3章24話 律動です
久しぶりに長めにしました。
休みがあるといいですね。小説が書けます(普通)
「今夜、話が出来るかしら?」
食事終わりにセイラに呼び止められてそんなことを聞かれた。少し沈黙してから今日中にやりたいことを考えてみる。
ポーションとかは……余りあるだけ作ってあるから大丈夫だね。他のことは……ミッチェルとかはセイラからの話って言えば納得してくれる。武器とかは今日、作ろうとしているわけじゃないから何も無いね。
「……二人っきりって話じゃないかしら。鉄の処女から報告があって、ロイスとアキ、そしてギドの五人で話し合いをしたかったのよ」
「別に二人っきりでも良いけどね。そこまで言うってことは重大なことが起きたってことかな?」
渋々頷くってことは余っ程か。
まぁ、予想はつくけどね。エミさんのことだからかなり考えた上で報告をすることを決断したはずだ。そう考えれば魔物の異常事態、つまり魔力溜り関連で間違いないと思う。
それに鉄の処女も幻影騎士、そしてフェンリルの三パーティは僕達とは関係なく動いているからね。自由に依頼を受けてもいいってセイラから了承も出てるし。
特にやっておかなきゃいけないこともないのでセイラの後を付いて行った。大きな部屋に集まっていた人はいない。多分だけど話が決まったのもついさっきってところだと思う。
数分後にミドとジルに連れられて三人が急ぎ足で入ってきた。
「遅くなって申し訳ありません!」
「いや、いいよ。こっちもさっき来たばっかりだしね」
入ってすぐに土下座する勢いで頭を下げようとしたアキを止める。別にそこまで怒ることじゃない。僕に予定があるように皆にだって予定があるんだから。
それこそ皆をまとめるのならこの程度で怒る人は人の上に立つ人ではない。すぐさまクビにしないとね。御局様みたいなものだよ。長くいたら偉いみたいな考えじゃやっていけないし。
「……申し訳ない。少し三人で話をまとめていたんだ。今から話すことも今日、三つのパーティで探索していた時の話だったしな」
「別に許しますよ。だから早く話しましょう。かなりキツいことなんですよね。大したことじゃなかったらセイラから呼ばれることもありませんし」
「そうだな、確かに重要なことだ。ギドは依頼を受けていたよな? 確かエスとか言う馬鹿をぶっ飛ばした魔物に関しての」
僕はエミさんの言葉に首を縦に振った。
そして首元に巻きついていたモフモフの頭の部分を撫でて顔を出させる。
「うおっ」
「えっ?」
皆がキョトンとする。
あー、確かに説明していなかったかも。
「挨拶して」
「キュー!」
「かっ……かわいいな……」
うん、そういう感想をするエミさんがかわいいと思う。というか、皆の視線がカマイタチの方に注がれていんだけど……。あれ? ここで挨拶させるのは間違いだったかな?
別にいいよね。説明とかは食事の時にしていなかったから丁度いいし。いや、怒られるかどうか分からないけど言わないよりはマシだし早めに言うが吉……のはず……。
「詳しくは座ってから話そう。立っていたらゆっくり話せないでしょ?」
とっくにミッチェルにメッセージは送ってあるしね。この後、どれだけ遅くなっても怒られる心配はないし。この際だから友好を深めておこう。
皆が座って直ぐに某司令官を真似て机に肘をつく。腕と腕の間から三人の顔を見てカマイタチに移動するように促した。これで僕も反骨精神を手に入れ、そして一つの物事に集中する渋いおじさんになれたわけだ。……いや、なれるわけないよねぇ。
「その格好はどうかしたのかしら?」
「うーんん、ただやりたかっただけだよ」
これ以上は怒られそうだから手を膝の上に戻してカマイタチが肩に来るのを待った。案外、毛のモフモフが首をサワサワして痒い。まぁ、気持ち悪いとかはないから全然いいんだけどね。
「この子はね、その依頼の対象の相手だったんだ。だけど見たら分かると思うけどこの子は新種。最初に捕まえようとした人を帰しただけ」
「だから仲間にしたのですね。主がそれを望むのなら私達は許すだけです」
「カワイイに罪はねぇな」
「ギド兄がいいならいいよ!」
「なんか、おかしいですわ!」
うーん……セイラが騒いでいるけどおかしな点はないよね。仲間が新しい仲間を了承したなら全然、許されるはずだし。
「おかしなことはないよ」
