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さくら駆ける夏  作者: 桜坂ゆかり
第一章 衝撃的告白
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居候の提案

 しばらく間があって、おじいちゃんが言った。

「その店がある街には、わしの知り合いが何人か住んでいる。わしの通っていた大学が、ちょうどその街にあったということもあってな。……そこでじゃ。そのうちの誰かの家に居候させてもらうのはどうじゃ? ここからいちいち通うよりもずっといいと思うぞ」

「ええ~! どんな人か分かんないのに不安だよ。私はおじいちゃんみたいに、誰とでもすぐ友達になれるわけじゃないから」

「嫌ならいいんじゃ。もちろん、突然かなり無茶なことを言ってるってのは自覚している」

「それに、いきなり『事情があって、しばらく居候させてほしいんですが』って言っても、そんな急に許可してくれる家なんて、ないと思うよ。うちは、しょっちゅうおじいちゃんの友達が泊まっていくけど、これはおじいちゃんが特殊なだけだよ」

「ごるぁ!! 誰が変わり者じゃ!」

「いや、特殊って言っただけで、誰も変わり者とは言ってないじゃん。思ってるだけで」

「やっぱり、思ってるんじゃないか!」

 普段はツッコミタイプではないおじいちゃんでも、こうして笑いに出来る機会があれば、逃さず突っ込んでくれる。

 いつものおじいちゃんに戻ってくれたみたいで、内心嬉しかった。


「わしは普通じゃ! まぁ冗談はさておき、どうじゃ? わしの知り合いの家に居候するのは」

「おじいちゃんの知り合いかぁ……。ほんとに、ちゃんとした人たち?」

「どういう意味だ、ごるぁぁ! ……っていうか、それ、わしだけじゃなく、知り合いにも失礼だぞ」

 笑って突っ込むおじいちゃん。

 なるほど、たしかに正論かも。

 おじいちゃんの知り合いだからって、変人ばかりとは限らないもんね。


「ごめんごめん。でもけっこう真面目に聞いてるんだよ。居候とか、そんな軽く考えられるものじゃないじゃん。たとえば、そのおうちに、男子はいないよね?」

「ん~。どこを選ぶかにもよるが……。思いつく限りの第一候補は清涼院家じゃが、あそこにはたしかお前と同年代の男の子がおったかもしれん」

「じゃあ、そこは却下で」

「即答か!」

「だって、ありえないじゃん。見ず知らずの男子と一つ屋根の下とか、嫌だよ」

「まぁ、さくらの言うことも分かるが……清涼院の一家は真面目だぞ。他の候補はほぼ皆、わしと同じラフな感じだがな」

「他の候補は、みんな変人さんなの?!」

「だーかーら! 変人言うな!」

 半笑いでつっこむおじいちゃん。


 でも、ほんとどうしよう……。

 見ず知らずの男子がいる家で居候とか、ちょっと……いや、かなり抵抗がある。


「まぁ悩むのも分かるが、まともな人たちだから安心しろ。それに、例えば、場所が海外なら、割とよくありそうなことじゃろ? ホームステイ先に同年代の男がいても、別に問題ない場合も多かろうが」

「言われてみれば、それもそうかな……。それで、その清涼院さんは、いきなり私が居候したいって言って、困らないの? 普通は困ると思うけど」

「あそこはデカイ家だし、余っている部屋もあるはずじゃ。実際、わしを泊めてくれたことも、幾度もあるからな。去年までは、留学生を受け入れてたぐらいだし、何ら問題ないと思うぞ。ちょうど今は、誰も留学生を受け入れていないらしい。あそこの親父……と言っても、わしの息子ぐらいの年じゃが……あいつとは先々週に話したばかりだ。あの家には、少しばかり貸しもある。わしの頼みとなれば、喜んで受け入れてくれるじゃろう」

「借りを返させる、みたいなのは、あまり感心しないんだけどなぁ。そんな理由でしぶしぶ了解してもらうんだと、快く受け入れてもらえないっぽいじゃん。嫌われたくないし」

「無理にとは言わんぞ。じゃが、家からそこまで通うのは、交通費と時間の無駄だと思うから、どこかに居候できれば、好都合だと思っただけじゃ。それに、その街にはユースホステルなどもなかったはずだし、わしの知り合いなら信頼できると思ったから、勧めただけじゃし。最後に決めるのはお前じゃから、お前の自由にすればいいぞ」

「うーん……」

 私は考え込んだけど、代案は思いつかない。

 結局、おじいちゃんの提案にすがるしかなさそうだった。


「他に何もいい案を思いつかないし……お願いしようかな」

「おう、任せとけ!」

 おじいちゃんは、力強く言う。

「それじゃ、これから向こうと連絡を取るが、さくらはいつから行ける?」

「急いで支度をすれば、明日からでも無理ではないけど。そんなにすぐに、向こうのおうちも了解をくださらないでしょ?」

「わしに任せろ! すぐもらってやる」

「絶対、無理やりはやめてね」

「分かってるって!」


 かなり心配だけど……しょうがないか。

 今はおじいちゃんに任せるしかない。

 居候はすっごく不安ではあるけど、これからの私の調査のためには避けては通れないことだということで、私は覚悟を決めた。


 それに、見方によっては、いい経験になるかもしれないし……。

 ちょっと楽天的かな?

 そういうことで、清涼院家の方との交渉をおじいちゃんに任せ、私はいったん家へと帰ることにした。

 おじいちゃんは、「今日中には話をつけてやる」って息巻いていたけど、どうなるかな。

 とりあえず、明日から出発できる準備はしておこう。




 夕方、おじいちゃんから連絡があったので、再び病院に顔を出した。

 電話じゃなく、直接話したかったから。


「明日からでも問題ないって話になったから、そういうことにしておいたよ」

 おじいちゃんは親指を立てながら、上機嫌で言う。

「ありがとう。準備して、明日行くよ」

 何だか、あっさり決まって、拍子抜けだった。

 私はずっと気にかけていたことを、おじいちゃんに言う。

「その街からここまで、遠すぎるってほどの距離ではないから、たまにここにも顔を出すからね」

「気を遣わせて悪いな」

 おじいちゃんは頭をかいた。

「言ったとおり、わしは動けない訳じゃないから、自分である程度、何でも調達できるからな。売店へ行けば色々売ってるし。だからよっぽどでないと、お前に迷惑をかけることにはならんはずじゃ」

「それでも、何日かに一度は顔を出すよ。心配だからね」

「ありがとな。その気持ちが嬉しい。痛みに耐えてよく頑張った! 感動した! おめでとう!!」

 後半部分は何かのネタだと思うが、多分これは照れ隠しで言っているんだろう。

 別に私は、何も痛い思いはしてないし。

 ともかく、これで話は決まったので、私は翌日の出発に備えて、大急ぎで準備をするため、家へと帰った。


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