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3章31話 戦いの一幕です

ギド視点です

「ふっ! これは、ヤバっ!」

「その程度で弱音を吐くな」


 僕はテンさんとフウと三人で洞窟の中を走っていた。洞窟の中は薄暗くて出てくる魔物もかなり強い。Bランクの魔物が雑魚として出てくるから僕も気が抜けない。


 こうなったのもイフから言われた言葉のせいだ。本当ならミッチェルが危険ならミッチェルの助けに行きたかった。でも、同じような強さを持つ敵が現れたら元も子もない。そのためにテンさんに報告すると同時に魔力溜りを無くすための手伝いを頼んでみた。そしたら思いの外、簡単にいいって了承されたんだよね。


「邪魔だ」


 テンさんの武器は片手剣が二つという少し変わった戦い方だ。刀のような武器なら二刀流も考えられるけど片手剣のような少し大きめの武器を二つ持っている人は初めて見た。


 今更だけど僕の隣に立つとテンさんは大きく見えてしまう。今で百七十ちょっとはあるんだけど、テンさんは二百はあるんじゃないかなって思えてしまう。地球なら巨人ってあだ名をつけられそうだね。


 そして片手剣は刃の部分が一メートルはあるから片手剣としても大きい。それを軽々持ち上げて目にも止まらぬ早さで振り切れるのはテンさんが強い証拠だよね……。僕ならここまで早くは振れない。目で追うのもやっとなくらいだし。


 あの時に感じた底知れぬ恐怖は当然だと思う。フウも慣れているのか弱音を吐かずにオークキングやゴブリンキングとかを地に伏させていた。そこは紛うことなきSSランクの力だね。


 フウの戦い方を見るに集団戦に得意みたいで引き寄せては相手の攻撃を他の敵へとぶつけていた。主に避けることがメインで受けたり斬るのは薄くなった自分へのヘイトを取り戻すためにやる程度。それでもその時の一撃がかなり重い。


 テンさんは目に見えるか見えないかの早さで剣を振って、距離を詰めては致死的な大ダメージを与えている。魔法を使わないところを見ると魔法は使えないのかもしれない。


 この二人を前にして僕も遊べるわけもない。


「アイシクルロード」

「ビギィ……」


 思いの外、集団戦には効果が抜群だった。

 地面に氷の膜を張って通ったものを凍らせていく魔法だけど……まぁ、大技に近い分だけMP効率が悪い。それとテンさんやフウが相手なら足が凍っても壊されておしまいだ。格下相手だから通じる戦術だろうね。


 だけど、これでいい。


「僕も早くミッチェル達を助けに行きたいんだ。早めに消えてくれ」


 凍った魔物全体に魔力を流す。

 MPの入る量っていうのは個々によって違うし、それは臓器とかでも入れられる量は変わってくる。例えば酸素なら密度が高くなれば人にとって毒になるように、魔力っていうのは一歩間違えば魔力溜りに長時間いる状態と変わりがなくなってしまう。


 ましてや一気に魔力を流したから魔物達に順応する時間なんて一切ない。MPを保存する場所が壊れる前に異常をきたすのは体だ。実際、僕に魔力を流された魔物達は空気を入れすぎた風船のように爆散した。氷の中での爆散なので周囲への影響はない。もっと言えば爆散した後の空気中から自分のMPは吸収出来るし、なんならドレインで他の魔物を切れば回復出来るしね。敵が多数いるから上手くいく技みたいなものかな。


「……魔王みたいな非道的な戦い方をしますね」

「人道に則って戦えば仲間が傷つかないなら魔王で構わないよ」


 フウの言葉は僕からすれば馬鹿げている。

 僕がいた前の世界では非人道的なことは道徳や法律の中で規制されていた。それに従って生きていて僕が得た利益なんて数少なかったよ。それよりも多かったのは不幸ばっかり。正直者は馬鹿を見るっていうのが人が生きていく道の教訓だ。


