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【連載版】確かに努力しないでちやほやされたいって願ったけども!【本編完結】  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
追伸部 未来への遺産

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P.S.23 とある大学教授のエルフ史概論 8

古戦場しんどい・・・。

 はいどうもーこんにちは、ウィローです……おや? 少し人数が少ないですね。

 なるほど、やっと欠席する生徒が出始めましたか? これで少しは楽ができればいいんですが。


 まあそんな話はさておき、講義に入って行きましょうか。今回は暗黒時代中期です。まずはこの時代がどれくらいの範囲を指すのか、から行きましょうか。


 いつだったか、私は暗黒時代が4万年ほど続くと説明したかと思いますが、この長い暗黒時代で最も長い期間で区切られているのが暗黒時代中期です。

 なにせ暗黒時代中期の期間は、実に約2万5000年。紀元前9000年頃までを暗黒時代中期と定義しているのですから、あまりにも長いですよね。これはひとえにこの期間の変化が少なかったからで、その原因はいくつかあります。


 まず、この時代の歴史はロウとヴシルに分けて見る必要があるんですが、両者共に変化できなかった最大の理由は共通していて、資源の不足です。両者が住む浮遊島は人工の環境なので、その手のものがなかったんですね。錬成魔術によってマナリウムからものが作れるとは言っても、一人の人間が作れるものには限度がありますからね。

 また、後半ごろから地球が最寒冷期に入り、暖房のためにエネルギーリソースの多くを割かざるを得なくなったことも影響しています。終わり頃にはだいぶ暖かくなりますが氷河期から脱したわけではなかったですし、そもそも浮遊大陸は高度がある分地上より寒いですからねぇ。


 この他、それぞれの陣営に特有の理由があります。

 ロウは人理焼却に注力しすぎたことによる国力の低下、政争の頻発による国家運営の遅延常態化、多すぎた現状維持を望む世論などが。

 ヴシルはどん底すぎた始まり、にも関わらず長期間できなかった国の拡張、多種族国家ゆえに意見の取りまとめに苦労したことなどがありますね。


 ではその辺りを踏まえて、この時代のロウとヴシルを見ていきましょう。まずはロウから。


 暗黒前期の終わり、勝者となり空へと上がった神聖ロウ帝国は、まず国名を変更します。天上より世界を教え導く国として、天上ロウ教国を名乗るようになります。いやー、ここまで行くと清々しいというか、どのツラ下げて言ってんだって感じですが。

 でも実際、ロウの勝利によって魔王……すなわち教皇に強さが求められなくなったことで枢機卿たちによる共和制に移行していくので、歴史学的にも間違っているわけでもないのがまたなんとも。ま、長いんで私は主にロウとしか言わないですが。


 さてそんなロウですが。彼らは暗黒中期に入って以降、積極的に人理焼却を推し進めます。ヴシルという敵がいなくなりましたからね、誰もそれを止めるものはいませんでした。


 人理焼却とは今まで説明してきた通り、全史黒書の通りに歴史を作りたいロウが行う事業で、全史黒書に記載されていない事象をこの世から消し去ることを指します。

 覇権を共和国から奪って以降、ロウはずっとこの人理焼却を続けてきましたが……ヴシルがいなくなったことで、より徹底したやり方を始めたわけですよ。


 目で見える範囲の破却は当然として、地下に眠る遺跡もその対象に。また、積み上げられてきた文化物や書籍なども例外なく対象とされました。そのいずれもが、丹念に発掘調査などを行なった上で、その記録ごとすべて一つずつ消していくという入念なものです。

 さらにそれだけでは飽き足らず、既に人理焼却を行なった地域も再度その対象になりました。敵と相対しながら行なった過去の事業は不十分だった、と見なされたわけです。完全にどうかしてる。

 以前の講義で、古代の遺跡がほとんど残っていない理由としてロウによる破却を挙げましたが、地面に埋もれていただろう当時の遺跡すら破却したのはこの時期になります。だからこそ、聖地ルィルバンプが残っていたのは奇跡的なわけですが……。


 ともあれ人理焼却は、エルフの歴史を否定するものです。だから諸々が破却されたわけですが、その対象はエルフ、そしてドワーフそのものにも及びました。そう、生物の種を意図して絶滅させるという所業が行われたんです。これはエルフ史における汚点と言ってもいいでしょうね。

