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さくら駆ける夏  作者: 桜坂ゆかり
第六章 進む調査、深まる想い
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意外すぎる出会い

 おじいちゃんの病室を辞去した涼君と私は、晩御飯の時刻までまだ二時間以上あるということで、商店街をぶらぶらと散歩することにした。

 私はウインドウショッピングも大好きなので、大賛成だ。

 おじいちゃんの病室で濡れちゃったスカートは、少しずつだけど乾いてきているようだった。




 しばらく歩いていると、突然背後から声をかけられたので、私たちは同時に振り返った。

 見ると、声をかけてきたのはどうやら外国人の男性のようで、サングラスと帽子を着けている。

 服装はアロハシャツに短パンと、かなりラフだ。

 外国人の知り合いなんて、私にはいないし、いったい何だろう?

 道に迷われたのかな?


「ちょっと、すみませんです」

 文法的には少し違和感があるものの、流暢な日本語でそう言いながら、その人は帽子を取る。

 髪色は少しくすんではいるもののブロンドに見えるので、やはり外国人のようだ。

「はい、なんでしょう?」

 私は、恐る恐る聞く。

 急に知らない人から話しかけられたら、びっくりするよ~。

 それも外国の方から。


「ワタシ、こういう者です」

 言いながら、今度はサングラスを外すその人。

 あれ?

 この人の顔、どこかで……。

 でも思い出せない。

 涼君も分からないらしく、黙っている。


「あらら、わからないですか……」

 その時、少し離れたところにいた、背の高くて太った男性が近づいてきた。

 その男性はスーツ姿だ。

 そして、アロハシャツの人に近づくと、何か耳打ちする。


 アロハシャツの人は、もったいぶったような咳払いをしてから、胸を張り、ゆったりとした調子で私たちに向かって言った。

「新聞、見てないでしょうか? ププセラ王国の第十七代国王のジョセフです」

 ああ!

 そうか、ネットで写真を見たことがあったっけ。

 なんでも今、お忍びで来日中だったはず。

 って…………。

 ええええ!!

 あまり知らない小国とはいえ、一国の王様が、一般市民の私に何の用事なんだろう。


「こ、国王?!」

 涼君が驚いた様子で、素っ頓狂な声をあげた。

「しっ! 静かにしてくださいです。周りにバレたくないです」

 ジョセフさんは、少し慌てた様子で言う。

「部下があちらに車を用意しています。そちらへ」

 ジョセフさんは、すたすたと歩き出す。

 私は黙ってついていくことにした。

 驚きのあまり放心しているのか、はたまた緊張しているのか、黙ってついてきている涼君の動きが硬い。

 いつもは、私よりずっと冷静なのに。




「それで……国王様は、私に何のご用なのでしょうか?」

 名前と年齢だけの軽い自己紹介を済ませてから、さっそく本題に移ろうとした。

 私たちは、国王様の大きなリムジンの中で座っているところだ。

 こんな大きな車、初めて乗るよ~。

 何だか落ち着かない……。


 車は人通りの少ない路地に止めてあるんだけど、あまりにも目立ちすぎだった。

 こんな大きなリムジンだと、どこであっても相当目立つだろうけど。

 うう……相手が国王様ということで、緊張する。


「ワオ! ダイレクトですね。大変いいです。あと、ワタシのこと、ジョセフと呼んでくださいです」

 ジョセフさんは、初めて笑顔を見せた。

「間違いならすみませんですが……あなた、クルミの娘、違うですか?」

「えっ?!」

 またも驚かされた。

 胡桃さん……私のお母さんである可能性が高くなってる人……を、ジョセフさんは知っている?

「違うですか?」

「いえ、私にもよく分からないのですが、その可能性はあります」

「え?!」

 今度はジョセフさんが驚く番だった。

「分からないって……どういう意味ですか? あなたのことです。分からない、おかしいですよ」

 私は涼君にも手伝ってもらって、今までの出来事をさらっと説明した。




「そうだったのですか、いきなりごめんなさいです」

「いえいえ、いいんですよ。こちらこそ、はっきりしたことが言えずにすみません」

「それ、大丈夫です。でも、ワタシ、ショックです……。クルミと連絡とれなくなってから、毎年何回も、こうしてこっそり日本に来ています。ずっと、クルミを探してきたので……」

 ジョセフさんの目には、涙が浮かんでいた。

「胡桃さんのお友達ですか?」

 私は聞いた。

「イエス。いいトモダチです。他の日本人のトモダチもいましたが、みんな連絡とれなくなったです。話すの下手でごめんなさいです。少し長くなるですが、話を聞いてくださいです」

 涼君と私は、静かに話を聞くことにした。


「もう二十年も前。もっと前かもしれないです。ワタシ、日本に留学していました。そのときワタシ、まだ国王じゃなく、皇太子でした。日本で勉強していました。それと、趣味と遊びもたくさんしました。ワタシの母、アクトレスだったので、ワタシもミュージカルに興味がありました。ヴィルトカッツェっていうグループに入っていました」

「ええ?!」

 思わず声をあげてしまった。

 ヴィルトカッツェって、直真さんたちがいた劇団じゃん。

「あ、邪魔してすみません。あと、アクトレスって何ですか?」

「ミュージカルとかステージに出る、女性のスターみたいな人です。日本語だと、フムム……ジョユーですか?」

 ああ、女優さんのことか。

 ジョセフさんは、話を続ける。

「楽しく過ごしました。ワタシ、たくさんのトモダチできました。クルミ、その中の一人でした。もっとはっきり言うと、ワタシ……クルミが好きでした。プロポーズしました。でもダメでした。そのあと、ワタシ、国に帰らないといけないになりました。クルミや他のトモダチの電話番号と住所を聞きましたが、ワタシ大変忙しくなって、なかなか連絡できませんでした。国に帰ったワタシ、すぐ王位継承をしないといけないになったからです」

