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【連載版】確かに努力しないでちやほやされたいって願ったけども!【本編完結】  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
第三部 幻想の萌芽

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71.旅の始まり

「ギーロ! 落ち着けギーロ!」

「離してくれ兄貴! こいつら殺せない!!」


 そして次の瞬間、バンパ兄貴に羽交い絞めにされた。

 兄貴の拘束は強固で、俺ごときの力ではびくともしない。さすが……と言いたいところだが、俺はそれどころではない。


「え……無理……」


 とソラルがつぶやいたのを聞き逃さなかったのだ。ならば目の前の連中は即座に死に至らしめなければならない!


「ちょアイン、何ぶっちゃけてんべ!?」

「そんな言い方したらギーロさんプッツンするに決まってんべ!」

「サーセン! マジでサーセン!! そう言う意味じゃなくて、ソラちゃんの力を貸してほしかったんスよ!!」

「愛すらないということか!? やろうぶっころしてやる!!」

「違うスー!?」

「お父、やっちゃうです!」

「天使に見放されたァ!?」

「ええいお前ら落ち着かんかー!」


 結局、騒動は俺が兄貴に絞め落されるまで続いた。

 超回復力の影響だろう。俺はなかなか気絶せず、軽く一時間近くは大騒ぎしていたと思う。

 周りには大量の人だかりができていて、いいさらし者だったらしいが、俺がそれに気づいたのは気絶から回復してからだ。


「つまりソラルの魔術を醸造に利用したいということか」


 落ち着いて話を聞けば、そういうことだったのだが。


 どうやら、俺も立派な親バカらしい。ディテレバ爺さんのことを言っていられない。

 うん、今なら爺さんの気持ちがよくわかる。俺、相当やきもきさせたよな。

 その節は本当に申し訳ない。あの世に行けたらちゃんと謝るよ。


「ギーロ、お前本当にもう大丈夫なのか?」


 そこに、やむを得なかったとはいえ、俺を絞め落した兄貴が申し訳なさそうに言ってくるが、


「大丈夫だ、問題ない」

「ならいいんだが……」


 回復力には自信しかない。気絶からも、一分と経たずに復帰したからな。


 まあ、そういうチートなわけだが。こういうときは素直にありがたい。


「話を戻そう。確かに三人の案はいい案だと思う」

「「「ですよねー!」」」


 揃ってドヤ顔を決める三人。今でも少し腹立たしいが……それはさておき。


 要するに、醸造の過程で必要になる温度管理を、すべて魔術で代行してしまおうという案だ。

 前世では絶対にできない手段と言える。何せそんなものは前世にはなかった。

 そして俺にとってはそれが当たり前なので、完全に失念していたよ。頭が固いな、我ながら。


 しかし……魔術で温度管理って、できるのだろうか?


