3章18話 考察です
ちょっと短いです。
少し進んでから辺りの木に傷がついているのが目に見え始めてきた。傷から見てかなり浅いけど奥へ進むほどに深くなっているような気がする。
「……傷が深いですね」
「そうだね、それにこの感じだと広範囲で傷がついていそうだ」
ミッチェルの独り言に賛同する。
僕だけじゃなくてミッチェルも、僕が背負っているシロも頭を上下させているから同じことを考えていたのだろう。でもさ、これを見たら誰のせいでこうなっているのか、どれだけの力が対象にあるのか分かるよね。
予想でしかないけど多分、円状に切り裂く力が発生して、ここら辺の傷は余波で出来たものだ。証拠としては浅い傷が僕達の後ろ側にあって、進めば進むほどに深くなっていること。それと所々に傷が深い部分と、浅い部分で分かれているところがあることかな。
「……木が倒れています」
「それも横側で、だよね。……ここだけ傷が深いし正解かな」
もう少し進むと先にいたフウが横を指さして呟いた。大きな声を出さないのは周囲にいる魔物からのヘイトを稼がないようにだと思う。そこら辺から高ランク冒険者なんだなって感じられる。
フウが指さしたのは僕達の見ていた木とは違う、明らかに切り倒された木が他の木によしかかっているものだ。誰かが狙って切っているわけではないのは切られている木が均等ではないし、一本の道のように木が切れているから違うって言える。
これはまるで……。
「誰か逃げている存在を殺すために追っていたように見えますね」
「……そうだね、あそこで道が途切れているから何か逃げる必要性があったのかな」
考えられるのは僕達の狙う対象の魔物だけだよね。だって、ここには僕達の街の森よりは強くても、こんなことを出来るほどの力がある魔物はいない。完全なイレギュラーって言ってもいい魔物だ。
果たしてその魔物だとして追っていたのは何なのかな。野生の動物が追う必要性があるのは食料として、繁殖相手として、もしくはその先が怖いから。成長したら勝てないと思ったから。
「仮に追っていたのは対象の魔物、一応、情報としてはイタチのようだったって言っていたからイタチって呼称するとさ、追う必要性のある相手って誰がいるかな」
「街の中ならあのギルドマスターとエスですね。師匠なら倒してしまうでしょうし外には出ていないのでありえないです」
「……ここら辺で同じように異質な魔物がいなければ、の話になるけど、一番ありえそうなのはエスが深手を負わせたとかかな」
フウが頷く。
僕が立てた予想はこうだ。まず依頼でイタチを討伐しに来たエスのパーティは運良くというか、運悪くというか遭遇出来た。それはいいけどエス以外はやられエスも深手を負い撤退をするが、危険を感じたイタチはエスを殺すために追撃を続行。その時にエスの攻撃でイタチは撤退をしなければいけないほどの大傷を負ったってところかな。
【実際、その通りです。イタチがいる場所は洞窟の中で傷を癒していると考えられます】
ネタバレだけど当たっているのか……。
少し残念だね、この切られている傷を見る限りダンジョンマスターの吸血鬼以上の力があったと思うし。そんな魔物と戦いたいってワクワクしていたんだけどなぁ。
わざと傷でも直して戦おうかな?