「なぜ暖かい目で見られているかしら! 私におかしな点はないはずなのよ!」
「セイラお姉ちゃんはおかしくないよ」
「ロイスだけが癒しなのよー」
なんかキャラ崩壊している気がする……。
最初の頃の貴族らしさが少しも残っていないなぁ。こっちの方が僕的には優しさがにじみ出てくるから話しやすいしね。ものすごくいいと思う。
「まぁ、そういうのは後にしてこの子と何か関係があるの?」
「あー、そうだなぁ……」
頬を緩ませているエミさんが可愛い。
そしてそれを見ている僕に微笑んでくれているアキも可愛い。というか、ソワソワして僕と視線が合うのを恥ずかしがっているのが可愛い。その後、すぐに視線を戻してもう一回見てくるのが可愛い。極論、アキは可愛いです。
「この子のように新種って言えばいいのか。見たことも聞いたこともない魔物が増えているんだ。ギドはエスとの件であまり冒険者から好かれていねぇからな」
「主以外からの気持ち悪い視線は吐き気がするほど嫌でしたが我慢してなんとか聞き出しました。ええ、嫌でしたとも。出来れば主から何かご褒美を頂ければこの気持ちも払拭されるのですが」
「早口に言わなくても嫌だったら嫌だったって言えばいいよ。今度、二人で遊びに行こうか」
「出来ればアミとアイリも含めた四人が良いですね」
珍しく意見してきたなぁ。
それにその面々で遊ぶのもしたことがないしいいかもしれない。結構、楽しそうだし。シロはミッチェルに頼んで抑えておいてもらおう。
「いいよ、それじゃあ、ロイスにも今度、何かお返しをするよ」
「ありがと! ギド兄!」
「……負けている気がするがいいか。それで注意喚起したかったのと依頼の中に行ってから帰ってこない人も多いものがある。それの話をしたかったんだ。それに」
「それに魔物の数も多いんでしょ?」
「……そうだな。さすがギドだ」
素直に言えば褒められることは嫌いじゃない。
特にエミさんに褒められるのは先輩に褒められている気がしてより良いね。人生のっていうか、冒険者としての先輩だし。
「まぁ、それに言い返すことがあるのなら前提として、スタンピードが近いことを念頭に入れておいた方がいいと思う。僕達のいた街ではスタンピードまで時間がかかりそうだったけど、ここは時間の問題だね」
「……そこはまだ調査しているかしら。詳しいことは魔法具でお父様から逐一、話は聞いているのよ」
「そっか、帰るのなら転移でも何でもするから任せてよ」
「……そう言われるとありがたいのよ」
頬を染められてもねぇ……。
そんなのは仲間として当然のことだし。セイラの、鉄の処女のいた街が壊れるのは僕としても嫌な気持ちしかない。少なくともそういうことをしようとした人がいれば倒すだけだしね。
「それにしても話を聞いていないのにそこまで分かっているなんてさすがだな。オレ達が相談したかったのはそこについてだったんだよ」
「それに近い話がエイの元、エスやある程度ランクの高い冒険者に話をされていましたからね。まぁ、ランクが高い人ほど傲慢で気持ち悪い視線を送る人が多かったんですが」
「うん、そいつらは潰そう」
なんだ、僕の仲間にそんな視線を送る人がいるのか。仕方ない、あの時に作った男性の敵である薬をばらまくとしよう。ミラージュは全然使えるから今日からでもしようか。
ああ、残念だなぁ。用事が出来てしまったよ。
「怒って頂けるのは嬉しいですが罰は下して起きました。キャロは良い子ですね」
「なるほど、キャロにも褒美を出しておかないといけないな。となるとエルドやイルル、ウルルも動いてくれたってことか」
セイラ以外が首を手に振った。
さすがにそうだよね。キャロの呪魔法には準備に時間がかかるし、それならイルルやウルルがいた方がいい。それに足止めなら口が達者なエルドが最適だし。うんうん、僕の仲間は良い奴ばっかりだ。
「それで早く次の街に行くことを決めたのよ。誰かが欠けたり危険に晒すのは依頼主として最低かしら。だから準備をしてもらいたいのよ」
「……ごめん、それは出来ないかも」
皆が驚いた顔をするのも無理はない。
だけど僕には僕のやらなきゃいけない事があるんだ。テンさんと約束をしたからには二人の敵を探るのを手伝わなきゃいけない。例え依頼を反故にしたとしてもそれはマナーだ。嘘つきにだけはなりたくない。