 当時の記録はロウが無駄に丁寧に残しているんですが……ひどいというよりヤバいので、レジュメには載せませんでした。素人にはお勧めできない。


 えー、こうして地上は焼却されました。かかった時間はおよそ1万年と2000年で、神話時代から脈々と築き上げてきたエルフの歴史は一度ほぼ地上から消えてしまいました。


 一応、完全に消えたわけではありません。ご存知の通りヴシルは浮遊島を完成させて行方をくらませ機会を窺っていましたし、取り残されたエルフたちの中にもかろうじて、ロウの魔の手から逃れた人たちもいましたからね。


 彼らはロウの監視下から逃れるため、極力空からの視界に入らない場所への居住を余儀なくされました。それは主に山や森、洞窟の奥など自然の防護があるところだったわけですが……これがのちに、地上においてエルフが森の民と言われるようになるきっかけですね。

 彼らはロウから逃げるために各地を放浪しつつ、かろうじて命を繋いでいきます。しかしその過程で、ほとんどの知識、技術を失いました。残ったのは原始的な魔術と、「昔からそうだったから」という慣習だけ。深い追求を苦手とし、新しいものを構築する能力が希薄なエルフは、かくして零落していったのです。


 また、生まれながらに魔術を持たないドワーフは紀元前2万1000年ごろ、最終氷期の最寒冷期を迎えたころに地上から絶滅しました。ヴシルが天上世界で保護していたので種として完全に絶滅したわけではありませんが……少なくとも一度、ドワーフは地上から姿を消した時期があったのです。


 残るフィエンですが……こちらは意図的に残されました。というのも、全史黒書において地上に生きる人類はフィエンのみでしたからね。ロウにとっては、フィエンは迫害の対象でありながらも存在していなければならなかったわけです。

 しかしそこはロウ、全史黒書の記述に合わせるため、フィエンたちから徹底的に文化文明を奪いました。かの書物においてはこの時代、フィエンは神話時代もかくやの生活をしていたと記されているわけですから、そこに罪悪感などなかったでしょうね。むしろ使命感があったことは想像に難くありません。


 ……と、ここで一旦区切って他に目を向けましょう。この時代のロウの文化や、新技術などについて触れますね。


 暗黒中期におけるロウの文化物には、技法などの点で言うと前期と比べてもさほど大きな変化はありません。ただある一点のみ、明確に異なる変化が一つあります。


 それは主神という立ち位置が正式にロウの教義に導入された結果、女神を模したもので溢れかえったことです。

 ロウは偶像崇拝を禁じていなかったので、絵画や彫刻は言うに及ばず、柱や欄間の飾り細工や飛法船のデザイン、果ては看板のロゴなどに至るまで、あらゆるところにクロニカがすえられたんですよ。創造が苦手なエルフは、新しいものが生まれるとしばらくそれに熱狂する性質があるように思うのは私だけですかね?


 こうなった原因はやはり、かつて実際にクロニカが現れたという伝説にあるのでしょう。前期では作者によって様々な姿形をしていたクロニカの偶像が、中期以降完全に統一されたことからそれは間違いないと思われます。


 そしてクロニカブームとも言うべきムーブメント、最終的には政治にまで関わるようになります。中期が始まってから2800年くらい経ったころに、女神派とも言うべき派閥が誕生したのです。

 この派閥、なんと一度熱狂に乗じて政権を取ってまして、人理焼却よりクロニカ礼賛を第一義にするよう国の方向を変えようとして、色々としっちゃかめっちゃかにしました。


 暗黒中期のロウではこの女神派を始めいくつもの派閥が生まれていて、最初に述べた通り停滞の一因になっています。ロウにとっては共和制のデメリットの洗礼を浴びた時期でもあったわけですね。


 あ、歴史的に重要なロウの派閥は暗黒晩期のきっかけになる時空派のみなので、無理に覚えなくていいですよ。


 ……と、話を戻しまして……この他、中期の後半くらいになると、精神的余裕からか、ロウにはスポーツなどの文化も多く花開いていきます。


 この時期に生まれて人気を博したのが、マギアスポーツ。その多くは既存のスポーツに魔術を組み込んだものでしたが、その中のいくつかはなんと現代でも行われています。

 人気のあるところだと超次元サッカー、スーパーベースボール、テニヌなどですかね。講義を受けている皆さんも、何かしらの形で触れている方は多いんじゃないでしょうか。


 ただ私もテニヌは趣味程度にやりますが……元のそれと比べると、こう……死人が出た時の特殊裁定があるってどうなんですかね?

