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【連載版】確かに努力しないでちやほやされたいって願ったけども!【本編完結】  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
第三部 幻想の萌芽

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78.味噌と新人類

 それから数日後のこと。


「シショー!」

「あれ、アダム?」


 突然数人の男たちと共に、アダムがやってきた。

 何か予定があるとは聞いていなかったので、思わず首をひねってしまったのだが……。


「そらるチャンに頼まれてネ。センセーの作った革を取りに来たヨ!」

「用意がいいなぁ、あいつも」


 どうやら、ソラルのほうもスケジュールは把握していたらしい。まさかの荷車派遣である。

 この間も言った通り、大きな荷車はルィルバンプしかない。なのでこうして持ってきてくれたのは本当にありがたい限りだ。


 まあ、革と一緒に帰って、単身赴任を終わらせようと思っていた俺の思惑は外れたわけだが。

 それでもよしとしよう。家族に会えるまでの時間が短くなったと考えるべきだろうから。


「二日くらイ休んデ、ルィルバンプに戻る予定ネ。シショーはどうす」

「もちろん帰る」

「ダヨネー!」


 俺の即答を聞いて、アダムは陽気に笑った。

 俺にとっては笑い事ではないのだが、他人からしてみれば笑い事だということは理解できる。だからそれについては何も言うまい。


「ウェーイ、アダムおひさー」

「ヤーヤー、あいんサン」


 そこにアインがやってきた。いつも三人でつるんでいる彼にしては珍しく、一人だ。

 というのも、アダムたちの来訪が本当に急だったので、他の二人は製塩のほうで手を取られているのだ。むしろアインだけでも抜けたのは結構痛手だと思う。


「泊まる家のことなんだけどー、来客用の家、まだ新しいの二軒しかできてないンだわ」

「わかってル、前のはねあんでるたーる人たちが使ってるモンネ」

「そーそー。だから悪ィんだけど、ちょーっと詰め詰めになっかも」

「オーケーオーケー、問題ナイヨ!」


 アダムが満面の笑みでサムズアップする。この辺りの仕草も俺由来だが、そうか。そういえばネアンデルタール人たちの家は客用のものを充てていたな。


「まあ、最悪あぶれそうなら俺の家も使っていいぞ。何せ俺と味噌樽しかないからな」


 ということで、俺から助け舟を出す。

 最初の頃はチハルとソラルとゴウが俺の家にいたが、今は完全に単身赴任状態なので、独り身なのだ。


 いやまあ、今言った通り、味噌樽が一緒にいてくれるのだが。そんなものが慰めになるはずもない。


 え、味噌の話は初耳?

 ああ、うん。ネアンデルタール人とのごたごたで後回しになっていたが、これはこれでちゃんと取り組んでいたんだよ。


「ミソダルって、アレだよネ、ミソの」

「ああ。他に適当な置き場所がなくてな……」


 発酵において、直射日光は厳禁だ。なので暗所に保管することになるのだが、さすがに試作品の味噌を他人の家に置かせるほど俺の神経は図太くない。

 何せ発酵と前向きな言い方をしているが、要は菌で腐らせているわけだからな。その菌が他の人間に悪影響を及ぼす可能性がないとは言い切れないのだ。


 これが二十一世紀のコウジカビなら、長い時間を経て毒素を生み出す能力が失われている(すべてではない)のだけども。

 以前(第七十話参照)も述べたが、そもそも今回用いたカビが二十一世紀のコウジカビと同じとは断言できないのだ。なればこそ、何かしらあると考えて行動したほうがいいだろう。


 そしてたとえ問題があったとしても、俺は超治癒力のおかげで大丈夫だろう。だからとりあえずは、俺の家に置くのが一番だろうと考えたのだ。

 生活することで生じる様々なことが、発酵途中の味噌に何らかの影響を与える可能性はもちろん否定できないが……それは仕方ないだろう。


 もちろん、竪穴式住居の床は地面だ。そこに直置きはさすがにしない。臨時かつ簡易ではあるが、戸棚を作って対応している。


「見てみたいナー! 俺、シショーの家に泊まルヨ!」

「……気持ちはわかるし俺も見せてやりたいんだが、実は三日前に様子見で開封してるからあまり見せられないんだよなぁ」

「ソンナー!?」


 仕方ないだろう、味噌を悪くするカビは主に好気性なんだ。状態を確認したり、それに応じて中身をかきまぜたりすることはあるが、それを頻繁にやっては台無しになってしまう。


 なお、今のところは経過は順調だと思われる。大豆がいまだに手に入らないので、ソラマメで代用しているが……それっぽく推移している。

 たぶん、としか言いようがないのがつらいところではあるが。


「ハー……見たかったナー……」

「仕方ないな。どうせ革をソラルに届けたら俺はまたこっちに来ないといけないんだ。そのときお前も来るといいさ」

「そうさせテもらうヨ!」


 アダムは本当に知的好奇心の塊だよなぁ。味噌を仕込んだときは彼も一緒にいて、そのときもだいぶ質問攻めにあったものだが……。


 ちなみに質問主は彼以外にもソラルがいたので、俺はあとで腐敗と発酵についての講義をする羽目になった。顕微鏡などないので、微生物の存在を知らしめるのに死ぬほど苦労したよ。


 ちなみついでにもう一つちなむと、このときの講義の影響でソラルが顕微鏡的な魔術を開発した。これがなかったら、二人に微生物を納得させることはできなかっただろう。

 原理は普通の顕微鏡と同様で、光とかもろもろを調整する魔術らしいが、正直言って俺にはよくわからない領域だ。


 ただとりあえず言えることは、ソラルは天才と言うことだ。この子も生まれる時代を間違えたのではないかと最近思う。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 そんなこんなでその日の夜。


