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3章29話 闇夜に笑え

長めです。

「君も死なないのか! すごいねぇ!」

「お褒めに預かり……こ、光栄ですね」


 MPを一気に回復へと回します。

 このままではこのダメージで死んでしまいますから。これは結構な重傷です。受けた自分だからこそ、この傷の重大さを分かっています。


「ふっ!」

「それは悪手だね!」


 まるで指南するかのようにシロのドレインを細いレイピアで受けています。それも私とは違って漆黒の恐怖を煽るような見た目をしています。刃と持ち手の間には骸骨の柄が付けられていて……申し訳ないですが悪趣味としか思えません。


 シロの斬撃を同じ速度でいなしていく……子供を宥める親のように見えてしまいます。でもこの人はそんな人ではありません。雰囲気でよく分かります。


 この人の雰囲気は暗く黒いドンヨリとしたものです。多分、私達の命なんて魔物と大差ないのでしょう。それにこの人は私達の仲間でもないです。明らかに突撃で遅れた魔物達が中に入ろうとするのを止めて、身を翻しています。


「うっ!」

「へぇ! 躱すんだ!」

「うるさい……!」


 シロの驚きも理解出来ます。

 私も驚いてしまいましたから。


 あの人の手に握られているのは明らかにギドさんが使っている拳銃……とは少しだけ見た目が違いますね。ですが、その銃弾の速さは同格と言っても良いです。ギドさん程に強くはなさそうですが私達よりは格上です。


「はぁ!」

「意表をついて攻撃したのは良い判断だと思うよ」

「それは効かないです!」


 青年の銃弾をレイピアで斬ります。

 速さ自体はかなりのものですが速度上昇を施した私にはまだ対処が可能です。ステータス上昇を無しでもギドさんならなんとか出来そうなものですが……そのギドさんもギドさんでこちらに援軍は来れないそうです。


 これはきっとギドさんからの試練なのかもしれません。だから出来る限りのことをさせていただくつもりです。出し惜しみなんてする気はありません。


「ハウンドハウル!」

「それは格下にしか効かないよ!」

「一瞬でもいいの!」

「そうですね!」


 何とか頬に傷は付けられました。

 もちろん、傷を付けたのは私が愛している呪氷剣です。もし相手が格上なら弱体化させていくしかありません。一撃だけでもいいんです。そこから侵食が始まります。


「たかだか傷一つ付けて笑顔になるのはどうかな?」

「不意を突かれなければ……防御は出来ます!」


 蹴りとお腹の間にレイピアを入れます。全部の威力を軽減……とまではいきませんが骨が粉々になるのは回避出来ました。お腹は一番の弱点です。子宮が無くなればギドさんとの子供は手に入りません。こんな奴のために失うべきものでは無いです。


 いえ、ギドさんならきっと直せるでしょう。そんな話は関係ないかもしれません。ですがギドさんが傷付いて悲しむのは目に見えています。あの方はとてつもなく優しいお方ですから。


 だから、傷つかないで倒します。

 守りを重点的に少しずつ追い詰めていきます。


「綺麗な笑顔だ! どうかな? 俺と一緒に来るというのは!」

「お断りです!」


 私の横に薙いだレイピアを飛んで躱します。

 さすがにこの程度では当てることも出来ないようです。……それにしてもこんな場面で勧誘とはアホにも程があります。私はこんな人に興味はありません。


 あの時から、私はあの方一筋です!

「俺は勇者の仲間の異世界人だ! いいのか!? とてつもないほど出世できるんだぞ!」

「興味がありません!」


 その言葉を肯定するためにレイピアで連撃を加えました。ですが、やはり躱されてしまいますね。一応、この速さには自信がありますし大概の人は避けれない自負はあったのですが……。


 それにしても異世界人ですか。尚更、興味はありませんね。自分の力ではなく神から与えられた力で自尊心を保とうとする愚か者が多いですから。もちろん、全員とは言いません。中にはギドさんのようにとても良い方がいらっしゃるかもしれませんから。


 ですが、目の前の青年はギドさんとかけ離れすぎています。雲泥の差、月と道に転がる石の違いはあります。一緒にされては困るんですよ。私の頑張るための、生きる気力となる存在と一緒にされては!


