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3章28話 邪魔な存在

少し長めです。

「あの二人に続け!」


 後から来た冒険者達が私達の後ろから突撃を仕掛けていきました。もちろん、邪魔なだけです。弱いものが集まっても弱いものでしかありません。オーク如きに複数人で戦わないといけないのですから。


 いえ、それだけならまだマシです。まだ改善の余地はありますし倒せない相手を複数人で戦うのは定石です。ですが、後衛の魔法などの射程に入るような動き方をすれば魔法使いや弓士はどのように戦えというのでしょうか。


「早く魔法を撃ってくれ!」

「そこを離れてくださいよ!」

「なんだと!?」


 あーあ、敵の前だというのに仲間で争ってどうするのでしょうか。そうこうしている間に前衛で怒っていた男の人がオークに吹き飛ばされましたし。


 もうこの場を離れたいですね。

 冒険者の練度は大したことがありませんし名声のためだけに前に出る人も多いです。そこまでして前へ出て自分の失敗を他人に押し付けてまでやりたいことはなんなのでしょう。


「ごめん、ちょっと行ってくる。南門が少し弱そうだから」

「分かりました。お気をつけて」

「……我慢する」

「言わなくても分かるって偉いな。早めに戻るつもりだから許してな」


 ギドさんはそう告げて南門に向かっていきました。フウさんも同様にギドさんの方について避難誘導に徹するようです。悪くない気がします。あまり王国の人を助ける利点はなさそうですけどね。


 とりあえずシロと二人で補助役に回ることに決めました。面倒なことですが冒険者の顔を立てることにしましょう。どうせ前に出ても顔や名前が売れるだけで良い事なしです。それなら少しの利益でも渡した方がマシです。


 時々ですがギドさんは一人で、それも内緒で行く時に使う武器があります。まぁ、ワルサーという心器であることには代わりがありませんが、サイレンサーと呼ばれる銃につける道具を使うらしいです。威力は少し劣ってしまうそうですが売った時の音が完全に無効化され躱すことは不可能に近いそうです。


 今回は私とシロも使わせてもらいましょう。

 前衛で自分勝手に戦っている冒険者達の背後、もっと言えば後衛で戦っている冒険者達よりも後ろで撃たせていただきます。馬鹿にするようで悪いですが弓や魔法で戦う冒険者の射程や射速よりも、こちらの銃の方が両方に秀でています。


「やられる!」

「ブァァ!」

「……えっ……?」


 一瞬の瞬きのうちに目の前のオークが地面に倒れるところを見るのはどのような気持ちなのでしょうかね。人によっては「俺の隠れた力が」などとほざく人がいますが、どう勘違いすればそう思えるのでしょうね。ご口授たわまりたいものです。


「シロは左側をお願いします」

「任せて……一発外した」

「大丈夫です」


 さすがに十発のうち一発は外れてしまいます。ギドさんのように引き金を押したまま全弾当てるなんてことは出来ません。本当のワルサーにはそういう機能は無いらしいのですが付けたみたいですね。さすがです。


 シロが外せば冒険者に任せればいいです。

 私が外しても冒険者に任せればいいです。


 わざわざ功績を明け渡しているのですから命を懸けた戦いくらいはやっていただかないといけません。別にこの街の人が生きようと死のうとどうでもいいです。お金に困っているわけでもありませんからね。言うならスタンピードの敵は経験値でしかありません。


『第三部隊が来ます。オーガがほとんどなのでお気をつけてください』


 次はオーガらしいですね。

 ギドさんのように頭の中に地図を出せるわけではないので、イフ様からの情報はとてもありがたいです。イフ様もギドさんが好きらしいので本当の仲間と言えますね。気を許して写真とかを取らせてしまいます。……ギドさんがそれを見て喜んでくれたら嬉しいのですが……。


 シロの顔を見ます。分かっているようで首を縦に振っていました。次に来るオーガはオークとは比べ物にならないほど強いです。もっと言えば冒険者達が戦っていたのは進化種ではなく通常のオークです。ステータスで言えばオークジェネラルとオークキングの間くらいの力を通常のオーガが所有しています。より冒険者が邪魔になりますね。


 数人の冒険者が犠牲になれば逃げるはずです。そこからが本当の戦いになるでしょう。圧倒的な格差があって練度も無い冒険者達では勝てるわけもありませんから。最初のうちは援護無しで充分そうですね。