 あと、最近フィエンが考えた馬テニヌとかもう正直全然ついていけないんですが……フィエンの創造力ってたまにちょっと頭おかしいというか……いや褒めてるんですけど、こう……。


(小学校の体育で、笑顔の先生に「はーい今日はテニヌをしまーす」って言われたときの俺の心境を理解してくれる人はこの世にはいないんだろうなー……)


 あいや、話がズレましたね、戻しましょう。次は科学技術のほうをば。


 こちらも、暗黒中期においてはあまり進歩がありません。時代を通してその水準は古典末期からあまり変化していないですね。

 いやなかったわけではないんですが、人々の生活を変えるに至るまで多大な時間を要したために一見すると長期間なかったように見える、と言うべきでしょうかねぇ。


 何はともあれ順に説明して行きましょう。レジュメを次に。


 えー、この時期のものとして挙げられる発明は大体ロウがなしているんですが、中でも大きな三つを取り上げましょう。まずアダマンチウムですかね。


 中期の前半ごろに発明されたアダマンチウムは、人工の金属元素です。その性質は既存の金属よりも頑丈かつ軽量ながら加工もさほど難しくないというもので、チタンの上位互換のような感じの金属でした。

 このアダマンチウムの登場により、人々の生活が劇的に変わったと言うことはあまりないのですが、金属を用いる業界においては軽さと強度を同時に確保できるものとしてすぐに広まりました。


 また、アダマンチウムにはある特性がありました。それはある程度の範囲内において、失せ月による影響を減らせるというものです。ロウはこれで失せ月用のシェルターや、魔術合金の保存庫を作ることでその影響を……ひいてはいずれ起こるだろう四度目の死食に備えようとしていたんですね。


 その正体はマナリウムの同位体で、魔術の素としての能力を喪失した代わりに固体化に成功したもの。そのためミスリルやヒヒイロカネと違いマナリウムを直接保蓄できませんが、前述の通り対策には十分使えたので結果オーライでしょう。

 まあ結局死食は二度と起こらず、失せ月もその頻度は古代より明らかに下がっていたのですが……それでもあるにはあったので、対策自体は無駄にならなかったようですね。この場合の「無駄にならなかった」は、人理焼却が順調に進んだのとイコールではありますが……。


 ちなみに開発はグループでの成果なので、特定の誰かとは伝わっていません。連名の論文は残っているので、それぞれの名前はちゃんと伝わっていますけどね。


 さて、では次行きましょうかね。次……次はこの時代最大の発明、マギアデバイスです。


 マギアデバイス……通称デバイス。その詳細はみなさん知っているでしょうから省きますが、要するに人間の頭では処理しきれない魔術の演算を肩代わりする道具の総称ですね。これがあるのとないのとでは、魔術の精度や規模が如実に変わってくる。それくらいすごいもので、現代においてはなくてはならないものになっていますよね。


 それまでこの役割はクロークワーク式、もしくは電気式のコンピューターが担っていました。しかしそれらは多くの場合、携行や耐久性に難があったり、そもそも武器としては使えないなどのデメリットがあります。

 デバイスはそれらのデメリットを極力排した魔術補助道具であり、それを成し得たことはそれがロウの手によるとはいえ、人類史に残る大きな成果と言えるでしょう。


 ま、これに関してはモデルが既にあったというのも大きいでしょう。ええ、このデバイスの大元になったの、例の太陽剣アマテラスなんですよ。


 そう、アマテラスはただの剣ではありませんでした。もちろん、特殊な金属を用いただけの剣でもありません。その本質は、原初のマギアデバイス。剣の外観をしてはいますが、その中には大量かつ複雑怪奇なコンピューターが所狭しと敷き詰められた、機械剣とも言うべき代物だったんです。