「ぬっ!」

「ごめん! 躱された!」

「良いです! はっ!」

「激しいねぇ!」


 これは……背筋に来るものがありますね。

 シロの銃弾を躱し私の斬撃も受け流したことには敬意を表しますが、ここまで気色の悪い存在は吐き気がする程に嫌いです。気持ちが悪い、気持ちが悪すぎます。


「はは!」

「私の! 手に触れるなァァァ!」

「ミッチェル、ダメ!」


 いきなり触れられた腕の感触に吐き気がして払った瞬間に抱き寄せられました。その力は本気でもがいたとしても振り解けないほどで無力さを実感させられます。


 シロが私を助けようとして飛びかかりましたが片手で地面に叩きつけられています。緩くなった拘束でさえも外すことが出来ません。


 少しずつ顔が近付いてきます。

 この人が何をしたいのか、それは明白です。相手の気持ちを理解せずにそのような行動を取る青年に吐き気を通り越して殺意が湧いてきました。なぜ、私はこの人に良いように扱われているのでしょうか。


 頭が痛い。この感覚は昔、何度も体験したことがあります。服を着ることを規制され見世物にされた過去。エルフの血が流れていないにも関わらず人よりも少し長い耳。エルフよりも安くエルフのような見た目の存在を凌辱しようとしたルール……目の前の人はその人達と変わりません。


「なっ!」

「私に触れるな!」


 口と口が触れ合う瞬間に結界を張りました。

 だから私の口にコイツの口が触れ合うことなんてありません。そして一瞬の隙が私が欲しかった好機。これを逃すほど馬鹿ではないです。


 背後に呪氷剣を差し込んでMPを流していきます。例え一回でも刺さってしまえば呪いを流し込むことは可能です。なめられても困ります。私は私を信用する気はありませんがギドさんが信用してくれた私を信用することは出来ます。私の才能はギドさんが見出してくれた才能です!


「勝手に決めつけてふざけるな! 私は私のものだ! 私を私と決め付けて自由に出来るのはお前如きじゃない!」

「……そんな存在を手に入れる時が楽しみだよ。この傷は記念日になるだろうね。さて、少しだけ本気で行こう」


 呪氷剣を抜き切ったところで青年は後ろに飛びました。さすがに同じ傷を負う訳にはいかなかったのでしょうね。これで分かりました。別に私達で倒せない相手ではないということが。


「俺は君達をなめていたよ。もう少し早く思い至っていればよかった。この世界の住人が銃なんて持っているわけがないよな。君達がそれを手に入れた理由を聞かせてもらおうか」

「黙れ!」

「ッツ!」


 青年の女のように止まらない口を止めたのはシロでした。それもシロの持っている武器は私も初めて見る構造や見た目です。首元から垂れている紐に繋げられた長い銃。私達が知っている銃とは明らかに大きさが違いますし、それに……威力も違います。


 青年のレイピアと銃弾が接触した瞬間に破裂して青年の腕を赤く染めあげています。初めて見た青年の大きな傷です。私もそれを見過ごすわけにはいきません。きっとこれもギドさんからの手助けに違いないですから。


「死ね!」

「口が悪、うっ!」


 レイピアとは元々、突きに特化した武器です。

 私がこの武器で防御をとることをギドさんはよく思っていませんでした。いわくレイピアの強みはしなやかに早く突きを放ち攻撃の流れを引き寄せることらしいのです。


 心器は壊れません。それはその人の心を表し壊れる時は心器の所持者の心が壊れることだからです。それに甘えて戦いの時にこれだけで防御をとることは悪い癖を覚えていることと変わらないそうです。


 もちろん、レイピアなのにレイピアじゃない戦い方をするのはいいと付け加えていました。ですが、それは必ずしも強みになるわけではないとも付け加えています。


 だから、この一撃はギドさんに教えて貰った一撃です。心器は本人の魂、その本人のMP、つまりは魔力を拒否することなんてありません。もしも、私に力があるというのならば、私に強みが欲しいです。


 この不届き者を倒せるだけの。


「連撃!」

「調子に乗るなよ!」


 私は私を信じます。

 ギドさんが信じた私なら勝てる相手です。


「なぜだ! なぜ攻撃が当たる!」

「目に見えて速度が落ちていますよ! それにも気付けない馬鹿なのですね!」


 数回の突きが当たって相手のレイピアを蹴って下がります。私のレイピアは私の魂。ギドさんが磨いてくれた大切な魂です。きっと私を助けるために力を与えてくれたのです。


「そっちに集中したらダメ!」

「うぁ……」


 ドレインの利点は相手のスキルや力を奪っていくこと。それには相手の血を武器が吸うことが条件にありますし、何より武器の所有者が吸血鬼でなくてはなりません。ですがシロには無意味です。