 誰かが決めたことを守り通すよりそれに抗った方が楽しい。僕はそう思うけど仲間達はそうとは限らないわけだけど。それでも否定や批判はしてくるからね。何でも言うことを聞けばいいなんて考え方はしていない。


 自分で決めたことは死んでも捨てない。仲間というかけがえのないものなら尚更だよ。もしなんて仮定を考えるつもりはない。非人道的な戦い方でも仲間を守れるならやめるつもりもない。


「……いい心がけだな。甘えて力を出さない奴らに比べれば断然、良いと思うぞ」

「……恐縮です」


 渋くて低い声が僕を何とも言えない気分にさせる。威圧していないのは分かるんだけど低い声の人って少し怖く見えるよね。加えてテンさんは僕よりも強い人だし萎縮してしまうのは仕方ないと思うんだ。


 テンさんの近くにいると緊張感からいつもみたいな巫山戯た、おちゃらけた考えも浮かばなくなるし……。何だろう、上司とか先輩とかの感覚だね。


「ただ見栄えがいい分だけ魔力効率が悪いな。わざとか?」

「一応ですが……初めて魔法を見せるならこれくらいは出来ることを知らせるようなものがいいですからね」

「……理解は出来るな。まぁ、弱くないことは分かっているから気を使わなくていい」


 ふいっと急に興味を無くしたかのようにテンさんは僕の方から視線を逸らした。すぐに僕も体制を整える。テンさんはさすがだ。洞窟の奥から新しい魔物が向かってくるのを察知したのだろう。


 フウもそれを見てククリナイフを構えていたから気がついていなかったのかもしれない。それならそれでいいんだけどね。多分だけど試しているようなことに近いだけだろうけどさ。だから、僕は僕なりにやるだけだ。


 ドラグノフを構えて直線状の奥から走ってくる魔物達に照準を合わせる。さっきからテンさんやフウは現れた魔物を返り討ちにする形をとっているから、わざわざ奥に行かないことはもう理解しているしね。


「……ヒット!」


 新しい銃弾である火炎弾を装填出来るだけ装填してから、何度も引き金を引いた。銃弾が尽きるまで撃ち続け照準から目を離す。


 うん、火炎弾って呼ぶには相応しくない威力だね。強いて言うのならショットガンに近い感じになってしまっている。撃つ時の音が大きいし、その分だけ威力っていうか、広範囲の敵に火が飛び散っているから、弾が拡散しているっていうのとは違うかな。


「全滅か……すごいな」

「ええ、僕の師匠からの最後の贈り物ですから」

「……死んだのか?」

「いえ? どこかに消えただけですよ」


 僕が笑うと「考えすぎか」とニッコリと笑い返してくれた。そこまで怖い人ではないみたいだね。もっと固く怖い人だって思っていたしなぁ。


 ここは洞窟ってだけみたいだね。倒した魔物がダンジョンの時のように光になって消えることもないし。今、僕の目の前には焼け尽きた魔物の死体が転がっているんだよね。まぁ全員がそれなりに稼いでいるから素材が壊れて怒る人もいないけど。使えそうな素材だけは残して回収しておこう。


「……やはり空間魔法使いはすごいな」

「使い所を選びますけど素材とか道具を運ぶ際は楽ですね」

「好きな時にポーションなどが出せるだけ良いことはないだろう」


 苦々しげにそう言っているから一度、そういう体験をしたことがあるんだろうね。僕は生まれながらにそういうのには特に感じたことがないから分からないけど。


 今の戦い方の方が楽だと考えたのか、テンさんもフウも進もうとはしない。まぁ、正しいんだけどね。イフも言っていたんだけど魔力溜りから現れる魔物は有限らしいし。現に最初に出てきた魔物の群れに比べれば僕が壊滅させた魔物は少なかったし。