 その存在は暗黒前期、「大魔王」ゾーマによって破壊され既にこの世にはありませんでした。伝説の勇者アレルが新造されたものを手にしていましたが、それも決戦の際にいずこかに消えています。しかし一本目を破壊したとき、ゾーマはその内部構造を記録させていたんですよ。

 もちろんそれは詳細な設計図などではなく、つまり宿命の子であっても解析できなかったわけですが……それは次世代に任せていたわけです。結実するまでゆうに20000年近い時間がかかりはしましたが、最終的に人類は神の御業と思われていた機構を遂に手に入れることに成功したんですね。


 様々な理由から、人々に身近な道具になるまではそこからさらに短くない時間がかかりはしましたが、最終的にデバイスは様々な形で生活に根付き、大きく暮らしを変えました。……と、その辺りの詳細はこのあと話すレプリケーターと併せて、いずれ扱う予定の第二次産業革命まで保留とさせてください。


 さて、最後の大発明は今少し挙げた通り、レプリケーターになります。


 いやあ、レプリケーターに関しては本当に説明はいいですよね? なんでも作れちゃうマシーンですよ。この発明は本当に大きい! 意義もあえて説明するまでもないでしょう。それほどの代物です。

 とはいえそれだけの発明でありながら、人々の生活はすぐには変わりませんでした。それどころか、当時の人々にとって最初期のレプリケーターは、どちらかと言えば道楽的な代物だったのです。


 錬成魔術の煩雑な計算や知識をすべて代行できるのになぜそんな扱いだったかといえば、ずばり稼働に必要なエネルギーがまったく採算にあっていなかったからです。

 これはまだマナリウムを直接エネルギーとして利用できなかった当時、解決できない問題でした。クロークワークエンジンなど既存の装置では、そのエネルギーを賄いきれなかったんですね。


 そのため細々と改良は続けられましたが、ロウにおいてはその後の政権の変遷などの結果ほとんど予算が下りない案件になってしまい、最終的にロウが滅ぶまでその立ち位置は顧みられることがありませんでした。もったいない話ではありますが、そういうことも世の中にはあるんですよね。

 しかしこのレプリケーターを活用すべく奮闘したのが、実は敵対するヴシルでした。


 ……というわけで、ここで視点をロウからヴシルに変えましょう。この時期、隠遁を余儀なくされていたヴシルは何をしていたのか?


 答えは、ロウが弱体化するまでひたすら待っていた、です。いつか必ず来るだろうロウの衰えを、待ち続けていたのです。

 もちろんただ待つだけではなく、技術や道具は進歩させるべく努力されていましたし、そのために全種族が対等で、互いに協力しあって最後の砦である浮遊島アマテラスを発展させていこうとしていました。


 それはもう、国ですよね。というわけで、こうして浮遊島アマテラスに生まれた国を、ヴシル共和国といいます。国の中枢はほとんどがヴシルメンバーだったのでね。

 でもこの講義ではわかりやすさ重視で、新共和国と言います。こっちのほうが通りもいいですし。


 この新共和国。どん底からスタートしただけあって、できてから千年ほどずーっと、古典初期もかくやの内政偏重主義でした。


 しかし千年というのはエルフにとっては三、四世代程度ですが、フィエンやドワーフにとってはあまりにも長いです。この感覚の差は如何ともしがたく、新共和国ではたびたび内紛が起きました。おまけに初期の新共和国は、様々なものが特に不足していた影響でディストピア小説並みの管理社会だった分、余計ですね。

 その軋轢は次第に大きくなっていき、合計1200年ほどで新共和国はあっさり破綻を迎えます。いや、これでもフィエン的には驚異的な長期国家なんですけど、これエルフ史なんで……。


 さて破綻したと言いましたが、実のところ決定的な崩壊には至っていません。広くない浮遊島で起きた内乱は、エルフの武力ですぐ鎮圧されたので。

 しかし新共和国政府は、共和制では国をロウから隠しきれないと見て、あえて王政へと移行させます。絶対的な権力者を戴いて、その威光でもって暴発を抑えようとしたわけです。


 この結果、一人の王が立ちます。当時のヴシル・グランドマスターであった彼は、始祖たるギーロの子孫を称して同名のヒノカミ・ギーロを名乗り、国号をヒノカミ王国としました。