「シショー助けテ……」


 昼間あれだけ陽気だったアダムが、ものすごくローテンションで俺の家にやってきた。心なしかやつれたようにも見える。


「なんだ、どうした。何があった」

「ねあんでるたーる人たちニ、追いかけられテ……」

「……ああ」


 なるほど、と思って俺はぽんと手を叩いた。事情はよくわかった。


「まあとりあえず中に入れよ」

「ありがトネ……」


 ということでアダムを迎え入れるが、直後に俺は家の入口を閉める。


 その際、一瞬だけだが外の様子が見て取れた。ケデロシオもルィルバンプと同じく二十四時間火を焚いているので、夜であっても多少は見えるのだが……。

 間違いない。その闇の中に数人のネアンデルタール人がいて、こちらの様子をうかがっていた。


 暗くて見た目ではわからないが、それでも俺にはわかる。あれは全部女だ。


「……お前も大変だな」

「モテるコト自体は別にいいんだケドネ……」

「いいんだ」


 ため息交じりの返答を聞いて、俺は苦笑するしかない。


 とりあえずしばらく使っていなかった寝床を彼に提供しつつ、その正面に座る。


「イイヨ? デモさすがニ、あの人数ハちょっとネ……」


 周りからの視線がなくなったからか、ようやくアダムが笑った。まだ乾いた笑いではあったが。


 そう、彼を注視していたネアンデルタール人たちの目的は、アダムだ。

 より具体的に言えば、アダムの身体である。性的な意味で。


「その点に関しては、お前が迂闊だったな。お前は少し下半身を制御したほうがいい」

「エー、だってアルブスの女にハ興奮しないシ……」

「十年間周りに同類がいなかった点には同情するが……かといって、ネアンデルタール人に手を出すのもどうかと思うぞ?」

「イヤーデモ、女に迫られたラ誰だっテ、ネー?」

「いやいやいやいや、種族違うから。普通いけないから」


 ……とまあ、つまりはそういうことである。

 アダムと来たら、ネアンデルタール人の女とよろしくやってしまったのだ。


 確かに、彼の言い分もわからないではない。性的関心を抱ける存在がハヴァ一人しか周囲にいなかった中で、突然そうした存在が現れれば、心も揺れるだろう。

 ネアンデルタール人としても、俺たちとの戦いで人口が大幅に減っている。彼ら自身が認識しているかどうかはさておき、種の存続のために行動しようという本能が働いているのではないかと思う。


 しかしまさかサピエンスとネアンデルタール人の間で、双方同意の上での行為が生じるとは思ってもみなかった。


 ……いや、実のところその可能性はあった。想定していなかったわけではない。


 というのも、二十一世紀に生きるサピエンスの遺伝子内には、数パーセント程度ではあるが、ネアンデルタール人の遺伝子が含まれているからだ。これはつまるところ、二つの種族が交配可能だった、という証拠に他ならない。

 であるならば、アダムがネアンデルタール人と致したとしても不思議ではない。むしろそれが自然の流れかもしれない。


 ただ、まさか二カ月も経たずにことに至るとはね。さすがにどうかと思う。


「ヤー、でもサ、発端は向こうだヨ?」

「……まあな」


 一応アダムを擁護すると、発端はネアンデルタール人側の一目ぼれだ。どうもネアンデルタール人的には、アダムの姿はかなり魅力的らしいのだ。

 聞けばアダムのあの黒い肌が特に魅力的らしく、彼の歩くところネアンデルタール人の女の山ができるという有様だった。いや、山というほどの人口はないけどな。


 そしてどうやらネアンデルタール人の女の腕力はアダムと拮抗するらしく、迫られた場合振りほどけないらしい。

 なので、一概に彼が悪いわけではない。今回俺のところに逃げてきたのも、彼なりに自制した結果だろうし。


 それでも、最初の段階でアダムがミスをした点は覆らない。


「……しかしだな、何も本気を出さなくてもよかっただろう」

「そこハなんていうか、ホラ、礼儀?」

「疑問符ついてんじゃねーか」

「シショーの言葉を借りるなら、『ついカッとなってやった、後悔はしていない』ってやつカナ!」

「なおのこと悪いわ!」


 そう。アダムが発揮したテクニックにより、ネアンデルタール人の女たちは骨抜きになってしまったのである。

 ここは完全にアダムが悪い。原始的な行為しか知らない女相手に、二十一世紀仕込みの性技を炸裂させたらどうなるかはハヴァとの経験でわかっているだろうに。


 ちなみに、骨抜きにされた女筆頭はハナである。彼女がやたら学習能力に優れているのは、その辺りも関係していると思う。


「……で? もし子供が生まれたらどうするんだよ?」

「ヤ、そこハちゃんと育てるしかナイよネ」

「まあ……お前がそう言うなら協力はするが……」


 アダム、お前はわかっていないだろう。

 異なる種族が交配したときに生じる、混血種が大変な存在になる可能性があることを。


 その辺りは俺だってわからないんだぞ。現代人にネアンデルタール人の遺伝子があるからと言って、それでわかることはかつて両種の間で交配が行われたということだけなのだ。

 そこに至るまでにどういう変化、推移があったのかなど、調べようがないのだから……。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


タイトル通りの回でした。いや、まだ新人類は誕生してませんけど。

感想でも気づかれた方、疑問を呈してらした方がいらっしゃいましたが、現在の学説では今のサピエンスには少しだけネアンデルタール人の血が流れているというのが定説です。

なので、この時代は普通に交配可能だろうということでこんな話ができましたが・・・ネアンデルタール人としての比率が増えたら、どんな人種になるんでしょうね?

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