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3章36話 終わりです

これで3章終了です。

「良かった……」


 僕はそっと胸をなでおろしていた。

 大怪我を負ったって聞いたミッチェルとシロの傷はそこまで深くなかったし、僕にとっては軽い回復魔法でミッチェルは完治した。シロは体内の魔力が少なくなったらしくてMPを注いだら勝手に傷が塞がったからね。その時に抱きつかれた時はビックリしたけど、まぁ、いいかな。少しだけ妹もいいって思ったよ。


「……すいません、このようにお手数をかけてしまいまして……」

「いや、命に別状がなくてよかったよ」

「ふにゃあ……」


 シロを膝の上に乗せながら頭を撫でる。

 ミッチェルはまだ体を起こして話は……出来るんだけどさせないようにしている。回復魔法も万能じゃないし傷が広がる可能性もあるからね。


「もっとー」

「はいはい、今回は特別だからね」

「分かっている!」


 二人にご褒美を聞いたら一日中、一緒にいて欲しいって話だった。これは他の皆にも言っているし皆にも何かあるって聞いたらないって言われたんだよね。詳しく聞いたら「この程度で貰う訳にはいきませんから」って言っていたからすごくストイックだと思った。


 なんか皆の中ではご褒美=特別なものっていう見解があって、今回の戦いでの一番の活躍は攻めてきた魔物の数も段違いに多かったミッチェル達の場所にしたらしい。これにイルルとウルルが納得したことに少し成長を感じるな。


 逆にご褒美をポンポンと出している僕の感覚もおかしくなってきたのかもしれない。よくよく考えたらご褒美とかは努力した証とかで貰えるものだし……いや、それなら皆が頑張ったんだから貰う権利はあるよね。どっちが間違っているのか全然わからない……。


「こら、くすぐったいから」

「いや!」


 よく分からないけどシロがすごく甘えてくる。いや、可愛いんだけどさ。本当にお腹の頭に、しかも直に顔を当ててスリスリしてくるからお腹がくすぐったい。まぁ、僕はポーカーフェイスですから! 顔には出さないんですけどね!


 とりあえず僕の服の中に入って顔をうずめてくるシロは放っておこう。話がしたければ話しかけてくるだろうし。


「それよりもミッチェルとシロが苦戦する相手ってどんな相手だったの?」

「それはーー」


 そこから教えられた話の数々は僕には少し気分が悪くなる話だった。ミッチェルを狙ったのはともかく……いや、そのうち殺す対象にするだけだけど、シロの得た闇心というものの力。勇者の仲間……だけど教えて貰った特徴からして僕の知っている人ではない。


「……ヤミヨノココロ、か……」


 異世界人であるミッチェルは、無機質から生まれたシロは馬鹿にした能力と話した。でも、異世界人だからこそ、僕にはあまり悪い能力とは思えない。この力は呪魔法や吸血鬼と何ら変わらない、そんな力だ。起爆させる方法が人の死と言うだけで、強くなるためにいくつもの屍を築き上げるだけで。


「……シロが手に入れたのは最初の状態だった。だから人が死ねばどうなるのか、シロが人を殺せばどうなるかは分からない。あの男がどんな使い方をしていたのかも」

「それでもわかったことがあります。呪は効きましたし私達で倒せない相手じゃなかったことです」

「……逆だよ。ミッチェルとシロでギリギリというのが普通じゃないんだ」


 ミッチェルは成長率が他人より秀でているしシロは僕が直に魔力を与えている。僕自体がイレギュラーに近いほどの力を有しているとイフが話す時があった。直に加護持ちから魔力を受け取っているシロ……弱いわけがない。それを個人であれば圧倒し、呪の力でようやく撤退まで持っていかせた相手。


 いけ好かないな、最初から本気を出さずに戦って敗北するなんて。僕は力を出さない時はそれでも勝てると踏んだ時だけだ。対人戦の時にそんなことをする気は無い。相手の手を全て理解しているわけじゃないからね。