いや、フウがいる手前上、そんなことはしたくないや。絶対にセイラに告げ口をされて怒られそうだし。セイラ、そういうところだけ口うるさいんだよね。
「手負いの動物ほど怖いものはないから気をつけないと」
「本当にその通りです」
心底嫌そうにフウは頷いた。
窮鼠猫を噛むと言うように追い詰められて何も捨てるものがない人ほど怖いものは無い。それが力のある魔物なら尚更だ。ミッチェルやシロの立ち位置が悪ければ簡単に殺されてしまいそうな気がする。まぁ、シロは死なないんだけどね。
イフに提示された場所に向かう。
やっぱりと言うか、向かう途中で木が全て地面ごと切られている場所があった。開けていて森というよりも荒野に見える。日本だったらこの木々達も高く売れていたんだろうね。生憎と使う気がないけどそのうち使うかもしれないし、何より撤退の時とかに面倒だから倉庫にしまっておいた。
切られた木が合計七十本以上ってヤバすぎでしょ……。どれだけすごい戦いだったんだろう……。
ようやく荒野から出てまた森の中に入って進み始める。イタチも知恵があるのか、荒野の近くでは休んでいないみたいだね。さすがに報復が怖かったり他の何かに怯えているのかもしれない。場所がバレていないのであれば最善の行動だと思う。
「……手詰まりです」
「大丈夫、いそうだと思う場所がもう少し奥にあるから」
さすがに荒野を出て余波がある木を過ぎたところからフウは弱音を吐き出した。まぁ、普通はそうなんだよね。フウであっても僕のように強すぎるスキルがあるわけじゃないんだから。
成長率は高いからこのステータスの高さも納得出来る。同様にレベルも高いし。そう考えるとテンさんはレベルが高い。もしかしたら成長率がSSの部分もあるかもしれないね。
僕は成長率SSなのはあるけど、もしかしたら何か条件を達成すれば他にもSSになる方法があるかもしれない。テンさんにそんなことがあっても納得出来てしまいそうだ。
「へー、さすがですね」
「まぁ、間違っていたら笑って許してよ」
おどけてフウの怪しむ視線を誤魔化す。
確かに少し察するものはあるだろうけど敵ではない。そこだけは理解してもらいたいんだ。フウと敵対してもいいことはないしね。それに僕もガットとかとは仲良くなれると思わないし。
僕の笑顔に対してフウは少し口元を歪ませたがすごく怪しんでいるわけではなさそうだ。出来ればフウと戦うのは最後にしたい。テンさんとなら全てを捨てる覚悟でやらないと戦えなさそうだ。
フウが僕の後ろに下がったところで皆がついて来れそうな速さで走る。早く向かいたいし場所に予想がつくって言った手前、時間がかかれば怪しまれそうだしね。えっ? シロは未だに僕の背中で寝息を立てていますよ?
途中で出てくる魔物は無視してイフの言う洞窟に向かった。そのおかげでかなり時間短縮になったから良かったけど……余計にフウから怪しまれた……。
「……本当にいますね。どうやってここだってなったんですか?」
強い魔物ほど自分達のオーラというか、近づき難い雰囲気を出して他の敵が近寄らないようにしている。だからイタチかは分からないにしても強い魔物が洞窟にいるのは察せられる。それに何度も言うけどこの森にここまで強いオーラを出せる魔物は少ないからね。イタチだってフウでも分かるんだと思う。
少しここら辺の空気が悪いな。
多分、この近くに魔力溜りがあるんだ思う。
「さぁね、ただ深手を負ったとすれば少し遠くの休めそうな場所に行くと思っただけだよ。もし僕ならそうしていたから洞窟に行けばいいと思ったんだ」
「……なるほど、すごく納得しやすいです。勉強になりました」
「どういたしまして」
まだ完全に納得はしていなくてもフウは僕に対する注意を少し緩めた。今はそれだけでいいから十分だ。悪いけど話したりする中ではあっても完全に信用出来る相手ではないからね。フウからしても、フウからしても。
洞窟の中に進むと真っ暗でよく見えない状態だった。普通の洞窟でこのオーラがなければ何もいないって思ってしまいそう。でも、確かにいるんだ。強くワルサーを握りしめる。
「シロ、下りて。多分、来るから」
「……分かったよ」
嫌がりながらも下りてからドレインを取り出して構える。そしてシロが一振した時に悲鳴が聞こえた。動物の遠吠えのような、威嚇のような声。血も、切られた後の死体もない。
だけど、いた。
僕の魔眼がそれを捉えていたし、弱い敵でもないことは切られた相手のステータスから分かっている。ミッチェルに軽い火魔法で明かりをつけさせて照らさせた。
「……来るよ!」
見えない何かが僕達に襲いかかり始めてきた。
次回、戦闘会です。後、もうそろそろでこの街での話が進むと思います。お楽しみに!
私情なのですが忙しくなってきたのとモチベーションがイマイチ上がらないことから一週間に一回の投稿、それと短めの話での投稿になると思います。いつまで続くか分かりませんが遅れたり、短くても温かく見守って貰えると幸いです。
気が向けば日にちに関係なく投稿すると思います。