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さくら駆ける夏  作者: 桜坂ゆかり
第六章 進む調査、深まる想い
28/44

プール

「プール、俺んちの近くのとこでいいかな? 綺麗なところで、料金もあまり高くないから、頻繁に通ってた時期もあるんだ。しょっちゅう混んでるところが、玉にきずだけどね」

「それじゃ、そこにしよっ! また案内よろしくね」

 私の家の近くにはプールがなく、行くときはいつも遠出をしていたので、ちょうどよかった。

「了解! それじゃ、いったん水着を取りに帰らないとね」

 私たちは清涼院家へ戻ることにした。




「うわぁ、思ってたよりも大きいな」

 プールのある施設の建物前まで到着すると、私が言った。

「この建物の二階に、ダーツやビリヤードを出来る場所や、カラオケボックスなどもあるらしいからね」

「色々あるんだね~。今度来るときは、そっちもやってみよっか。また連れてきてくれる?」

「うん、もちろん」

 さりげなく、次また連れてきてもらう約束をゲットできた!


「それじゃ、入ろう」

 涼君はそう言うと、建物の入り口へ向かって歩き出したので、私もついていった。




 受付を済ませ、お互い更衣室に別れて着替えをする。

 私の方が時間がかかってしまったけど。




「お待たせ!」

 着替え終えた私は、プールの入り口で待っていてくれた涼君に声をかける。

 涼君の水着は、シンプルなサーフパンツで、紺色で無地だった。

 うん、涼君は何を着てもよく似合う!

 そして、程よく筋肉のついた、いい身体だ。

 やっぱりかっこいい!


 私はどの水着にするか迷ったけど、ピンクのフリル付きワンピースのを選んだ。

 浴衣の時に、ピンクが好評だったこともあり、色で選んだ部分もある。


「うわぁ、すごくかわいいよ。似合ってるね」

 涼君は、笑顔で言ってくれた。

「あ、ありがとう。涼君もよく似合ってるよ」

「こちらこそありがとう」

 涼君は少し頭をかきながら言った。

「それじゃ、行こう!」

 涼君は元気よく、プールの入り口へ向かって歩いていく。

 私もすぐあとについていった。




 プールは、思ってたよりも人で混みあっていた。

「ちょっと混んでるけど、土日よりはマシかな」

 涼君が言う。

 なるほど、土日はもっと混むのかぁ。

「それじゃ、水に入ろっか」

 私はすぐ水に入ろうとしたが、涼君に止められた。

「待って。一応、準備運動してからね」

 たしかに、それは大事だ。

 うっかりしてたなぁ。

 さすが、涼君。

 私たちは準備運動をしてから、ゆっくりと水に入った。


「涼君は、泳ぎが得意なの?」

 気になって聞いてみた。

「苦手ではないかな。一応これでも運動部だしね。まぁ普通ぐらいかな。さくらちゃんは?」

 うう……聞くんじゃなかった。

 また幻滅されちゃう……。


「全然ダメかも。十五メートルくらいしか泳げなくて。なぜか沈んじゃうし、息継ぎも出来ないんだよね……」

「そっかぁ……。それなら、プールじゃなく、別の場所へ行けばよかったね。ごめん……」

 申し訳なさそうに涼君が言う。

「ううん、気にしないで。泳げないなりに楽しめると思うから」

 私はそう言ったけど、正直、浮き輪が恋しかった。

 友達と海やプールに行くとき、バッグに詰めるのが面倒だったり、すっかり忘れたりして、結局持っていかないことがほとんどなんだけど……実は、自分の部屋に浮き輪はある。

 そして、「浮き輪を持ってくればよかったぁ」って、いつもこういうシチュエーションになってから思うんだよね……。

 ここのプールは足がつく深さだし、溺れることは少ないはずだけど、浮き輪があるだけで安心感が格段に違うんだな、これが。


「それじゃ、つかまりたかったら、俺の腕につかまってね」

「え?」

「もしよかったら……でいいよ」

 頬が熱くなるのを感じた。

 心なしか、何だか涼君の顔もちょっと赤いみたいに見える。

 うーん、私は意識しすぎなのかなぁ。

 もっと自然にしていないとダメなのかなと思う。

 でも、意識するなっていうのは難しいんだよね……。

 とりあえず、涼君の腕につかまるなんて、想像するだけで恥ずかしいので、すぐには無理だった。


「それで、さくらちゃんは、水があまり好きじゃないってこと?」

「ううん、そういうわけじゃなくて。水に顔をつけることは何ともないんだよ。ただ、水に入ると沈むの。息継ぎのときもそうやって沈むから、一度もできなくて。それで、まともに泳げない」