 最初から本気なら瞬殺もありえたのか……。


「まぁ、これで皆がより強くならないといけないことが分かったね。後はエルド達の武器を早く作らないといけないか」


 二人はゆっくりと首を縦に振った。

 まず僕は少し遊び過ぎたと思う。ワイバーン戦でもっとレベルを上げていれば簡単に倒せていたかもしれない。ましてや二体抜きは無理にしても少しは二体目も戦えていた可能性もある。ここまでデートだのなんだのって現を抜かしていたことが多過ぎた。


 別に悪いことじゃないとは思うけど、こんなんじゃ誰かを守るなんて夢のまた夢だ。少なくとも誰かを欠けさせるなんて、誰かを見捨てるなんて出来ない。仲間を捨てられないくらいに大切なんだったら守らないと。


「後はイルルとウルルだよね。二人に次いで魔物の討伐数が多かったんだし」


 驚いたことに鉄の処女やロイスよりも魔物を倒したのはサキュバスの二人だった。イフから聞いた話では魅了と幻影で魔物の同士討ちを起こしたみたいだ。普通に考えてえげつない悪魔らしいやり方だけどスタンピードならこれ以上にいい手は無いね。


 まぁ、アレだ。二人の活躍を見れなかったのは悲しいかな。二人が頑張るところってあんまり見たことないんだよね。それもミッチェルとシロの次に頑張ったんだし。少しだけ甘やかしてみるかな。二人について知らないことも多いし。


「後で聞いてみるかな」

「二人に褒美でも与えるのですか?」

「うん、まぁね」


 口をへの字に曲げながらミッチェルが聞いてくる。独り言のつもりだったけど大きい声で言っていたのかな。女性の前でほかの女性の話を出すなんて最低だよね……。


「ごめんね」

「……いえ、別に」

「ごめんねー」

「……ふふ、何をやっているんですか」


 撫でていたら寝てしまったのか、瞳を閉じてスヤスヤとしているシロの脇に手を入れて持ち上げてみた。僕の顔の前にシロの顔を出して謝ってみたけど結構、高評価だったみたいだね。


「僕の声だとシロみたいな可愛らしい声は出せないや」

「男性の割には高い声だと思いますけどね。私は好きですよ?」

「……面と向かって言われると恥ずかしいや。まぁ、ありがとう」


 シロを膝の上に移して抱きしめながら左手でミッチェルの頭を撫でる。割と三人の時にこういうことをしているけど、でも、今だからこそ思うこともある。ミッチェルとシロでギリギリとは言っても、二人は確実に、いや、皆が成長しているんだ。あの時の僕とは違って僕も、友達も成長している。止まってなんかいない。


「……久しぶりにアレしてもらってもいいかな?」

「……仕方ありませんね。特別ですよ」

「本調子じゃないのにごめんね」


 腰掛けていたベッドに体を預けて、僕の体の上にシロを置く。言い方が悪いかもしれないけど抱き枕みたいに抱き心地が良い。モフモフって偉大だと思う。


 そのまま頭が持ち上げられる感触があってから、ふにゃりと柔らかい感触へと変わっていく。手馴れた手つきで頭がいつも感じている感触に変わったんだ。


「……こうしている方も楽しいんですよ」

「今度は逆でやるね」

「楽しみにしています。もちろん、皆にもお願いしますね」

「それは……キツそうだなぁ……」


 女性陣だけにやるとしても結構、多いんだよね。遠慮されるのは嫌いだから望む人達全員にやるだろうし……。思い付くだけでも鉄の処女でしょ……フェンリルでしょ……キャロとイルル、ウルル……九人ですか……。


「まぁ、気が向いたらね」

「それでいいと思います。皆、ギドさんといられることが楽しいようですし」

「……本心は分からないけど利用するなら利用してもらって構わない。信用するってそういう事だからね」

「久しぶりに聞きましたよ。その言葉」


 まだミッチェルが弱くて戦闘も出来ない時。

 その時から言っていた口癖みたいなものだ。でも、それだけの傷を日本にいた時に負っていたし、今更、同じことが起きても諦められる覚悟もある。ただ今の幸せに浸ってしまったために傷つかないと言えば嘘になってしまうけどね。


