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さくら駆ける夏  作者: 桜坂ゆかり
第七章 決意
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「見えてきたね!」

 窓の外を見ながら、涼君がテンション高めの様子で言った。

 私たちは電車の中だ。


 すでに下に水着もちゃんと着てきたし、お昼ご飯もコンビニで調達済みだし、準備は万端。




 駅に到着して電車を降りた私たちは、十五分ほど歩いて浜辺に到着した。

 先週行ったプールほど混みあっていなかったが、そこそこ人の姿は多い。




 お昼ご飯を食べた後、ちょっと休憩してから、私たちは海に出て遊ぶことにした。

 手早く水着姿になる私たち。

 涼君はプールのときと同じ水着だった。

 相変わらず、かっこいい!


 私のほうは今回、空色のビキニを選んだ。

 セットでついてたパレオも身体に巻く。

「そのビキニも、すごくよく似合っているよ。パレオもおしゃれだね」

 視線がすごく、くすぐったい。

「あ、ありがとう」

 お礼を言う声の震えを抑えきれない私。

 昨日の出来事がずっと心の中で引っかかっているはずなのに、こうして涼君と二人っきりになると、そんなことも忘れてしまう。

 能天気なのかなぁ、私って。

 おじいちゃんほどではないはずだけどね。




 それから、準備運動をしたあと、私たちは波打ち際へと向かった。

 さりげなく、私の手を引いてくれる涼君。

 涼君って、たまにこうして大胆になる気がする。

 でも、そんなところも大好き。

 そして、「これってすごく恋人っぽい」と思うと……嬉しさと恥ずかしさの入り混じった気持ちになる。




 波打ち際まで着いた私たちは、ばしゃばしゃと水に入っていく。

 海水が冷たくて気持ちいい。


「海に来るのも、一年ぶりかぁ。さくらちゃんは、毎年、海に来るの?」

 涼君がしみじみと言う。

「私は二年ぶりかなぁ。涼君と同じく、今年はこれが初めてだよ」

 泳ぎが下手だから、あまり頻繁には来ないんだよね。

 前回も、沙織たちが誘ってくれたのを断りきれずに参加しただけだし。




 しばらく仲良く遊んだ後、休憩のために、いったん私たちは浜辺に上がった。




「さっき一年ぶりって言ってたよね。涼君は毎年、海に来てるの?」

 休憩中、聞いてみた。

「うん、だいたい一年に二回以上は、確実に来てるかな。ここじゃなくて、和歌山県の白浜に行くこともよくあるよ。あっちにも友達がいるんだ」

「白浜かぁ、行ったことないなぁ」

 語感から、美しいビーチを想像しながら私が言った。

「いつも友達と一緒に行くの?」

「うん、たいていそうだけど、家族で行ったことも何度かあるよ。ああ、思い出した。白浜旅行のうち一回は、ヒサさんや、じいちゃんの友達たちも一緒だったっけ」

「ええ?!」


 初耳だった。

 おじいちゃんは夏休みや冬休みなどの長期休暇になると、友達と一緒に泊りがけの旅行に出かけることも珍しくなかったから、旅行のこと自体はそんなに不思議ではないんだけど。

 おじいちゃんのその「友達」には、涼君たちも含まれてるわけね。

 当然かもしれないけど。


「ねぇねぇ、白浜旅行のときのおじいちゃん、どんな様子だった? いつも通り、元気いっぱい、大はしゃぎ?」

 そのときのことを詳しく聞いてみた。

 私のいない時のおじいちゃんの様子を知りたくて。


「いつもテンション高いよね、ヒサさんは。あの旅行のときは、十人ぐらいの旅行だったんだけど、ヒサさんと母さんがムードメイカーだったかな。翠も割としゃべるほうだけど、あの二人にはかなわないから」

「ははは。なんだか、想像できるなぁ」

 おじいちゃんと美優さんのハイテンションなマシンガントークを想像すると、思わず笑みがこぼれた。

 しかし、そのとき―――。


「…………あ!」

 怪訝な表情になった涼君が、急に、驚いたような声をあげた。

 口をあんぐり開けている。


「どうかしたの?」

 私の言葉にすぐには答えず、涼君は少しうつむき加減になって、そっと目を閉じた。

 難しい表情をして、頭に手を当てている。

「今、大事なことを思い出しそうで………」

 涼君はそう言って、何かを必死に思い出そうとしているようだ。

 私は邪魔をせず、涼君の言葉を静かに待つ。

 しばらくすると、涼君が目を見開き、喉の奥から絞り出したような声で言った。


「思い出したよ……。この前、さくらちゃんに言ったでしょ、俺が以前にさくらちゃんのキーホルダーにそっくりなのを見たことがあるって」

「う、うん……」

 確かに涼君は言っていた。

 私もはっきり覚えている。

「やっと思い出したよ。あれね………ヒサさんが持っていたんだ。さくらちゃんは、ヒサさんにキーホルダーを貸していたことはあるの?」

「えええ?! 誰にも貸したことなんてないはずだよ。おじいちゃんは、勝手に私の部屋に入ったり、私のモノを持ち去ったりするような人じゃないし……。どういうこと……かな……?」

