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17.ロイツマガール

1/31 遂に総合評価ポイントが1万に到達しました。皆さん本当にありがとうございます!

 ディテレバ爺さんが俺に差し出したもの。

 それはくすんだ緑色の、細長い茎だった。先端に行くに従ってより細長くなっていく茎の断面図は円形で、これはもしやと思うが……。


「ネギか……!?」


 そう、俺の目にはどう見てもネギにしか見えなかった。

 全体的なサイズや重量感などは、改良が進められた二十一世紀ネギとは比べるべくもないが、全体的なフォルムはしっかりネギになっているぞ!


「む? その反応……もしやギーロ、この草を知っとるんか?」

「あ、ああ! 神様の世界で見た食べられる草にそっくりだ!」

「ほほう、そうか! ならばこれもきっと食えるのではないかの!?」

「かもしれない! 今日の夕飯で早速食べてみよう!」

「わしも食べたいのじゃー!」

「「いや、それはダメだ(じゃ)」」


 俺と爺さんの会話に、興味を持ったメメが割り込んできたが、見事なハモりで俺たちは拒否する。

 当たり前だが、メメはおかんむりだ。


「なんでじゃー!?」

「この草が本当に食べれられるかどうか、しっかり調べてからでないと女子供には食べさせられない」

「そうじゃ。ス・……メメコ、これは何もいじわるで言っとるわけではないんじゃ。この間、一人死にかけたじゃろ? 女子供をあんな目に遭わせるわけにはいかんのじゃ」

「むー!」


 爺さんの言葉に俺は強く何度も頷く。

 ……メメよ、ネギを振り回すのはやめなさい。今の言葉は比喩でもなんでもないんだぞ。本当に先日、群れの仲間が死にかけたのだ。


 発端は土器だ。土器が手に入ったことによって、俺たちは煮るという手段を得た。これを利用することで、今までは食べることができなかった食べ物が手に入る可能性が出てくる……という話は以前にもしたと思う。


 生き残るために何より食べ物が必要なこの時代、その可能性は試す価値のあるものだ。だからうちの群れはあれ以来、ちょっとした試食ブームが起きている。

 今までは見向きもしなかった植物を、狩りのついでにあちこちから持ち帰ってきて、茹でて食べてみる。そんなブームだ。要は食べられる植物探しだな。

 植物の詳細な知識など俺にはないので、彼らのチャレンジ精神は推奨こそしないものの、止める理由などない。


 実際にソラマメも手に入って、少しだけ食事のバリエーションが増えている。おかげで試食のムーブメントは加速しつつあったのだが、そんな時事件は起きた。ある日持ち込まれたものを食べた男が頭痛やめまい、嘔吐などの症状で死にかけたのだ。要するに中毒症状である。

 なんとか一命を取り留めることはできたが、以降は絶対に女子供には試し食いをさせないことになった。

 元々試食は持ち帰って来た者以外にはやらせない、食べても数日様子を見るというルールがあったのだが、より厳しくなった形だ。


 ちなみに、その男が食べたものは、ジギタリスと思われる。某科捜研のサスペンスドラマで見た記憶が正しければだが……正しかったとしたら、死にかけるのも納得だ。というより、よく生きていたなというレベル。

 ジギタリス自体は上手く使えば薬草になるはずなのだが……薬としての使い方はわからないのでもどかしい。


「……でもギーロが食べられるかもって言ってるんじゃし、大丈夫じゃろーっ?」

「それでもだよ。それが許されたら、俺は何をしてもいいことになってしまう」

「むー……。……わかったのじゃー……」


 わかったと言いながらも、納得はしていない感じだな。気持ちはわかるが、ここは曲げて納得してほしい。メメに万が一のことがあったら、色々と困るのだ。


 ……とりあえず、メメよ。ネギを返しなさい。食べ物で遊ぶんじゃない、いつまで振り回しているつもりだ。

 拗ねるなよ、子供じゃあるまいし……って、子供だったな……。


「……で、爺さん。採ってきたのはそれ一つだけか?」

「いや、わし以外にも同じものを見つけてきたやつがおっての。ただそやつ、面倒がって根っこごと持ってきてしまってのー」


 俺の問いに、爺さんはさらに別のネギを取り出してきた。

 緑色の細長い茎であることは変わらないが、その下部にはぽこんと膨らんだ根っこが自己主張していた。


 ……って、待てよ!? 根っこが膨らんでいるネギだと!? ということは、これはネギではなく……。


「玉ねぎか!?」

「うおおう、なんじゃ、どうした急に」

「なんでもない……いや、なんでもなくないぞ。爺さん、これ、根っこごと持ってきたのはこの一つだけか?」

「あ、ああ、そうじゃが……」

「すまんが確かめたいことがある。こいつを根っこごと採りたいんだ、見つけた場所まで案内してほしい」

「今からか!? う、うーむ、あまり細かく場所は覚えておらんのじゃよな……。しかしお前さん、根っこごとなんてどうするつもりじゃ? まさか根っこも食うなんて言うまいな?」

「世の中には根菜というジャンルがあってだな!」

「……まーたわけのわからん言葉が出てきたわい」


 だろうな!!