 私はもうすっかり開き直って、隠さずに言った。

「そっか、水が苦手ってわけではないんだね」

「うん」


 次の瞬間、涼君がイタズラっぽく笑ったかと思うと、いきなり水を私にかけてきた。

 不意打ちでびっくり仰天!

「ちょっと、涼君! 何するの!」

「だって、水は苦手じゃないって言うから」

 涼君は面白そうに笑っている。

 私も表向き抗議はするけど、ついつい笑ってしまう。

「たしかにそれはそうなんだけど……突然、水をかけられるのは誰だって嫌でしょ~」

「うん、そうかもね。でも、嫌って言いながら、さくらちゃん、今笑ってるもん。嫌じゃないんでしょ、ほら、ほら~」

 言うと、また水をかけてくる涼君。

 もう~。

 楽しくなくもないから……別にいいけど。


「それじゃ、反撃いきまーす」

 そう宣言してから、私も水をかけ返した。

「うわっ!」

 手で顔をガードする涼君。

 調子に乗った私は、さらにエスカレートした。

 両手を大きく振りかぶると、勢いよく水面に振り下ろして、激しい水しぶきを涼君に浴びせる。

「うわっ、やめてやめて!」

 言いつつ、涼君も笑っている。

 もう一回しようっと。

 そして、同じように大きく振りかぶった。

 そのとき―――。


「あれ?!」

 涼君がそこまでとは調子の全く違う、本気で驚いたような声を挙げたので、私は思わず動きを止めた。

 両手を大きく振り上げたポーズのまま。


「どうしたの? 何かあった?」

 心配になって聞いてみた。

 私が調子に乗って、やりすぎちゃったのかな。

 うう……。

 私は、いつもこんなのばっかりだ。

 すぐ調子に乗っちゃう。

 しかし、涼君は怒っている様子はなく、冷静に言った。

「自分では見えにくいかもしれないけど、左ひじのあたりを見てみてよ」

「え?」

 私は、思わず自分で確認した。

 しかし、左ひじの周辺をいくら注意して見てみても、何の異常も感じられなかった。

 てっきり、知らないうちに怪我でもしているのかと思ったんだけど。


「どこも怪我してないよ。何ともないみたい。何かあった?」

 左ひじをじっくり観察したまま、私が言った。

「そうじゃなくて、アザだよ。話してくれたでしょ、本間と会ったときにアザを見つけたって。今、それって見当たらないよね?」

「あああ!!」

 そうだった!

 ここにはたしかにあのとき、アザがあったはず。

 でも今見てみると、アザらしきものは影も形もない。


「どういうことかなぁ?」

 私にはワケがわからなかった。

「うーん……つまり、アザじゃなかったってことじゃないかな」

 考え込んだあと、涼君が言う。

「え? どういうこと?」

「本間のアザが、本物か偽物かは分からないけど、少なくとも、さくらちゃんのアザは偽物だったってことになるね。本間の言うような、生まれた直後からあるような種類のアザって、一気に跡形もなく消えるようなものじゃないはずだから」

 偽物のアザ?

 そんなもの、いつ付いたんだろう。

 私には見当も付かなかった。


「それじゃ、そのアザって、本間さんが私に付けたものってこと?」

「普通に考えると、そうなるね」

「でも、そんなことをするタイミングって、なかった気がする。魔法でも使わない限り」

「うーん」

 涼君はややうつむいた。

 また、深く考えこんでいる様子だ。

「可能なタイミングが一度だけあったんだと思うよ」

 涼君は、かすかにうなずきながら言った。


「いつなのかな?」

 私は早く涼君の考えが知りたかった。

「それは、多分……あのときだよ……。本間は運転手に化けていたでしょ。そして、車を止めて、ヤツの仲間が、俺を車から引きずり出したときだよ。あの時、俺はさくらちゃんが心配で心配で、そっちばっかり見てたわけだけど……そのとき、ヤツはさくらちゃんの左腕と口を押さえていたように思う」

