3章22話 パパって呼んで、です!
お茶もほどほどにして僕はカマイタチを抱え上げた。さっきとは違って抵抗はしないね。今なら反応で分かるかもしれない。いや、僕からの言葉とかそこら辺はイフに任せよう。うん、便利な道具を出してくれる某ロボットみたいだね。てれててってーてーみたいな?
【そんなんだからダメなんだよ、ギドくん】
モノマネしてくれなくてもいいのに。
ちょっと似ていたけどさ。一世代前の声優さんかな。ちょっとダミ声な感じの方が僕は好きだったな。僕がそのアニメを見始めたのは昔の映画からだったからね。
【そこまで考慮して真似しました】
わぁ、なんて優秀。
まぁ、どっちの声も聞き慣れているからどっちを出しても正解なんだけどね。
「お前はどうしたいんだ?」
「キュイ?」
不思議そうに僕を見つめてくる。
いや、見つめられても困るんだけど。どうすればいいのかなぁ。従魔にするのは楽だけど上手く扱える気がしないし。何というか、ペットぐらいにしかならないと思う。戦いに嫌な気持ちとか抱えているのなら戦いに参加させられないし。
こっちも勝手に治療したけど好かれても困るなぁ。野生の魔物とか無理やりでもなければ手懐けられないと思っていたよ。特にフェンリルの三人は最初、僕の魔眼の魅了で捕まえたようなものだしね。今の関係はその後の関係性から築かれたものだし。
でも、ここで見捨てたくはないんだよね。
確実にカマイタチって種族は新種に近いと思う。ましてやステータスもこの街にいてはいけないほどに強い。雑魚を狩ればレベルは上がる。今でさえエスを封じるだけの力があるんだ。王国への被害はどうでもいいけど関係のない人が被害を被るのはダメだ。それなら教育を施してあげたい。
それとカマイタチを本当に傷つけた相手を知りたいしね。傷を見てから分かったけど剣で切るには細すぎる傷だった。きっとこれはエスのせいではない。それなら……エスを圧倒したカマイタチを圧倒する相手がいるはずだ。カマイタチを傷つけた相手の手掛かりは一切ないけど確信している。
だってさ、エスとの戦闘にはイフは間違いはないって肯定したけど、エスが傷をつけたことには無反応だった。多分だけどエスじゃないんでしょ?
【その通りです。カマイタチを傷つけたのは少なくともエスではありません】
少なくとも……ね……。
含みのある言い方ってことはイフでも誰が犯人か分からないんだね。分かることにはハッキリと白黒付けるイフがそうしない。つまりはイフでも探れない相手がカマイタチを傷つけた。そしてそいつは僕とイフの地図内に強い存在として載ってはいない。
怖いな、それって。
僕がカマイタチと戦えば確実に勝つ方法は分かる。だけど僕達の監視の目を掻い潜れるだけの存在が、果たして強くなりたての僕より弱い可能性は高いかな。もし、もしもだけど僕のテンプレを信じるのなら、それは最悪の考えになってしまうけど、僕が倒せるだけの存在が相手ではない。
僕がそれに気がついたのも遅かった。
だから、もう一度だけ聞く。
「お前はどうしたいんだ? 付いてくるのなら首を振ってくれ。もしここにいれば生きていられないかもしれないぞ」
「ギドさん……?」
「フウも気がついているはずだよね。僕が周囲に気を張っていたの。僕って索敵にはものすごい自信があるんだ」
「……それでも見つからない敵がいる……ってことですか?」
「そうそう」
いや、分かんないけど。
索敵に引っかからない=敵がいるのか分からないってことだ。明確には言えないけれど注意喚起は出来る。そもそもお茶を出したのだって苦肉の策みたいなものだし。本当はすぐにどこかへ移動した方がいいって思っていたよ。無理だったけど。無理でしたけど!