「ここで見過ごしてはいけない敵がいる。危険ならセイラを連れて皆で逃げて欲しい」
「……ギドが言うんだったら本当に危ない敵のようだな」
「主が私達の意見よりも重要視するくらいですからね。すみませんが私は主の意見を尊重します」
「僕もかな。ギド兄がそこまで言う相手なら多分だけど放っておいていいことはないと思う。危険よりも倒すことを重視した方がいいと思うな」
セイラが一つため息をついた。
「分かっているのかしら? それは依頼主を放っておくってことなのよ?」
それに対して僕は目を見て一言、言うしかない。
「そうだとしても放っておけない」
数秒間の沈黙の後に再度ため息をついたセイラが僕の頭に手を置く。そのまま何も言わないまま顔を近づけて僕の目を見つめてきた。まるで僕の真意を探ろうとしているみたいだ。それでも僕の本音でしかない。変えるつもりもない。
皆の危険を野放しにしてはいけない。
僕は少しだけ慢心しているのかもしれない。もしかしたら負けたことの無い自分の戦歴にかまけて僕はそうしているのかもしれない。だって僕は負けられないんだから。負けたら僕は全てを失うかもしれない。それは絶対に見過ごせないから。
「……仕方ないのよ。ただし命は大事にするのよ」
「うん、だからセイラは幻影騎士と鉄の処女を連れて先にーー」
「それはしないかしら。ギドを置いていくのは雇い主として出来ないのよ。私には私の意地というものがあるかしら」
僕に曲げたくない気持ちがあるようにセイラにも曲げられないことがあるんだと思う。だけどそれは僕が許せなかった。
「ダメだよ、それは」
「なぜかしら?」
「危険なんだよ? これからスタンピードは起きる。これは絶対的な確定事項だ。僕を信じて欲しい。だからここにいて欲しくない」
「私のことを大事にしているのは分かっているかしら。それでも私はギドを置いていけない。私も強くならないといけないのよ。それに」
セイラは小さな短剣を腰から抜いて刃を僕に向けてきた。小さな刃だ。ミッチェルに初めて持たせた短剣よりも小さくて威力が高いとも思えない。簡単に折れそうな短剣を向けて僕を見つめる姿になんとも言えない気分になる。
これが決意だ。
僕が何度もした決意だ。僕がこの決意を否定すれば戦うという決意そのものを否定することになる。つまり僕もした戦う決意を否定することと変わらないのかもしれない。
「私も戦えるかしら」
その姿に力強さは感じない。
だってステータスを見ているしあの時の襲われているミドとジルの姿がフラッシュバックしてしまうから。きっと、あの時のようにセイラは怖い目を見るかもしれない。
セイラは話をした時に怖かったって言っていたからね。絶対に同じ思いはさせられない。
「……絶対に変える気は無い……?」
「絶対なのよ」
「そう……」
そこまで言われて僕が言えることは無い。
それなら他のことでカバーするだけだ。
「絶対に幻影騎士と鉄の処女から離れないって約束出来る?」
「それなら出来るかしら」
「僕が要らないお節介をしてしまうかもしれないけどそれでもいい?」
「ギドからなら別に嬉しいのよ」
「はぁ……分かったよ。その代わり絶対に死なないでくれよ」
その言葉を待っていましたとばかりに微笑むセイラ。
「ギドが守ってくれるのよね?」
「……出来ることならね。それでもいいなら守ってみせるよ」
「さすが騎士かしら」
「騎士になったつもりは無いけどね。まぁ、分かったよ」
これで仕事が増えたなぁ。
セイラの装備と守らせるための幻影騎士の装備、他にもポーション系は必要だね。素材とか足りるかなぁ。
【そんなことを言いながら嬉しそうな顔をしていますね】
まさか? 僕がそんな顔をするわけないだろ?
きっとね、セイラに守ってもらいたいって言われて嬉しいだけだよ。他に何か理由があると思うの?
【ツンデレですね】
意味が分からないけど……。
そういうことにしておくよ。
その夜はそこで解散をした。セイラを守るためにいくつものやらなければいけないことがある。きっと、ここは分岐点だ。一回でも道を間違えれば何かが欠けてしまうかもしれない。それだけは嫌だ。
そして、嵐は来た。
最後の終わりを考えて詳しい話は抜きにします。何も考えずに次回を楽しみにして貰えると嬉しいです。
明日も投稿します。興味があれば見てください。ただ次回と言うよりは閑話に近いと思います。