 すごい記憶力だ……。

「た、たしかに、そうだった気がする……」

「そのとき、付けたんだよ、きっと。ここからは推測に過ぎないけど、指先に何かの粉でも塗りつけていたんじゃないかな。それで、どさくさに紛れて、さくらちゃんの左ひじ付近に指を押し当てて、粉を塗りつけてアザのような痕跡を残した。そんな風に考えると、自然な気がする。恐らく、全てヤツの計画通りだったんだろうね」

 普通の人なら実行は大変だろうし、突拍子もない計画に思えたけど……本間さんはチェリーブロッサムの首領だ。

 十分あり得るように思った。

 実際、私を連れ去ったやり方も、突拍子もないものだったから。

 また、スマホを盗られて気づかない私が、左ひじに何かされたことに気づくとも思えないし。

 情けないことに。


「じゃあ、本間さんが私の父親かもしれないという可能性は、低くなったのかな?」

「それは客観的にみれば何とも言えないけど……俺個人の考えだと、さくらちゃんの言う通り、本間がお父さんだという可能性は低いと思う」

 涼君は、落ち着いた様子で答えた。

 私はさらに質問する。

「なんで、本間さんは、こんなことをしたんだろう……」

「本間は、他の二人とは違い、DNA鑑定を受諾できない理由があったってことだよね。世間にバレてはいけないという。そういう訳で、何かしら、さくらちゃんを納得させる決定的な証拠がどうしても必要だったんだと思う。それで、こういう計画を実行して、決定的証拠だと納得させられるような証拠を、自ら作り出したのかもね。そういうことをするってことは、他に決定的な証拠がないと白状しているようなもんだから、アイツがさくらちゃんのお父さんである可能性は低いと、俺も思う。さくらちゃんの言うとおり」

「そっか、なるほど」

 涼君の意見には、すごく納得できた。

 そこで、涼君が、声のトーンを急に明るくして言った。

「さぁ、そんな暗い顔はもうやめようよ! 今ここで悩んでいても仕方がないからさ。来週の火曜と水曜、鑑定をしにいけば、おのずと状況は前に進むからね。八重桜さんと一髪屋さんに関しては、そこで父親かどうかがはっきりするんだから。それまでは、あまり考えすぎない方がいいよ」

 涼君の言うとおりだと思った。

 くよくよ悩んでいても、何にもならないよね。


「あ、あと、ちょっとだけ確認させてね」

 涼君はそう言うと、私の背後に回り、左腕に優しく手をかけた。

 ドキドキする私。

「うん、傷とかついてないみたいだ。よかった」

 左ひじのところを心配してくれてたんだ。

 本間さんが付けたというそのアザのところに、傷が残ってないかって。

 涼君は、しみじみした調子で言葉を続けた。

「俺は本間が一番嫌いだなぁ。あんな無茶苦茶するし。何せ、犯罪組織の頭目だからね。さくらちゃんがあんなヤツの娘でないことを、心底祈ってるよ。あいつと比べれば、一髪屋さんの方がずっとマシだよ。俺も、あの人と気が合うとは決して言えないけれど、少なくとも犯罪に関わりはなさそうだし、本間のような乱暴もしないしね」

