3章21話 説明をするです
「あまり大きい声は出さないでよ。この子が怖がるでしょ?」
「そういう問題じゃないですよ! その子は魔物で討伐対象なのです! なんで助けるなんてことをしたんですか!」
単刀直入って感じだなぁ。
おー、よしよし、大丈夫ですよ。君のことは僕が守ってあげるからね。この三人は怖くない人だから安心してね。カマイタチを宥める兼、僕の心を落ち着けるために撫でる。やっぱり気持ちいい。
「まず、この子に害はない」
「それは……何となく分かりますけど」
でしょうね、そこは流石に観察力に長けたSSランクのフウだ。最初に攻撃をしてこなかった時点で攻撃性が薄いのは丸分かり。それに依頼の詳しい背景も分からないから助けることが悪だとは言えない。
「二つ目に助けて欲しそうな顔をした。以上だよ」
「……その二つだけで助けたんですか?」
訝しげな目をしているフウに「もちろん」とだけ返した。いや、訝しげな目を続けていてもそれ以上の理由は出てきませんよ。ってか僕からしたらそれだけで十分だし。
「……本当に分からない人ですね!」
「お褒めに預かり光栄」
「褒めてないですね!」
いやー、怒っていたり信用がなくなったわけではないのか。てっきり嫌われたり戦闘になるかなとか思っていたんだけど。普通に助かった。結構、回復でMPを使ったんだよね。
って、背中に変な重みを感じたから振り向いたらシロがいたし。これはなんでだろう。あれかな、シロも怒ってはいないよみたいなことを言いたいのかな。
「どうしたの?」
「……シロ以外にモフモフが多すぎる。きっと一番に捨てられるから媚を売っているの」
淡々と話されてもね……。
カマイタチは仲間ではないからそんなことにはならないし、ましてや僕がシロを切るなんてほぼ百パーセントありえないわ。こんなに愛らしい存在を切るなんて僕には出来ない。
「はいはい、捨てないから安心してね」
「モフモフを堪能させる!」
嬉しいのかー、首をスリスリさせてもくすぐったいだけなんだけどなぁ。まぁ、気持ちいいから別にいいけど。触れるのなら手がいい。一番に感触を感じられるからね。
「フシュー!」
「ん? お前もどうかしたの?」
なんかシロと戯れていたら服の中のカマイタチが肩に乗って威嚇行動し始めたんだけど。絶対に威嚇の対象ってシロだよね? 僕のことを主とかだと思っているのかな?
【実際は生まれてから家族がいない中で唯一、助けてくれた存在として見ているみたいです。感覚としては親って感じですかね】
この年で子持ちかー。
勝手に好かれたら育児放棄も出来ないし。いや、きっと独り立ちしてくれるさ。ずっと一人で生きてきたんだから……ってのは可哀想だよなぁ。僕でも幼馴染とかがいたわけで、こいつは元からそんなのもなく生きてきた。
こいつってなにか悪いことした?
【特にしていません。ただ木の実を好んでいて食べたものの中には高級品もあります。元はと言えばカマイタチが採集した木の実を奪って、珍しいカマイタチを闇で売ろうとした人間が悪いんですよ!】
あー、はいはい。それは僕には当たらないでね。ってか、それなら殺す必要性なんて皆無じゃんか。どうせ、それで返り討ちにあって依頼にでも出したってところでしょ?
