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【連載版】確かに努力しないでちやほやされたいって願ったけども!【本編完結】  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
第三部 幻想の萌芽

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86.休日の過ごし方

 ケデロシオに着いた次の日。俺は遅めに起き出して、のんびりと村の中を見て回っていた。

 特に目的はない。視察のつもりではあるが、これと言ってやりたいこと、気になることがあるわけではない。


 というのも、今日は休日にしてあるからだ。

 ルィルバンプに向かうときもそうだが、長距離移動を終えた次の日は、基本的に休みにしている。俺自身は超治癒力があるので必要ないのだが、俺以外はそうもいかないのだ。


 そこで俺も休んでいるのは、下の人間が素直に休めるようにという配慮だ。会社などでも、上司が有給も取らずに毎日忙しそうに仕事していると、なんとなく休みづらく感じるだろう? それと同じだ。

 何せ一応、俺の立場は比較的上のほうだからな。問題ないからと言って俺だけが働いていると、下の人間は休みづらい環境になりかねないと思ってのことである。


 ただ、問題が一つある。


「……暇だ」


 そう、何もすることがないのである。

 ルィルバンプなら、子供たちと遊ぶという重要な役目があるのだが、ケデロシオではそれはできない。


 もちろん、娯楽を作らなかったわけではない。いくつかは作った。

 ただ、一人で時間を潰せるものはさすがに作れなくてな。テレビゲームがどれだけすごいものなのかを、今更ながらに感じているところだ。


 いやまあ、まったくないというわけではない。木札でトランプを作ってあるから、クロンダイクとかスパイダとかのソリティアならできなくはないけども……あれを延々と何時間もやり続ける根気は俺にはない……。


「おーいギーロさん、よかったらトランプしませんかー?」


 そう思ってぼんやり歩いていると、不意に声をかけられた。振り返ってみればそこには、俺と共にケデロシオにやってきた男たちが手を振っている。

 その手には、木の札が数枚。色は少ないが、様々な絵が描かれていた。

 どうやら休日をトランプで潰していたらしい。なんというか、タイムリーだなぁ。


「トランプか……そうだな、時間は有り余ってるし、たまにはそういうのも悪くないな」


 とか言いつつ、内心ではフリスビーにとびつく犬の心境だったりするのだが。

 ただ、まだ教えていないゲームもいくつかあるし、いい機会だと思って彼らに混ざることにした。


「よーし! 胸を借ります!」

「いや、これは偶然の要素も大きいから、そんな大それたものじゃ……」

「いやいや、ギーロさんはすごく強いって聞いてますよ!」

「そうそう。やっぱり作った人は違うんだなって!」

「うーん……」


 やたらと盛り上げてくれる若手たちに、俺は苦笑を返すことしかできない。


 俺がトランプで強いって? 冗談じゃない、単に前世の約三十年間でそれなりに遊んでいただけで、素人に毛が生えた程度のことしかできないよ。

 確かに、この世界では俺がトランプの開発者だが……開発してもう十年近く経っている。既にいくつかのゲームが普及しているし、俺より上手いプレイヤーも普通にいる。


「……まあいいや。それで、何するんだ?」

「今までは七並べをしてたんですけど」

「五人ならクアッド・トライアドがちょうどいいんじゃないかなと」

「わかった。初回は俺が配ろう」


 ということで、俺を加えて五人になったメンバーで車座になる。

 トランプを受け取って、札をシャッフル。


 この札は、さっきも言ったが木でできている。紙を作る段階にはまだ至っていないし、ましてやプラスチックなど絶対無理だから、ここに落ち着いた。

 絵柄は基本的に天然アスファルトによる黒一色だが、ジャック以上の絵柄カードとエース、それとジョーカーには、染料を用いていくつかの色をつけてあるものもある。

 もちろん染料はそれなりに貴重なので、色を付けたトランプ一式は数が少ない。一般的には全部黒だけのものが出回っている。今使っているものは廉価版だな。


 当たり前だが、絵柄はもちろん成形もすべて手作業なので、均等にはできていない。技術が低いこともあって札としてもなかなかに厚いので、切るときは一般的に「カードを切る」という言葉から想像されるような動作はできない。