それならいっその事、釣って相手を探るほうがいいかなって思ったんだけどね。
まぁ、今は敵が近くにいるだけ分かれば十分だね。もし来るのならとっくに来ているし相手側も何かしているんだろう。僕がカマイタチの治療をしている時が一番の好機だったし。そこを狙えない理由があったんでしょ。ティータイムの時だってチャンスだったと思う。
「思っているよりも今回の件って闇が深いかもよ」
「それで殺さないんですね。……確かに戦力としていてくれればその子は強いですし」
「あー、それはないよ?」
「はい?」
いや、だってさ、僕はやりたくないのならほかのことをやらせるタイプだよ。わざわざやりたくないことをやらせて、ストレスを溜めるより、やりたい事をやってストレスを溜めた方が気持ち的に楽だし。
付いてこないのならそれでいい。
ただ何かしらのことはさせてもらう。
「この子って多分だけど魔力溜りから生まれた存在だと思うんだ。割と魔物の名前は知っているけどカマイタチなんて名前は初めて聞いた」
「カマイタチ……ですか……」
「風を操れるみたいだし、ここにいればすぐにSSSランクの魔物になれるだろうね。きっとフウすら抜いてしまう」
「……そこまで言える魔物なんですか?」
「だって、生まれて間もないよ?」
フウが静かになった。
元よりイフを通じて話を聞いていたミッチェルとシロはのんびりとしていたけど、そこら辺の話を一切、聞いていないフウにはとてつもない程の衝撃だったみたい。
「異世界の人が言っていたんだ。その人はイレギュラーって言葉で表していたんだけど、想定とは違う事象が起きた時に普通は起こりえないことが起きることらしい」
分からないけどね。イレギュラーって日本語訳でなんて言うんだろう。もはや和製英語みたいな感じに思えてくるし。日常会話でイレギュラーって言えば通じるからね。
「僕のこともイレギュラーだって言っていた。ここまで早く強くなれるのはおかしいってさ。……今でも勝てる気はしないけど」
「……お強い方だったんですね」
「まぁね」
信憑性を持たせるために間を置いてから言ったけど上手くいったみたいだ。まぁ、嘘でも本当でもどうでもいい話だろうから集中していたわけじゃないんだろうし、当然かな。
「その言葉がぴったりってくらいにこの子はヤバいよ。しっかりとした場所で教えないと人を殺す存在になるからね。だからさ、カマイタチがどうしたいのかなって」
「キュイキューイ!」
【一緒にいるって言っているようです。従魔にすることに同意しているみたいですね】
はぁ、それならするしかないか。
まぁ、家の番犬の代わりになってもらおうかな。もしくは僕のトレードマークみたいに首元にいてもらうとか。段を取れそうだし可愛いからついてくるならそれでいいや。
「それなら来てもらうね。その代わり勝手なことはあんまり出来ないよ?」
「キュイ? キューイ!」
よく分かっていないみたいだけど承諾ってことで。この年で子持ちって嫌だなぁ。僕の結婚相手ゴメンね……。一緒にシロとカマイタチを育てていこう。
「……言葉が通じるんですか?」
「いや?」
「えぇ……」
大事なのは拳とマインド!
アメリカの路地裏原理がここで生きてくる。話しかけるということがカマイタチと心を通じさせることになるのだ。ましてや僕はカマイタチの言葉がイフのおかげで分かるし。
あー、でも、従魔にするのなら名前をつけないと。……それは後でいいか。とりあえず帰ろう。……いや、従魔にして一方通行じゃなく言葉を通じるようにすれば教えることが出来ることも多いかな。ジョブを変えて召喚士にするのも手かな。ただ勇者のスキルとかはマスターしてないから使えなくなるけど。
今は安全を考えよう。
そっと勇者の欄に指を置いて召喚士と入れ替える。七千以上あったステータスが一番数値の高い魔攻でさえ、五千ほどまで下がっているからこの状態での戦闘はキツイ。
いや、呪魔法もかなり扱えるから少し強い敵なら即死させられるんだけどね。オークジェネラルほどなら楽に倒せる。まぁ、MP効率が悪すぎるけどね。
「ふぅ、作ったよ。この中に入っていてね。すぐに外に出すから」
「えっ……召喚士のスキル……?」
「フウごめん。聞きたいことも多いだろうけど今は帰ろう。飛んだ場所で話すから」
どうせ、空間魔法がバレているから見せて困ることはない。やるなら本気だ。逃げることも考慮して先に見せておいた方がいい。
「痛いよ、シロ」
「くっつかないと一緒に飛べない」
「ゆっくり捕まってくれればいいだけだよ。ミッチェルみたいにね」
「……負けた……?」
「まぁ、シロは少しおしとやかという言葉を覚えるべきですね」
「教えてもらう!」
「いいですよ」
仲良きかな、別に抱きつかれること自体を禁止したいわけじゃない。いきなり飛びついてくるのが痛いからやめて欲しいだけだし。シロがおしとやかを覚えたら最強じゃない?
「……仲がいいですね」
「仲がいいことが取り柄だからね。ほら、またすぐに出すから少しだけ我慢してね」
【空間内にマスターのイメージを出しておくので移動の数分間で教えられることは教えておきます】
うん、ありがとう。申し訳ないけど僕じゃ強く出れないからね。なんだろう……ダダ甘なのかなぁ。しっかりと従魔にするのなら親としての義務を果たさないと。絶対にパパって呼ばせよう。うん、それがいい。
「フウも行くよ。そんな黄昏ていないでさ」
「……そこで手を取るのは女たらしの証拠ですね! まぁ、行きますけど!」
「はいはい、行くよ。転移!」
座標は僕の家だ。
フウにはいきなりで申し訳ないけど話しておきたいこともありそうだし。さて、フウからどれだけの情報を聞き出せるかな。そしていきなり現れたこの人も要注意人物にしておこっと。
日本語として使われている英語って元の使い方と変わっているものも多いので訳すのって難しいですよね。イレギュラーの日本語訳って一体……。