 涼君は、本間さんが大嫌いみたい。

 たしかに、本間さんには少しやり過ぎなところがあるとは思うし、こんな風に思われちゃうのも、見方によれば自業自得、身から出たサビってことで仕方ないのかも。


「さくらちゃんのきれいな肌に傷とかついてなくて、本当によかったよ」

 涼君は、まだ私の左腕に優しく手を添えてくれている。

 嬉しいけど、そろそろ恥ずかしくなってきた。

 周りには他の人もいるわけだし。

 あと、「きれいな肌」って、さりげなく褒められたのも……。

 顔がものすごく熱く感じる。

 身体は水に浸かってて、顔も冷たい水で濡れているはずなのに。




 そのあと私たちは、そういうシリアスな話題をやめ、思う存分プールを満喫した。

 しばらく水中散歩のように歩き回ったり、軽く泳いだりしていると、涼君がちらちらと遠くの方へ目をやっているのに気づいた私。

 何を見てるのかな、と私も視線をそちらに向けると、ウォータースライダーがある。

 もしかして、私が泳ぐのを苦手と言ってるから、ウォータースライダーで遊ぶのを遠慮してくれてるんじゃないかなと思った。

 優しい涼君のことだし、きっとそうかも。

 それで言ってみた。


「ウォータースライダー、行きたい?」

「え? さくらちゃんは、ああいうのは平気?」

「平気じゃないけど、涼君があっちをちらちら見てるから、『あれで遊びたいのかな』って思って。行きたかったら、私に気にせずにいってきてね。私は、もちろん見てるだけでいいから」

 高所恐怖症の沙織に比べると、私は高いところも大丈夫なほうだから、多分ウォータースライダーも大丈夫だとは思うんだけど……。

 何しろ今まで滑ったことがないので、そういう怖さはあったから正直に「見てるだけでいい」と言ったのだった。

 もちろん、あまりにも高いところは、普通に怖いけど。

 あのスライダーの高さなら、大丈夫………なはず!


「でも、俺だけ行ってくるのも申し訳ないよ。さくらちゃんが、つまんないでしょ」

「ううん、見てるだけでも楽しいと思うよ。サッカーでも将棋でも、何でもそうかも。将棋でも最近、プロ棋士の対局を見て応援するけど自分は指さないという『見る将棋ファン』という人たちも増えてきてるらしいよ。私は自分でも指せなくもないけど、どちらかというとやっぱり見ているほうが多いかな」

「うーん、そういうものかなぁ」

 涼君は、懐疑的な様子だ。

 なーんか、イマイチ説得しきれてない感じ。

 私としては、あまり気を遣わせたくないし、涼君に楽しんできてほしいんだけどなぁ。


「そうだ、いいことを思いついた! 一緒に行こうよ。二人で滑ればいいでしょ。あのスライダーの専用浮き輪には、一人乗りと二人乗りがあるからね」

「え?」

 たしかにそうだけど、それじゃまるで……。

 完全に恋人っぽい。

 涼君はいいのかな?

 いや、そもそも、私はそういう目で見られておらず、妹の翠ちゃんと同じ感覚で接してもらっているのかも。

 あり得る……。


「一緒に滑るのは恥ずかしいかも。涼君は平気?」

 思い切って聞いてみた。

「そりゃ、俺もちょっと恥ずかしいけど」

 涼君の顔色もみるみる赤くなった。

 あ、やっぱり、多少は意識してもらえているのかな。

 よかった……。

「でもやっぱり、せっかくだし一緒に楽しみたいから。ほら、あそこのお二人も一緒に滑っているよ」

 涼君が指差したとき、そちらを見てみると、スライダーを二人で滑っている人たちが確かにいた。

 あのお二人は、どう見ても恋人かな。

 でも、せっかくこれだけ誘ってくれてるんだから……ようし、思い切って……。

「それじゃ、一緒に行こっか。何事も経験、かもね」

 拒絶し続けていると、涼君とくっつくのを嫌がっているように誤解されかねないという危惧があったし。

 そんな風に誤解されたくないから。


 ……冷静に考えると……。

 私って、実はジェットコースターがあまり得意じゃないんだけど、これ、ほんとに大丈夫かな。

 無理ってほどじゃないんだけど、乗ってると気持ち悪くなるんだよね、ジェットコースター。

 ウォータースライダーもパッと見、ジェットコースターに似てるし。

 不安はある。


「そう来なくっちゃ。それじゃ、行こう!」

 私たちは、スライダーへと向かうことになった。

 私はびくびくしてるのを、必死で隠しながら。




 列に並んでしばらくすると、私たちの順番が来た。

 すぐに滑り台のてっぺんまで移動して、二人乗りの専用浮き輪に座ったけど……。


 想像してたより、高い!

 そして、目の前のトンネルの中が少し暗い上に、カーブがあるために先が見えなくなってる!

