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閑話 初めてのギルド

 剣と剣が交差し真ん中に盾が付いてある。


 それがトレードマークのようにデカデカと飾られている看板の先、西部劇の扉をギイっと体で押し込んで桃李を先頭に中へと進んで行った。中はかなりの喧騒さで全員が都会の車の行き交う道路を思い出す。


 酒臭さで健が鼻をつまみ、それを見た事で桃李は足を早めた。最後尾を紀伊が付き警戒心を高めている。紀伊に対して邪な視線をするものも少なくない。紀伊が感じ取っただけだった。


「いらっしゃいませ、どのようなご要件でしょうか」


 作り笑顔を顔に貼り付けたような、どこか整形しただけの女性が並んだ桃李達に聞いた。桃李はそれに対して満面の笑みを浮かべて三人分の小さな証明書を取り出す。


「これをギルドマスターに、とのことです」

「……了解しました」


 話にしてその程度だった。

 小さな証明書を受け取り奥へと引っ込む女性の後ろ姿を見ながら、桃李は受け付けに背中を押し付ける。手にはメリケンサックのようなものを装備しており、これから起こることを察しているようだ。


「よぉ、新入りか?」

「ああ、そうだな」


 先までは一応、王国のナートからの推薦状に名前を書かれる三人だったために、桃李は敬語を使っていたが、肩の袖がなくトゲトゲのパットを装備している柄の悪そうな男にそんな言い方をするつもりはなかった。


「おいおい、新入りのくせに口の利き方がなってないいないんじゃないか?」

「どうだろうな」

「……まぁ、いい。それよりも冒険者ギルドではな、新入りとして認められる前に冒険者パーティから教えを乞わなくちゃいけねぇ。どうだ? 俺達から教えを乞わないか?」


 桃李は目を丸くした。

 てっきり絡んでくる意図で話しかけられたと思ったからだ。それなのに男が言った話は手助けをしようとする話。桃李はすぐに考えることをやめ紀伊に視線を移した。


 対して紀伊は首を横に振る。

 理由は分からないが桃李は紀伊の言う通りにしようと考えた。少なくとも三人の中で一番に頭が回るのは紀伊であり、戦略ゲームでも紀伊の一言のおかげでマッチでの勝利を掴んだことも多い。上手く頭を回せない桃李は信じるしか出来なかった。


「断らせてもらうよ」

「それはなぜだ?」

「……強いて言うのなら嫌な気しかしない」

「……ああ?」


 男の問いに答えたのは紀伊だった。

 淡々と教えを請いたくない理由を言い放ち睨み付ける。紀伊には男の意図が分かっていた。もし紀伊が男ならどうすれば儲かるか、それを考えるだけで大体の話の理由は掴めてしまう。


 男は三人から金を巻き上げるために話しかけていた。身だしなみがしっかりとしている三人ならば金を多く持っていると踏んだからだ。そのために最初に話を出した頃には他の酒飲み男達も苦虫を噛み潰したように、出遅れた気持ちでいっぱいだった。


「そもそも、もし教えを乞わなくてはならないのならギルドからオススメを頂く。わざわざ知らない人に仲間を預ける気はない」

「調子に乗るなよ!」


 男は逆上し、いや、全て正論で見透かされていたことを腹立て、紀伊の胸元を掴み持ち上げた。ある程度、冒険者として戦った存在として恥じない十分な力だ。


 それでも紀伊の返答は一言だけ。


「離せ、手が吹っ飛ぶぞ」

「そうだな、そうじゃなくても俺が潰す」

「切り刻んでも……いいですよね?」


 三方向から銃を構える空兵。

 炎を纏う二つの拳。

 空中に浮かぶ氷の刃。


 その全てが男に向いており生唾を飲んだ。だが、一度でも振り下ろそうとした拳を止めるだけの力は男にはない。瞬間、男の腕は吹き飛んだ。


 最初は桃李の炎の拳が男の手を燃やし熱さによって手を離す。追撃のように肩を貫くいくつもの銃弾。最後のトドメのように健が言うと氷の刃を男の腕を切り裂く。


「グアァァァァァ」

「次は頭だ」


 空兵が男の頭についた瞬間に男は泡を吹き気絶をした。周囲には小さな水たまりを作っており何人もの冒険者達は鼻をつまむ。酒臭さからではない。もっと生理的に拒んでしまう理由からだ。


