3章35話 収束
久しぶりに簡易ステータスを書きました。
もしおかしな点があれば教えて貰えるとありがたいです。
「まさか一人で倒しきるとは思っていなかったぞ」
「……はは、簡単に首をへし折られたら折角付いた自信も剥がれますよ……」
「……そうか?」
僕の言葉がよく分からないようでテンさんはワイバーンを下ろして首を傾げる。時折、下ろしたワイバーンの顔を見ては更によく分からなさそうに眉を軽く動かした。
あー、この人って天然なんだな。
多分、僕がなんで自信をなくしているのかよく分かっていないんだ。アレだよね……テンさんからしたら赤子の首をひねるようなものだから、苦労して倒した僕の気持ちはあまり分からなさそうだしね。
もう突っ込むのはやめよう、うん。
変に自信をなくしたけど僕がワイバーンを倒せたことには変わりないし、何より最大の恐怖だった次のワイバーンも倒されたしね。命が助かっただけ貰い物だ。
「別に楽に倒そうが苦労して倒そうがワイバーンを討伐出来ることには変わらないはずだろ。自信をなくす意味がよく分からないんだが」
「……ああ、確かにそうですね」
なるほど、テンさんからすれば倒せるかどうかだけが問題なんだ。人の強さを測るにしても魔物を倒せるかどうかに重点を置いているんだろうね。簡単か苦労か、そこじゃなくて出来るかどうかの結果が大切、か……。
いやいやいや、でもこの力の差は自信をなくすって。百点を取れる人が九十点の人を慰めているような感じだし。今のところ僕に百点を取れそうもないなぁ。
ドレインを片手にテンさんのワイバーンもしまっておく。普通に首を縦に振っていたからそうしてもらいたかったんだろうね。なぜか知らないけどもう一体のワイバーンの首に紐を巻き付けて引きずっていたし。これで傷がつかないで、逆に地面を抉るワイバーンの素材が凄いんだけど……?
「……とりあえずこれで終わりですね!」
「そうだな、少し物足りない気がするが」
「いや……もう戦うのは当分要らないですね……」
頬を掻きながらテンさんの言葉を否定する。
さすがにワイバーンがまた現れたら僕に戦闘をするだけの気力はない。ワイバーン程度ならテンさんが軽く倒してくれそうだけど僕は戦力にならないかなぁ……。
「アレだ、すぐに助けに来なかった俺も悪かった。傷の礼だ。ワイバーンの素材は全部ギドのものでいい」
「……いいんですか……?」
「ああ、手を貸してくれるって話だし、その程度なら俺達には不要だ。ポーションとかの礼でもあるしな」
「……ありがとうございます」
あまり良い気はしない言われ方だけど素材は確かに高価で使い勝手が良い。テンさんなりの気遣いならわざわざ拒否する必要も無いか。まぁ、強さを手に入れたらその程度ってなるよね。……本当に規格外だよ……。
【テンの詳細について聞きたいですか?】
そういうってことはイフには二人の正体とか分かるんだね。……少なくともライさんの死だけがテンさんを突き動かしていないのは何となく分かるけど……まぁ、聞かないよね。そこはプライベートなことだ。聞くとするのならばテンさんの口から聞かないとテンさんの優しさを仇で返した気分になるし。それにもし僕の予想以上のことだったら見る目も態度も無意識に変えてしまいそうだ。
「これはギドを認めた証拠でもある。頼むから俺の敵にはならないでくれ。少しだけお前に興味を持ったんだ」
「……それは光栄ですね」
「ああ、お前は強くなる」
そう言って不意と顔を逸らして奥へと向かっていく。その方向は間違いなく魔力溜りの場所へと向かっており、僕もその後ろをついていくとフウも同様に付いてきた。なぜか分からないけど僕の隣で僕の顔を何度も見てくる。一応、気が付かないふりをしておいた。
思い当たる節が無いわけじゃないしね。
だって、フウの前で呪魔法を使ったのは初めてだし、今だけですって含んだ言い方も戦闘の時にフウはしていたからなぁ。テンさんに言われたら興味も何もかも失せて殺されるんじゃないのかなぁ。
ちょっと突っつくか。
「どうかしたの?」
「いえいえ! 気にしなくてもいいんです!」
手をパタパタと左右に動かしてフウが見ていた自分の姿をもう一度見返す。……ああ、なるほどね。そりゃあ、赤面しますわ。
「上半身が燃えていたの忘れていたよ。ごめんね」
「いえいえ、見た目の割に筋肉質で何度も見ていただけです! ありがとうございます! って何言っているんですか! 私!」
「可愛い顔って言いたいのかな」
「……えーと……まぁ……」
「そう」
いや、言われ慣れているからね。
今更、「いやぁ、可愛い顔なのにやることエグいよね」って言われても特になんとも思わないかな。幼馴染のおかげで言われることは少なかったけどやられたらやり返していたし。
すぐに今、着けているズボンの上に新しいズボンを履いて、上半身にもパーカーに近いものを着込んだ。洞窟の中は陽が当たらない分だけ少し寒い。だから、ちょうどいいね。
着替え終えてから再度歩きだしフウもこっちをチラチラ見てくるだけ。まぁ、さっきみたいに敵に回ったりとかってことは無さそうだから安心していいかもね。
「……嫌な空気だな。何度感じても」
「そうですね、でも、誰かが直さないと止めどなく敵が現れるだけです」
「……そういえばこれを直せると言っていたな。俺達が見ていてもいいのか?」
「……他言しなければいいですよ」
特に見られて困ることは無い。
アレだけなければいいんだよね。都合よく扱われるって言うか、魔力溜りが出来たら直すように言われるようになるのは。僕だって生きているしやりたいこともある。自由は人としてなくてはならない尊厳だよ。