 これが現在のヒノカミ皇国の前身ですね。ギーロの名前はそこから世襲されるようになるんですが……とはいえ、そこにかつての王権を保証していた太陽剣アマテラスはなかったですし、彼とそこから続く王統はのちに皇国へと変わる過程で否定されちゃうんですけど。


 なお、国の体制として共和制はある程度維持されました。政治においてエルフの優越はなく、基本的に三種族合同での議会制を行い、王は何か運営に不備があった時にその権限を振るう形になったわけです。


 王国はそうやって、綱渡りを続けながらなんとか暗黒中期を生き延びます。この間、技術面ではそのほとんどがロウの後追いでした。ある程度国力を回復させてからはロウの動向を探るためにスパイを潜入させるようになったので、そのついでにロウの進んだ技術も盗むようになります。


 そんな中で王国が自力で開発してロウを上回ったものが、隠蔽魔術です。中期の中頃に、王国はこの魔術によって浮遊島を光学的、魔術的に隠蔽することに成功します。

 より正確に言えばこの隠ぺい魔術は、「伝説の勇者」アレルたちを導いた神鳥ラーミアが用いていたものを学習、発展させたものです。ラーミアがいなければここまでのものは作れなかったのではないかと言われるくらい、神鳥が用いる魔術は優れたものでした。


 結果、ロウの目をかいくぐるために拡張を抑えていた王国は、ロウから遅れること数千年、やっと本格的な島の拡張、増設に着手できるようになりました。これによって、浮遊島だったアマテラスは浮遊大陸に近づいていくことになります。

 またエネルギー開発や農業、牧畜など各分野に特化した浮遊島を複数建設し、国力を向上させていくわけですね。


 そんな王国で唯一、明確な動きがあったのは芸術などの文化面です。思想が極端に走っていなかったのと、一応は争いごとがなくなったことから、時代を通じてかなり自由な気風がありました。

 傾向として、暗黒前期の宗教色が薄いというのはこの時代も受け継がれました。むしろ進んだと言ってもいいかもしれません。


 では逆にどんなものがテーマになったかというと、神話時代の伝説であったり、在りし日の古典時代の平和な風景などで、芸術史で言う所の懐古主義の時代になりますね。

 これが後期に近づくと、常識をかっ飛ばしたキュビズムやシュールレアリズムなどが興ってきてかなりカオスな状況になりますが、芸術は元々懐の広いものですからね。それすらも養分にして、すそ野は広がりました。漫画やアニメの萌芽が見られるのもこの時代だったりします。


 そうして少しずつ、しかし着実に力を蓄えた王国ですが、ロウからデバイス技術を奪取したときに転機を迎えます。


 きっかけは、ときの王が発した一つの命令でした。太陽剣アマテラスを復元せよ、という王命です。失われたレガリアを再度手にして、王権の強化をはかろうとしたんですね。

 これを受けて、国中の技術者が総力を結集してアマテラスの復元に取り掛かったのですが……当時の技術ではどうあがいてもアマテラスの復元は不可能でした。


 ところがあるとき、前触れなく事件が起きます。ある朝、定例会議のため議会場に赴いた上層部の数人が、その円卓に一本の剣が刺さっているのを見つけたのです。

 さらにその円卓には、完璧な神語でこう書かれていました。


『ロウで終末派が復権したから、もう一度アマテラスをあげるですよ。これでロウをぶちのめすです。あ、ちなみにこれはアレルが使ってたやつです、今度こそなくさないようにするですよ』


 それを見た誰もが、宿命の子を定めた謎の存在、「空」の仕業だと確信したでしょう……。


 ……え? 目が遠い? ははは……気のせいでしょう、たぶん、ええ、気のせいですとも。


 ともかく……これにより、王国の権威と士気は上がりました。失われかけていた神への信仰心にも復活の兆しが現れ、歴史の正当性はロウではなく王国にあるのだと信じられるようにもなりました。

 まあ、帰ってきたアマテラスを当時の王が抜けず、最終的にそれをなしたのが王統とは縁もゆかりもない議会の長老アレフだったという波乱もありましたが。何はともあれ王国は、それまでの王統を排してアレフを新たな王に据え、再出発することになったのでした。


