第2話 目覚めたらやっぱり地獄
─ツンツン。
頬をつつく感覚がある。
誰だ、そんな添い寝する恋人みたいなことをしてるのは。
俺はまだ眠いから起こすんじゃねえ。
──ツンツン。
だーかーら、俺は眠いんだ。勘弁してくれ。
ああ、眠い。
───ドスドス!
「いってぇ!おい誰だふざけんな!」
バッと起き上がって回りを見回す。するとそこには、見たことのない鳥がいた。
こいつか!俺の頬をつつきやがったのは!
「クソッ!どっか行きやがれ!」
俺は鳥を手で払った。その鳥は飛んで逃げていく。
それを眺めていると、あることに気がついた。
「…あ?も、森?」
周囲が木々でおおわれている。
「何で俺、森なんかに?」
俺は自然なんか好きではないし、ましてや野宿なんて自発的にすることはあり得ない。
「そもそもどうやってこんなところに…?…あ!そうだった!確か床にのみこまれて…。」
床に飲み込まれた時点で異常だが、そこからどうやって森に迷い混むのかも謎だ。
「おおぅ…、考えれば考えるほど混乱するぞ……ん!」
混乱していて気づかなかったが、人が大勢倒れてる、と言うかクラスの連中が倒れてる。
よし、コイツらを起こしてこれからのことを考えさせるか。
正直話すのもごめんだが、せに腹は代えられん。
「おい!起きろ!」
近くに寝ていた男子生徒を揺すって起こす。
すると、意外と早く目を開いた。
「…うぅ?」
「大丈夫か?怪我はしてないか?」
心配など微塵もしてないが、こういう態度の方が円滑に会話が進むだろう。
「…え?ここどこだ?確か俺、床に吸い込まれて…あれ……?」
この野郎、俺の気遣いを無視しやがって…。いかんいかん、平常心だ。
「ここがどこかは申し訳ないが分からない。俺も床に飲み込まれてからの記憶がないんだ。…とりあえず、何が起こってるか考えるために皆の意見が聞きたい。寝ている皆を起こして軽く説明してくれないか。」
「あ、あぁ。分かった。」
そこから二人で手分けして連中を起こして回った。
起こしたやつらの反応は様々だった。
呆然とするやつ、泣き出すやつ、混乱して怒っているやつ。
「チッ」
それにともない俺のイライラメーターはカンスト寸前である。
回りを見渡せば阿鼻叫喚の地獄絵図、これなら一人で考えた方がましだった。
「役に立たねぇ…。」
「皆落ち着こう!」
「…?」
誰かが叫んだ。声の主を見ると、学校で結構目立つやつだった。名前は…、結城勇人だっけか?
「こんなことになってみんなが混乱するのはよくわかる、でもこんな時だからこそ冷静にならなくちゃ!」
全員が結城に注目している。
「今どうするべきなのか、何が必要なのか、みんなで意見を出し合おう!」
それさっき俺が言ったんだが。まあ、話が進むなら何でもいいが。
なんだか納得がいかない。
「とりあえず何が起こったのか把握したい、何か心当たりのある人っていないかな?」
その言葉をきっかけに連中は結城のもとへ集まり始めた。
そして各々頭をひねり始める。
(こんな状況に心当たりのある奴なんているわけないだろうが。)
そう思い、辺りを確認すると三人組のオタクたちが何やらそわそわしていた。
(なんだ、あいつら?)
「君たち、何か知っているのか?」
そう言って結城は三人組に声をかけた。
すると一人がおずおずと答えた。
「もしかしたら全く関係ないかもしれないんだけど…、ここは異世界なんじゃないかなって思うんだけど…えっと、その……。」
「…イセカイってなんだい?」
異世界、その言葉を聞いて納得した。
別にここが確実にそうだと思ったわけではない。
そういえば、最近そういうジャンルの物語がオタクたち(俺含む)ではやっていた、と思っただけだ。
──異世界転移。
もちろんフィクションの話だが、物語の主人公が何かしらの現象に巻き込まれて、地球とは全く法則の異なる世界に飛ばされる、というものだ。
ありきたりなものでいえば、魔王討伐のためにどこかしらの国によって勇者として召喚されるというものだ。
このジャンルが人気なのはきっと、これがオタクの願望のほとんどを兼ねてしまっているからだろう。
周囲と自分を比べた時の劣等感、強い自分への羨望、そして現実逃避。
日本人ならば余計にこれらが強いだろう。
それだけではないが、そういうものの塊だと認識している俺は、こういうのはあんまり好きではなかった(嫌いとは言っていない)。
俺がそうこう考えているうちに、異世界についての説明を終えたようだ。
「なるほど…、信じがたいけど、あんな目にあった後ではね…。」
結城の言うあんな目とは、床に飲み込まれたことを言っているのだろう。
「みんな!彼らの言うことが正しいかどうかはわからないけど、確かめる価値はあると思う。だからみんなで周囲を調べてみよう。何かわかるかもしれない。」
「え…、大丈夫かな?」「ぜってぇヤバいだろ。」「下手に動かないほうが…。」
こいつらの不安も分かるが、どっちにしてもこんなところに助けなんか来るわけがない。
それなら探索するほうが賢い選択だろう。
「みんなで常に行動していれば何か起きてもいつでも対応できる、だから大丈夫だよ。」
「そっか、それなら…。」「いってみるか」「…。」
さっきの言葉で納得してるのはどうなんだ?安心できる要素なんかなかったと思うが…。
まあ別にこいつらがどうなろうが構わんがな。
「よし、とりあえず常に誰かのそばにいるようにしてはぐれないように。…それじゃあ行こう!」
そう言って結城は歩き始める、そしてそのあとに全員が続いた。