「……あの頃よりは前に進めている」

「……ありがとうございます。少なくとも私がここまで強くなれたのはギドさんのおかげです」

「そういう意味じゃないけどね。……僕も初めて心を許せた相手なんだ。頼むから裏切らないでね」


 少し声が霞んだ気がする。

 それでもミッチェルから返ってきた言葉は力強く、それでいて僕が一番に望んでいたものだった。


「当然です」

「そっか」

「まだご寵愛を頂けていませんからね!」

「そこは力強く言うところじゃないかな!」


 頭をミッチェルの膝から下ろして枕を頭まで引き寄せる。その後に隣をポンポンと叩いてミッチェルを見た。少し苦笑しながらも体を少し丸めて隣に来る。


「今はこれで勘弁してね」

「……昔を思い出して嬉しくなっちゃいます」


 腕枕をしてミッチェルと僕の間にシロを置く。川の字で寝ているのは僕が望んでいた家族像、それ以上に欲しいものは無い。僕が日本にいた時から望んでいた幸せの形だ。


 些細なことでも楽しいと思えて、嫌なことがあれば共有出来る。そんな当たり前のことが僕には足りなかったんだ。だから僕はいつまでもアリキタリを望んでいた。


 薄く開かれた目に映る二人の寝顔はどこか儚げで、それでいてこれ以上にない幸せそうな顔だった。少しずつ重たい瞼に体を任せて瞳を閉じた。静かな寝息が子守唄のように僕の耳を刺激して……そして穏やかにさせてくる。






 ◇◇◇






「ってことは、行く先は同じなんですね」

「ああ、ここにいないということは首都に向かったってことだろうからな」

「店は他の人に任せればいいですし」


 街角で、ガラクタだらけの元の街の欠片もない門の前で二人は笑っていた。朝早くに僕達の宿に訪れて話があると連れてこられたのだが。


 街から出るというのに持っているカバンはかなり小さい。それに空間魔法の付与されているものとは言っても高価なものでは無いみたいだ。それだけ持っておかないといけない物が少ないんだろうね。


 テンさんからすればプロトとガットが目的で他には興味がない。いないと分かればこの街に居座る理由もないのだろう。


「……少しだけ安心しました」

「護衛だから遅いだろうが出来ることなら手を貸してやる。だからギドも手を貸してくれよ?」

「もちろんです」


 スタンピードが起きてから三日ほどだったが街の復興は未だに進んでいない。セイラとフウの配慮で街の冒険者にしようとしていた領主からも逃げられたからね。悪いけど会う気もしない。僕の仲間も同様だ。


 僕達を街から出させなかったくせに人が少なくなれば残そうとする。僕達は王国を拠点とする気なんてサラサラないからなぁ。見ていて思ったけど誰かを蹴落とそうとする人が段違いに多い気がする。


 軽く頭を下げた後、テンさんと握手をした。僕の命を救ったことのある大きな手。そのまま力強く握り返した後で二人は森の中へと消えていった。


 暑く降り注ぐ太陽の陽が少しウザったく感じる。そんな出来事があった次の日に僕達はこの街を後にした。少しも心残りはない。


 僕たちの旅はまだ途中だ。そんな最終回を迎える少年誌のような気持ちを持って走り出す馬車へと乗り込んだ。

ご愛読ありがとうございました。作者の次の作品にご期待ください……という訳ではありませんのでご安心ください。少し早足になりましたが3章終了です。


4章からは新キャラが多数出るのと同時に、セイラや仲間達をメインにスポットライトを当てていこうと思っています。王国での護衛の旅はどのようになっていくのか、そこを楽しみにしてもらえれば嬉しい限りです。


次回は閑話を書きます。視点は三人称の予定ですが軸となるのは新キャラの予定です。

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