 いやしかし、そうだ。野菜と言えば超大雑把に言ってしまえば食べられる草だが、食べる部位によって分類が違った。

 だがこの時代には、そもそも野菜という概念がまだ存在しない。前知識など一切ない。そんな中で食べられる植物を探そうと思い立った時、根っこまでその対象に含めるかと言えば……大抵の人間は含めないのではないだろうか。


 となると……もしかしたら、他にも見落とされている根菜があるかもしれない。あるいは今後の試食でも、見落とされるかもしれない。これはみんなに知らせておいた方がいいかもしれないな……。


「お父、お父! 場所探しなら、わし手伝うのじゃ!」

「んん!? しかしじゃな、群れから結構離れるぞ。そんなところにお前さんを連れていくわけには……」

「そういうのもわしが見つけてみせるのじゃ! お父にかたぐるましてもらえれば、前より遠くまで見えるからの!」

「そ、それはそうかもしれんが……」

「それでわしもこの細長いの見つけて、一緒に食べるのじゃー!」

「……そう来おったか……」


 唐突に復帰してきたメメの言葉に、爺さんは苦笑するしかない。なんだかんだで、子供というのは強かなものだよな。

 まあ、その思惑を口にしてしまう辺り、まさに子供なのだが……。


「よしわかった。爺さん、メメを連れていくぞ」

「やったー!?」

「おい」


 俺が同意し、メメが万歳した瞬間、爺さんの声がドスの利いたものになった。


「メメが言っていることは道理だ。こいつの目があればすぐに見つけられるだろうからな」

「しかしじゃな……!」


 言い募る爺さんの傍らで、メメがそうだそうだとぶんぶん頷いている。


「わかってる、爺さんの言うこともわかる。女子供が群れから出るのは危険だ」

「じゃろう!?」

「だから全力で守るぞ。俺と、爺さんとでだ」

「む……」


 爺さんは腕を組んでしかめっ面だ。もう一押しというところか。一丁煽ってやろう。


 ここまでするのは、近いうちにこの周辺を探索してまわりたいからだ。地形の確認はもちろんだが、できるだけ早く小麦と麻を手に入れておきたい。

 その時に、遠くを見通せるメメの力はどうしても借りたいのだ。だから彼女を連れて群れの外に出る実績作りとして、今回の件を利用しようと思ったわけである。


 彼女が玉ねぎを採取して、試食する権利を得てしまったら……その時は、なんとかして丸め込まねばなるまい。

 そうならないように、できる限り玉ねぎは俺か爺さんで確保する必要があるな。


「爺さんは丸太を持って行くといい。俺は槍と投石器を使う。遠くからメメが監視して、危険をまず最小限に抑える。万が一の時は出し惜しみなく全滅させる。どうだ?」

「むむむ……ええい、もう! わかったわい! 近づいてくるやつ皆殺しじゃ!」

「それでいい」


 言いながらもよくねえよとは思ったが、それくらいの気概でいてくれた方が野生の動物も離れてくれるだろう。


 娘のこととなるとこの爺さんも甘いよな。いや、女子供に甘いのはアルブス全体の傾向かな。それも当然と思える生態をしているわけだが。


「……ってことだ。メメ、悪いが力を貸してくれ」

「ももも、もちりょんじゃ!」


 なぜ噛んだ。そんな要素がどこにあったのだろう?

 だがメメがそのままうつむいて黙り込んでしまったので、俺は首を傾げながらも準備を整えることにした。


 二人には一言断りを入れた後、中断していた作業を完全に止め、家に向かう。作業の対象になっていたものも、忘れずに持ち帰る。


 それは、予想よりもかなり固く、いびつに仕上がってしまった毛皮だ。固さについては揉んだり石にこすり付けたりして緩和できるので、そんな地味な作業をえっちらおっちらやっていたわけだが……ものすごくしんどい。

 これさえ済ませば毛皮として使えないわけではないので、初回としては成功の範疇だろうが……満足できる仕上がりかと言えばノーだ。あちこちに穴を空けてしまったし、場所によって出来にかなりムラがある。


 うむ。

 なめし、クッソ難しいわ。これは相当に試行錯誤を重ねる必要がありそうだ。


 しかしなめしに限らず、今後俺がやろうと思っていることの多くは、知識だけではどうにもならないことが多い。今までのように最初に俺が一人で作り、その後他に浸透させるやり方では難しい気がする。

 最初から複数人を巻き込んで始めて、意見を突き合わせながら相互に経験を積んでいく方向に切り替えたほうがいいかもしれない。


 ……今まで一人でなんとかなっていたほうが異常なんだがな。


 薄々自覚はしていた。明らかに俺が保有している知識が多いということはな。おまけに、どう考えても前世の頃より多く知識がある。

 何かしらの知識チートが働いていると考えてほぼ間違いないと思うが、そう考えると不思議なのは、その知識の抜けの多さだ。つぎはぎだらけと言い換えてもいい。

 知識の相互補完が薄く、なんというか、一夜漬けでテスト勉強をした受験生のような感がある。チートとして考えると、ものすごく中途半端だ。

 どうせなら、インターネットに繋げられるとか、それくらいのチートが欲しかったな……。あの神を名乗るやつは、よほど根性がねじ曲がっているに違いない。


 ……まあ、それについて考えても仕方がない。嘆いたところで現実が変わらないのは、二十一世紀も原始時代も同じだ。


 今はその前に玉ねぎ探しだ。あわよくば種がほしい! 目指せ農耕だ!!


ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回のサブタイは最近の子にはわからないかもしれない。知りたい子は、ネギと併せてこのサブタイでアンド検索するといいかもしれない!

まあ、作中で出てきたのは玉ねぎなんですけど。


そして主人公だけでなく読者の皆さんもわかってたとは思いますが、彼の二つ目のチートが明らかに。

これに関しては、彼と同じ転生者を複数登場させるか、彼一人に集中させるかで迷ったのですが、色んな設定の推移などもあって、正真正銘知識系のチート所有者ということで決着。

少々引き延ばしてきましたが、今話にて正式に主人公の口から語らせることになりました。

ちなみに、実はもう一個チートがあるんですが・・・これが明らかになるのはかなり先になる予定。

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