 まあ、この辺りは順番がランダムに入れ替えられればいいわけだから、あまりやり方自体にこだわってはいないけども。


 ちなみにクアッド・トライアドとは、ずばり大富豪のことである。何分まだ貧富という概念が定着していないからか、「上位者が下位者からいい手札を奪う」という仕組みに由来した名前がまったく理解されなかったため、他の名前を使わざるを得なかったのだ。


 ……クアッド・トライアドの名前の由来? それは聞かないでおいてもらえると助かる。版権的な意味で。


「よし、それじゃあ始めるか。まずは最初を決めて……」


 順番決めはシンプルにじゃんけんだ。ローカルルールによっては、特定のカードを持っている人間が一番、というものもあるが……ほとんどのローカルルールは敢えて採用していないからな。

 ただ、大富豪はローカルルールの多さが特徴的なゲームだから、まったくなしというわけではない。シンプルな八切りと革命、ジョーカー上がりの禁止くらいは導入している。

 とはいえ俺自身、すべてのルールを把握しているわけではない。それにルールを増やしすぎてもややこしいだけだと思って、導入を絞っているというわけだ。


 なお、じゃんけんはトランプよりもはるかに早く教えたので、アルブスなら既にほぼ全員が知っている。こういう風に何かを決めるときのシンプルな決定方法として、今ではあちこちで見られる。


「あ、じゃあ俺からいきまーす」

「おーう」


 何はともあれ、ゲームスタートだ。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 時間が有り余っているのをいいことに、軽く三十回はプレイしただろうか。さすがにそれだけ繰り返すと飽きるので、一旦お開き。

 戦果としては、一位、二位でフィニッシュしたのが大体半分ちょっとだから、かなり勝ったと言ってもいいだろう。


「いやー、やっぱりギーロさん強いですね」


 というのは若手たちの総意らしいが……うん……。


 深読みしすぎて序盤全然カード出さなかったら、そりゃあこうもなるだろうよ。俺だけほいほいカード出していくんだから。


 なんというか、みんな心理戦が下手すぎる。素直というかなぁ。確かにこの時代、戦いと言えばほぼフィジカルオンリーだろうが……。


 ちなみに、クアッド・トライアドこと大富豪以外にもババ抜きと七並べ、そしてポーカー(ギャンブル要素は抜いて、チップの最終的な数で勝敗を競う形)が今のところ広めたゲームだが……心理戦が生じたとき、俺の勝率はかなり上がる。

 これは種族的な傾向ではなく、心理戦の経験がないからこそだと思いたい。でなければ、いつかの未来にアルブスがいいようにやられる光景が当たり前になりかねないぞ。


 まあ、この手のやり取りがやたら強いやつもいるから、取り越し苦労だとは思うが。テシュミや長老辺りは、ブラフとかポーカーフェイスも普通にしてくるし。


 閑話休題。


 何はともあれ大富豪はこれでおしまい。なので俺は、先ほど思っていたことを実行に移すためそう口を開いた。


「……よし、ここらで別のゲームをやろう」

「いいですよ、何にします?」

「今回は新しいやつを考えてきたんだ。それをやろうと思う」

「おお!」

「新しいやつですか!」


 みんな結構ノリがいい。俺の言葉に歓声が上がった。


「ルールは簡単だ」


 そんな彼らににやっと笑いつつ、シャッフルした札を地面に伏せていく。ジョーカーも含め、一枚残らずすべてだ。


「順番が回ってきたら、好きな札を二枚だけ表にする。二枚とも同じ数字であれば、それをもらう。違っていたら、裏に戻す。これを繰り返して、最終的に一番多く札を持っていたやつが勝ちだ」


 つまり神経衰弱だな。

 これなら心理戦はない、純粋に記憶力の勝負だ。サヴァン症候群でも持っていない限りは、大体平等な難易度になるだろう。


「ただし、鬼札ジョーカーのことだを引いたらその一枚を取り除いた上で場のカードを混ぜて仕切り直す。覚えたものが無意味になるわけだな。二枚とも入っているから、最大で二回仕切り直される可能性がある」