 そもそもの話、シロに種族というものはありません。もっと言うのならシロの所有者であるマスターの種族を手に入れることが出来ますから。要は種族というものが有って無い、無機質でありながら吸血鬼であり人族でもある稀有な存在なのです。そしてシロの体を流れる魔力はマスターの、吸血鬼であるギドさんのものですからその強みを得ることが出来ます。


「闇心……」

「違う! ヤミヨノココロだ! 俺をここまで昇華させてくれたスキルを馬鹿にするな!」

「馬鹿にしているのはそっち! 人を殺して強くなるスキルなんて屑でしかない!」


 よく分かりませんが闇心と言うものがコイツの強くなっている原因だったようです。シロでさえ、人を喰らうことで成長するシロでさえ、本気で嫌がるスキルなんて初めてです。


 シロにはシロの気持ちがあるのでしょう。

 何より最初の頃は違いましたが最近ではギドさんの魔力を貰うことだけで満足していますし。人を食べたいと言うこともありませんからね。


「俺を馬鹿にするな!」

「強化!」

「ミッチェルとシロをなめないで!」


 レイピアとドレインがぶつかり合いました。

 片方は青年の胸に、片方はシロの首元を貫いて血を流し合います。出血量はかなり多く見ていて気分が悪くなるほどです。


 スルりとレイピアとドレインが抜けていきます。二人の傷元から噴水のように噴き出してきた血は見る人によっては魅了される人もいるかもしれません。少しだけシロを美しいと思ってしまいました。


 首を振ってシロを結界の中に入れます。

 傷元にも結界を張ることでこれ以上の出血が出ないようにしましたが、これは少し不安ですね。シロが死なないとは聞きましたが本当に死なないという確証は私にはありません。もし死なれてしまったら……私は辛いです。


 すぐに追撃として撃ち込んだ銃弾は空を切りました。まるでそこには何もいなかったかのように青年の姿はありません。一瞬のまばたきのような時間で青年は消えていました。


「まだ殺させるわけにはいかないのでね」


 そんな野太い男の声が聞こえた瞬間に雄叫びが聞こえます。冒険者などの人の声ではないです。野生の獣のような雄叫び。大きな足音が何がこちらに向かった来ているのかを私に教えてきます。


 ソイツは青白くなっている私を見てニヤリと笑みを浮かべました。この魔物からすれば人の女性など繁殖の道具でしかありません。私でも分かります。この魔物はオークキング、二番目に突撃してきたオーク達の親玉です。


 何も聞こえません。


 私の体がおかしくなったわけではないです。体が私を生かすために最後の気力を振り絞らせているんです。私はまだ死ねません。後ろのシロのためにも、私を信用してくれたギドさんのためにも……。


 銃を撃ち込みます。

 微かな銃の反動すら傷を抉ってきて痛いです。ですが、あの時に受けた傷に比べればこの程度、私を止めるものにはなりえません。


 オークキングの横振りの一撃を上に飛んで躱します。キングとはいえオーク、知能が少しあるだけで大した戦い方に影響はありません。そう高を括っていました。


 いきなり来た横腹の痛みに一瞬だけ体が硬直してしまいました。それを隙と見たオークキングが私の首元を掴んで締め付けてきます。魔物の性格の悪さを実感してしまいました。こうして死にかけたところで自分達の巣へと連れていくのですから。


 私なりに頑張ったと思います。

 あの敵を相手に撤退させることが出来たのですから。もし良かったらシロだけでも助かるように願うだけです。あの時に、洞窟に攻めた時に終わるはずだった命がここまで長続きしたんですからね。


 薄れ行く意識の中で目を瞑った瞬間に首の拘束が解けました。目に映ったのは腕が叩き切られて悶えているオークキング。そして私を支えているのは……キャロでした。


 オークキングに向かい合っているのは本気で怒っているエルドです。「ミッチェル様」とか「お嬢様」とか言う姿は執事としての風格に合っていますね。


「ごめん……なさい……後は……任せました」


 それを言うのが精一杯でした。

 ですが、エルドは優しく笑ったので了承してくれたのでしょう。私は私の仲間を信用するだけです。キャロならばシロも私も助けることが出来るでしょうから。

これでミッチェル視点は終わります。

メインで必要になってくるのがギド視点とミッチェル視点だと思っていたのですが、話によっては他の人の視点も書くかもしれません。

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