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最後の宿題(後編)

これで、ストーリーは完結です・・・ストーリーは。

 あれから一週間が経った。会社での僕とカナエは、何も変わらない。カナエの辞表については、浜中部長が「そんなん受け取ってへんわ。あれカナエちゃんからのラブレターちゃうん?」とすっとぼけ無かったものとした。

 営業部として変わったことは、課長が一人消えて役職が一つ空席となった事くらいだ。現在は、カナエの課の先輩である早川さんと言う人が、課長代理という今までうちの会社には存在しなかった肩書きで、その業務を代行している。

 

「中橋、ちょっとええか?」

 昼休み、昼食を取りに牛丼チェーンへ向かおうとする僕を、浜中部長が呼び止めた。

「昼飯まだなんやろ?つもる話もあるから付きおうてくれへん?」

「部長のおごりならええですよ。」

 僕はコンマ数秒の速さで即答する。

「ちゃっかりしとるなー。カナエちゃんみたいなこと言いよってからに・・・」

 まあええわ、と言うと浜中部長はデスクの引き出しから『ロゼヲモンド』のコーヒー券を取り出した。

 

 昼時と言うことで、『ロゼヲモンド』はそこそこ混雑していたが運良くテーブル席は空いていた。一週間とちょっと前にカナエと座った席だった。

「日替わりランチと冷コー2つ・・・アイスコーヒーやアイスコーヒー。」

 地方から関西に出てきたと思われる女子大生らしいアルバイトに、注文と同時に関西弁講座を開く浜中部長。

「さてと・・・昼休みオーバーしてもええか?」

「査定に響かないならええですよ。」

 それなら問題無い、と浜中部長は自信あり気な表情でそう言うと、出された水に口をつけてから話し始めた。

「いきなりやけどな、谷村についてや。」

 やぶさかではない物言いに、僕は思わず姿勢を正す。緊張するような内容やない、と浜中部長がそれを静止するが、僕は気が気ではない。

「まぁ、あんなことがあったからな・・・とりあえず、谷村は臭い飯を食うことはないらしい。不起訴処分や。」

 僕が目を丸くする。不起訴?なぜ?

「完全に会社としての体裁や。オレが個人で訴えてもよかったんやが・・・中橋やカナエちゃんには申し訳ないが、オレにも家族がおる。娘ももうすぐ高校生や・・・これで察してくれ。」

 頭を下げる浜中部長。

「ただ、安心してくれてええ。谷村のやつも嫁さんがおったんや、元々、オレの部下やった女で、オレが仲人したんやけどあいつは・・・まあ、それはええ・・・今回の件で離婚確定や。」

 日替わりランチになります。と先程注文を取りに来たウェイトレスが、白米、スープ、鶏肉のソテーをテーブルの上においていく。

「おおきに・・・まぁ、食べよ。」

 浜中部長はそう言うと、箸で白米をかき込んだ。僕も鶏肉に手を付け始める。

「で、谷村さんはどこへ?」

 鶏肉を飲み込み僕は尋ねた。

「ロシアや。家の子会社の提携先に出向という形で、ロシアでレアメタル掘らせる。」

 あっけからんと答えた。

「まぁ、正式な人事発表はないやろ。会社として、これで下手に問題無い起こされても困るからな。アイツはこれから嫁への慰謝料を払うためにロシアで延々土遊びや。」

「当然といえば当然ですね。しかし、奥さん入るのにアホやなぁ・・・」

 僕はそう言ってスープを飲んだ。玉ねぎの風味が効いているスープが、僕の喉を暖める。

「アホやろホンマ。仲人勤めた上司の下でこれやで。チョンボしたいうレベルちゃうがな。」

 浜中部長は手を下に向けプラプラ振りながら言った。

「で、本題はここからや。」

「本題?」

 僕は白米をフォークに乗せながら聞く。

「なんでカナエちゃんに手を出そうとしたか。そして、なんでお前に嫌がらせしたか、その二つ。」

 浜中部長はそう言って水を飲む。カナエに手を出そうとしたことについては、彼氏となった今是非知っておきたい。

「教えてください。気になります。」

「まぁ、オレも丹波からの又聞きになるんやけどな・・・」

 前置きを置いて浜中部長は話始めた。

「谷村がカナエちゃんに目ぇつけたんは、入社してすぐらしい。なんかビビっと来たとか言うてるらしいわ。まぁ、若い女に目がくらんだとかではないらしいけど、あの子明るくて素直やろ?せやからイケる思ってもうたらしいわ。『この子、オレに気がある』とか一部の人間には言うとったらしい。」

「あー・・・」

 カナエの性格を考えると、オッサンキラーになってもおかしくはない。谷村さんも、勘違いしてしまったのか?

「まぁ、言わんとする事は何となく分かりますわ。」

「せやろ。ただ、いざ告白するとフられておしまい。それどころか次の日には中橋、お前といちゃついとる言うわけや。中村のやつも騒ぎよったし。」

 完全に嫉妬に狂った醜い話だ。あと、あの時はいちゃついてない。

「完全にアホですやん。」

 素直な感想を僕は伝える。

「せやろ?アホやアイツ。」

気がつくとランチを食べ尽くした浜中部長は、ナプキンで口周りを拭きながら話を続けた。

「ここまで話せばわかるやろうけど、あの見積書の件、完全にただの嫌がらせや。それで中橋が上に怒られればスッキリするし、仮にどこかでバレても間違えましたですむ話やからな。」

 大方予想通りの答えだった。

 その時、僕は後ろから名前を呼ばれた。思わず振り返ると、そこにはカナエが立っていた。

「やっぱりここにおったー。探したでホンマ。」

浜中部長は、ヤバいという顔をすると

「あ、こんな時間や。オレ行かなあかんとこあるねん!お先!」

 といって席を発った。逃げたな。

「どうしたん?僕探しとったん?」

 カナエと昼を食べる約束はしていないはずだ。

「あのね、顔・・・見たかっただけ。」

 全ての男性を落としにかかる言葉を発し、浜中部長の席に座っていた場所にカナエは座る。

「ありがと。僕もカナエの顔見たかったよ。」

 柄にもないが本音だ。僕の言葉にカナエはにっこりと笑顔になる。

「あ、今日金曜日やん。仕事終わったらごはん行こ!梅田においしい店あるって経理のおばちゃんから聞いてん!」

カナエはそう言うとスマートフォンで店のホームページを表示させた。

「へぇ、美味しそうやん。」

 僕はカナエのスマートフォンの画面に表示された写真を見る。イタリアンもたまには悪くない。

「ごはんの後も・・・今日はずっと空いとるよ。」

 僕が画面を見ている横でそっとカナエが呟いた。僕が家に帰るのは、きっと明日になるだろう。



次回、衝撃の真実があかされる!

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