだけ作るのみだ。倒れてもいいようにトイレも行ったし歯も磨いた。倒れる準備は万端だと言えるだろう。

 魔力ポーションを手に取り両手で包む。


 淡い光が手から溢れ始めて二人は目を閉じた。その間に紀伊は静かに画面を三つ、目の前に作り出して三体の空兵を飛ばした。この三つの画面は空兵の前に映る映像だ。それもリアルタイム故に一人で三つを操るための技術力も必要になってくる。


「桃李はどうせ魔力を使わないだろうから手でも繋いで魔力を奪われていろ」

「あいあい、頼むぞ」


 健からの反応はない。

 少しでも気が散れば構築していた魔力ポーションが壊れてしまうのだ。途中で壊れてしまえれば使っていたMPはおろか、作っていた未完成の道具も光となって消えてしまう。長い時間をかけてゼロから作る。かなりの集中力と魔力を必要とするスキルだった。


「少し時間はかかる」


 その言葉通り空兵は全速力を出しているが街まで出るのに数分はかかっている。それに空兵に敵を見つけるための索敵能力もない。紀伊はそこでさらに技術力を必要とされる行動に出た。


 三体全てを違う方向へ飛ばした。

 森へ出てすぐに左右、そして前。空兵自体に能力値の差はないし違いも特にはない。あるとすれば装備されている武器や性能が少し違うだけだ。大きければ重い攻撃の出来る銃火器を、小さければ連射に特化した銃火器を、普通のサイズならば二つの中間ほどの武器を搭載してある。


 そしてその武器達は日本であった戦闘機に搭載されているものよりも、少しばかり性能がいい。簡単に言うとすれば。


「見つけてしまえば終わりだ」


 コボルトが三体息絶えた。

 倒したのは一番小さな空兵だ。倒れたコボルトの表情も不思議な顔をしたまま。それもそうだ。何かが見えた瞬間に自分達の土手っ腹に大穴があいたのだ。逆に驚かない方がおかしい。


 そして一個も外さなかった銃弾の数々。

 これが三体の空兵に付与されている最大の能力で、ボタン一つで作り出されていた銃弾をフルオートで撃ち込み、撃たれた銃弾もオートエイムによって躱すことも出来ずに照準を合わされてしまう。


 銃火器自体にはAランクまでならダメージを与えられるほどの威力がある。それも三体の空兵の強みは武器だけじゃない。搭載されているのが銃火器だけだと思えば大間違いだ。


「オークジェネラルか……集まれ」


 一体の空兵、一番大きな個体がオークジェネラルに捕捉された。とは言っても、視界に入り唸り声をあげるだけで空中にいる空兵に攻撃は出来ない。加えて紀伊からの攻撃もしなかった。オークジェネラルともなれば空兵一体で圧勝も出来ないのを理解しているからだ。


 そして逃がしていい相手でもない。

 強い敵は多くの経験値を落とす。パーティで経験値を分散させているのだから健を強くするには丁度いい相手だ。それに……ジェネラルが高く売れるのは紀伊でも知っている。


「もう着くか」


 そんなことを言った瞬間に第二空兵をクルリと回転させる。オークジェネラルが岩を投げてきたのが見えたからだ。もちろん、打ち返すこと位は出来たがしない。打ち返すよりも良いやり方がある。


 回転した瞬間に一つの爆弾を落とした。

 黒い楕円形の爆弾で地面に落ちてすぐに白い霧が周囲を包む。これが紀伊の気に入っている戦い方だ。一対一ならば紀伊でも勝つことは出来ない。勝てる理由となるのは空兵の存在と、紀伊の屈折した戦い方が上手く噛み合うからだ。


 霧が晴れる頃にはオークジェネラルが膝を付いていた。傷一つついていないのだが、目は開いているが虚ろで寝る一歩手前。爆弾の中身は睡眠ガスだ。象すらも数秒で眠らせてしまうほどの効果を持ち合わせている。紀伊でさえも作るのに時間がかかった。


 紀伊の固有スキルは空兵のようなラジコン、そしてラジコンに搭載出来る装備を作ることが出来、その分だけ紀伊の戦闘前の準備がかなり必要になる面倒なスキルと言える。だが、作れてしまえば戦いにも逃げにも使えるため紀伊は重宝していた。


 三体の空兵がオークジェネラルに向かい銃撃を開始する。クルリクルリと回転しながら撃つためにオークジェネラルが捕まえることは出来ない。ましてやオートエイムのせいで一度でも照準を合わせれば向かっていてくれる。


 それでも眠い瞳を無理やりこじ開け手に持つ古びた剣で第二空兵を切り落とした。だが二つの空兵は未だに向かってくる。そこでようやくオークジェネラルは恐怖の表情を見せた。


「悪いな、空兵が壊れても本体にはダメージがないんだよ」


 大穴があく。剣ごと心臓があると思われる場所に。そのままオークジェネラルの遺体は消えてしまった。誰かが奪ったのではない。紀伊が空兵を使って回収したのだ。


 第二空兵は壊れてしまったが残骸も他の空兵が回収済み。残りの二つの空兵を使って雑魚を殲滅するように森で戦闘をしていた。それが終わる頃にようやく紀伊も全ての空兵を帰還させて画面を閉じた。


 紀伊が後ろを振り向くとスヤスヤと眠る二人がいた。その手には十数個もの魔力ポーションがあって紀伊も小さく笑ってしまう。二人を起こす気なんてない。だから紀伊はベッドに二人を寝かしつけてから毛布をかけた。


 紀伊はまだ眠ることが出来ない。手入れと空兵の作り直し、そして爆弾の生成をしなければいけないのだ。それでも日本にいた時には徹夜は日常茶飯事だった。今夜だけ眠らなくてもなんの問題もない。


 九時頃に手入れし始めたが終わったのは二時頃だった。この時だけ紀伊は二人のありがたさを小さく口に出す。誰にも聞かせたくない、二人への感謝の言葉を。

桃子と紀伊との関係は後々、書いていこうと思います。二十話以内での閑話の終了……出来るかなぁと少し不安に思っています。書いていても先が見えないですね。


次回も一週間以内には投稿をします。

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