「……どうだソラル、特定の範囲内を特定の温度に保ち続ける、ってできるか?」

「うーん……できなくはないですけど、その特定の温度って、どうやって見つけるですか?」

「大雑把にだが……水が凍る温度と水蒸気になる温度が目安かな……」


 摂氏温度の厳密な定義は初期と二十一世紀では違うのだが、その二つが目安だったことは間違いないので、それで大まかにわかると思う。

 こういうとき、温度計があると便利なのだが。いい加減作りたいなぁ。優先度が他の道具と比べて低いんだよな。


「目安があるですか? じゃあ、なんとかなると思うです」


 なんとかなるのか。本当かな……。

 ソラルは魔術をたくさん覚えていく過程で、爆発を起こしたり目の前が見えないくらいの水蒸気で村を覆ったりと、結構な回数やらかしている。

 娘を信じないとは言わないのだが、さすがに少し疑ってしまう。


 とはいえ、それを口にするとへそを曲げられそうだし、何より今はソラルしか頼れない。


「そうか。お前は本当にすごいなぁ」

「……えへんです」


 嬉しそうに胸を張るソラル。照れているのか、顔が少し赤い。


「じゃあ、お前の力を貸してくれるか?」

「……ミソ? ができたらお父、嬉しいです?」

「ああ、今一番欲しいものの一つだからな」

「わかったです。お父のためなら、ソラ、なんだってするですよ」

「ありがとう、ソラル」


 思わず頭をなでたら、そのまま手に抱きつかれてしまった。この辺りの仕草を見ていると、本当にメメにそっくりだ。


 しかし行動の基準が俺って、この子は本当に俺のことが好きなんだな……。それってどうなんだろう。親としては複雑だ。


「……そういうわけだ。ソラルはいいってよ」

「「「あざーっす!」」」


 三人組が勢いよく頭を下げてきた。

 が、すぐに顔を上げると、三人は順繰りに口を開く。


「ソラちゃんが力貸してくれるのはマジありがたいんスけどー……」

「そうなってくると、ケデロシオまで連れて行く必要があるわけで?」

「子供を連れて移動するとなると、さすがの俺らもちびっと不安ってゆーか?」

「なるほど、それで俺も呼ばれたわけか」


 そこで腕を組んで、兄貴がうむと頷く。


「普段道中の警護をしているモリヤ以外にも、人手がほしいということだな」

「ウィッス」

「いやま、大丈夫だとは思うんスよ? 行き帰りに何かあったことなんて一度もないし」

「けど万が一ヤババババハムーチョなことあったら、ギーロさんげきおこじゃ済まねっしょ?」

「そうだな、そのときはあの世までも追い詰めてギッタンギッタンにすると思う」

「「「ほらー」」」


 真顔で答えた俺を指さしつつ、三人組が兄貴を見た。兄貴は苦笑するだけだ。


「あと、これは今村長やらしてもらってる俺らの総意なんスけど」

「村作り始めて、四年目に入ったっしょ?」

「なんで、ギーロさん以外の人にも見せられるくらいにはなったかなー、なんて思うワケ」

「なるほど。確かにルィルバンプに残った人間で、ケデロシオの状況を知っている人間はあまりいないな」

「確かに、他の場所でうまくやれていることを知っておくのはいいかもしれない。あっちに行ったやつに会いに行きたいって話も聞いたことあるぞ」

「っしょ? なんで、その辺りのこと、バンパさんから頼んでみてほしいんスよ」

「わかった、掛け合ってみよう」


 兄貴が大きく頷いたのを見て、三人組が歓声を上げた。


 そうだな、彼らは三年間がんばってきたんだ。その成果を大勢に見てもらいたいというのは自然な気持ちだよな。

 どんな村になっているのかは、相談役として定期的に行き来している俺は大体知っているが……本当にそんな人間は俺くらいだし。ちょうどいい頃合いかもしれない。


「ねえ父さん、ソラが行くならボクも行っていいかなっ?」

「ん? それは……」


 びしっと挙手してチハルが言うが、チハルはソラルみたいな魔術が使えないからな……。

 彼女を連れて行く動機は正直ない……が、双子とも言うべきソラルが行くなら、チハルも行きたいよなぁ。


 しかし……うーん……。


「お父、ソラからもお願いするです。ちぃがいれば、ソラ一人より長く魔術使えるですから」

「えっ何それ、俺初耳なんだけど!?」


 魔術って、二人がけなんてできたんだ!? どういう理屈で!?


「よくわかんないですけど、二人で一緒に気をつけてると、お互いの魔術のもとが使えるです。だから、ちぃもいたほうがいいです」

「そ、そんなことができるのか……」


 イメージとしては、他人のマジックポイントを自分のものに変換するとか、そういう感じなのか?

 だとしたら、他人から奪うこともできそうだな……。


 魔術も奥が深い。前世にはなかったものだから、この辺りのことはさっぱりだ。

 俺はほとんど関われないと思うが、魔術はもっと積極的に検証して、明文化したほうがいいかもしれない。


「……魔術のことは正直よくわからんが、ソラルがそう言うならそうなんだろう。わかった、チハル、お前も来ていいぞ」

「やったー! やっぱり父さんはわかってるー! ソラもありがとね!」

「どってことないです」


 チハルが満面の笑みを浮かべつつ、俺とソラルにキスの雨を降らせる。少しくすぐったい。


「じゃあ、ゴウの準備もしないとだね!」

「え? あ、ああ……そういえばそうだったな」


 長距離を少女の身体で移動するのはしんどいだろう。となれば、ゴウと一緒に移動させるのが合理的だな。

 ソラルは俺が肩車するつもりでいたが、チハルはどうしようと思っていたところだ。ゴウに任せられるところは任せてしまおう。


「話は聞かせてもらいマーシタ!」

「うおっ!? アダム、いつの間に!?」


 声が聞こえたほうに振り返ってみれば、家の影から身体を半分ほど覗かせているアダムと目があった。

 なぜその状態で……。いや、確かに以前、おいしい登場の仕方、みたいなことを教えたことがあったような気はするが……。


「ちはるチャンがゴウに乗っていくなラ、俺も行かせてもらうヨ!」

「な、なんでまた……」

「そりゃシショー、今この村で鞍の修理ができるの、俺だけネ。もし旅の途中で何かあったラ、大変ネ!」

「……確かに」

「それに俺、鞍はまだ完成してナイ思ってるネ。長距離を移動するトキの耐久トカ使い心地トカ、調べられてないコトいぱいあるヨ」

「いちいちもっともだ!」


 ケデロシオの食料を一時的に圧迫するから、同行する人数はあまり増やさないほうがいいと思うのだが……何も反論できない。

 どうしたものか……と思って兄貴に目を向けたら、兄貴はこくりと頷いた。


 うむ……兄貴がいいというなら、俺は何も言うまい。アダムが有能な人材であることには変わりがないしな。


「ヨーシ、これで塩づくりを見られるヨ! 楽しみネ!」

「……お前、もしかしなくてもそれが本音だな?」

「ハハハ、まあネ!」


 屈託なく笑って、アダムはあっさりと肯定した。

 そういえばこいつ、好奇心の塊みたいなやつだった。その好奇心がうずくんだろうな。


 好奇心と言えば……と思って脇に目を向けたら、ソラルも目を輝かせていた。やっぱり。

 ま、製塩はアダムともどもチハルも巻き込んで、社会見学みたいに案内してやるか。二人の情操教育になれば幸いだ。


「よし、それじゃあ俺は族長たちのところに行ってくる」


 その後は、兄貴のその言葉で、お開きとなった。


 ケデロシオか……久しぶりだな。旅支度をしなければ。

 ……あ、でもその前に、メメに説明しないとだな。まだ安定期に入ってないから、さすがに連れて行くわけにはいかないし。


 ……なんだか急に行きたくなくなってきた。メメが出産してからじゃダメかな?


ここまで読んでいただきありがとうございます。


ということで、次から新しい村に舞台を移します。

・・・第三部を始めた時はそんなつもりまったくなかったんですけど、これ、第三部のヒロイン実の娘みたいな感じになっちゃってますね? 大丈夫かな、これ?

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