 ちなみに、この突然の王朝交代劇に一番困惑していたのは当のアレフ本人だったようです。彼の晩年の日記は今も皇国のアーカイブスで読めますが、大量の愚痴が様々な表現で鮮やかに書かれているのでなかなか面白いですよ。

 勝ち馬に乗りたい周りがもっぱら天が選んだまことの皇ということを強調して持ち上げたため、三大聖書に登場していた天皇という称号まで獲得する羽目にもなったくだりとか、もはやコントの域ですし。


 ……と、それはさておき。


 ときに紀元前14008年。ヒノカミ王国はその名をヒノカミ皇国へと改め、新たな皇統が国を治めるようになります。現代にまで残る世界最古の国として、天上世界に君臨する「皇国」が誕生した瞬間ですね。

 まあ名前がちょっと変わっただけで、体制はほぼ変わってないんですけど。旧王統が反乱を起こして数年で鎮圧されたりもしましたが、穏当に国は続いたと見ていいんじゃないでしょうか。


 この皇国。アマテラスも戻ったし、そろそろ開戦しようという風潮が建国当初は起こったんですが……同時期ロウの政権を取った終末派が個人用の軍事デバイス、ライトセイバーの開発に成功してしまったため、諦めて王国の路線を継続しました。殴りかかろうと拳を振りかざしかけたところ敵が完全武装で現れたので、すんっと椅子に座りなおした感じですね。

 ライトセイバーは現代にもその名が受け継がれるほどの傑作機で、特に大きく戦争を変えましたからね。イキりかけて諦めた当時の皇国を責めることはできないでしょう。なにせ末端の兵士ですらかつての並みの勇者程度の戦闘力を得てしまえるので、互いにデバイスがないと戦いにならなくなっちゃったんですよね。


 実際のところはロウもまだ量産はできていなかったので、このとき急いで開戦しても勝てたんじゃないかなとは思うんですが……ここで石橋を叩いて渡ることにしたからこそのちの大勝利に繋がるんで、一概に戦うべきだったとも言えないところですね。開戦してたら相当な犠牲者も出たでしょうし。


 そんなわけで慎重居士となった皇国はあるとき、ロウが新たに発表したレプリケーター理論に目をつけます。

 何せ最初に言った通り、浮遊島には資源がありません。特に大手を振って地上を歩けない上に人口でも劣る皇国では、そこにかなりの制限があったんですよ。


 なので皇国は、技術を奪取するとレプリケーター理論を完成させるために国力の多くを割くようになります。多少無理をしてでもこれを完成させなければ、明るい未来はないと判断したんですね。

 その甲斐あってレプリケーター分野は皇国がリードする形になり、中期が終わる頃にはなんとか国内の資源を賄いつつ、多少貯金ができるくらいの余裕を得ることができるようになりました。


 そしてこのレプリケーターによる資源の差が、暗黒時代の最後をはっきりと決めることになるのですが……はい、チャイム鳴ってますね! すいませんもうちょっと、もうちょっとだけ語らせてください!


 えーと、そう、冒頭で説明した通り、暗黒時代中期はほぼ変化がなかった時代です。そして今回講義したように、その最大の理由は人工の浮遊島に居住するが故の資源不足でした。

 この状況を皇国はかなり深刻に捉えていて、だからこそレプリケーターに飛びついたわけですが、なぜロウにこの危機感がなかったかと言えば、これはエルフしかいない国だったからでしょう。

 エルフは他の種族よりも現状維持にこだわる気質が強いです。万年単位で維持してきた暮らしが、多少の不便はあっても安定しているなら変える必要性を見いだせなかったんですね。それが破滅への第一歩だと気づかないまま……。


 ……と、言ったところで今日の講義はここまで! オーバーしてすいませんでした!

 次回は暗黒時代後期をやりますので、質問疑問などあればいつものところまでお願いしますねー!

ここまで読んでいただきありがとうございます。


正直、1万文字超えるとは思ってなかった。今は反省している(真顔

これでもだいぶ削ったんですけどね・・・テニヌのところとか初期原稿だと波動球とか無我の境地とか言って教授がハッスルしてたんで・・・。

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