「……悪い、健、頼む」

「はいはい、ヒール」


 見えないように健は回復をかけた。

 同時に桃李が水をかけたために周囲の人達はポーションで回復したようにしか見えていない。そして、より三人がお金持ちであると確信した。魔法を使える存在と高性能なポーションを使えるほどの人達だったから。でも、近づく人はいない。同じようにされることが目に見えていたからだ。


 そんな中で偽笑顔の女性が三人のもとへ着き奥へと来るように話した。三人も首を縦に振り奥へと引っ込んでいく。最後まで紀伊は表情を強ばらせたままだった。


「やあ、よく来たね」


 最奥の個室にいた赤髪の若い青年が三人を出迎えた。年は三人より少し歳をとった、紀伊が見るに大学生ほどの年齢だろう。天然パーマなのか、何回かクルクルと回っている横の毛が特徴的だ。その横髪を指でクルクルと回している。


 端正な顔立ちで某アイドルグループにいてもおかしくないほどだ。紀伊はそれ以外にも目の前の男に違うオーラを感じている。それは肌を刺すような痛みに近いオーラだ。有名人特有のオーラとはまた違う。


 一目で紀伊は軽く身構えた。今までに会った人達とは格が違う。レベルで言えば、かの剣聖リュードより少し弱い程度。ナートとは比べ物にならないほどの力がうちに秘められていることを察した。


「そこまで構えなくてもいいよ。推薦状は読ませてもらったから」

「……ありがとうございます」


 青年は桃李や健に目もくれず、最初に紀伊に視点を合わせた。軽く値踏みをしたかのように足元からジロリと見つめ、何かを考えたのか受付の女性に出るように伝える。


 すぐに三人に目の前の席に座るように伝え、桃李も何かを察してか、紀伊を中心に大きな長いソファに腰を下ろしていく。その後に話された内容は冒険者として説明されることばかり。紀伊も少し聞く意味を持てなかった。


 例えば他人に迷惑をかけてはいけない。依頼者の不利益を被らせてはいけない。そのようなものばかりで冒険者同士の規則は大して書かれていない。あるとすれば決闘や人を殺してはいけない二つの中身だけ。紀伊が意味を持てない理由としては十分だろう。


「これが三人の冒険者としての証明書だ。一応は私の保護下にあるという話なのでね。そこまで名前を出さないで欲しいかな」

「……ダージ街のギルドマスター、フレクですか」

「そうだね、表向きはSSSランクの冒険者としても有名なんだよ」


 何が楽しいのか、クククとフレクは笑う。

 紀伊が名前を知ったのはフレクの自尊心の高さからか、渡された冒険者カードの端に『ギルドマスター、フレクより』と書かれていたからだ。もちろん、その名前は桃李と健のカードにも書かれている。


 そのことに思案していた紀伊をよそ目に、フレクは立ち上がり窓前へと移動してから空を眺め始める。その瞳には何かが交錯しているような複雑な目をしており、空の美しさを瞳に映すことは出来ていない。


「……おっと、すまないね。それで今日は依頼でも受けるのかな?」


 淡い目をしていたことに気がつき、フレクは顔を左右に振ってから三人を見た。桃李、紀伊、健は顔を見合わせ、最終的には紀伊の顔を見るようになる。いつもの様に紀伊は少しだけ頭を悩ませた。


 その後、首を横に振る。


「今日はやめておきます。明日からの準備もありますし、先程の件もありますから」

「ああ、雑魚が一人、調子に乗った件かな。あれは気にしなくてもいい。今日付けで首を切った」


 ジェスチャーをするようにフレクは右手の親指だけを立て、それを首元で切るかの様に左から右へと動かした。真顔で恐ろしいことを言いきれるフレクに微妙な気持ちを抱えながら、「どうしてですか?」と聞く。


 それが不思議なのか「どうしてだろうね」とだけ返して、顔を窓側へと移した。そのままフレクが何かを語ることはない。


「もしかしてどうやって知ったか、の方だったかな。それだったら何となく魔力探知で分かるんだよ」

「……なるほど」


 フレクが真意を話すつもりもなく、察して紀伊もそれ以上は聞かなかった。だが、紀伊の中では一つだけ分かったことがある。多分、本当に不確定だが自分が、紀伊達がフレクを心から信用することは無いだろう、と。


 時間にして十分ちょっと。

 その短い時間で初めての冒険者ギルドへの登録が完了した。フレクからは冒険者とのいざこざの件での追求は無くギルドから退出出来た。ギルドを後にしたその足で他の店へと向かう。