 私にとっては、なんだか現実離れした話だ。

 でも、ネットで顔写真を見たことがあるので、目の前にいるジョセフさんが国王様であることは間違いない。

 なので、この話をスムーズに信じることができた。


「ワタシ、クルミが忘れられませんでした。それと、この国の思い出も、忘れられませんでした。やっと少し国王としての仕事が落ち着いてきたとき、すぐにクルミに連絡しました。でもダメでした。教えてもらった住所には、もう違う人がいたです。クルミの次にワタシの仲良しだったニカイドーにも連絡しました。でも、ニカイドーも、そこにはもう住んでませんでした。でも、でも……ワタシはあきらめられませんでした。それから毎年何回も、こっそり日本に来て、クルミを探していたです。こっそりにしないとダメでした。バレると怒られるので」

 そっか……ジョセフさんも胡桃さんと仲が良かったんだ。

「これ、クルミの写真です。あなた、そっくりです。馬二つです」

 多分、「瓜二つ」と言いたいんだろう。

 ジョセフさんは写真を取り出すと、私たちに見せてくれた。

 写真を見ると、そこには胡桃さんが舞台衣装と思われるドレス姿で写っている。


「さくらちゃんにやっぱりそっくりだね」

 涼君の言うとおり、この写真の胡桃さんは、今まで見た写真の中で一番、私と馬二つ……じゃない……瓜二つだった。

「たしかに……かなり似てるかも」

「そうですよね。ワタシ、あなた見てびっくりですよ。あなた、クルミよりずっと若いから、きっと娘だと思いました。それに、この街を歩いているなんて……。クルミやワタシの想い出が詰まった、この街を」

「そうでしたか」

 私たちはしばし黙って写真に目を落としていた。


「でも、胡桃さんって、写真によってだいぶ印象が違いますよね」

 私が感想を言ってみた。

 たしかにこの写真は、ほんと私とそっくりだけど、八重桜さんから貰った写真は、私とそこまで似てるとは思わなかったし。

 すると、涼君が答えてくれた。

「そりゃ、女優さんだからじゃないかな。役によって、化粧や衣装も違うから、印象が大きく変わるのは仕方ないことだと思うよ。でも、俺はどの写真を見ても、さくらちゃんと似ていると感じるけどね」

「なるほど。そっか……」

 たしかに、涼君の言うことは一理あるかも。


 その時、さっきも見たスーツ姿の大柄な男性が、前の座席から声をかけてきた。

 言葉は、全く分からない。

 ジョセフさんも何か言葉をかけてから、またこちらに向き直って言った。

「帰る時間みたいです。すみませんです。飛行機の時間が決まってるです。話を聞いてくれてありがとうでした」

「いえいえ、こちらこそ、貴重なお話をありがとうございました」

 涼君と私は、頭を下げた。

「あなたたち、恋人ですか?」

 唐突にジョセフさんが聞いてきた。

 唐突すぎる!


「い、いえいえ、そ、そんな」

 私は慌てるばかりで、言葉にならない。

「違うんですよ。さくらちゃんの両親探しを手伝っている友人でして」

 涼君が言ってくれた。

 でも、涼君からはっきりそう言われると、ちょっと……いや、かなりブルー。

 実際、友人に過ぎないんだけど。

「ユージン……トモダチですよね。それはよかった! それなら次、ワタシの息子を連れてきたとき、サクラさん、会ってくれますね?」

 え?

 ジョセフさんの息子さんということは……王子様?

 私が王子様と会う?


「まずは、さくらちゃんのご両親探しが先なので、ご両親が見つかってからでないと、ちょっと難しいですね」

 涼君が言った。

 フォローしてくれたみたい。

 たしかに、両親探しが先決問題だ。

 それに、王子様とか皇太子様とか、響きはすごくいいけれど、私が好きなのは涼君だし……。

 なので、涼君が失礼のないように断ってくれたので、内心すごくありがたかった。


「そうですね。すみませんでした。じゃあ、家まで送りますよ」

「え? いいんですか?」

 私はけっこう疲れてきてたから、この申し出をありがたく受けることにする。

 涼君もすぐオーケーしてくれた。

 それから念のために、ジョセフさんと連絡先を交換しておく。

 恐れ多くて、こちらから連絡することは、ほぼないだろうけど。

 そして、私たちは清涼院家の近くまで、送ってもらった。




「また会いたいですね。ワタシの国にも招待しますよ」

 車の窓越しに笑顔で言うジョセフさん。

「ありがとうございます、楽しみにしておきますね! それでは、お気をつけて」

 私がぺこりと頭を下げると、涼君も「お気をつけて」と言ってお辞儀をする。

 軽く会釈をするジョセフさんを乗せた車は、そのまま発進していった。


「びっくりだったね~」

 緊張が解けて、その場でへなへなとくずおれそうになる私。

「うんうん。どうやら、ジョセフさんは父親候補ではないみたいだけど、貴重な情報をいただけたね」

 涼君の言うとおりだ。

 胡桃さんが私のお母さんである可能性は、より高まってきたような気がする。


 往来で立ち話をしていても疲れるだけなので、私たちはその後すぐ、うちの中へと入った。


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