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3章24.5話 初めての感情

グロ注意です。苦手なら飛ばすことを推奨します。また視点がエスなのでそれを前提にお読みください。


後、閑話に近いので短いです。

「おい! コレはやばくねぇか!?」

「確かにその通りですよ! 女性を守ってばかりいないで戦ってください! ここでの最高戦力はエスさんなんですよ!」

「うるせぇ! 今行く!」


 本当に使い物にならないな。

 あの時もそうだった。変な風を操る魔物を前に盾役であるデブは簡単に沈んだし、遠距離で援護をするチビはすぐに逃げやがった。あの時に二人がもう少し戦っていれば俺だって撤退する必要性なんてなかったはずだ。俺が負けるはずないんだからな。


 今回はまだ舞台が街ってだけあってコイツらは逃げねぇ。ってか、あの時のようにいきなりとか、見えないってこともないからここまで戦えるんだろうけどな。


 悪いがコイツらよりも女の方が大事なんだよ。そもそも良い気分になれるのは小言がうるさいコイツらよりも、俺を崇めて称えてくれる奴らの方がいい。エイもそうだ。ただ俺を崇めればいいんだよ。


 片手剣を持ち上げデブが止めているオークジェネラルに切り込みを入れる。俺でさえ大した傷はつけられないんだ。止められているコイツらが倒せるわけもねぇ。


 こんなヤツらを倒せるのは俺かエイ……癪だがあのクソ無視野郎だけだ。やられた側だから分かるがアイツは強い。俺はアイツに負けるつもりもないからな。


「思い出したら気分が悪くなった。どうしてくれるんだ? おい? デブがよ!」


 呪の力を使う。

 これはよく分からないフード野郎から渡されたものだ。だけど、これを手に入れてから俺は確実に強くなった。未だに扱いきれていない感じはするがそれでいい。これを扱える時、俺は最強になれる。


「かてぇんだったら他で倒すだけなんだよ! 点!」


 まずは一点、虚空に魔力を溜める。


「線!」


 トロいデブなら俺の方が早い。

 すぐに点の反対側に動いてもう一つの点を作る。これで十分だ。


「呪え!」


 一瞬でオークジェネラルの腹に点と同じだけの大きさの穴が空いた。それでも死なない。これはさすがって言えるだろう。でも、それだけでしかない。


「三角!」


 動けないオークジェネラルの頭に点を作って能力を発動させた。三点、腹と頭に穴が空いてオークジェネラルは死んだ。さすがに頭に穴が空いて生きてはいられないか。俺でも無理だな。


「さすがだな」

「うるせぇよ。いいから次の場所に行け。ここは俺がやっておく」

「……悪いな」


 別に優しさじゃない。

 俺の呪いっていうのは残しておけば罠としても使えるからな。この点が見える奴らは発動者の俺や魔力が見える奴だけだ。強くも弱くもないがデブとチビは戦力だ。女を守るために戦ってもらう。


「チビもいけ」

「……そうする」


 デブとチビは反対方向に走って行った。

 これでいい、これで罠を広げられる。


「点!」


 走って大通りの道の端に点を作る。

 これで最初に作った点から線が伸びて一本の線へと変わる。端から端まで作れば次は縦方向だ。それを繰り返して道に見えない壁を作った。そしてその効力は絶大だ。


「……弱いな」


 魔物っていうのは馬鹿しかいない。

 ただノロノロと走って俺を殺すために目を血走らせる。だが、その拳は届かない。俺の目の前で細切れになって雑魚共は死んだ。


 一、二、三……数えるだけで二十はいるな。良い経験値だ。やはり俺は強い。あの時に負けたのだって何かの間違いだったんだ。


「俺は強い」

「ブルゥ?」

「ヒギッ」


 はっ? 何があった?


 目の前にいるのは……オークだよな?


 なんで俺の目の前にコイツはいる?


 なんで手の剣を俺に差し込んでいる?


 胸に手を当てる。


 手を当てる。


 手を当てた。


 血? 血? 血?


 いや、そんなわけがない。俺は強い。


「てめ……」


 剣が引き抜かれた。


 笑った、明らかに笑った。


 いやらしく、さぞ楽しげに。


 ニヤリと笑った。


「ガッ」


 声が出ない。

 出そうにも喉に異物が刺さって出せない。


 やめろ! このままにしてくれ!


 そんな俺の気持ちは無視され目の前のオークは剣を回し始めた。それと同時に俺の意識が飛びかける。ダメだ……ここで意識を飛ばせば死ぬ……。


 力無く点を作ろうと指を伸ばした。


 その瞬間に指が折られる。


 痛いとかいう気持ちは湧かない。


 だって、この口から伸びている剣がそれ以上の痛みを覚えさせてくるから。これ以上の痛みなんて感じられるのだろうか。


 これが……死か……。


「ブギャ!」


 諦めた瞬間に剣が抜かれた。


 それと同時に痛みが消える。


 死じゃない。生だ。生きている。


「あ……」


 声も出せる……だせる……?


 不思議な感じだ……俺の喉は……。


「下がっていろ。邪魔なだけだ」


 いつもの敬語は使わずに気持ち悪いものを見る目で俺を見てくる。酷く気に入らないがコイツが救ってくれたのは確かだ。馬鹿にするな、俺はまだ戦え……。


 そこまで考えて俺は自分の手を見た。足を見た。動かない。動かない。動かない。震えが止まらない。止まらせたくても動かない。まるで俺の足じゃないようだ。


「……守るしかないのか。面倒だな」


 そう言いながらも飛んで大剣を……振るったのか? 見えない……目で追えなかった。あの俺が戦えなかった相手を簡単に真っ二つにした。血で何も見えない。


「うっ……あああ!」


 気が付いたら俺は逃げ出していた。


 今なら分かる。あのチビの気持ちが。


 圧倒的な力の差を前にすれば足が命令を無視して動いてしまう。生き残ろうとしてしまう。俺を生かそうと俺がしているんだ。俺は生きたいんだ。みっともなくても生きたいんだ。俺は強くなんてない。それでいい。


 そのまま俺は意識が消えた。

 最後に見慣れた男の顔が見えて。

次回はしっかりとギド視点で進みます。この話の終わりから始まるか、その前のスタンピードの始まりのところから書くかは未定です。


次回をお楽しみに!


補足

角の呪、MPを消費して空中に点を作る。点と点が作用し合い間にあるもの全てを貫く線を作る。この際に三角、四角と形を広げた場合、その範囲を広げることが出来る。ただし点を増やすことと比例して消費するMPが増えていく。

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