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【連載版】確かに努力しないでちやほやされたいって願ったけども!【本編完結】  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
第三部 幻想の萌芽

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79.おうちかえろう

 アダムたちがケデロシオに駆けつけてくれてから、およそ一週間後。

 俺は彼らと共に、無事にルィルバンプに戻ってきた。


「あー、久しぶりだ。やっぱりあのデカい火を見ると帰ってきた気になるなぁ」


 ルィルバンプはその名前の通り丘の上にあるので、ここで燃えている火も大きく見える。

 しかし、見えるだけではない。実際にここの火は大きい。特に同じく火をともしているケデロシオのそれと比べると、明らかに大きいことがわかる。

 これは原油の湧出量の差だ。ケデロシオにおける原油は量が少ないため、できるだけ規模を小さくしているのだ。


 ルィルバンプの原油は潤沢だ。ここに定住して十四年ほどが経っているが、いまだに枯れる気配がない。

 ここを見つけたことはまったく幸運の極みだと思うし、ここに住むことを選んだ前族長たちの判断は見事だったと思うよ。


「おう、戻ったか」

「ただいま、兄貴」


 そこに、バンパ兄貴が出迎えに現れた。

 と同時に、俺たちが引いている荷車に載せられた大量の革を見て、目を丸くする。


「……なんだその量は。そんな大量の革で一体何をするというんだ」

気嚢きのうにするらしい。かくかくしかじかで……」


 軽くだが、気球や飛行船について触れつつ、ソラルの目的を説明する。

 それを聞いた兄貴は、珍しく半信半疑と言った様子で再び革に目を向けた。


 余談だが、気嚢とは飛行船において浮力を獲得するべくガスを入れる部分のことだ。鳥類が体内に持っているそれとは同じ名前だが、違うものである。


「……よくはわからないが、とりあえず革がいい出来だということはわかる」

「エッズが手ずから作ったものだからな。そこは間違いないだろう」

「もし余ったら、使わせてもらいたいところだな」

「そうだな。余るかどうかはわからないが……」


 一つ一つの革は、決して目立って大きいわけではない。人を乗せて飛ぶとなると、これらを繋ぎ合わせる必要があるだろうから、まずその段階で何度か失敗するだろう。

 それから次の段階でも、恐らく何かしらの失敗でものがお釈迦になってしまう可能性は十分ある。仮にうまくいったとしても、保守点検なども必要だろう。


 そういった諸々のことを考えると、案外おこぼれにあずかれるほどの余りは出ないんじゃないかな……。


「まあ、余らなかったらそれはそれだな」

「そりゃそうだ」


 などと会話している端から、村の男たちがやってきて荷車を引き継いでいく。今回ケデロシオと往復してくれた男たちは、彼らと入れ違いに解散して家に向かうようだ。

 この手の気配りは兄貴の指示だろう。出来る男はやはり違う。


「お父ーーっっ!」


 そこに、かわいらしいソラルの声が響いてきた。

 振り返れば彼女だけでなく、チハルの他、子供たち全員がこちらに向かって走ってきていた。


 ……明らかに全員、その体格で出しうる速度以上で走っているように見えるのは、気のせいではないだろう。念動力を応用した身体強化を使っているに違いない。


 と、思っているうちに距離はあっという間になくなる。俺は慌てて腕を開き、子供たちを迎え入れる体勢を取った。

 直後、六人の子供たちが飛び込んでくる。それなりの衝撃が身体に走る。


「……ギーロ、大丈夫か?」

「もう慣れた」

「そ、そうか……」


 兄貴が引き気味なのは、俺の身体に六人の子供たちがへばりついているからだろう。

 しかも上半身に集中している上、誰もかれもが我先にと俺の頭部へ移動しようとするので、傍から見るとかなり異様な光景だろうとは俺も思う。


「お父、おかえりです! 会いたかったです!」

「父さん、おかえり! 元気だった!?」


 とまあそんな感じで耳元で騒がれるのだが、これももう慣れた。俺が単身赴任から帰ってくるたびにこれだからな。


 ただ、俺は聖徳太子ではないので、六人同時に話しかけられても困る。ましてや口は一つしかないから、どうにもならない。

 とりあえず、家族に会えて嬉しいのは俺もなので、当たり障りなく全員に応じて……。


「ソラル、エッズが作ってくれた革はどこに置くつもりだ? 兄貴たちが運んでくれるから、その点の指示だけ頼む」

「あ、はいです!」


 革の移動だけ先にやっておく。


 すぐにソラルは指示を始めるが、聞いているとどうも革を保管するための倉庫が新しくできているようだ。

 いつの間に。準備のいいことで。


「ギーロ!」

「ギーロさん」


 と、ここでまた声がかかった。声の主はもちろん……。


「メメ、テシュミ。ただいま!」

「おかえりなのじゃよ!」

「はいな、おかえりなさい!」


 二人の嫁が、駆け付けてくれていた。


 それと同時に、俺に群がっていた子供たちが一斉に俺から離れる。何か子供たちなりのルールでもあるのだろう。

 そうして身体が自由になった俺は、二人の前へ飛び出る。


「ただいま! 身体はどうだ? 大丈夫だったか?」


 近くまで来れば、はっきりとわかる。メメのお腹が、最後に会ったときよりも大きくなっている。

