3章32話 Re
この話のタイトルは変える可能性が高いです。
後、区切りを考えて少し短めです。
「ほら!」
「グルゥ……!」
ドレインで先程よりは深い傷を負わせて下がる。僕が今やりたいのはエンペラーウルフのMPの枯渇。分かっている? 僕と違ってね、魔物や人の自己回復はMPを同様に消費するんだよ?
僕は血を吸っていれば簡単に修復が出来るし吸い貯めみたいなことも出来る。最悪はMPを使うしかないけどね。エンペラーウルフは確かにAランクと呼べるだけあって強いけどさ、倒しきれない相手じゃないしチートを持っているわけじゃない。MPも普通の人と比べれば莫大だけど僕ほどじゃないよ。
「久しぶりの本気なんだからそっちも考えて動け。僕は楽しみたいんだ。あの時に楽しめなかった分だけね!」
突撃、からの半回転してドレインで斬撃を飛ばす。ドラグノフを背中に回しエンペラーウルフの攻撃を逸らし、ドレインを回して逆手で突きを放つ。もちろん、外した。
「いいのかな? 疾風も自己回復もMPの消費が甚大なんだよ?」
「……グゥ!」
分かっていると反論したげに大きな口を開いて飛んできた。疾風を使わないということはMPを抑える戦い方にするのか、っと!
「さすがに効かないよ!」
「グァァァ!」
「ッツ! まだだァ!」
横腹に爪が刺さったけど、それのせいでエンペラーウルフは動けなくなっていた。そこでドレインで斬りMPの吸収と血の補充をしていく。魔物とはいえ、生物だから血は通っているんだ。
僕はこう思っている。
吸血鬼が種族特有のスキルを扱えるのは吸血鬼という人であって、それであって魔物に近い存在なんだと。地球ではデザイナーベイビーと呼ばれるものがあるように、この世界でもDNAに操作や変異が起こせる力があるなら種族なんて意味をなさないと思う。吸血鬼は敵や仲間の血を吸って自分の体に通わせていく。そこで混ざり合うはずだ。
そう考えてしまえば今の僕の体の血は最初に転生した時の僕とは違うだろう。オークやゴブリン、コボルト、そしてエンペラーウルフの血も僕の体にあるんだ。だから吸血鬼はウルフ特有の疾風を使えるようになるはず。
近付いてくる。今度は疾風を使わないようだ。しっかりと斬撃を加える。二度目の失敗はしない。ドラグノフで前足を抑えてから斬撃を加えておいた。まだ疾風の熟練度が足りない。血液量からして奪えてもいい頃合いだと思うんだけど……。
次の突きは疾風で躱されたけどすぐに飛んできた。向かってこられるよりは自分から向かう方が戦いやすいのかもね。でも、そっちの方が僕にはありがたい。
「アイシクルウォール!」
「グラァ!」
目の前の氷の壁がエンペラーウルフの突撃でヒビが入る。そこに合わせてドレインを突き刺した。少し刃先に当たったところでエンペラーウルフも疾風で避けたようだ。
疾風自体は転移に近いものだと見た感じ思ってしまうけどそういうわけではない。少し刃先に当たったという時も僕の目にはぶつかったようには思えなかったからね。多分、かなり速度を上げることで瞬間移動をしているように見せているだけだ。
現にエンペラーウルフの口元から血が垂れている。対して僕に傷と呼べる傷はない。血の吸い貯めがまだまだ残っているしMPもかなり余っているしね。
エンペラーウルフのMPはかなり少ない。だから多少の傷は自己回復で回復しないようにしたみたいだ。それなら最悪は逃げるために疾風を使うだろうしね。でも、それじゃあ駄目なんだよ。
「僕が求めているのは倒したことによる成長だけだから」
「……グルゥ!?」
退路にアイシクルウォールを展開したことでエンペラーウルフが逃げることを止める。ぶつかって隙が出来てくれれば楽だったんだけどそういうわけにもいかないか。
即座にドラグノフを撃ち込み避けた方向に飛ぶ。飛ぶ速さは大したことがないから追いつけはしないけど、これで僕とテンさん達の間にエンペラーウルフがいることになった。つまりはこれで逃げられない。
一応、この状態でドラグノフは撃てないからドレインで戦わなければいけないけど、まぁ、まだ疾風も手に入れていないしドラグノフで決着をつけるつもりもない。
「グラァァァ!」
