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さくら駆ける夏  作者: 桜坂ゆかり
第六章 進む調査、深まる想い
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涼君の高校へ

 翌朝、涼君は早朝に登校していった。

 部活の練習のためだ。

 私も、あとで見学に行く約束をしている。

 見学と言っても、こないだみたいに、フェンスの外からなんだけど。


 みんなと一緒に朝食をとった私は、自然と涼君のことを頭に思い浮かべた。

 沙織の「頑張れ!」の言葉も。

 頑張らないとね……。




 今日の私には秘策があった。

 手作りサンドイッチを持っていこうという作戦だ。

 すでに、美優さんや美也子さんたちに、キッチンを使用する許可と食材を使用する許可を取っておいた。

 そして、お二人に手伝ってもらう約束も。

 私は、料理があまり得意じゃないので、レパートリーが限られているのが寂しいところだけど。


 ハムと卵焼き、トンカツ、レタスとトマトの三種類のをとりあえず作った。

 トンカツと卵焼きは、かなり美優さんたちに手伝ってもらったけど。

 これじゃ、私が作ったとは言えないような気もするなぁ……。

 仕方ないかぁ……一人じゃ無理なんだし。

 美優さんたちに手伝ってもらったお礼を言い、作ったサンドイッチを二つのお弁当箱に詰め込むと、私はいったん自分の部屋に戻る。

 ちょっと休憩するつもりだった。




 でも、自分の部屋でしばらくのんびりするつもりだったはずなのに、涼君がいないと、寂しくて元気が出ない私。

 結局、十分も経たないうちに私は出発した。




 外に出ると、今日も暑くなりそうだということが予想できるほどの、雲一つない快晴だ。

 天気予報によると、一日中、晴れるらしい。

 午後からは直真さんとの待ち合わせがあるから、できれば晴れていてほしいけど、暑いのは勘弁してほしかった。

 セミ軍団は、朝から活発に活動しているようだ。

 セミの声、私は嫌いじゃないな。


 以前も使った特等席のベンチまで到着すると、さっそくフェンス越しにグラウンドを覗いてみた。

 今日は試合形式じゃないということだったので、部員さんたちはバラバラの位置でリフティングをしている。


 あ、涼君だ!

 姿を見つけるだけで、ちょっとテンションが上がった。

 涼君は、まだ私に気づいていないようだ。

 今朝会ったとき、「しばらくしてから見に行く」って言ってあるから、まさかこんなに早く見に来ているとは思わなかったんだろう。

 しばらく、練習を……というよりも涼君を眺めていると、奥の建物のほうからジャージ姿の女子が一人出てきた。


 女子はその子一人だけのようなので、マネージャーさんだろうか。

 部員さんたちと、軽く言葉を交わしているのが見えた。

 特に涼君とは、かなり長く会話しているみたいだ。

 胸がズキッと痛む。

 そりゃ、マネージャーさんなら、キャプテンの涼君と長く話していても、何らおかしいことはないし、仲良しなのも当然だとは分かってるんだけど……。

 涼君が、ふいに笑う。

 マネージャーとおぼしき子も、一緒になって笑っている。

 何を話しているのかな。

 見ていられなくなった私は、ベンチをいったん離れた。




 グラウンドとは逆側にあたる方角を何気なく眺める。

 少し離れたところに、そこそこ大きな川が流れていた。

 水の色はさほど透き通っていないようだ。

 川の上流のほうへと視線を移すと、落差がほとんどない小規模な滝が、二つほど連続しているのが見える。

 その小さな滝の真ん中ぐらいに、岩が一つだけあった。

 今にも流されたり、滝に飲まれたりしそうなくらい、ちっぽけな岩が。


 そんな風に、ぼーっと川を見つめていた私は、ざわざわと人声がグラウンドのほうからしたことに気づき、再びそちらに目をやった。


 もうマネージャーの子の姿はない。

 真剣な表情でリフティングをしていた涼君が、急にこちらに気づいたみたいだ。

 目が合うと、笑いかけてくれた。

 言葉はなかったけど、ただそれだけで、私の心を喜びが満たしていく。

 すると、涼君の周りにいる二人の部員さんも、私のほうを向いた。

 慌ててベンチを離れる私。

 私が涼君を見ていることがバレて、そのことで涼君が他の部員さんたちから冷やかされると、気まずくなっちゃうかもしれないし……。

 私は、しばらくまた川のほうへ目を向けた。

 さっきの岩に、いつどこから飛んできたのか、一羽の綺麗な白い鳥が止まっているのが見える。

 悠然とした様子が、私の印象に残った。


 またゆっくりベンチに戻って、涼君を見ると、今度はいきなり目が合ってびっくり。

 探してくれてた?

 いつの間にか、気温が上昇してきていたみたいだけど、この顔のほてりはきっとそれだけが原因じゃないはず……。




 そうしてずっと見学していると、いつしか練習終了の時間が来たのか、部員さんたちが奥の建物のほうへ全員歩き去っていって、グラウンドには誰もいなくなった。

 腕時計を見ると、もうお昼近い。




 しばらくベンチでじっとしていたら、足音が聞こえたので、私はすぐ立ち上がってそちらを見た。

 やっぱり、涼君だ!

 離れていたのは数時間に過ぎないはずなのに、再会の喜びで気もそぞろの私。

 もう後戻りができないほど、涼君への想いがあふれかえっていることが、自分でもはっきり分かった。


「早くから来てくれてたよね。退屈じゃなかった?」

 涼君は、申し訳なさそうな笑顔で言う。

「全然。サッカー好きだし、楽しく見学させてもらってたよ」

「それならよかった」

 涼君が笑顔のままなので、私もつられて少し笑顔になった。

「よし、じゃあ、お昼にしようか! またカフェにする?」

 その声を聞いた瞬間、待ってましたとばかりに私はお弁当箱を差し出した。


「はい、これ!」

「え? まさかさくらちゃんの手作り?」

「うん」

 手伝ってもらったけど、一応私の手作りではある……はずだよね。


「おお~! 俺、サンドイッチ大好物なんだ」

 お弁当箱を開けて、涼君が言う。

「ぬるくなっちゃうと困るから、飲み物はまだ用意してないんだ。ごめんね」

「それじゃ、あっちの自販機で買ってこよう!」




 そして、飲み物を買って来た私たちは、再びベンチに腰を下ろし、サンドイッチを食べることにした。

「手作りかぁ、感激だなぁ」

 何だか、ここまで喜んでもらうと、くすぐったい。

 運動部の涼君には、量的に少なかったような気がするのを、食べ終わってから初めて気づいた。

 もっと作っておけばよかった……。


「ちょっと少なかったかな? ごめんね」

「ううん、全然。もうお腹いっぱいだよ、ありがとう」

 涼君は優しいから、この辺が本心なのかどうかが、分からないなぁ。

「それじゃ、もうちょっとここでゆっくりしてから、待ち合わせ場所へ向かおうよ」

 時計を見ると、待ち合わせ時刻まで、まだ少し時間があるようだ。

 なので、私たちは休憩がてら少しおしゃべりをしてから、待ち合わせ場所のカフェへと向かった。


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