 これは、相当怖いかも……。

 そのとき、後ろに来た涼君が足を広げて座ると、私の肩に優しく手をかけてくれた。

 うわ~心臓がバクバクいってる。

 恐怖心から来てる部分もあるのは、確実だけど。

 あまり時間をかけていると、後ろに並んでいる人たちに迷惑がかかるので、私は「それじゃ、行こう」と勇気を出して言った。

 とりあえず、ここには長くいたくない。

 長く肩は触っていてほしいけど。

 軽いジレンマが私を襲う。

 しかし、涼君がすぐ答えて、優しく後押ししてくれた。

「大丈夫だから、安心してね。それじゃ、行こう!」

 そして、私たちは一気に滑り降りたのだった。


 どうにか、専用浮き輪から落ちることもなく、滑り降りた。

 水しぶきも想像していたほどではなくて、着水の衝撃も少ない。

 私たちは無事に降りて、専用浮き輪を返した。

 涼君と一緒だったからか、思ってたほど怖くもなかった。

 そりゃ、お子様も滑っているらしいし、当然といえば当然よね。

 なんであんなに怯えていたんだろ……。


「あっという間だったね」

 両肩のあたりに、まだ涼君の手の感触が残ってる。

 ドキドキしてるのを悟られないように、明るい調子で私は言った。

「物足りない? もう一回行っとく?」

「遠慮しておくよ」

 私が苦笑して答えると、涼君も笑いかけてくれた。

「冗談だってば」




 そのあと、私たちは少し休憩することにした。

 プールサイドにたくさんの椅子や机が並んでいたんだけど、なかなか空いているのは見当たらない。


 しばらくうろうろして、やっと見つけた空いているベンチに、私たちは並んで腰掛けた。


「ちょっと飲み物を買ってくるね。さくらちゃんは疲れてるだろうし、ゆっくり休んでいてね。すぐ戻るから。さくらちゃんは、何が飲みたい?」

 涼君が聞いてくれたけど、自販機の商品ラインナップを知らないので、「涼君と同じのを」と答える。

「それじゃ、適当に買ってくるね」

 そう言うと、涼君は遠くに見えている自販機に向かって歩いていった。




 一人で座って待っていると、数分後、二人組の男の人が私に話しかけてきた。

「君、一人?」

 髪の色が茶と金で、二人ともこんがり焼けた肌の色をしている。

 金髪の人は、両耳にピアスをしていた。

「ああ、いえ、友達と来ています」

「それじゃ、友達も一緒でいいや。一緒に遊びに行かない?」

 知らない男の人から、こんな風に声をかけられたことは初めてだ。

 とりあえず私は、その場から逃げ出したい気分でいっぱいだった。

「いえ、ご遠慮しますね」

「そう言わずにさぁ~」

 茶髪の人が、なれなれしく私の手首をつかんできた。

 ちょっと……いや、かなり怖い!

 そのとき、涼君の声が聞こえた。

「お待たせ!」

 涼君は私にそう言ってジュースを渡してくれたあと、二人組の男の人たちに向かって言う。

「デート中なので、すみませんね」

 二人組の男の人は、軽く舌打ちすると、何も言わずに立ち去っていった。

 涼君の方が明らかに体格がいいから、恐れをなしたのかもしれない。

 ホッと一安心。

 あ~怖かった。


「ごめんね。もっと早く戻ってこないといけなかった……。怖い思いさせちゃったね」

「ううん。こちらこそ、面倒をかけちゃってごめんね」

 やばい、ますます涼君のこと、好きになっちゃう。

 今ですら、もうどうしようもないくらい、大好きなのに。


「あと、つい成り行きで、デートって言っちゃって」

 申し訳なさそうな涼君。

「でも、これって……デートじゃないかな?」

「え?」

 私の言葉に固まる涼君。

 ま、まずい……。

 我慢しきれず、ついつい、思ったまま言っちゃった。

 何言ってんだ、私~。

「ごめん、その、えっと……」

 言葉が見つからない。

「デートってことでも、さくらちゃんは迷惑じゃないの?」

「私は、全然」

「な、なら、それでいいかな」

 涼君も迷惑じゃないんだ、よかった。


 そのあとはお互い何だか意識しちゃって、口数は少し減ってしまったけど、それでも涼君と一緒に遊べて楽しかった。


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