『シロにも伝えました』


 イフ様に感謝をしないといけません。

 あるのと無いのとでは違いすぎます。声を出さずに話が出来るのであればいくらでも戦いに幅がきかせられますから。私だったらそんな相手と戦いたくはないですね。下手に手の内を見せれば伝達されてしまいますし。そんなことを感づかせなければこれほどに強いものは無いです。まず、そんな能力を考える人はいませんね。冒険者のほとんどが見栄えする大技を欲しがりますし。


「おっしゃ! 後、一体だ!」

「行くぞ!」


 オークも残り一体というところで前衛がより前線を拡大させました。最初は三十はいた前衛の冒険者達も今ではかなり少ないです。元々、派手さを好む冒険者の中で好き好んで後衛を選ぶ人も少ないですし……数人は前衛が守り切れずに吹き飛ばされています。


 一、二、三……前衛が残り十三人と後衛が五人ですね。私達を抜いてそれですし来た冒険者の中で魔法使いは三人でした。そのうちの一名はさきほど飛ばされたばかりですし、魔法使い二名、弓士三名で戦わないといけませんね。


 戦争ならば撤退を進める頃合いでしょうが……この馬鹿達にはそれが分かるわけもないです。それに逃げるにしても街を捨てる判断をしなければいけないので仕方が無いでしょう。それにしても冒険者のギルドマスターはどうしているのでしょうか?


「グアァァ!」

「なっ!」


 最前線で門まで進んでいた男が最初に棍棒で潰されてしまいました。グシャリと大きな音で頭から潰されています。着ていた鎧は原型を留めずに地面へと埋まっており、ましてや最初に現れたオーガによって弄ばれるように上下に広げられています。人の体といえども頭と足を掴んで引っ張れば伸びるようですね。


 少し不謹慎なことを考えてしまいました。


「てめぇ! ヒルドを!」

「グァ?」


 怒りのあまり目を血走らせた甲冑姿の冒険者が、目の前にいたオークにトドメをさしてオーガに斬撃を加えました。ステータスの割には早い斬撃でオーガを圧倒しようとしましたが無意味です。


「グガァァァ!」

「ピギャ……」


 特に効いた様子もなくあっさりと棍棒で壁まで殴り飛ばされました。見た感じピクリともしませんので死んだのではないでしょうか。


 人が死ぬことに優しさを感じないという人もいるかもしれません。私はおかしいと思う人もいるかもしれません。否定はしません。人それぞれの考えがあると思いますから。


 ですが、この方達は大概、私と変わらない人が多いです。いえ、私よりも酷い人の方が多い可能性もあります。仲間の冒険者が死んで笑っている人もいましたから。そんな人達が死んで悲しむ人はいません。


「……もう全滅する」

「そうですね、こちらも準備しましょう」


 興味なさげにシロが呟きます。

 散り散りに逃げる冒険者も増え多数のオーガが楽しげに追いかけていきます。魔法使いや弓士も攻撃が効いていないようですね。早めに離れるか、申し訳ないですが死んでもらった方が楽です。


 少しだけ手を貸しますか……。


「グァ!?」

「なっ!」

「邪魔ですので早めに撤退していただけますか?」


 オーガの棍棒をレイピアで受け流します。

 丸太のように太く重い棍棒を細く軽いレイピアで止められてしまう。さすがにオーガも驚きますよね。普通に考えて金属対木材とはいえ、重さなどで折れてしまうのは当然ですから。さすが心器です。


「あっ! ありがとうございます!」


 感謝する時間があるのなら消えてもらいたい。他に人がいれば力を出せませんから。ワルサーも含めて魔法系は種類が多い分だけ覚えられる人は少ないです。火魔法を使える人なら水魔法が使えないことも多いですから。


「うちに来ないか!?」

「……うるさい」


 シロにさえ、見境なく連れていこうとする冒険者がいるようですね。守ってくれることが好意だと思っているのでしょうか。私が助けた冒険者でもそのような人がいましたし、助けたのは間違いだったようですね。この汚れてしまった手はギドさんに浄化していただきましょう。


 何とかオーガを倒しながら冒険者を撤退させることが出来ました。元は三十いたにも関わらず撤退させることが出来たのは七人のようです。他は……死んだのでしょうね。


 冒険者はハイリスクハイリターンだ、とギドさんは言っていました。大きな見返りがある分だけ危険も多い。それを承知の上で戦うのだから死んでも文句はないだろう、とのことです。