 安定期に入っているとはいえ、彼女には俺や子供たちのような超治癒力がないから心配だ。


「なんともないのじゃよ! わしもお腹の子も元気じゃ!」


 しかしメメは、にこりと笑って胸を張った。

 そんな彼女を抱き上げて、頭とお腹を相次いで撫でる。


「今度の子は一等元気じゃよー。食べても食べてもすぐ腹が減るんじゃ」

「そうかー、そりゃ楽しみだ。……胎動は?」

「うむ、もう感じるのじゃよ。今までより早いかのぅ」

「早熟なのかな。もしかしたら生まれるのも早いかな?」

「そこは産んでみないとわからんのぅ」

「それもそうだ」


 くすりと笑いあう。


 と、そこでくいくいと服の裾を引っ張られた。

 見れば、テシュミがかわいらしく頬を膨らませていた。


「もう、ギーロさんてば。気持ちはわかりますけど、私のこともちゃんと見てほしいです」

「あ、ああ、ごめん、ごめんよ。忘れてたわけじゃないんだ」


 慌ててテシュミも抱き上げる。


「はい、それでよろしおす」

「ごめんよ。留守番、ありがとうな」


 満足げに頷くテシュミの頭をなでる。その顔が、さらに嬉しそうにほころんだ。


「どうってことないです。……と言いたいところですけど、まあ大変でしたわ」

「だろうなぁ……」

「下の子供たちはギーロさんがいないから毎晩泣くし……」

「本当に申し訳ない」

「上の子供たちは魔術を炸裂させるし……」

「オーケーストップ、それは聞き捨てならない。あとで本人を交えて、じっくりと話し合おうじゃないか」

「はいな、わかりました」


 俺の視線が、チハルやソラルとテシュミの間で行き来する。


 チハルもソラルも即座に目をそらし、テシュミがくすくすと笑った。どちらも身に覚えあり、か……。

 ソラルは珍しいことでもないが、チハルが魔術で何かやらかすのは珍しいな。一体何をしたのだろう……聞くのが怖い。


「……よし。家族揃ったことだし、家に帰るか」


 怖いものは、一旦棚に上げてしまおう。


 ということで、俺は努めて明るい調子でみんなに声をかけた。


「うむ、帰るのじゃー!」

「はいな、そうしましょう」

「「「「「「はーい!」」」」」」


 左右から嫁の声が重なり、次いで子供たちの声が六重唱で響いた。


 みんなに応じる形で頷いて、俺は今まで無言でいてくれた兄貴に向き直る。


「じゃあ兄貴、悪いけど……」

「ああ、行くといい。久しぶりに家族が揃ったんだ、ゆっくりな」

「ありがとう。それじゃ、また明日」

「ああ。少し早いが、おやすみ」


 そして俺たちは、兄貴に別れを告げて帰路に就く。

 まだ少し高い太陽が、そんな俺たちの背中を照らしていた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 この日の夕飯は、いつも以上に騒がしくなった。子供たちが今までよほど寂しかったのか、ほとんど間を置かずに喋るのだ。

 まあ、これ自体は俺が単身赴任から帰ってくるたびのことなので、何も問題はないのだが。


 そして話すだけ話して、体力を使い果たした下の子供たちは糸が切れたかのように次々と眠りに落ちた。

 子供は本当に、体力を使い切る直前まで元気だよなぁ。この辺りは、アルブスもサピエンスと変わらない。


 翌朝もそんな調子で、子供たちと目いっぱい遊んで穏やかな時間を過ごす。

 午前中全部を使って、単身赴任中にはできなかった家族サービスをこなした。


 そして昼食後。昼寝に入った子供たちにを寝かしつけるとともに、自分も疲れたから一緒に寝ると言って、メメが席を外した。

 午前中、そこまでハッスルしていたようには見えなかったが、お腹に子供を抱えていれば疲れるのも早いだろう。ゆっくり休んでもらうことにした。


 一方で俺、テシュミ、チハル、ソラルの四人はまだ元気だったので、家を出た。

 と、言っても遠くまで行くと家が無防備になるから、入口付近でのんびり話し込むだけだが……。


 このメンツなら大丈夫だろうと思って、昨日から保留していたことを聞くことにした。


「……で? 俺がいない間に、二人が何をしたって?」


 四人で車座に座ってすぐ。俺は三人に向けてそう問いかけた。

 再びチハルとソラルが目をそらしたので、思わず苦笑する。


 ……いや、にやけた、と言ったほうがいいかな。なんというか、子供たちには悪いが、こういうやり取りがすごく楽しくて。帰ってきたんだなという気がする。


 とはいえ、このままだとらちが明かない。事情を知っているテシュミに暴露してもらおう。


「……テシュミ、どうなんだ?」

「そですねぇ、まずはチハルから話させたほうがええと思います」


 テシュミも似たようなことを考えていたのかもしれない。くすくすと小さく笑っている。


「正確には、二人ともかかわってるんですけどね。でも、最初の発端はチハルやさかい」

「そうか。じゃあ、チハル。どうなんだ?」

「えっとー、その、あのね……」


 実の母から引導を渡され、俺からも追及されたチハルは、ソラルと目を合わせた。そしてこくりと頷き合うと、観念したように口を開き始めた。


「実はね……ソラと二人で、新しい魔術を作ってみたんだ」


 ……うん。


 帰ってきて早々だが、お父さん嫌な予感しかしないぞー!


ここまで読んでいただきありがとうございます。


というわけで帰ってきました。

飛行に関する話は、まずものの形を整える必要があるということで、もうちょっとだけ先になる予定です。

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