【その通りです】
まぁ、元の世界でも象牙が欲しくて狩猟をする輩もいたくらいだ。そんな人達がいても全然おかしくない。というか、そんな人達が損害を受けても自業自得だろ。……冒険者ってどんな依頼でも受けないといけないのかよ。
少しだけ冒険者に対して見る目が変わってしまった。
【マスターが考えるように利益重視で依頼を作る冒険者ギルドも多いです。ただ勘違いしてもらいたくないのは全員がそうではないということです】
それは分かっているよ。
少なくともジオさんや鉄の処女はそんな人達ではなかった。もっと言うのなら僕やフェンリルといった、そういうことを嫌う人達もいないわけではないだろうし。
「……こんな姿を見ても殺すべきだったと思う?」
「……今は殺す必要はなかったと思います。でも、それはいくつかある結末の一つである結果論でしかありません。……見捨てるものも見捨てられないのなら長生き出来ませんよ?」
「それならそれでいいよ。 別に生きることに執着はしない」
悲しげに呟くフウに本音で返してしまう。
後から気がついたけど遅い。そんなことを言えばフウの話を全否定するようなものだ。明らかに言葉を間違えてしまった。
そもそも今は生きている理由として皆がいるから死ねないだけ。それでも死んでしまう時には諦める前に、これが僕の求めていた終着点だったと思える気がするんだ。
「生きることに執着しない人ほど怖い人はいませんけどね」
「確かに」
どこか諦めた目をしているフウを肯定する。
守るものや捨てるものがない人ほど強いものはない。それは手負いの獣と大差ない。一切の油断をしてはいけない相手だ。僕でも身構えてしまう。
「まぁ、さっきはそう言ったけどまだ死ねないんだけどね」
「……そうですね、はぁ、その子はギドさんの方から何とかしてくださいよ。説明はギドさんに合わせますから」
「うん、ありがとう」
フウから視線をカマイタチに落とす。
さて、この子をどうしようかな。飼うのは多分だけど無理だ。見つかればあの街で活動することが出来なくなるからね。まぁ、あの街に、王国に貢献する気も一切ないんだけど。
「お前はどうしたい?」
頭を撫でながら聞いてみると「キュー」と高い鳴き声を上げて目を細めた。ダメだ、こりゃあ。僕の言葉よりも気持ちよさに頭が行っているわ。やめようとしても小さな前足で僕の指を掴んでくるし。
仕方ないか、気の済むまでやってから話を聞こう。最悪はイフがいるから話を通じさせることは出来るはずだし。もしくは痛いと思うけどカマイタチの血を少し貰うだけでもいいし。
「シロ、痛い」
「……その子ばっかり構いすぎ」
はぁ、いつからこんなにワガママを言うようになったのか。……いや、生まれたてと言ってもおかしくないか。まだ一年も生きていないんだから。
その場に胡座をかくようにして座り込む。
足の間に出来た窪みにシロを乗せて空いたスペースにカマイタチを移動させる。右腕でシロを抱きしめながら左指でカマイタチの頭を撫でる。結構、キツい体勢だ。腰が痛くなりそう……。
「……あー、ありがとう」
「えぇ、これくらい感じとれないと一緒にいられませんよ?」
ミッチェルがそっと隣に座って結界で背もたれを作ってくれた。ぶっちゃけ、背中を預けられる場所があるだけ楽だね。
「えーと……私ってお邪魔ですか……?」
「いんや? いつも通り休んでいるだけだから。フウも休みなよ。どうせだったらお茶でも飲もう?」
「お茶……」と呟くフウをミッチェルが半ば無理やり座らせて、僕がコップとお湯、そして茶葉などの一セットを出しておいた。後はミッチェルの仕事だから手はつけない。
「……空間魔法ですか?」
「ナイショだよ?」
「……言えませんって……」
こしょこしょと耳打ちして聞いてきたフウにわざとらしく人差し指を口に当てておどけてみせた。言えませんっていうのは言えばかなりの大事になるからだろうね。空間魔法っていうのは極端に使える人が限られてくる魔法だし。
「はい、どうぞ」
「うん、ありがとう」
ミッチェルから僕専用のティーカップを受け取って口まで運ぶ。元の世界の緑茶みたいな味なんだよね。見た目は紅茶で口元に運んでようやく味の違いに気がつくくらいだし。後、少しだけ甘い。
「美味しいよ」
「良かったです」
そのまま自分の飲みかけをシロの口元に持って行って傾ける。まだ温かいお茶がシロにとっては熱いのか、ふぅふぅしながら飲む姿はここでするのもなんだけどホッコリしてしまうね。見た目通り猫舌だからね。
「……飲まないのですか?」
「あー……じゃあ、一口だけ……」
床に置かれたコップを手に取って一口だけフウが飲むと明らかに表情を変えた。一回だけ瞬きをした時にフウがミッチェルの手を取って真剣な目で見つめている。
「これってどうやって入れているんですか!」
「えっと……?」
「すっごく美味しいんですが! なんですか? ギドさんと同じで水魔法でも得意なんですか?」
「いえ、違いますけど……」
あー、ミッチェルの入れたお茶って、やっぱり美味しいんだ。店で働くウエイターが言っているんだからよっぽどだよね。僕も貰う時は少し嬉しいし。
ミッチェルが得意なのは結界を使っての遠距離攻撃なだけで、水魔法は使えないわけではないけど僕ほどじゃない。これは加護の力が大きいからね。ミッチェルとは一切、関係がない。
「……よくわからないですよぉ……」
ミッチェルが入れ方を説明していたみたいだけどフウには分からないみたいだ。当然だよね。僕も入れられないし出来たのは家のグループでもキャロだけだし。あの子はね、なんか感覚で分かったってさ。よく分からないねぇ。もう少しだけ休ませてもらおうと思ってお茶のお代わりを頼んだ。冷めても美味しいのはミッチェルの腕なんだろう。
話が進みそうで進まない……。
早くイベントに入りたいんですけどね。