 ただそれは少しダメな気がする。


「グルゥァァァ!」

「ほう、こんな魔物まで現れるのか」


 案の定、現れたのはさっきよりも威圧感の強い狼型の魔物だ。四足歩行だし見た目的にはウルフの上位互換ってところかな。


【名前はエンペラーウルフでウルフ系統の三番目に高い進化種です】


 となれば、ブラッドウルフの進化系に近いのかな。エンペラーというだけあってクィーンとかもいそうだし。ステータスを見る限りでは……手加減は出来ないよねぇ。


「エンペラーウルフですね」

「知っているのか。そうだ、Aランクの魔物だが場合によってはSランクに相当する魔物だな」

「……いえ、あれなら僕で十分です」


 テンさんがあまり大きくない目を丸くして僕の方を見てから「そうか」とだけ言う。僕も首を縦に振ってからドラグノフを構える。これは了承の意味合いで捉えて良さそうだよね。


「あまり気負わないでくださいね」

「ありがとう、でも、これくらい倒せないと強くなれないから」


 まぁ、少しドキドキはしている。

 だってさ、初めて見た魔物だしステータス的には希少でしょ。下手に素材を壊さないように火炎弾は使えないなぁ。スキルで欲しいのは……疾風くらいかな。ステータスに現れないタイプのスキルみたいで、種族特有のスキルっぽいね。これも奪えるっていう吸血鬼ってすごいなぁ。


 ドラグノフとドレインを片手ずつで持って交差させる。僕のその行動のせいか、エンペラーウルフも僕の方を見つめながら、その口を大きく広げた。


「グオァァァ!」

「らァ!」


 大きな遠吠えをされたせいで反射的に大声を上げてしまった。大声を上げるなんて歌う時以来、滅多にしないしなぁ。やっぱり大声をあげるならこっちの方が僕は好きかも。


「ロオォォォォォ!」

「……グルゥ?」


 いや、敵のはずなのにエンペラーウルフに、可哀想なものを見る目で見られているんですが……? この世界に浸透されていないんですか? 僕なりのデスボイスを出したつもりなんですけど? 幼馴染からは上手いって褒められているんですが?


「うざい!」

「ギャウ!」


 ドラグノフを連射してエンペラーウルフの腹部に当てたら大きく後ろに飛んで毛を逆立てて威嚇をしてくる。ここら辺でエンペラーウルフも行動を変えてきそうだな。これで僕が雑魚じゃないって分かっただろうし。


 えっ……八つ当たりじゃないですよ。全然、これっぽちもその意味合いは含まれておりません。それにどうせ戦うのなら本気でやってくれないと楽しくない。強い敵を倒すことで僕が成長したことを自分で知ることが出来るしね。


「来い!」

「グラァ!」

「それじゃあ意味が無いね!」


 大きな爪をドレインで弾いて首元をドラグノフで突こうとするが掠りもせずに空を切る。でも、躱そうとして逃げた方向が銃口の先だ。撃ったことで軽いかすり傷が出来る。


 ただそれでもエンペラーウルフ、もといAランクって呼ばれるだけあって自己治癒能力も高い。最初の撃ち込んだ際の傷が完治ではないけどほぼ塞がっているし。まぁ、それも完璧ではないんだけどね。


 回復する時に行動が少し遅くなるし併用して疾風も使えない。さっきの速度が極端に早くなるのが疾風だ。エルドの戦い方を見ていなかったら傷を負っていたかもね。


 その隙を僕は突く。

多分ですが、4章は王国編としてセイラメインは変わらず、それでいて新キャラが出てくると思います。同時に洞窟の攻略の際にテンさんがどれだけ強いのかって言うのを書けると万々歳かなって作者は感じていますね。


後、一話か二話まで連日投稿が出来そうです。3章と4章の間に勇者側の閑話を書くと思います。王国編なので閑話はかなり4章に関わった話になると思いますが楽しんでいただければ幸いです(まだ書いていませんが)。


最後に今更ですが総合評価七百を達成していました。今年中の目的が二回も達成されてかなり嬉しいです。このままもう片方の百二十話までの投稿も目前に迫ってきました。次は総合評価九百、出来れば千を目指して頑張ります。


長文失礼しました。

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