「はー、なるほど」

「どこに何があるのか、覚えてないといけないってわけですか」

「鬼札は、完全に運任せと」

「そういうこと。もちろん、他人が開けた場所を覚えておけばおくほど、有利になるのは間違いない。下手をしたら誰かの得になってしまうから、鬼札を気にしすぎるのはよくないだろうな。最後まで鬼札が出ない可能性もないわけじゃないし」

「おおー」

「わかりやすくて、いい」


 うんうんとみんなが頷くのを見て、俺も大きく頷いた。つかみはいいようだ。


「それじゃあまずはやってみようか」


 ということで、ゲームスタート。

 さて、今度はどうなるかな?



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「……お前らすごいな」


 とりあえず五回やり終わったところで、思わず声に出た。


 確かに、ゲームはなかなか平等の勝負となった。最終的な獲得枚数も、ゲームごとにほとんど違いがないくらいだ。

 問題があるとすれば、俺だけ獲得枚数がやたら少ないということか。


 それというのも……。


「どんな記憶力だよ」


 こいつらの記憶力がやたらいいのがいけない!

 なんで十巡目くらいになっても、初手で開いたカードの数字を覚えているんだ!? そんなに覚えていられないよ!


「いやぁ、このゲームなら勝てる気がします!」

「自分でもこんなに覚えていられるとは思ってなかったですけど」

「知らなかった。びっくりした」


 若手たちはそんなことを言うが、俺は正直それどころじゃない。


 悔しくないとは言わない。何せぼろ負けなのだから。かくなる上は、ルールに「ジョーカー以外に、一定周ごとに場のカードをシャッフルする」と加えてやろうかと思うくらいの負けっぷりだ。


 しかし、もしかして「アルブスは記憶力に優れた種族なのではないか」という仮説を思いつくくらいには、別のことも気になった。それくらい、こいつらの記憶力はずば抜けていた。

 これが一人だけなら、そいつの能力で終わるのだが……何せ全員だからなぁ。また調べたいことが増えてしまった。


 ……まあ、仮に仮説が正しかったとしたら、アルブスのはずの俺の記憶力が前世から変わっていないのはなぜかということになってしまうが。

 そこらへんはなんというか、あれじゃないか。感性が前世のままだったりするし、その辺りも前世から引きずっているんじゃないだろうか……。


「ウェーイギーロさーん! 若い衆ー! そろそろ飯スよー!」

「おっと、もうそんな時間か……」


 負け続きで妙なテンションをこじらせて、思考があさっての方向へずれかけていたところにアインが呼びに来た。


 言われて空を仰いでみれば、太陽が真上に。完全に真昼だった。

 道理で暑いと思ったよ。いくら氷河期とは言っても、もう七月も半ばを過ぎているのだから。


 とはいえ、きりがいいな。昼食のついでにゲームからは抜けるとしよう。


「すまんがやりたいことができた。飯が終わったら俺は抜けさせてもらうよ」

「わかりました」

「気にしないでください、楽しかったです!」


 笑顔で答える若手たち。

 俺は二十一世紀の知識をそっくりそのまま使っているだけだが、楽しんでもらえたなら何よりだ。もしかしたらお世辞かもしれないが。


 何はともあれ、昼飯が終わったら別の場所に神経衰弱をしに行こう。

 名目は新しいゲームの伝道。しかし本当の目的は、他のアルブスの記憶力がどうなっているか調べるためだ。せっかくの機会だ、有効活用しないとな。


 まあ、どうせ暇つぶしから始まった仮説だ。当たっていようと違っていようと、別に支障はない。のんびりゲームついでにやるとしよう。

 人数には困らない。昔(第四十七話参照)に言った通り、夏場の午後は基本的に仕事をしないからな……!


ここまで読んでいただきありがとうございます。


パソコン新調ッ!

・・・Win10慣れないですわぁー。

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