テンさんやフウなら特にないかな。
フウは情報を扱うSSランク冒険者だけど、僕の都合が悪いことは言わないだろうし。何より仲間としていくらかは信用してくれている。その時に時間が取れなくなれば困るのはフウだ。
「……俺の名にかけてギドのことは話さない。そう言えば信用してくれるか?」
「そうですね、いや、話されても困ることはないんですよ? とりあえず……幾度にも重なる敵の攻撃から守れ、保護」
「……そんな魔法も使えるんですね」
「ああ、テンさんが言わないって約束してくれたしね」
聖魔法もどうせなら使っておこう。
僕には少し気分が悪くなるだけで体調の変化とまではいかないんだよね。逆に放出される魔力が心地良さも感じなくもないんだよなぁ。あっ、嘘です。特に感じるものがないってだけだね。……前は具合が悪くなっていたのに今はないから多分だけど僕の体に変化があるんだと思う。
「こうでもしないと直せないから」
「……将来有望だな」
「ありがとうございます。っと、それでは直してきますね」
一歩踏み出す。
あの時と同じく真っ暗でここだけが異質な空間に感じられる。洞窟の一部分でしかないはずなのに一個の部屋のように広い。貧乏な大学生が住む家よりも広いかもしれない。
「……最初よりは楽だな。それよりも僕には気分が良く感じられる……」
さっき冗談で思った言葉の通り根源に触れると回復している感覚に襲われる。その回復も魔法での回復じゃなくて体の内側から熱い何かが皮膚から漏れ出しているような感覚だ。
今、僕の目の前にある諸悪の根源は花みたいな形状じゃない。丸く黒い球体からいくつもの線が部屋の至る所に刺さっていた。触れていくうちにそれらが欠けていく。
最初は奥にある細い線からだった。次いで通勤ラッシュのようにガラリガラリと崩れ始めて……そして触れる僕の手へと消えていく。
ふっとステータスを見てみた。
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名前 ギド
種族 吸血鬼・真祖(人族)♂
職業 1.魔術師 2.勇者 3.
レベル 58
HP 2560/2560(S)
MP 755/13469(SS)
攻撃 7230(S)
防御 7534(S)
魔攻 8235(S)
魔防 8162(S)
幸運 6550(S)
魅力 7780(S)
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ここまで来て見るのをやめた。
というか、スキルがいるものもいらないものも両方を含めて、ズラズラと永遠にも見えるくらいに続いていたし。きっとドレインで敵を倒しすぎたせいだね。
今のMPが少ないのは先の戦闘のせいだとしても……魔力溜りに触れる前は一万ちょっとだったからかなり上昇しているかな。後、レベルが五十を越えたからサードジョブをつけられるね。もちろん、召喚士にしておいた。これでアキ達について行ったカマイタチも連れて行けるね。ステータスは……物の見事に変化がない。上がった……よね?
手元には……しっかりと種が残っているから成功だね。これって何に使えるのか分からないけど……これだけで魔力溜りを作れることくらいは予想が出来る。多分だけどもうそろそろで魔導師へと進化させようと思うし、その前にファーストジョブは錬金術師にしようと思っている。早めに錬金術はそれなりに使えるようになっておきたい。生産も戦闘も出来る万能がいいよね。目指すなら在り来りなチート像という姿へと変わりたいし。
とりあえずこれで終わりだ。
うん、感謝される筋合いもやる気もなかったけど今回のことでいくつかは分かった。教会側とは相容れない存在だし、魔力溜りを作ったのも教会のプロトかガットのどちらかだ。僕も戦う時は遠くはなさそうだね。実態は一切不明のままだけど……。
「直ったようだな」
「はい、これで街には影響がないと思います。まぁ、被害は大きいでしょうけど」
「冒険者ギルドのトップが暴走、一番強かった冒険者も討死……この街は終わりだろうな」
それで構わない。僕にとってはこの街の重要性はないからね。あるとすれば魔法国への圧力がけだけど……大した戦力もなければ必要価値なんてないでしょ。
あまり気にした様子もないからテンさん達もこの街に思い出とか、傷ついたことに対する残念さはないのだろう。僕には一切ないね。王国自体が好きじゃないし。
そのままその場を後にして帰路に着いた。早く戻ってミッチェルとシロの元へと向かいたかったから。僕にとっては誰かが欠けたら作戦が成功したとは言えないからね。
◇◇◇
「ねぇ……なんで貴方はここにいるのです……?」
「おかしいのだよ……」
ツインテールの少女二人は一人の青年の背を見ながら来た道を戻っていた。小さな強いものにしか見えない黒い翼は忙しなく動き周囲の静けさを誤魔化している。
少女はただその顔を思い返して涙ぐむだけだった。人気の消えた街中で見たものは……二人にとって幻影だったのかもしれない。
目標の百二十話達成! ありがたい限りです!
これまでの話の中で矛盾や疑問などは質問して貰えるとありがたいです。投稿頻度はこれまで通りですがより面白い作品を目指して頑張っていきます。これからも応援よろしくお願いします。
また、これでスタンピード編は終わりなので、次への繋を書いたら3章終わりです! 長かったですね!
※先のギドの殺人の話で追記をしました。一応、ギドの中での人と見た目は人でも人を辞めた存在として考えを分けている、という旨を書き足しました。興味があれば再度、お読み頂けると幸いです。