 私は、混乱してきた。

 おじいちゃんが私の部屋からキーホルダーを勝手に持ち出すなんて、ちょっと想像できない。

 そもそも、そんなことをする理由も考えられなかった。

 もし万が一、あのキーホルダーを貸してほしいとか思ったのなら、言ってくれれば私はすぐ貸すし。

 だって、おじいちゃんのあの告白によって、こういう状況になっていなければ、あれの重要性に私は気づいていなかったはず。

 もっとも、「あのキーホルダーが必要なシチュエーション」自体、起こり得ない気もするけど。


「これは、あくまでも推測なんだけど……」

 涼君が、ゆっくりと言う。

「ヒサさんも、同じようなキーホルダーを持っているんじゃないかな?」


「ええ~!」

 ますます混乱してくる。

 あのキーホルダーって、直真さんたちの話では、胡桃さんからのプレゼントだという話なんじゃ?

 私の持ってるのも、多分、胡桃さんが私にくれたということだろうって思うし。


 で……おじいちゃんもキーホルダーを貰ってたってこと?

 すると、おじいちゃんは胡桃さんの知り合い?

 涼君も、私と同じく頭の中を整理中なのか、黙ってうつむいていた。


 しばらくして、涼君が口を開いた。

「花火大会まで、まだたっぷり時間があるね。さくらちゃん、申し訳ないんだけど、ここで遊ぶのはこれで切り上げてもいい? 確認したいことがあるんだ」

「うん、もちろん! 今の話を聞いて、私も気になって気になって仕方がないから」

「せっかく楽しく遊んでいたのに、ごめんね。ここには、また日を改めて、来ることにしようよ」

「うん、よろしくね!」

 私たちは、今日のところは引き上げることにした。

 涼君が確かめたいことって何なのか、私には分かっていなかったけど。

 でも、私としても、おじいちゃんとキーホルダーのつながりについて、気になって気になって仕方がなかったから。




 更衣室は見当たらず、着替えのために隠れられる茂みのような場所もないらしく、ちょっとうろたえてしまう私。

 すると涼君が、「それじゃ、先に着替えてね。俺が見張ってるから」とさらっと言ってくれた。

 涼君の優しさが胸にしみわたる。




 私は手早く着替え終えると、交代して、今度は私が見張った。

 涼君の着替えは驚くほど早かったから、見張りの意味があったのかは分からないけど。

 そして、私たちは足早に浜辺を後にし、駆け足で駅へと向かった。




 電車に乗ると、涼君は私に一言断ってから、スマホを操作しはじめた。


「直真さんに連絡を取ってみたよ。ほんの数分でいいから、会えたらいいんだけど」

 直真さんに何か聞くんだろうか。

「おじいちゃんじゃなく、直真さんに会うんだね」

「うん。ヒサさんには六時に会えるでしょ。それに、もしヒサさんにストレートに何か聞いたとしても、きっと答えてくれないと思うんだ。すぐ答えてくれるようなことならば、元々さくらちゃんに隠さず話しているはず」


 おじいちゃん、キーホルダーを自分も持っているって、どうして言ってくれなかったんだろ……。

 おじいちゃんの性格的には、隠し事などはすごく嫌うタイプのはずなのに。


「ヒサさんにも、きっと何か事情があるんだろうね。とりあえず、直真さんに色々確認して、新たな情報を手に入れたいところだね」




 それからしばらくおしゃべりをしていると、早くも直真さんからのお返事が来たらしかった。


「やった! 俺たちはツイてるよ! このあと、うちの近くの交番で会えるって」


 そう言えば、私が初めて涼君たちの住む街に来たときも交番で会ったんだった。

 とにかく、会う時間をとってもらえるようで、本当によかった。




 駅に着くと、荷物を整理するために、ひとまず清涼院家へ帰ることにした。

 水着やバスタオルなどは、今日はもう使わないだろうから。

 涼君に言われて、一応、例のキーホルダーや八重桜さんに貰った写真も持っていくことにした。

 そして、花火大会に備えて、浴衣や髪飾りなどもバッグに入れる。

 涼君も必要なものをバッグに詰め終わったようで、廊下で待っていてくれた。

 準備が出来たところで、私たちは足早に交番へと向かう。

 はやる心を抑えつつ。


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