「腹が減ったぞ!」

「なんもしてねぇだろ……」


 若干の雰囲気の重さから漏らした桃李の言葉に紀伊は顔を俯かせながら、周囲の屋台や食事処を探してみる。そんな中で健の顔が目に入りお腹を抑えている姿を見て、自分以外小腹が減っていることに気がついた。そう考えれば紀伊も……と近場の肉焼きを売り出す屋台に足を運ぶ。


「ケバブみたいだな……」

「うまそ」

「よう、兄ちゃん達! 食っていくか?」


 大きな肉が鉄の串に刺さっており、先にある取手を回すことで肉がクルクルと回っていく焼き方だ。それをしながらタオルを捻り頭に巻いている四十ほどのオジサンが桃李に聞いた。


 肉からは何度も脂が滴り落ち、透明に少し濁ったような美味しそうな脂が炭に落ちてジュウっと食欲をそそる音を奏でる。人は目や口、そして耳でも食事をするようで桃李は何も言わずに肉を三つ買った。


 桃李が金貨を出したことでオジサンの表情が強ばったが、紀伊の「三人で旅に出ていてな。全財産なんだよ」という言葉でオジサンは納得した。事実、そのような人達も少なくないらしくオジサンも見たことがあると話している。


「うーん、きもちいいー」


 横長のベンチに座った健が体を伸ばして大きく口を開ける。見た目が少し女性らしいということもあり、周囲の人からの視線もおかしなものが多い。男性の中では健の顔を見ようとする、フードを剥がしたいと思う者もいた。


 紀伊はその視線に気がついて頭を抱える。


「あんまり変な声出すな」

「ふっふっふ、美味しいご飯を食べる時にいかに楽しむか。それが生きることの意味となるのですよ」

「だとよ、桃李」

「いやいや! 紀伊に対してだろ!」

「……はいはい」


 これ以上の発言はめんどうだと思い紀伊は口を閉ざし健の隣に座った。紀伊が座ったのを確認してから、その隣に桃李も腰を下ろす。


 未だに滴り落ちる脂が指にかかって健は肉を持つ手を変えた。その脂でキラキラと、いや、テカテカと輝く指をそっと口の中に入れて脂を舐めとっていく。


「……はよ食え」

「そうは言っても熱いんですよ。冷ましてくれませんか?」

「無理だ。それとも空兵で余計に焼き切ってやろうか?」

「いえ! 食べます!」


 また視線が集まることを懸念して紀伊は健に肉を早く食べるように言った。健もウダウダと食べない理由を並べたが紀伊に口で勝てずに大きな肉に歯を当てる。そのまま出せるだけの力を振り絞って肉を噛み切った。というのも熱いだけではなく肉がかなり固めに焼かれていた。魔法がメインの健にとって少しだけ噛みちぎるのに苦労してしまう。


 だが、その美味しさは本物のようで口に含んだ瞬間に健の表情が花咲くように満面の笑みへと変わる。無意識か、持ち手じゃない左手は頬にくっつき一言も話すことなく頬張り続けた。


 健の表情を見て紀伊は桃李の顔を見た。話しかけようとしたが健と同様に肉に夢中になっていたのでやめる。静かに紀伊も肉を口に運んで噛みちぎった。


「んっ……」

「どうだ?」

「……美味いな」


 桃李が尻尾を揺らす犬のように紀伊を見つめて聞く。普段なら行動を気持ち悪がる紀伊だったが肉の美味しさのせいでそこまで気が回らない。桃李の気持ち悪さが頭に入らないくらいに肉の美味しさに酔う。


 一口目は少し味付けの濃い部分で紀伊も飲み物を欲しくなるが、すぐに中から滲み出す脂によって気にならなくなる。二口目は脂と肉特有の旨みがメインとなり、香辛料などを不必要になるくらいに舌が肉に反応してしまう。三口目からは一口目と二口目の繰り返しだ。


 肉が無くなるまでの数分間、三人はベンチで一言も話さずに軽食を続けた。

冒険者の説明は前にしたので省かせていただきました。早足にならない程度で閑話内のメインキャラ達を立たせていけるように頑張ります。


後、書きだめが無くなったので投稿で少し間があきます。ご了承ください。


P.S.何もしなくてもいい、そんな一週間が欲しいと心から願っています。

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