「……また言い訳してる」

「言い訳とは?」

「隠れて結界を張っているのはバレているよ。お兄ちゃんの悪いところだけ似てきている」


 ものすごく良い笑顔でシロに言われました。

 結界は……まぁ、張りましたが生きてもらいたくてでは無いです。たくさんの魔物がいれば面倒なので減らしてもらいたくて手助けをしただけです。


 それにギドさんの悪いところとは言っても同じような存在になれるのなら、これ以上の褒め言葉はないと思います。シロはなんだかんだ言って優しいですね。


「……喜んでくれて嬉しい」

「その誇らしげに胸を張る姿はギドさんに似ていますよ」

「似せているの。わかってくれて良かった」


 そこまで計算してやっているのですか……。

 案外、成長した時に正妻を争うことになるのはシロかもしれません。もちろん、譲る気なんてサラサラないですが。ですが、皆で幸せになるのであればどうでもいいです。どうせ生きていくのであれば楽しい方がいいです。


「グァ!」

「空気を読むということは出来ないのでしょうか?」

「魔物には無理!」


 シロが飛び出してオーガを真っ二つにしました。私は速度と補助、回復を、シロは攻撃と防御に秀でていますから。ステータス強化のやり方を教えてもらう時もこれが得意でした。攻撃等も苦手ではありませんが……。


「グルゥ!」

「アイスウォール!」


 オーガの大振りの一撃を氷の壁で飛ばします。さきほどの話の中で私は攻撃があまり得意ではないと言いました。ですが、得意な攻撃の仕方は私にもあります。


「こっちですよ」

「ガッ……」


 オーガの太い首を呪氷剣で斬ります。私の攻撃は一体一で戦うことには向いていませんが意識外からの攻撃に補正がかかります。もっと言うのであればステータス差が倍あったとしても意識の外から攻撃すれば倒しきれます。


 それにこの攻撃で死なないとしても呪氷剣にはギドさんの愛……もとい、ゾンビウルフの呪いの力があるので攻撃さえ当ててしまえば楽になります。オーガであれば一撃で首を切り落とせますね。


「こっちに来て! ハウンドハウル!」


 シロが体中にMPで膜を作りました。

 これはギドさんと二人で考え抜いた技らしいのですが、ヘイト管理という魔物の意識を集める技らしいです。魔物は動物と同じで存在感の大きさから相手の能力を測るらしいのでそこを知ってしまえば簡単に考えられるらしいです。


 果たしてそんなに簡単に思いつくでしょうか。

 私はギドさんの思い付きの才能に感服してしまいます。この技はイフ様が教えた技でもないようなので完全にギドさんの考えたものらしいです。魔物の話はシロが教えたようですが。


 そしてこれを作った理由はシロと一緒に戦う私が動きやすいようにするためのようですね。何度も言いますが私の強みは無意識からの攻撃です。強い魔物といえど、オーガではシロの存在感を重視して私を忘れてしまいますから。


「速度上昇……行きます!」


 シロに向かっていくオーガの首を呪氷剣と炎光剣で切っていきます。一体、また一体と倒していってシロの負担を減らしていきます。これほどの連携が出来ていれば何人も冒険者が死ぬことはなかったでしょうね。


 オーガの利点は攻撃の重さで速度に関しては冒険者達でも躱せますし。わざわざ受けようとするのは馬鹿な証拠です。有名な魔物の強みと弱みくらいは覚えるべきだと思うのですが……。


 冒険者が撤退するのにかかった時間と同じくらいの時間でオーガを殲滅させられました。イフ様いわく今回のスタンピードはゴブリンとオーク、オーガで形成されているようなのでここはこれで終了でしょう。


 私達の成長を実感するだけでしたね。


「……うっ!」

「へー、これは受け止められるんだ」


 思考の途中でシロの呻き声が聞こえたので顔を上げました。そこにいたのはシロと鍔迫り合いをするフードを被った人です。薄らとチラつく顔からは若く凛々しい顔が見えているので男なのでしょう。


 すぐに地面を蹴って青年の首を切ろうとしました。同時にボキッと嫌な音が聞こえます。すぐに分かりました。私が家の壁まで蹴り飛ばされたということに。

次回もミッチェル視点だと思います。先の話などを楽しみにしてもらえれば嬉しいです。


※お願いなのでもう一度だけGWの始まりに戻してください。

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