3章33話 繋がる先
繋がりを考えて短めにしました。
見たことも無い空間だけど視界は良好、それも変な場所ではない。洞窟の中の一つに僕はいるんだろう。
座標は……元の場所とは離れていない。
それどころか、ここは洞窟の中の一つだろうね。周囲に二つの反応があるからフウとテンさんで間違いはなさそうだ。今……カマイタチは出せないか。あの子は睡眠中だ。初めての共闘とはいかないようだね。
「起きて。ここはヤバいよ」
「んっ……」
横で寝ていたフウの体を揺さぶり起こすことを専念する。ここはマップに映っていなかったしイフからも何も言われていない場所だ。つまり誰かが完璧に隠匿していた場所ってことで間違いはないだろう。
この壁の先に人以外の生体反応がいくつもある。これは魔物の群れでいいだろう。その中に大きな威圧感を放つ存在がいるからね。これよりも強い存在がテンさんの方にいるけど……そっちは任せて大丈夫なはずだ。
「あっ! ギドさん! 早くその場から……あれ?」
「いや、遅かったみたいだ。早く準備して! 来る!」
僕の声は少し遅かった。
目の前の壁が脆く崩れた姿を見て僕はドラグノフを構えて撃ち込んだ。今回は余裕なんてない。さっきの戦いで割と消耗はしているからね。血液を結構消費してしまった。MPに関しては……まだまだ余裕はある。
火炎弾の装填に時間はかからない分だけ魔力生成による銃弾よりもラグがない。大丈夫だ、今回はAランクの魔物が相手にたくさんいると言ってもフウがいる。
「燃え尽きろ!」
穴はかなり小さいのでそこに撃ち込むことで多数の魔物に傷を与えられた。連射はフルオートでない分だけ弱いけど引き金を何度も引けばそこまで遅くはない。
罵詈雑言のように響く魔物達の悲鳴、その中にはさっきまで戦っていたエンペラーウルフのものも多くいる。他はオークキングやコボルトキングが多いけど……ステータスはAランクとかわりないものになっているね。
「フウ! 本気出せる!?」
「出せるかじゃないです! 出しますよ! 手を借りますからね!」
「任せろ!」
フウの戦い方はミッチェルに近い。
少し違いがあるとすればクナイとククリナイフによる連携、移動速度がミッチェルとは比べ物にならないほどに早いくらいだ。だから僕もさっき手に入れた力を使わせてもらう。
「キング程度と思わないで! エンペラーウルフとかわりない力があるから! それと奥にもう一体いる! そっちは向かってこないから後回し! 疾風!」
「了解です!」
ドラグノフは大きすぎる。
ワルサーへと変化させて火炎弾を詰め込んでおく。大丈夫だ、この程度ならワルサーで倒しきれるはず……僕を舐めるなよ。この程度の修羅場なら僕は乗り越えられる。
エンペラーウルフ達の速度を越え、風邪の速度を超え、音の速度を越え……僕は一つの自然の一部としてこの洞窟を駆け抜ける。この速度はフウと同程度の速度だ。
本気で走るにはこの洞窟は狭すぎるね。この速度はあの世界最高速度を誇る某短距離選手よりも早い。そして僕なら持続力も高いよ。
近くによってはドレインで首を切り落としたり、喉元に大きな傷を作り致命傷を与えていった。当然と言うべきか、強いとは言っても量産型の魔物みたいでさっきのエンペラーウルフほどの強さはない。
「縦になるなよ! 良い的だ!」
一直線上に並ぶエンペラーウルフ達の最前列のオークキングの腹にワルサーを付ける。引き金を六回ほど押し込んで即座に違う場所へと移った。これで七体もの並んでいたバカ達は戦闘不能だ。
数は……まだまだ多い。
「ジリ貧になりそうです、ね!」
そうは言いつつも余裕があり気なフウの元に火の玉が数個飛ぶ。オークキングが連携して十数もの火の玉を作り出して飛ばしたようだけど、フウはジグザグに動いて躱し続け嘲笑うかのようにクナイで詠唱していたキングを三体潰している。全て投擲で頭を貫いていたからかなりの威力だと言えるね。
「そっちに気を取られたらダメだよ」