決心したのか、僕の方に突撃をしてきたエンペラーウルフにドレインを向ける。エンペラーウルフが回復を後回しにした場合、疾風を使える回数はおそらく五回。命を投げ捨ててしまえばその限りではないけど……油断は出来ないよね。
「来い!」
ガギッと鈍い音がしてから手に重い感触が伝わってくる。それに流されないようにすかさずドラグノフを背後に回して回転しながらエンペラーウルフの爪を弾く。これで疾風一回目だ。
次いで地面に着いて少し飛ぶまでの隙をドレインで突いて軽い傷を作る。この際に途中で飛ばれたし思いの外、体勢が悪かったせいで背後に回られた後の爪を弾くことは出来なかった。傷は少し深いけど戦闘に支障をきたす程ではない。これで疾風二回目だ。いや、攻撃の後にもう一度、使っているから三回目として考えていいかもね。
「グルゥ……」
「まだ倒れないよ! ほら!」
もう逃げるって考えはないようで後ろに回ったまま下がろうとはしなかった。照準上に二人はいないので威嚇のために二発撃ち込んでおく。
躱すために疾風を使うなんて馬鹿なことはせずに避けられたけど、その逃げる方向は僕の予想通りだ。すぐに追い付いて斬撃を加えたがあまりダメージはなさそうだ。それも体を半回転させて傷を軽くしているから手は抜けなさそうだね。
後ろに飛んで斬撃を飛ばしてから突撃。
これもこの短期間で慣れたのか、軽々と対処されてしまった。ステータス自体は僕とどっこいどっこいだけど、速度で劣っている分だけ僕が不利だ。まぁ、斬撃の際に呪魔法を付けていたから出来ていることなんだけど。
不意に五回目の突撃の時に意を決してか、エンペラーウルフが目の前から消えた。逃げたわけじゃないことは分かっている。だからドレインを持ちながら回転した。
「ガフッ……」
予想通り最後の疾風で倒そうとしたのか、ドレインでの回転斬りでエンペラーウルフは地に伏した。最後の攻撃の傷は深かったようでその一面だけ赤い水溜りが出来ている。
油断することなく近付いて首を落とした。
これは早く戦いを終わらせたかった反面、こんな場面で出会わなければ従魔にしたかった自分の気持ちを沈めるためだ。それほどまでに魔物というには表情豊かで面白そうな存在だったし、何よりも強かった。
時には嫌であろうと何かを殺す必要はあると思うし、今回の戦いはカマイタチのように仲間になる余地はなかった。すぐ近くにエンペラーウルフを生み出した魔力溜りがあるんだ。下手に強化されても倒しきれるか謎なところが多すぎる。
「安らかに眠れよ」
この素材は僕の装備に使おう。
静かにそう決めてエンペラーウルフの死体を倉庫に回収した。魔物と人との間に情のようなものがあってもいいと思う。少なくともエンペラーウルフには苦しんでもらいたくなかったしね。
【疾風を獲得しました】
そんなイフの声が異常に虚しくて、それでいて笑っているようなエンペラーウルフの顔が何度も頭をよぎった。
エンペラーウルフの後に魔物は現れてこない。きっとほとんどの魔力をエンペラーウルフの制作で作ったんだろうね。かなり知能も高かったしランクに恥じないステータスを持ち合わせていた。
さっきから二人に何も話されていない。戦いの後に何かを言われるかと期待したけど時間がかかっていたから最高とは言えないしね。まぁ、褒めてもらいたいわけではないけど。
ドラグノフを構えて先導するように進んでいく。どちらにせよ、魔力溜りを直すことが出来るのは僕だけだと思うから、僕が最初に魔力溜りに触れるのが正解のはずだ。現に一回だけど成功したことがあるしね。
「ちょっと……」
「どうかしたの?」
最奥に入る前にフウに背中を掴まれて前へ進めなくなる。掴む力が強くて僕に話したいことがあるのは簡単に理解出来る。だから僕も立ち止まってフウの方を振り向く。少し威圧を放っていることから何かを察しているんだろう。
そこで意識が飛んだ。
この白い空間を僕は知っている。
これは……転移だ。
書き始めていますが次回を明日までに出せるかどうか不明です。一応、週一の投稿は出来るように頑張りたいと思います。予定では数話で終わりそうな気がするのでラストスパートを頑張りたいです。
※今更ですが200,000PV突破していました。ありがとうございます。この調子を保ったままで書いていきたいと思っています。