急転直下
タイトル通りの急転直下。果たして一体どうなるのか?
フロアに響いた叫び声。僕と浜中部長はその叫びを聞いた瞬間に、応接室を飛び出していた。応接室と会議室は、オフィスがあるフロアのとは別の階層にあるため、廊下にはほとんど人はいない。突き刺すような真っ赤な夕陽が窓ガラスから差し込む中、僕と浜中部長は声のする方へと走った。
途中、予約で埋まっていたはずの会議室は全てほとんど全て空室となっており、一番奥まったところにある第一会議室だけが使用中の表示になっていた。
「・・・~~!!」
中から、言い争うような声が漏れている。
「はよ開けるぞ!」
浜中部長がドアノブをガチャガチャと回すが、鍵がかけられているのか、ドアは開かない。
「どうしたんですか!?」
おそらく叫び声を聞いて引き返してきたであろう丹波課長が肩で息をしながらやってきた。
「わかりません!」
僕は浜中部長からドアノブを奪い取り、開けようと試みながら丹波課長の問いに答える。
「あかん、ぶち破れ!オレが許す!!」
浜中部長が吠える。丹波課長が何かを言おうとしたが、僕はそれを無視して足の裏で思いっきりドアを蹴り上げた。
三回目のヤクザキックで、ドアの金具が悲鳴をあげ会議室への扉は開かれた。蹴りあけたドアから浜中部長が先陣を切って会議室へと入る。
夕陽で真っ赤に染まりきった会議室には、2人の人影があった。泣きながら背中から壁に張り付くカナエと、それにナイフを突きつける谷村課長だった。
「なにやっとんじゃワレ!!!」
浜中部長が再び吠える。谷村が驚いた表情でこちらに視線を向けた。その瞬間に僕はカナエの元へ走る。ここで谷村がナイフを振りかざしてくるかどうかは賭けになるが、そんなことを考える間もなかった。幸い、谷村の注意は浜中部長に向けられていた為、無傷の僕はカナエの華奢な体を思い切り抱きしめた。
「中・・・橋君・・・」
カナエは僕の腕の中で震えながらも声を出す。
「うっ・・・」
後ろから聞こえた呻き声に振り返ると、頬に傷を付けた浜中部長が谷村の上にのしかかり床に押さえつけていた。
「部長、大丈夫ですか!」
頬から一筋の血を流す部長に僕は声をかける。
「お前はオレやなくて、彼女の心配しろや。」
息を切らしながらそう言って、部長は床に落ちたナイフを谷村の手が届かない位置へと蹴りやった。
「中橋君・・・私大丈夫やから・・・」
まだ震えてが止まらないカナエは僕を心配させまいと声を絞り出す。
丹波課長は応接室の電話でどこかへと連絡している。
「はい、大阪市中央区の・・・はい、そうです。」
会話を終え受話器を置いた丹波課長は、浜中部長の元へ歩み寄り、ハンカチを取り出した。
「中橋君、彼女を連れて隣の会議室で待機していてくれないか?」
丹波課長は、浜中部長の頬にハンカチを当てながら冷酷な声でそう告げた。
「これから警察が来る。私の独断になるが、呼ばざるを得ないと判断した。」
「わかりました。」
震えるカナエを抱きしめた形で、僕は第一会議室を後にした。
隣の第二会議室、広いスペースに僕とカナエはたった二人で床に座り込んでいた。
無言。気まずい空気ではないが、カナエは目に涙を浮かべたままだった。僕は彼女の方を見ることはできなかったが、カナエの肩に腕を回し僕にもたれかからせる。
御堂筋を走る車の音にパトカーのサイレンが混じる。
音が止んでどれくらい経っただろうか。日はすでに落ちきっており、会議室は真っ暗になっていた。灯りをつけることもなく、僕はカナエを抱き寄せたままだ。いつの間にかカナエは寝息をたてている。怖かっただろう。今はそっとしておいてあげよう。
御堂筋を走り去る車と、会議室の時計の針が時を刻む音だけが静かに響く中、第二会議室のドアがノックされた。