フウに恐れを為して後退した魔法を使うオークキング達にワルサーで頭を貫く。少し威力不足を感じていた拳銃のワルサーだけど火炎弾でそれをカバー出来るようになった。
ドラグノフにしなかったのは大きな武器を構えれば勘づかれる可能性があったし、発射時の音が大きすぎてこっちにヘイトが向くかもしれなかったから。音が小さい方が楽だしね。それに魔物達の大声よりはワルサーの音の方が小さい。
「ワンダンッ!」
まずは最後方に下がっていたオークキングの頭を至近距離で貫く。フウよりも先に動いていたおかげで背後を取るのはかなり楽だったからね。これを上手く使えばもっと楽に戦えるかもしれない。
至近距離での火炎弾はこっちにもダメージがありそうだったので、脳天に撃ち込んで横へと動く。
「ツーダンッ!」
少し離れていたけど右腕を伸ばしてオークキングを倒す。
「えーと……たくさんダウンッ!」
まぁ、ダウンというか、死亡なんだけどね。
こんなにもオークキングを倒しているのにフウへのヘイトが減ることはない。シロが使えるようになったハウンドハウルでも使っているんじゃないかって思ってしまう。ただ単に僕の隠密能力とフウへの脅威が良い感じに上手くいっているだけなんだけどね。
「最後!」
十五メートルは離れているオークキングをワルサーで狙撃して、魔法を使える魔物達を殲滅させた。こういう時に外さない自分を見ると成長というよりも、FPSゲームの時のチート使い達を思い出してしまうね。壁の向こう側の敵が見えるウォールハックとか、相手に撃ち込めばヘッドショット確定のオートエイムとかね。
まぁ、後者はないにしてもウォールハックまがいのことは出来るんですけど。これはやっぱり僕はチーターということで間違いはなさそうだ。
【もうそろそろで来ます!】
アイツが……って! ヤバっ!
「アイシクルウォール!」
残りMPの五分の一を使用して大きな分厚い壁を作りあげた。同時に察したのか、フウが壁の後ろに戻ってきて、瞬間に辺りがが炎で包まれ始めた。
その炎には周囲の魔物達もダメージを受けていてほとんどが壊滅、何とか耐えた魔物達も息たえだえで死が目前に迫ってきているものばかりだ。
仕方が無いのでワルサーを連射して息の根を止めていく。これは経験値稼ぎに近いことだね。今はパーティを解散しているから経験値独り占め……ってのはちょっと残念だけど。強くなれるのなら時々はいいかもしれない。
「……経験値は大切ですもんね」
「そうだね、僕も強くなりたいし」
「……あれだけ出来ればSSランクは確実だと思うんですけど。……自信なくしますよ?」
そうは言われても僕がフウと戦っても簡単には倒せないし。搦手をいくつも使ってようやく同じ舞台に上がれるしね。それにククリナイフやクナイは心器ではないから、心器を使える分だけ僕の方が有利だしね。
火が消えていく。
目の前の氷の壁も溶けていく。
大きな音だ。この洞窟の硬い岩盤、壁を豆腐を潰すかのように鉤爪で壊せる圧倒的な力。ガリガリと音を立てて壊れていく姿はゲームにおける絶望を思い出させてくる。
そこでアイツは目の前に現れた。いくつものファンタジーの王道として君臨し、そしてゲームでもいくつもの存在を地獄に落とした存在、その下級。
「グギャアアアオ!」
SSランクの力を所持している下級竜、ワイバーンが前脚と同化した翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こし、火の粉をばらまいていく。強くなった僕の中で初めて死を間近に感じた時だった。
少し遅くなりましたがようやく書けました。
次も一週間以内には投稿します。
※3章25話最後にてギドが人殺しをしたかもしれないという旨を書きましたが、書き直させていただきました。少ししたかもしれないという含んだ書き方でしたが「した」という方に強く引っ張られそうな書き方なので全面的にしていないという書き方へと返させて頂いております。このような書き直しをして誠に申し訳ありませんでした。話の流れ的にしていたとすれば書き直しが必要になる内容でしたので……。